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夜空の向こうへ
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目的地到着には、まだ時間がかかるということで、フェリクスたちは少し休むことにした。
案内された仮眠室には、二段ベッドが備え付けられている。
セレスティアは女性だということで、別の部屋へと案内されていった。
フェリクスは上の段、アーブルは下の段の寝台へと潜り込み、室内の灯りを暗くした。
「ちょっと狭いけど、野宿の千倍はマシだよな」
「まったくだ」
二人は、そう言って、どちらからともなく笑った。
「アーブルと一緒でなければ、俺は、ここまで来られなかったと思う」
「そうか?」
「俺は、一人で生きるには何も知らな過ぎた。だが、お前が、色々なことを教えてくれた。どうやって生命を繋いでいくかだけではなく、他人の気持ちを推し量ること……俺には、まだ難しいが」
フェリクスは、アーブルと過ごすうちに、一見、自然体でいるように見える彼が、実は常に周囲の状況に気を配っていることに気付いたのだ。
少しの間、沈黙した後、アーブルが、ぽつりと言った。
「……俺さ、フェリクスに謝りたいことがあるんだ」
謝りたいこと、と言われても、フェリクスには、何のことなのか見当がつかなかった。
「初めて会った時のこと、覚えてるだろ」
「……あぁ」
「俺は、フェリクスのことを恐ろしいと思った。あのグスタフとかいう皇帝守護騎士に会った時と同じように、こいつには絶対に勝てないって」
「……」
「だから、ただひたすら、殺されない為にはどうすればいいかって考えてた」
フェリクスは、自分が生命を奪った兵士たちの無惨な亡骸を思い出した。
「……それは、あの状況を見たなら仕方ないと思う。俺も、自分で自分のことが恐ろしかった。アーブルに会っていなければ、混乱した気持ちのまま、どうなっていたか分からない。お前には、感謝している」
「感謝とか、やめてくれよ」
アーブルの声が、ほんの少しだが震えた。
「俺と組もうって誘ったのも、あんたほど強い奴なら、いざという時に利用できると思ったからだ。たぶん俺は、あんたが思ってるような人間じゃない。そして、こんなこと言わなくてもいいのに、謝るって体で口に出してラクになろうとする、ずるい奴だ」
「生き延びる為に、色々な方法を考えるのは、普通のことではないのか? 俺も、世慣れた様子のアーブルと一緒なら、生き延びられる可能性が高くなると思ったから同意した。お互い様だ」
フェリクスの耳に、ふぅ、とアーブルが息をつくのが聞こえた。
「あんたには、かなわないな」
「だが、行動を共にする利点の有無に関わらず、俺は、アーブルと一緒にいるのは楽しいし、もし会えなくなったらと思うと、胸の中に大きな穴が開いたような気持ちになる。『友達』というのは、こういうものなのかもしれないと思うが、違うのだろうか」
「……俺も……フェリクスは、一人で放っておいたら、悪い奴に騙されて身包み剥がれそうだからな、付いててやらなきゃって思うよ」
「そんなに、頼りないか?」
「まだまだ修行が足りないぜ」
そう言って、アーブルが、くすりと笑ったのに釣られ、フェリクスも無意識に微笑んだ。
案内された仮眠室には、二段ベッドが備え付けられている。
セレスティアは女性だということで、別の部屋へと案内されていった。
フェリクスは上の段、アーブルは下の段の寝台へと潜り込み、室内の灯りを暗くした。
「ちょっと狭いけど、野宿の千倍はマシだよな」
「まったくだ」
二人は、そう言って、どちらからともなく笑った。
「アーブルと一緒でなければ、俺は、ここまで来られなかったと思う」
「そうか?」
「俺は、一人で生きるには何も知らな過ぎた。だが、お前が、色々なことを教えてくれた。どうやって生命を繋いでいくかだけではなく、他人の気持ちを推し量ること……俺には、まだ難しいが」
フェリクスは、アーブルと過ごすうちに、一見、自然体でいるように見える彼が、実は常に周囲の状況に気を配っていることに気付いたのだ。
少しの間、沈黙した後、アーブルが、ぽつりと言った。
「……俺さ、フェリクスに謝りたいことがあるんだ」
謝りたいこと、と言われても、フェリクスには、何のことなのか見当がつかなかった。
「初めて会った時のこと、覚えてるだろ」
「……あぁ」
「俺は、フェリクスのことを恐ろしいと思った。あのグスタフとかいう皇帝守護騎士に会った時と同じように、こいつには絶対に勝てないって」
「……」
「だから、ただひたすら、殺されない為にはどうすればいいかって考えてた」
フェリクスは、自分が生命を奪った兵士たちの無惨な亡骸を思い出した。
「……それは、あの状況を見たなら仕方ないと思う。俺も、自分で自分のことが恐ろしかった。アーブルに会っていなければ、混乱した気持ちのまま、どうなっていたか分からない。お前には、感謝している」
「感謝とか、やめてくれよ」
アーブルの声が、ほんの少しだが震えた。
「俺と組もうって誘ったのも、あんたほど強い奴なら、いざという時に利用できると思ったからだ。たぶん俺は、あんたが思ってるような人間じゃない。そして、こんなこと言わなくてもいいのに、謝るって体で口に出してラクになろうとする、ずるい奴だ」
「生き延びる為に、色々な方法を考えるのは、普通のことではないのか? 俺も、世慣れた様子のアーブルと一緒なら、生き延びられる可能性が高くなると思ったから同意した。お互い様だ」
フェリクスの耳に、ふぅ、とアーブルが息をつくのが聞こえた。
「あんたには、かなわないな」
「だが、行動を共にする利点の有無に関わらず、俺は、アーブルと一緒にいるのは楽しいし、もし会えなくなったらと思うと、胸の中に大きな穴が開いたような気持ちになる。『友達』というのは、こういうものなのかもしれないと思うが、違うのだろうか」
「……俺も……フェリクスは、一人で放っておいたら、悪い奴に騙されて身包み剥がれそうだからな、付いててやらなきゃって思うよ」
「そんなに、頼りないか?」
「まだまだ修行が足りないぜ」
そう言って、アーブルが、くすりと笑ったのに釣られ、フェリクスも無意識に微笑んだ。
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