残り何回

みたらしのだんご

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僕の不安

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 一生のうちに心臓が鼓動できる回数は決まっているらしい。その心拍数を打ち切ったときが寿命だという。

 人間は緊張や興奮すると心拍数が上がるが、もし一生の心拍数が決まっていたら緊張や興奮するたびに寿命を削っているのだろうか。僕はそう思いながら彼に抱かれている。


 僕の名前はほたる唯絃ゆづるのことを好きになったのは9か月前。初めて会った時、彼の美しさに見とれてしまった。その時はひたすらにドキドキして目の前の彼が光り輝いて、自分のことが理解できなかった。
始めは友達になろうと思って会ったのに、いつの間か彼の虜になっていた。美しさだけじゃない。彼の誠実さや優しさに包まれてしまった。僕も唯絃も男子だけれどそういうことはどうだっていい、今は彼に愛されたい。
 もっと彼のことを知りたい、彼に僕のことを知ってほしい、そういう感情が恋なのかもしれないということがなんとなく気付いたときには、僕はもう先に進みたいと焦っていた。

「ごめん、唯絃のことが好きだ。」
「蛍?急にどうしたんだい?謝らないでいいのに、これからも仲良くやろうじゃないか。」
「違う、もう僕は唯絃のことを友達としては見られない。唯絃の全てを知りたいんだ。」
「…そうか。俺も嬉しいよ。付き合おう。」

 思っていたよりそれはあっさりとしていた。素直に伝えることも悪くないな。


 付き合い始めてからも率直に思いを伝えられるかと言われたら少し難しかった。彼は将来のビジョンが見えているようだった。大学生の僕たちだったが、僕が来年のことも考えていないのに対して、彼は将来就きたい会社や職業について僕に話せるほどにはよく考えているようだった。仕事を頑張りたい、海外でも活躍してみたい、と語る唯絃は僕とはかけ離れたところに行ってしまうようだった。それでも彼は僕の思いにはきちんと答えてくれる。ちょっとタイミングがつかめないけれどいきなり好きだと言ってくれることは多い。唯絃から手を繋いでくれた。周囲の目が気になってしまう僕とは反対に彼は力強く離すまいと握っていた。だからこそ僕とは違う正確にどことなく距離を感じることもあった。


 男同士とはいえ、付き合ったからにはお互いの体も知りたくなっていた。彼に初めてハグをされたとき、唯絃の心臓の音がとてもはっきりと聞こえてきた。唯絃も緊張しているのか、始めてのハグに緊張して手の置き所が分からない僕と似たようなものなのか、初めて親近感を覚えた。

「唯絃、緊張してるの?」
「そりゃ、好きな子と一緒に居たらドキドキするだろ。蛍はしないのか?」
「そうだな。でもこのドキドキも楽しいよ。」

 そう、自分のドキドキは楽しいのだが、彼の心臓が脈打つのはなぜだか不安になってしまう。唯絃が必死に生きているのを感じるが、僕なんかに時間を使っていいのだろうか。


 このときから、僕はしばらく唯絃との時間をどうしたいのか考え込むようになった。ハグした時のあの不安、唯絃のことが好きだから彼には目標に向かって頑張ってほしいと思う。それには僕は要らないのではないのか。でも僕は唯絃とずーっと一緒にいたくなってしまったのだ。彼のことをもっと知って、それこそ一生そばに居たい。たった数か月付き合っただけでこんなことを思うのは馬鹿馬鹿しいし、ただの夢物語にしか過ぎないのだろうが。


 彼の時間を使うことへの申し訳なさと自分の独占欲のはざまで揺れながら、今僕は唯絃に抱かれている。初めて彼と体を重ねたが、僕は彼を上手く受け入れられた。彼の体を感じる度に鼓動も聞こえてくる、僕自身の心臓の具合は分からないのに。唯絃だけ心臓が速く脈打つように感じる。

「蛍、好きだ。愛してる。」
「僕もっ、唯絃のこと、好きっ、んあっ。」

 喋る言葉に喘ぎが混ざったとしても、僕の心臓はいつも通りのよう。彼ばかり寿命を削って、どうしてだろう。これ以上はやめてくれとも願ってしまう。

「気持ちいいんだな、蛍。もっと気持ちよくなろう、ね。」
「うあぁっ!ゆ、唯絃っ、僕おかしくなっちゃっ、んんっ。」

 唯絃のがさらに深くまで入ってくる。彼の心臓の音が近い。さらに心拍が速くなる。

「蛍っ、出すぞ!」
「んああああっ!イくっ!」

 快楽が全身に流れる。唯絃のが僕のナカで脈打っている。
 彼のがドクドクしているのを感じてハッとする。ああ、また彼の時間を使ってしまった。


 一通り終わった後も唯絃は鼓動が速い。隣に横たわればきちんと聞こえてきてしまう。どうして、唯絃ばかりこんなに心臓を動かしてしまうのだろう。辛い。もうやめてくれ。
 それでも彼と抱き合って眠る心地よさと幸せは感じてしまう。唯絃の寿命を奪ってまで得られる快楽だからだろうか。自分のことが嫌いになりそうだ。罪悪感で締め付けられている。

「蛍?大丈夫か?」

 ああ、こんなきれいな顔で言われたらなにも言い返せないじゃないか。

「大丈夫だ。問題ないよ。唯絃のことが大好きすぎて幸せなだけさ。」

 うん、間違いは言ってない。

「なにかあったらすぐに教えてくれ。笑顔の蛍が一番かわいいから。」
「そうか、かわいいのか…。」
「ん?かっこいいがよかった?」
「そりゃ僕も男だし。」

 こんな他愛ないことは言えるのに。彼への心配なのか自分への嫌悪感なのかよくわからないものは吐き出せない。吐き出してはいけないような気がする。


 唯絃の残りの心拍数はどれぐらいなのだろうか。
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