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◆皇帝守護騎士(挿し絵有り)
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ウェール王国の王都アウラ――いや、今は、王都だった、と言ったほうがいいだろう。
人影ひとつない廃墟の上空には、優美な流線型をした飛空艇が数隻、魔法の力で浮かんでいた。
数日前に、突如ウェール王国へ侵攻し王都を蹂躙した、アルカナム魔導帝国軍が誇る、飛空艇団だ。
高速飛行を生かした神出鬼没の戦法で、全ての国から恐れられる存在である。
ひときわ大きな飛空艇、その内部にある一室で、一人の将校と青年が向き合っていた。
「――付近を捜索した結果、対象者が逃走に使用した車両を発見……また、そこから更に離れた山の斜面の横穴にて、対象者のものと思われる、切り落とされた毛髪を発見しました。それは資料として本国へ送る準備をしておりまして……」
直立不動の姿勢で報告を行う壮年の男の胸に光るのは、佐官以上の将校であることを表す階級章だ。
男の前で、彼の息子ほどの年齢であろう、緩やかに波打った豊かな黄金色の髪と菫色の瞳を持つ細身の青年が、椅子に深く腰掛けて尊大に腕組みをしている。軍服とは異なる意匠の煌びやかな制服と、整った容貌が相まって、貴公子然とした雰囲気を醸し出していた。
「それで、結局、肝心の対象者そのものは未だ発見できていない、ということかい」
青年が、鋭い目で睨めつけると、壮年の将校が、びくりと肩を震わせた。
「面目次第もございません、グスタフ様……!」
「そもそも、皇帝守護騎士たる僕が、君たち如きの尻拭いをさせられるのは遺憾と言いたいところだが。皇帝陛下ならびに『智の女神』様直々の仰せだからね」
青年――グスタフは言って、馬鹿にするかのようにフンと鼻を鳴らした。
「ん? 何か、言いたいことがあるようだが? 僕のような若造が、古参である君をアゴで使うのが面白くない、とか?」
「そんな……滅相もない!皇帝陛下直属の皇帝守護騎士たる、グスタフ・ベルンハルト様に指揮して頂けるなど、光栄の極みであります!」
グスタフの、やや皮肉な口調に、将校が震えながら答えた。
皇帝守護騎士団とは、全員が「異能」の者で構成された、皇帝を守護することを役割とする、皇帝直属の戦闘集団である。
彼らが従うのは皇帝、そして「智の女神」のみで、たとえ、軍の最高位である元帥であっても、団員に命令することはできないのだ。
だが、将校が震えているのは、それだけが理由ではなかった。
帝国に限らず、ほとんどの国で、「異能」の者には、その力の強さゆえに、法的に様々な制約が課せられている。
「異能」の者が、そうでない者を故意に傷つけた場合、通常よりも遥かに重い量刑を課されたり、手足を満足に動かせない状態にされるなどというのが、代表的なものだ。
人間である以上、彼らの中からも悪意を以て力を揮う者が必ず現れる為である。
そうして、この世界の人間たちは秩序を保ってきた。
しかし、皇帝守護騎士団には、この法が適用されない。
たとえ相手が無辜の市民であっても、斬り捨てたところで罪に問われないのだ。
まして、グスタフは若いながらも皇帝守護騎士団最強と言われている。
気分ひとつで、いとも簡単に自分を抹殺できる者を前にしたなら、この将校でなくとも恐怖に震えるというものだろう。
「僕の機嫌が悪いからといって、斬り捨てられるとでも思っているのか? そんなことをしたら剣が汚れてしまうじゃあないか」
やれやれとでも言いたげに、グスタフは肩を竦めた。
「もう行っていいよ」
「では、我々はこれから、どういたしますか」
「あぁ……適当にやっといて。僕も好きにするから」
「しかし……」
「聞こえなかったのかい?」
将校は、グスタフの言葉に困惑した表情を見せたものの、失礼しますと言い残し、あたふたと部屋から出て行った。
グスタフは溜め息をつくと、傍らの事務机に置いてある、板状の情報端末を手にした。
起動の為の呪文を唱えると、情報端末に、捜索対象であるウェール王の養女、セレスティアについての資料が浮かび上がる。
「公的には数年前に死んだことになっていた、王の養女、か。癒しの力を持っていたというが、似た能力を持つ『異能』は帝国でも確認されているし、『智の女神』様が、そこまで関心を持たれるとは、何かあるのだろうな」
資料の中には、王宮で発見されたのであろう、セレスティアの肖像画も収められていた。
愛らしい微笑みを浮かべる肖像画を眺めて、グスタフは呟いた。
「……いかにも『可憐な女の子』という感じだ――かつて僕が、そうありたいと思っていた姿……か」
人影ひとつない廃墟の上空には、優美な流線型をした飛空艇が数隻、魔法の力で浮かんでいた。
数日前に、突如ウェール王国へ侵攻し王都を蹂躙した、アルカナム魔導帝国軍が誇る、飛空艇団だ。
高速飛行を生かした神出鬼没の戦法で、全ての国から恐れられる存在である。
ひときわ大きな飛空艇、その内部にある一室で、一人の将校と青年が向き合っていた。
「――付近を捜索した結果、対象者が逃走に使用した車両を発見……また、そこから更に離れた山の斜面の横穴にて、対象者のものと思われる、切り落とされた毛髪を発見しました。それは資料として本国へ送る準備をしておりまして……」
直立不動の姿勢で報告を行う壮年の男の胸に光るのは、佐官以上の将校であることを表す階級章だ。
男の前で、彼の息子ほどの年齢であろう、緩やかに波打った豊かな黄金色の髪と菫色の瞳を持つ細身の青年が、椅子に深く腰掛けて尊大に腕組みをしている。軍服とは異なる意匠の煌びやかな制服と、整った容貌が相まって、貴公子然とした雰囲気を醸し出していた。
「それで、結局、肝心の対象者そのものは未だ発見できていない、ということかい」
青年が、鋭い目で睨めつけると、壮年の将校が、びくりと肩を震わせた。
「面目次第もございません、グスタフ様……!」
「そもそも、皇帝守護騎士たる僕が、君たち如きの尻拭いをさせられるのは遺憾と言いたいところだが。皇帝陛下ならびに『智の女神』様直々の仰せだからね」
青年――グスタフは言って、馬鹿にするかのようにフンと鼻を鳴らした。
「ん? 何か、言いたいことがあるようだが? 僕のような若造が、古参である君をアゴで使うのが面白くない、とか?」
「そんな……滅相もない!皇帝陛下直属の皇帝守護騎士たる、グスタフ・ベルンハルト様に指揮して頂けるなど、光栄の極みであります!」
グスタフの、やや皮肉な口調に、将校が震えながら答えた。
皇帝守護騎士団とは、全員が「異能」の者で構成された、皇帝を守護することを役割とする、皇帝直属の戦闘集団である。
彼らが従うのは皇帝、そして「智の女神」のみで、たとえ、軍の最高位である元帥であっても、団員に命令することはできないのだ。
だが、将校が震えているのは、それだけが理由ではなかった。
帝国に限らず、ほとんどの国で、「異能」の者には、その力の強さゆえに、法的に様々な制約が課せられている。
「異能」の者が、そうでない者を故意に傷つけた場合、通常よりも遥かに重い量刑を課されたり、手足を満足に動かせない状態にされるなどというのが、代表的なものだ。
人間である以上、彼らの中からも悪意を以て力を揮う者が必ず現れる為である。
そうして、この世界の人間たちは秩序を保ってきた。
しかし、皇帝守護騎士団には、この法が適用されない。
たとえ相手が無辜の市民であっても、斬り捨てたところで罪に問われないのだ。
まして、グスタフは若いながらも皇帝守護騎士団最強と言われている。
気分ひとつで、いとも簡単に自分を抹殺できる者を前にしたなら、この将校でなくとも恐怖に震えるというものだろう。
「僕の機嫌が悪いからといって、斬り捨てられるとでも思っているのか? そんなことをしたら剣が汚れてしまうじゃあないか」
やれやれとでも言いたげに、グスタフは肩を竦めた。
「もう行っていいよ」
「では、我々はこれから、どういたしますか」
「あぁ……適当にやっといて。僕も好きにするから」
「しかし……」
「聞こえなかったのかい?」
将校は、グスタフの言葉に困惑した表情を見せたものの、失礼しますと言い残し、あたふたと部屋から出て行った。
グスタフは溜め息をつくと、傍らの事務机に置いてある、板状の情報端末を手にした。
起動の為の呪文を唱えると、情報端末に、捜索対象であるウェール王の養女、セレスティアについての資料が浮かび上がる。
「公的には数年前に死んだことになっていた、王の養女、か。癒しの力を持っていたというが、似た能力を持つ『異能』は帝国でも確認されているし、『智の女神』様が、そこまで関心を持たれるとは、何かあるのだろうな」
資料の中には、王宮で発見されたのであろう、セレスティアの肖像画も収められていた。
愛らしい微笑みを浮かべる肖像画を眺めて、グスタフは呟いた。
「……いかにも『可憐な女の子』という感じだ――かつて僕が、そうありたいと思っていた姿……か」
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