1 / 2
僕の不安
しおりを挟む一生のうちに心臓が鼓動できる回数は決まっているらしい。その心拍数を打ち切ったときが寿命だという。
人間は緊張や興奮すると心拍数が上がるが、もし一生の心拍数が決まっていたら緊張や興奮するたびに寿命を削っているのだろうか。僕はそう思いながら彼に抱かれている。
僕の名前は蛍。唯絃のことを好きになったのは9か月前。初めて会った時、彼の美しさに見とれてしまった。その時はひたすらにドキドキして目の前の彼が光り輝いて、自分のことが理解できなかった。
始めは友達になろうと思って会ったのに、いつの間か彼の虜になっていた。美しさだけじゃない。彼の誠実さや優しさに包まれてしまった。僕も唯絃も男子だけれどそういうことはどうだっていい、今は彼に愛されたい。
もっと彼のことを知りたい、彼に僕のことを知ってほしい、そういう感情が恋なのかもしれないということがなんとなく気付いたときには、僕はもう先に進みたいと焦っていた。
「ごめん、唯絃のことが好きだ。」
「蛍?急にどうしたんだい?謝らないでいいのに、これからも仲良くやろうじゃないか。」
「違う、もう僕は唯絃のことを友達としては見られない。唯絃の全てを知りたいんだ。」
「…そうか。俺も嬉しいよ。付き合おう。」
思っていたよりそれはあっさりとしていた。素直に伝えることも悪くないな。
付き合い始めてからも率直に思いを伝えられるかと言われたら少し難しかった。彼は将来のビジョンが見えているようだった。大学生の僕たちだったが、僕が来年のことも考えていないのに対して、彼は将来就きたい会社や職業について僕に話せるほどにはよく考えているようだった。仕事を頑張りたい、海外でも活躍してみたい、と語る唯絃は僕とはかけ離れたところに行ってしまうようだった。それでも彼は僕の思いにはきちんと答えてくれる。ちょっとタイミングがつかめないけれどいきなり好きだと言ってくれることは多い。唯絃から手を繋いでくれた。周囲の目が気になってしまう僕とは反対に彼は力強く離すまいと握っていた。だからこそ僕とは違う正確にどことなく距離を感じることもあった。
男同士とはいえ、付き合ったからにはお互いの体も知りたくなっていた。彼に初めてハグをされたとき、唯絃の心臓の音がとてもはっきりと聞こえてきた。唯絃も緊張しているのか、始めてのハグに緊張して手の置き所が分からない僕と似たようなものなのか、初めて親近感を覚えた。
「唯絃、緊張してるの?」
「そりゃ、好きな子と一緒に居たらドキドキするだろ。蛍はしないのか?」
「そうだな。でもこのドキドキも楽しいよ。」
そう、自分のドキドキは楽しいのだが、彼の心臓が脈打つのはなぜだか不安になってしまう。唯絃が必死に生きているのを感じるが、僕なんかに時間を使っていいのだろうか。
このときから、僕はしばらく唯絃との時間をどうしたいのか考え込むようになった。ハグした時のあの不安、唯絃のことが好きだから彼には目標に向かって頑張ってほしいと思う。それには僕は要らないのではないのか。でも僕は唯絃とずーっと一緒にいたくなってしまったのだ。彼のことをもっと知って、それこそ一生そばに居たい。たった数か月付き合っただけでこんなことを思うのは馬鹿馬鹿しいし、ただの夢物語にしか過ぎないのだろうが。
彼の時間を使うことへの申し訳なさと自分の独占欲のはざまで揺れながら、今僕は唯絃に抱かれている。初めて彼と体を重ねたが、僕は彼を上手く受け入れられた。彼の体を感じる度に鼓動も聞こえてくる、僕自身の心臓の具合は分からないのに。唯絃だけ心臓が速く脈打つように感じる。
「蛍、好きだ。愛してる。」
「僕もっ、唯絃のこと、好きっ、んあっ。」
喋る言葉に喘ぎが混ざったとしても、僕の心臓はいつも通りのよう。彼ばかり寿命を削って、どうしてだろう。これ以上はやめてくれとも願ってしまう。
「気持ちいいんだな、蛍。もっと気持ちよくなろう、ね。」
「うあぁっ!ゆ、唯絃っ、僕おかしくなっちゃっ、んんっ。」
唯絃のがさらに深くまで入ってくる。彼の心臓の音が近い。さらに心拍が速くなる。
「蛍っ、出すぞ!」
「んああああっ!イくっ!」
快楽が全身に流れる。唯絃のが僕のナカで脈打っている。
彼のがドクドクしているのを感じてハッとする。ああ、また彼の時間を使ってしまった。
一通り終わった後も唯絃は鼓動が速い。隣に横たわればきちんと聞こえてきてしまう。どうして、唯絃ばかりこんなに心臓を動かしてしまうのだろう。辛い。もうやめてくれ。
それでも彼と抱き合って眠る心地よさと幸せは感じてしまう。唯絃の寿命を奪ってまで得られる快楽だからだろうか。自分のことが嫌いになりそうだ。罪悪感で締め付けられている。
「蛍?大丈夫か?」
ああ、こんなきれいな顔で言われたらなにも言い返せないじゃないか。
「大丈夫だ。問題ないよ。唯絃のことが大好きすぎて幸せなだけさ。」
うん、間違いは言ってない。
「なにかあったらすぐに教えてくれ。笑顔の蛍が一番かわいいから。」
「そうか、かわいいのか…。」
「ん?かっこいいがよかった?」
「そりゃ僕も男だし。」
こんな他愛ないことは言えるのに。彼への心配なのか自分への嫌悪感なのかよくわからないものは吐き出せない。吐き出してはいけないような気がする。
唯絃の残りの心拍数はどれぐらいなのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる