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情報通信網
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「――では、話を戻してよろしいでしょうか」
そう言って、カドッシュがセレスティアを見つめた。
「セレスティア殿には、我々の組織が行う政治宣伝に、ご協力頂きたく思っています。帝国の侵攻により崩壊してしまったウェール王国の王女である貴女が、その惨状と、平和への願いを訴えることで、帝国民の心を動かせるのではないかと」
「具体的に、どのようなことをすればよろしいのでしょうか?」
「まず、我が国の内情について、ご説明しましょう」
カドッシュの説明によれば、帝国内には、魔法技術を用いた、あらゆる情報を伝達する仕組み――情報通信網というものが存在するという。
それは、個人間の情報のやりとりのみならず、魔導絡繰りを遠隔で操作することなども可能らしい。
「帝国内には、情報通信網を利用した『遠隔受像機』を公共の場や各家庭に設置して、映像付きの情報を公開する仕組みがあります。我々は、それを利用して、局地的ではありますが、政治宣伝映像を流す活動をしています。その映像に、セレスティア殿も出演して頂きたいのです」
帝国以外の国では、電波を用いて無線通信機による情報伝達が行われているところもあるが、映像のやり取りまでは至っていない。やはり、帝国の技術は桁違いということだ。
「それって、姫様が顔出しするってことだよな?」
アーブルが口を挟んだ。帝国出身である彼は、そういった技術にも馴染みがあるのだろう。
「情報通信網は魔導絡繰りへの動力供給とか、色々な社会的基盤の管理にも使われていて、それも『智の女神』がやってるんだろ? そんな映像を流したら、直ぐに足跡を辿られてしまうんじゃないか?」
「だとすれば、セレスティアが危険に晒されてしまうな」
フェリクスも不安を感じて、カドッシュを見た。
「それについては、発信元を追跡できないよう、通信網の上に幾重にも壁を作り、かつ短時間で行っています。現に、これまでも、我々の所在を掴まれたことはありません」
カドッシュが頷いた。
「ヴァルタサーリ家の祖は、『智の女神』から魔法技術を与えられ、実用化した者の一人です。それ以来、当家は魔法技術に携わり、様々な魔導絡繰りを開発してきました。私も、その道については詳しいほうでしてね」
だからこそ、彼は「智の女神」を「壊れた機械」と断じることができるのかもしれない――フェリクスは、そんなことを思った。
「『智の女神』を破壊し排除するのみでは、我々も、単なる反乱・破壊分子と見做されます。ですから、同時に、人々の『智の女神』からの自立を促す必要があるという訳です」
「そういうことでしたら、ご協力させていただきたく思います。ただ、一つだけ、お願いしたいことがあります」
セレスティアが言った。
「どうぞ、仰ってください」
「フェリクスとアーブルを、私の護衛に付けていただきたいのです」
「それは、もちろん構いませんよ。皆さんは、気心の知れた間柄のようですし、フェリクスくんとアーブルくんは、皇帝守護騎士からセレスティア殿を守り切った実績がありますからね」
「ありがとうございます……あの、二人とも、勝手なことを言って不味かったでしょうか?」
言って、セレスティアが、フェリクスとアーブルの顔を見た。
「そんなことはない。言われずとも、俺は君の傍を離れるつもりはない」
フェリクスは彼女に微笑みかけた。
「実績と言っても、俺は姫様を連れて逃げただけだよ」
決まりの悪そうな顔で、アーブルが言った。
「何を言っている。アーブルがいなければ、どうなっていたか分からないぞ。これからも、一緒でなければ困る」
「あんたに、そう言われるのは光栄だな」
フェリクスの言葉に、アーブルは照れ臭そうに笑った。
「……ところで」
再び、カドッシュが口を開いた。
「話は逸れますが、セレスティア殿に、少し立ち入ったことを、お聞きすることになります。よろしいでしょうか」
「……何でしょうか?」
セレスティアの顏から笑みが消えたのを見て、フェリクスの中に緊張が走った。
そう言って、カドッシュがセレスティアを見つめた。
「セレスティア殿には、我々の組織が行う政治宣伝に、ご協力頂きたく思っています。帝国の侵攻により崩壊してしまったウェール王国の王女である貴女が、その惨状と、平和への願いを訴えることで、帝国民の心を動かせるのではないかと」
「具体的に、どのようなことをすればよろしいのでしょうか?」
「まず、我が国の内情について、ご説明しましょう」
カドッシュの説明によれば、帝国内には、魔法技術を用いた、あらゆる情報を伝達する仕組み――情報通信網というものが存在するという。
それは、個人間の情報のやりとりのみならず、魔導絡繰りを遠隔で操作することなども可能らしい。
「帝国内には、情報通信網を利用した『遠隔受像機』を公共の場や各家庭に設置して、映像付きの情報を公開する仕組みがあります。我々は、それを利用して、局地的ではありますが、政治宣伝映像を流す活動をしています。その映像に、セレスティア殿も出演して頂きたいのです」
帝国以外の国では、電波を用いて無線通信機による情報伝達が行われているところもあるが、映像のやり取りまでは至っていない。やはり、帝国の技術は桁違いということだ。
「それって、姫様が顔出しするってことだよな?」
アーブルが口を挟んだ。帝国出身である彼は、そういった技術にも馴染みがあるのだろう。
「情報通信網は魔導絡繰りへの動力供給とか、色々な社会的基盤の管理にも使われていて、それも『智の女神』がやってるんだろ? そんな映像を流したら、直ぐに足跡を辿られてしまうんじゃないか?」
「だとすれば、セレスティアが危険に晒されてしまうな」
フェリクスも不安を感じて、カドッシュを見た。
「それについては、発信元を追跡できないよう、通信網の上に幾重にも壁を作り、かつ短時間で行っています。現に、これまでも、我々の所在を掴まれたことはありません」
カドッシュが頷いた。
「ヴァルタサーリ家の祖は、『智の女神』から魔法技術を与えられ、実用化した者の一人です。それ以来、当家は魔法技術に携わり、様々な魔導絡繰りを開発してきました。私も、その道については詳しいほうでしてね」
だからこそ、彼は「智の女神」を「壊れた機械」と断じることができるのかもしれない――フェリクスは、そんなことを思った。
「『智の女神』を破壊し排除するのみでは、我々も、単なる反乱・破壊分子と見做されます。ですから、同時に、人々の『智の女神』からの自立を促す必要があるという訳です」
「そういうことでしたら、ご協力させていただきたく思います。ただ、一つだけ、お願いしたいことがあります」
セレスティアが言った。
「どうぞ、仰ってください」
「フェリクスとアーブルを、私の護衛に付けていただきたいのです」
「それは、もちろん構いませんよ。皆さんは、気心の知れた間柄のようですし、フェリクスくんとアーブルくんは、皇帝守護騎士からセレスティア殿を守り切った実績がありますからね」
「ありがとうございます……あの、二人とも、勝手なことを言って不味かったでしょうか?」
言って、セレスティアが、フェリクスとアーブルの顔を見た。
「そんなことはない。言われずとも、俺は君の傍を離れるつもりはない」
フェリクスは彼女に微笑みかけた。
「実績と言っても、俺は姫様を連れて逃げただけだよ」
決まりの悪そうな顔で、アーブルが言った。
「何を言っている。アーブルがいなければ、どうなっていたか分からないぞ。これからも、一緒でなければ困る」
「あんたに、そう言われるのは光栄だな」
フェリクスの言葉に、アーブルは照れ臭そうに笑った。
「……ところで」
再び、カドッシュが口を開いた。
「話は逸れますが、セレスティア殿に、少し立ち入ったことを、お聞きすることになります。よろしいでしょうか」
「……何でしょうか?」
セレスティアの顏から笑みが消えたのを見て、フェリクスの中に緊張が走った。
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