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◆告知
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カドッシュに「重要な話がある」と呼び出されたセレスティアは、護衛役のアーブルと共に、指定された部屋へと向かっていた。
「姫様、やっぱりフェリクスと一緒のほうが良かったんじゃない?」
薄暗い通路を歩きながら、アーブルが口を開いた。
「……グスタフさんが私たちに危害を加える気がないとはいえ、ここの方たちからすれば彼女は脅威でしょう? でも、フェリクスが一緒にいると言えば安心していただけると思って」
「そうかもしれないけどさ……」
「アーブルは、私に気を遣ってくれているのですね」
「それは、まぁ……」
「あなたを見ていると、兄上を思い出すんです」
「へぇ? 姫様の兄貴……って、王子様だろ?」
セレスティアの言葉に、アーブルは目を丸くした。
「そうです。兄上は、いつも周囲の方たちを気遣う人でした。私が、何か嫌なことがあって塞ぎこんでいるような時も、優しい言葉をかけてくれたり、面白いことを言って笑わせようとしてくれたり……アーブルも、兄上と同じで、一緒にいると安心できます。フェリクスが、あなたに全幅の信頼を寄せているのも分かります」
言って、セレスティアは微笑んだ。
「一国の姫君に、そんな風に言われるなんて光栄だな」
アーブルも、照れ臭そうに笑った。それは嫌味や皮肉ではなく、本心からの言葉だと、セレスティアにも分かった。
やがて、二人は、カドッシュが待つ部屋の前に着いた。
扉の前には、いつもカドッシュに付き従っている護衛が立っていた。
「カドッシュ様は、セレスティア殿と、お二人で話したいと仰っています。あなたは、ここでお待ちください」
「何だよ、それ」
護衛の言葉に、アーブルが唇を尖らせる。
「……分かりました」
そう答えつつ、セレスティアは少し不安になった。彼女自身も、カドッシュに対し、どこか完全に信用できないと感じる部分があるのだ。
とはいえ、現在の状況を変えるには、彼の力に頼らざるをえないのも事実である。
壁一枚隔てたところにアーブルがいるのなら心配ないだろうと、セレスティアは自らを奮い立たせた。
「では、アーブルは、ここで待っていてください」
「何かあったら、大きい声出してくれよ」
アーブルが、セレスティアの耳元で囁いた。
セレスティアは頷いてみせると、扉を開けて部屋に入った。
「お呼び立てして申し訳ありません。どうぞ、お掛けください」
長椅子に座っていたカドッシュが立ち上がり、にこやかに彼女を迎えた。
とは言っても、顔の上半分を覆っている仮面の為に、相変わらず、その感情は読めない。
セレスティアは長椅子に腰かけ、卓子を挟んで、カドッシュと向き合った。
「いよいよ、近いうちに、我々は一斉蜂起します。とは言っても、武力による戦いではありません。……ただ、これから、お話ししたいのは、『智の女神』を排除した後のことです」
再び長椅子に座ったカドッシュが、やや前屈みになって言った。
仮面の奥からは、闇を思わせる黒い瞳が、セレスティアを見つめているのだろう。
「少し前にも、申し上げたように、セレスティア殿には、人々の心を鎮める……いや、導く役割を担っていただきたく思っています」
気を張っていないと、カドッシュの声に、言葉に思考を持っていかれそうになる――彼と話す度に違和感を覚えていたセレスティアは、半ば無意識のうちに身構えていた。
「導く……そこまでは、無理だと思います。以前にも申し上げたかもしれませんが、私はウェール王の養女とはいえ、元はといえば身元不明の孤児に過ぎません。それに、帝国の生まれでもない私が、帝国の皆さんの信頼を得られるとも考えられません」
セレスティアの言葉を頷きながら聞いていたがカドッシュが、口を開いた。
「あなたが、伝説の『マレビト』だとしても、そのように思われますか?」
「……今、何と仰いまして?」
言われたことが理解できずに、セレスティアは思わず聞き返した。
「姫様、やっぱりフェリクスと一緒のほうが良かったんじゃない?」
薄暗い通路を歩きながら、アーブルが口を開いた。
「……グスタフさんが私たちに危害を加える気がないとはいえ、ここの方たちからすれば彼女は脅威でしょう? でも、フェリクスが一緒にいると言えば安心していただけると思って」
「そうかもしれないけどさ……」
「アーブルは、私に気を遣ってくれているのですね」
「それは、まぁ……」
「あなたを見ていると、兄上を思い出すんです」
「へぇ? 姫様の兄貴……って、王子様だろ?」
セレスティアの言葉に、アーブルは目を丸くした。
「そうです。兄上は、いつも周囲の方たちを気遣う人でした。私が、何か嫌なことがあって塞ぎこんでいるような時も、優しい言葉をかけてくれたり、面白いことを言って笑わせようとしてくれたり……アーブルも、兄上と同じで、一緒にいると安心できます。フェリクスが、あなたに全幅の信頼を寄せているのも分かります」
言って、セレスティアは微笑んだ。
「一国の姫君に、そんな風に言われるなんて光栄だな」
アーブルも、照れ臭そうに笑った。それは嫌味や皮肉ではなく、本心からの言葉だと、セレスティアにも分かった。
やがて、二人は、カドッシュが待つ部屋の前に着いた。
扉の前には、いつもカドッシュに付き従っている護衛が立っていた。
「カドッシュ様は、セレスティア殿と、お二人で話したいと仰っています。あなたは、ここでお待ちください」
「何だよ、それ」
護衛の言葉に、アーブルが唇を尖らせる。
「……分かりました」
そう答えつつ、セレスティアは少し不安になった。彼女自身も、カドッシュに対し、どこか完全に信用できないと感じる部分があるのだ。
とはいえ、現在の状況を変えるには、彼の力に頼らざるをえないのも事実である。
壁一枚隔てたところにアーブルがいるのなら心配ないだろうと、セレスティアは自らを奮い立たせた。
「では、アーブルは、ここで待っていてください」
「何かあったら、大きい声出してくれよ」
アーブルが、セレスティアの耳元で囁いた。
セレスティアは頷いてみせると、扉を開けて部屋に入った。
「お呼び立てして申し訳ありません。どうぞ、お掛けください」
長椅子に座っていたカドッシュが立ち上がり、にこやかに彼女を迎えた。
とは言っても、顔の上半分を覆っている仮面の為に、相変わらず、その感情は読めない。
セレスティアは長椅子に腰かけ、卓子を挟んで、カドッシュと向き合った。
「いよいよ、近いうちに、我々は一斉蜂起します。とは言っても、武力による戦いではありません。……ただ、これから、お話ししたいのは、『智の女神』を排除した後のことです」
再び長椅子に座ったカドッシュが、やや前屈みになって言った。
仮面の奥からは、闇を思わせる黒い瞳が、セレスティアを見つめているのだろう。
「少し前にも、申し上げたように、セレスティア殿には、人々の心を鎮める……いや、導く役割を担っていただきたく思っています」
気を張っていないと、カドッシュの声に、言葉に思考を持っていかれそうになる――彼と話す度に違和感を覚えていたセレスティアは、半ば無意識のうちに身構えていた。
「導く……そこまでは、無理だと思います。以前にも申し上げたかもしれませんが、私はウェール王の養女とはいえ、元はといえば身元不明の孤児に過ぎません。それに、帝国の生まれでもない私が、帝国の皆さんの信頼を得られるとも考えられません」
セレスティアの言葉を頷きながら聞いていたがカドッシュが、口を開いた。
「あなたが、伝説の『マレビト』だとしても、そのように思われますか?」
「……今、何と仰いまして?」
言われたことが理解できずに、セレスティアは思わず聞き返した。
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