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邂逅

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 ――まだ兵士が残っていたのか!
 フェリクスは、思わず身構えた。
 しかし、赤毛の男は、フェリクスが身構える様子を見た途端、両手を上げた。
 抵抗する気はない、という意思表示らしい。
「こ、これ、あんたがやったのか?」
 赤毛の男が、兵士たちの無惨な亡骸なきがらを顎で指し示しながら、やや震える声でフェリクスに問うた。
「彼らは……俺に良くしてくれていた人たちの生命を奪った……だから……」
 フェリクスは、口ごもりながらも、いつでも動ける体勢を崩さずに言った。
「……お前も、彼らの仲間だろう?」
「一応は、な……あぁ、ちょっと待ってくれ!」
 フェリクスに見つめられた赤毛の男は、ぶるぶると首を横に振った。
「言っとくけど、俺は、ここでは引き金を引いてない……作戦が始まる前に、小隊から脱走したんだ。気に入らない上官を、ぶっとばしちまったのもあるけど」
「それなら、何故ここに来た」
「……俺は、軍ってのは国を守るのが仕事だと思っていた……でも、今回の作戦では、他国とはいえ、民間人を殺せと言われて……」
 赤毛の男は、苦し気な表情を見せた。
「抵抗できない相手を一方的に殺すなんて、俺は、納得できなかった。だから、逃げ出したんだ。だが、作戦が始まって村が焼かれているのを見たら、自分だけが逃げていいのかって……結局、何もできなかったけどさ」
 そう言って、赤毛の男は自嘲するかのように笑ったが、それは、どこか泣き出しそうな顔にも見えた。
「……分かった。もう、手を下ろしてくれ」
 フェリクスは、目の前の男が嘘を言っているようには感じられず、警戒態勢を解いた。
「ところで、ここを離れたほうがいいと思うぜ」
 赤毛の男が、再び口を開いた。
「たぶん、とっくに作戦が終わった頃なのに、小隊からの連絡が途切れているってことで、司令部が怪しんで、別の隊が調べに来る。見つかれば面倒なことになるぞ」
「……何故、お前は、俺のことまで気遣うんだ」
 フェリクスは、赤毛の男の言葉を遮った。
「俺は、お前の『仲間』を殺した。それなのに、お前は、俺に対して何とも思わないのか?」
「そうだな……不思議と、憎いとか、そういう気持ちにならないんだな、これが」
 赤毛の男は、一瞬、首を捻った後、小さく肩を竦めた。
 彼らにも、何か事情があるのだろうか、とフェリクスは思った。
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