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不具合
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よく見れば、黒ずくめの男は、声のみではなく、背格好までフェリクスとほぼ同じだった。
更に言うなら、黒ずくめの男たちは、服装が同じとはいえ、まるで同一人物が複数並んでいるかのように見える。
「……俺は、お前たちのことなど……知らない」
警戒態勢を保ったまま、フェリクスは、黒ずくめの男に答えた。
自身の声が無様に震えるのを、彼は感じた。
「――お前は人格調整前に培養槽から出てしまったから、記憶が無いのだな。道理で、思考が同期されない訳だ」
黒ずくめの男は頷くと、自分の覆面に手をかけ、するりと剝ぎ取った。
「……これは…………?!」
成り行きを見守っていたグスタフが、驚愕した様子で目を見開いた。
覆面の下から現れた、黒ずくめの男の素顔は、髪や目の色こそ異なっているが、フェリクスと寸分違わぬものだった。
他の者たちも、覆面を外した。
九人いる黒ずくめの男たちは、各々が異なる髪と目の色を持っているものの、それ以外は、フェリクスと同じ姿をしていた。
「『七号』、これで、分かったか? お前は、我々と共に造られた『不死身の人造兵士』だ」
無表情な十八個の目に見つめられ、フェリクスは全身が総毛立つ思いだった。
信じたくはなかった「真実」が突きつけられている――彼にとっては、悪夢の如き悍ましい光景だ。
「俺の名は……フェリクスだ……! モンスとシルワがくれた名前だ……! 『七号』などではない!」
自分で自分を抱きしめるようにして、フェリクスは叫んだ。
「フェリクス、落ち着け! ここで恐慌状態になっては、奴らの思う壺だぞ! セレスティア王女を守るのではなかったのか?!」
グスタフが光剣を構えて、フェリクスの前に出る。
セレスティアの名を聞いたフェリクスは、我に返った。
――そうだ、俺が何者であろうと、セレスティアを守りたいという気持ちは変わらない……!
「まさか、『ヒト』を丸ごと複製していたとはね」
そう言うグスタフの背中からは、これまでにない緊張が伝わってくる。
九人の「不死身の人造兵士」たちの能力がフェリクスと同等だとすれば、苦戦は免れないことを、最も理解しているのが彼女だろう。
「我々は、『智の女神』様によって造られた、これまでには存在しなかった生命体だ。お前たち下等な『人間』などと一緒にしないでもらおう」
黒ずくめの男が、半ば誇らしげに言った。
「『七号』、お前には重大な不具合が発生していると認識した。主人たる『智の女神』様の下へ戻り、『直して』いただくのだ」
「『直す』……だと?」
「不要な記憶を抹消し、円滑に思考できる状態に調整していただくのだ。現在、発生している情緒の乱れも消えて、快適になる筈だ」
訝しむフェリクスに、黒ずくめの男が言った。そこには一片の悪意も感じられなかった。
だからこそ、フェリクスは恐怖と、そして怒りを覚えた。
個人を、その人たらしめているのは、それまでに生きてきた記憶であると、彼も無意識のうちに理解していた。
――その記憶を消されるということは、俺自身が消されるのと同義ではないのか……! たとえ造られた生命だとしても、俺にだって「心」はある……奴らの好きにされてたまるか……!
「断る……! 俺の記憶は、俺だけのものだ。大切なものは、全て、そこにある……!」
フェリクスは、腰に下げていた光剣を手にすると、光の刃を出現させ、構えた。
「今すぐ、ここから出ていけ。でなければ、お前たちを排除する」
おそらく、フェリクスが初めて明確に「殺意」を意識した瞬間だった。
その様子を見た黒ずくめの男は、一瞬、フェリクスから視線を外し、誰かの声を聞いているようだった。
「……『七号』、『智の女神』様は、お前の不具合が修正不可能と判断された。よって、廃棄処分だ」
黒ずくめの男の言葉が終わるや否や、彼らは一斉に光剣を起動し、襲いかかってきた。
更に言うなら、黒ずくめの男たちは、服装が同じとはいえ、まるで同一人物が複数並んでいるかのように見える。
「……俺は、お前たちのことなど……知らない」
警戒態勢を保ったまま、フェリクスは、黒ずくめの男に答えた。
自身の声が無様に震えるのを、彼は感じた。
「――お前は人格調整前に培養槽から出てしまったから、記憶が無いのだな。道理で、思考が同期されない訳だ」
黒ずくめの男は頷くと、自分の覆面に手をかけ、するりと剝ぎ取った。
「……これは…………?!」
成り行きを見守っていたグスタフが、驚愕した様子で目を見開いた。
覆面の下から現れた、黒ずくめの男の素顔は、髪や目の色こそ異なっているが、フェリクスと寸分違わぬものだった。
他の者たちも、覆面を外した。
九人いる黒ずくめの男たちは、各々が異なる髪と目の色を持っているものの、それ以外は、フェリクスと同じ姿をしていた。
「『七号』、これで、分かったか? お前は、我々と共に造られた『不死身の人造兵士』だ」
無表情な十八個の目に見つめられ、フェリクスは全身が総毛立つ思いだった。
信じたくはなかった「真実」が突きつけられている――彼にとっては、悪夢の如き悍ましい光景だ。
「俺の名は……フェリクスだ……! モンスとシルワがくれた名前だ……! 『七号』などではない!」
自分で自分を抱きしめるようにして、フェリクスは叫んだ。
「フェリクス、落ち着け! ここで恐慌状態になっては、奴らの思う壺だぞ! セレスティア王女を守るのではなかったのか?!」
グスタフが光剣を構えて、フェリクスの前に出る。
セレスティアの名を聞いたフェリクスは、我に返った。
――そうだ、俺が何者であろうと、セレスティアを守りたいという気持ちは変わらない……!
「まさか、『ヒト』を丸ごと複製していたとはね」
そう言うグスタフの背中からは、これまでにない緊張が伝わってくる。
九人の「不死身の人造兵士」たちの能力がフェリクスと同等だとすれば、苦戦は免れないことを、最も理解しているのが彼女だろう。
「我々は、『智の女神』様によって造られた、これまでには存在しなかった生命体だ。お前たち下等な『人間』などと一緒にしないでもらおう」
黒ずくめの男が、半ば誇らしげに言った。
「『七号』、お前には重大な不具合が発生していると認識した。主人たる『智の女神』様の下へ戻り、『直して』いただくのだ」
「『直す』……だと?」
「不要な記憶を抹消し、円滑に思考できる状態に調整していただくのだ。現在、発生している情緒の乱れも消えて、快適になる筈だ」
訝しむフェリクスに、黒ずくめの男が言った。そこには一片の悪意も感じられなかった。
だからこそ、フェリクスは恐怖と、そして怒りを覚えた。
個人を、その人たらしめているのは、それまでに生きてきた記憶であると、彼も無意識のうちに理解していた。
――その記憶を消されるということは、俺自身が消されるのと同義ではないのか……! たとえ造られた生命だとしても、俺にだって「心」はある……奴らの好きにされてたまるか……!
「断る……! 俺の記憶は、俺だけのものだ。大切なものは、全て、そこにある……!」
フェリクスは、腰に下げていた光剣を手にすると、光の刃を出現させ、構えた。
「今すぐ、ここから出ていけ。でなければ、お前たちを排除する」
おそらく、フェリクスが初めて明確に「殺意」を意識した瞬間だった。
その様子を見た黒ずくめの男は、一瞬、フェリクスから視線を外し、誰かの声を聞いているようだった。
「……『七号』、『智の女神』様は、お前の不具合が修正不可能と判断された。よって、廃棄処分だ」
黒ずくめの男の言葉が終わるや否や、彼らは一斉に光剣を起動し、襲いかかってきた。
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