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父の愛
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「失礼ながら、セレスティア殿について、我々も調べさせていただきました。貴女は、公的には、数年前に亡くなったことになっていますね? しかし、実際は、ご健在でいらっしゃった……もし、よろしければ、どういった事情なのかを、お聞かせいただければと」
カドッシュの言葉に、セレスティアが息を呑んだ。
自分は、とっくに死んだことになっている人間だから――初めて会った際に、彼女が言っていた言葉を、フェリクスは思い出した。
少しの間逡巡していたセレスティアだったが、意を決したのか、口を開いた。
「……私について、お調べになったのであれば、『異能』のことも御存知かと思います。私には、子供の頃から癒しの力がありました。ある程度の年齢になると、それを目当てに求婚する方々が訪れるようになり、育ての父であるウェール国王陛下は、悩んでおられました。癒しの力は、その気になれば戦争にも利用できますから」
「たしかに、セレスティアの癒しの力は凄いものだった……」
フェリクスが呟くと、アーブルが頷いた。
「一度に数十人単位で治療できるとなれば、戦争で兵士たちが負傷しても直ぐに復帰させられるし、便利だよな」
「……父は、私を守ろうとしたのでしょう。公には、私は急な病で亡くなったということにして、実際は王宮の奥で隠れて暮らすようになったのです」
そこまで話すと、セレスティアは深く息をついた。
「それは、お辛いことでしたね」
カドッシュが相槌を打った。
「セレスティア殿は、赤子の頃に、ウェール王国の森にある……一説には『マレビト』たちが天から降り立つ時に乗っていた艦と言われている遺跡で、ウェール国王陛下に発見されたそうですが、その時のことについて、陛下から直接何かお聞きになっていますか?」
彼の問いに対し、セレスティアは頭を振った。
「いいえ……特には。父は、むしろ私に孤児であることを思い出させないよう気遣ってくれていたと思います」
「そうですか……不躾な質問に、お答えいただき、ありがとうございました。詳しいことは、また後ほど、ご相談させて頂きます。こちらに到着して早々、長々と話してしまって、お疲れになったと思います。部屋を用意させましたので、どうぞお休みください」
カドッシュはフェリクスたちを労うと、通信端末で案内役の構成員を呼び出した。
「セレスティア……そんなことがあったのか」
やや疲れた顔をしているセレスティアの肩に、フェリクスはそっと手を乗せた。
「黙っていて、ごめんなさい。あまり、お話ししたいことではなかったので……」
「ずっと、隠れて生活しなければいけないというのは、辛かったと思う。まして、公的には死んだことにされていたとは……」
「そうですね。限られた人としか会えない生活は寂しいものでした。でも、今は、フェリクスとアーブルが一緒にいてくれるから、大丈夫です」
そう言って、セレスティアは、フェリクスに頷いてみせた。
フェリクスたちは、客間から出ると、案内役に連れられ、彼らが滞在する部屋へと向かった。
途中、案内役は、食堂や手洗い所、浴室など、日常生活で利用する場所についても説明していった。
「こりゃ、下手な宿屋なんかより上等だな。流石、帝国十二宗家の一人が頭領やってるだけのことはあるよ」
地下施設の設備を見たアーブルが、溜め息をついた。
「あの、一つ、お聞きしてよろしいでしょうか」
セレスティアが、案内役に声をかけた。
「こちらに、本を読める場所などは、ありますか?」
「紙の書物でなくてもいいということでしたら、資料室があります。あらゆる書物の内容を、情報端末に収めてあります。では、後ほど、ご案内させていただくということで、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
案内役の説明に、セレスティアは、少し嬉しそうな表情を見せた。
「君は、本が好きなのか」
フェリクスは、セレスティアに尋ねた。
「はい。父が本好きで、王宮には集めた書物を収めた大きな部屋がありました。私も、そこで、よく物語の書かれた本を読んでいたんです」
「物語……か。俺は、文字を読んだり書いたりはできるが、物語を読んだという記憶はないな」
「では、そのうちに、私の知っている物語を、お話しして聞かせましょうか」
セレスティアが、そう言って微笑んだ。
カドッシュの言葉に、セレスティアが息を呑んだ。
自分は、とっくに死んだことになっている人間だから――初めて会った際に、彼女が言っていた言葉を、フェリクスは思い出した。
少しの間逡巡していたセレスティアだったが、意を決したのか、口を開いた。
「……私について、お調べになったのであれば、『異能』のことも御存知かと思います。私には、子供の頃から癒しの力がありました。ある程度の年齢になると、それを目当てに求婚する方々が訪れるようになり、育ての父であるウェール国王陛下は、悩んでおられました。癒しの力は、その気になれば戦争にも利用できますから」
「たしかに、セレスティアの癒しの力は凄いものだった……」
フェリクスが呟くと、アーブルが頷いた。
「一度に数十人単位で治療できるとなれば、戦争で兵士たちが負傷しても直ぐに復帰させられるし、便利だよな」
「……父は、私を守ろうとしたのでしょう。公には、私は急な病で亡くなったということにして、実際は王宮の奥で隠れて暮らすようになったのです」
そこまで話すと、セレスティアは深く息をついた。
「それは、お辛いことでしたね」
カドッシュが相槌を打った。
「セレスティア殿は、赤子の頃に、ウェール王国の森にある……一説には『マレビト』たちが天から降り立つ時に乗っていた艦と言われている遺跡で、ウェール国王陛下に発見されたそうですが、その時のことについて、陛下から直接何かお聞きになっていますか?」
彼の問いに対し、セレスティアは頭を振った。
「いいえ……特には。父は、むしろ私に孤児であることを思い出させないよう気遣ってくれていたと思います」
「そうですか……不躾な質問に、お答えいただき、ありがとうございました。詳しいことは、また後ほど、ご相談させて頂きます。こちらに到着して早々、長々と話してしまって、お疲れになったと思います。部屋を用意させましたので、どうぞお休みください」
カドッシュはフェリクスたちを労うと、通信端末で案内役の構成員を呼び出した。
「セレスティア……そんなことがあったのか」
やや疲れた顔をしているセレスティアの肩に、フェリクスはそっと手を乗せた。
「黙っていて、ごめんなさい。あまり、お話ししたいことではなかったので……」
「ずっと、隠れて生活しなければいけないというのは、辛かったと思う。まして、公的には死んだことにされていたとは……」
「そうですね。限られた人としか会えない生活は寂しいものでした。でも、今は、フェリクスとアーブルが一緒にいてくれるから、大丈夫です」
そう言って、セレスティアは、フェリクスに頷いてみせた。
フェリクスたちは、客間から出ると、案内役に連れられ、彼らが滞在する部屋へと向かった。
途中、案内役は、食堂や手洗い所、浴室など、日常生活で利用する場所についても説明していった。
「こりゃ、下手な宿屋なんかより上等だな。流石、帝国十二宗家の一人が頭領やってるだけのことはあるよ」
地下施設の設備を見たアーブルが、溜め息をついた。
「あの、一つ、お聞きしてよろしいでしょうか」
セレスティアが、案内役に声をかけた。
「こちらに、本を読める場所などは、ありますか?」
「紙の書物でなくてもいいということでしたら、資料室があります。あらゆる書物の内容を、情報端末に収めてあります。では、後ほど、ご案内させていただくということで、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
案内役の説明に、セレスティアは、少し嬉しそうな表情を見せた。
「君は、本が好きなのか」
フェリクスは、セレスティアに尋ねた。
「はい。父が本好きで、王宮には集めた書物を収めた大きな部屋がありました。私も、そこで、よく物語の書かれた本を読んでいたんです」
「物語……か。俺は、文字を読んだり書いたりはできるが、物語を読んだという記憶はないな」
「では、そのうちに、私の知っている物語を、お話しして聞かせましょうか」
セレスティアが、そう言って微笑んだ。
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