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狭間にて

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 いつの間にか、フェリクスは、何もない真っ白な空間に立っていた。
 高さも奥行きも、あると言われれば、あるように感じるが、ないと言われれば、自分の立っている足場しか存在しないようにも思える、不可解な場所だ。
 人は、これまでに自分が生きた時間を見返しながら死ぬのだと、彼は、どこかで聞いたことを思い出した。
 ――自分は「人」ではないから、何もないのだろうか。
 そんなことを考えながら、ぼんやりと佇んでいたフェリクスは、白いもやの向こうに、見覚えのある輪郭を認めた。
 何かを感じて、彼は弾かれたように走り出した。
 近付くともやが晴れて、そこにいる者たちの姿が明らかになった。
「――モンス……シルワ……?!」
 帝国軍の襲撃によって命を奪われた、恩人たちの姿があった。
 モンスとシルワも、フェリクスの姿を認めたのか、嬉しそうに微笑んだ。
 フェリクスは駆け寄って、彼らを抱きしめた。
 二人もまた、フェリクスを優しく受け止めた。
 何も言えず、ただ子供のように泣きじゃくるフェリクスの背中を、モンスとシルワが、わるわるさすった。
「すまない……守ってやれなくて……」
「あなたは何も悪くないわ」 
 シルワが、しゃくりあげるフェリクスの手を、そっと握った。
「もう、どこにも行ったりしない……ずっと、そばにいるから……」
 そう言って、フェリクスはシルワの手を握り返した。
「それは、駄目だな」
 モンスの言葉に、フェリクスは愕然とした。
「何故……?!」
「ここは、お前さんの来るところじゃないからさ」
 寂しげな微笑みを浮かべて、モンスが言った。
「俺は……『人』ではないから、あなたたちと一緒では、いけないのか?」
 フェリクスは、乾きかけた涙が再び溢れそうになるのを感じた。
「そうではなくて……大切な人を置いていっては、いけないわ」
 シルワが、泣き出すのを我慢しているかのような笑顔で、フェリクスの後ろを指差した。
 振り向いたフェリクスは、遠くに人影があるのに気付いた。
 薄く漂うもやの向こうに見えるのは、フェリクスを迎えようとするかの如く、両手を広げている、セレスティアの姿だった。
「人生の最後で、お前さんと過ごせて良かったよ」
「短かったけれど、あなたと暮らした時間は、とても幸せだったわ」
 モンスとシルワが、フェリクスの背中を押した。
「俺も……最初に出会えたのが、あなたたちで良かった……ありがとう」
 フェリクスは、手の甲で涙を拭くと、セレスティアのいる方に向かって、歩き出した。
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