アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)

くまのこ

文字の大きさ
61 / 116

自己嫌悪

しおりを挟む
 やがて、予定されていた政治宣伝プロパガンダ映像の収録が終了した。
「お疲れ様でした。セレスティア殿のご協力で、素晴らしいものができたと思います」
「少しでも、お力になれたなら、光栄です」
 カドッシュにねぎらわれ、セレスティアは微笑んだ。
「フェリクス、ちょっと、お話ししたいのですが、一緒に来てもらえますか」
 収録に使用していた部屋から出たところで、セレスティアに声をかけられたフェリクスは、ぴくりと肩を震わせた。
「ここのところ、あまり話せていなかったでしょう?」
 そう言って、セレスティアはフェリクスの手を取った。
 二人を見送りながら片目をつぶってみせるアーブルが、フェリクスの視界の端に映った。
 セレスティアが向かったのは、自身が寝泊まりしている部屋だった。
 フェリクスを部屋に招き入れ、扉を閉めると、セレスティアは彼に向き合った。
「……俺は、君が面白いと思うような話はできないが」
 フェリクスは、ぼそりと言ってから、何故そのようなことを口走ってしまったのかと、自身が分からなくなった。
 ただ、ここしばらくの間に胸の底で澱のように沈んでいた不快なものが、再び立ち昇ってくるかのような感覚があった。
「……やはり、何か気に障ることがあったのですね」
「別に、何もない」
 平静を装ったつもりのフェリクスだったが、声が震えるのを抑えられなかった。
「そんな筈、ありません。助けられた、あの日から、ずっと一緒にいたのだから、分かります」
「何もないと言っているだろう……俺が、勝手に不愉快な気持ちになっているだけだ」
 フェリクスが言うと、セレスティアは、驚いたように、彼の顏を見上げた。
「――そうだ。誰も悪くない……だが、君が俺以外の者と楽しそうに話しているのを見ると、胸が苦しくなって、とても嫌な気分になる……大勢の者が君を見ていて、その所為で、君が遠くに行ってしまったようで……誰かが、君に触れるのさえ嫌だ……」
 ぽつぽつと話すフェリクスを、セレスティアは、黙って見ている。
「……こんなことを言えば、君を不快にさせてしまうことも、君に嫌悪されるということも分かっているのに……なぜ言わずにいられないのか……自分でも、分からないんだ……」
 フェリクスは、目の前がぼやけるのを感じて、思わず歯を食いしばった。
 ふぅ、とセレスティアが小さく溜め息をついた。
「あなたは、本当に、何も分かっていないのですね」
 セレスティアの言葉に、フェリクスは身を竦ませた。
 非難されているのだ、と感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...