聖女な幼馴染に裏切られた少年、地獄の【一万倍の次元】の修行を突破。最強剣士として学園生活を満喫する

ハーーナ殿下

文字の大きさ
3 / 44

第3話:学園に向かう途中で

しおりを挟む
 最悪な聖女の幼馴染を、こちらから絶縁。
 今まで蔑まれて不自由だったオレは、栄光の自由を手にした。

「さて、剣士学園を目指すか!」

 王都の街の城門を後にして、オレは清々しい気持ちで叫ぶ。
 北に伸びる街道を、歩いていく。

「キタエルの学園か……遠いけど、頑張ろう」

 これから目指すは、北の辺境“キタエルの街”の剣士学園。
 ここから徒歩で急いでも、一ヶ月以上もかかる辺境の地だ。

 愛剣は没収されたままので、今のオレは旅人風な身軽な装備。
 街道をひたすら北に向かって、急ぎ足で歩いていく。

「ふう……体力には自信はあるけど、今回の旅は根気との勝負だな」

 剣士を目指していたオレは、幼い時から走り込みを一日も欠かしていない。
 お蔭で長距離移動は得意な方。

「でも、この脂肪は、減らないんだよな……」

 自分の全身の至るところに付いている、無駄な脂肪に視線を移す。
 オレは生まれた時から、ぽっちゃり体型だった。

 脂肪を筋肉に変えたくて、毎日のように厳しい筋肉トレーニングもしてきた。

 だが一向に減らない邪魔者……“魔の脂肪”とオレは自虐している。

「“魔の脂肪”……こいつのお蔭で、本当に悪夢のような人生だったな……」

 全身の脂肪は、可動域を狭めるように付いている。
 お蔭でいくら鍛錬しても、オレは剣士として腕で上げることが出来なかったのだ。

「偉いお医者さんや回復術師でも、この脂肪の原因は分からなかったからな……」

 もしから、オレの脂肪は病気か何かなのでは?
 何度か王都の名医を訪ねていったことがある。

 だがいくら調べても原因不明。
 オレは動きを制限する脂肪に、剣士として夢を阻まれながら、今まで生きてきたのだ。

「もしかしたら、キタエルの剣士学園に入学できても、コイツのお蔭で、また苦労するとこになるのかな……いや、今は考えないようにしよう!」

 後ろ向きに考えることは、昨日で止めにしている。
 何しろ今のオレは、前途明るい自由の身。

 あの悪魔のような幼馴染から、ようやく解放されたのだ。

「よし、頑張っていくぞ!」」

 気分を一新。
 軽い足取りで街道を、ひたすら進んでいく。

「ん? こんな時間か?」

 気が付くと、王都を出発してから、結構な時間が経っていた。

「そろそろルートを変えていくか、念のために……」

 キタエルへ最短な街道から、一本横道に入っていく。
 少し遠回りになるが、これも念のため。

 王都からの“追跡部隊”を回避するためだ。

「たぶん……いや、エルザの奴は“絶対に”追跡部隊を、送り込んでくるからな」

 オレには読めていた。

 放心状態だったアノ彼女は、約一時間後には我に返っていたはず。

 そして大貴族の力を全力で酷使。
 直属の隠密隊に、次のように命令を下していたはず。

『辺境のどこかの剣士学園に向かったハリトを、必ず捕まえてこい!』という命令を。

 幼馴染として長年に渡り付き添ってきたオレは、彼女の思考が手に取るように分かる。
 そしてエルザがどんな追跡ルートで、部下に指示を出しているかも。

「まぁ、それじゃ、裏をかかせてもらいますか、アイツの」

 そのための突然のルート変更だ。
 エルザが送り込んだ追跡隊が、絶対に追ってこない道を進んでいく。

「よし、これから道中、見つからないように頑張っていくか!」

 こうして聖女エルザの追跡部隊を振り切り、オレは北の辺境に近づいていくのであった。

 ◇

 王都を出発してから、一ヶ月が経つ。

「ふう……あの峠を超えたら、いよいよか……」

 オレは目的地に、キタエルに大接近していた。

「この一ヶ月……オレも頑張ったな……」

 道中は大きなトラブルはなかったが、予想以上に過酷だった。
 徒歩移動と野宿の繰り返しの日々。

「まぁ、でも一人の旅は、本当に気楽で楽しかった……」

 かなり過酷に思えるが、今のオレには何の苦にもならない。
 何故なら、あのエルザからの精神的で肉体的な苦痛に、オレは毎日耐えてきた。

 多少の悪路や、自然の風雨など気にならないのだ。

「よし、後ろは、もう大丈夫そうだな?」

 まぁ、面倒なことといえば、こうして追っ手を撒く作業。
 ひたすら街道と横道を入り混ぜて、歩いていたことだ。

 お蔭で王都の圏内から、無事に脱出できた。
 ここから先は追っ手の心配も無いだろう。

「よし、後はこの道を突き進むだけだ!」

 今は地元の猟師ですら歩かない獣道を、ひたすら進んでいる。

「キタエル学園か……どんな所なんだろうな……」

 険しい獣道を歩きながら、近づいてきた目的地に胸を焦がす。

「本格的な剣士の訓練か……どんなことをするんだろう……」

 今までオレは苦難の人生を歩んできた。
 剣士学園に入学して、新しい人生がスタートするのだ。

 “一人前の剣士になる”という壮大な夢を手にするために。

「よし、気合を入れて、頑張っていくぞ! 最終的な夢は……そうだな、大きく『オレは最強の剣士になる』……ぞ!」

 ――――心の願望を、だだ漏らした時だった。

 ボワン。

 気いたことがないような異音が、足元から聞こえる。

「へっ?」

 視線を下に向ける。
 そこに出現したのは黒い穴。

「えっ⁉」

 同時に身体が吸い込まれて、落ちていく。

(獣を捕まえるための罠の穴? それとも、自然の空洞の穴? いや、横が掴めないぞ⁉ なんだ、この穴は⁉)

 咄嗟に横の壁に捕まろうとするが、壁が空けてしまう。

 ここは異常な穴の空間。
 下を見ても、底が見えない穴。

 まるで地獄の底まで続いているような深い穴だった。

(な、なんだ、この穴は……)

 そう思った、直後。
 深淵の闇に飲み込まれて、オレは意識を失う。

 ◇

「うっ……」

 それから少し時間が経つ。
 オレは意識を取り戻す。

「ここは……どこだ? 地の底じゃ……ないよな?」

 目を覚ましたのは異様な空間だった。

 広さは屋敷の個室くらい。

 壁はあるけど、先ほどと同じように障ることが出来ない。

「ここは地獄か……いや、生きては、いるのは、オレは?」

 試しにホッペをつねってみるが、痛覚はある。
 落下で死んだ訳はなさそうだ。

「夢か……異世界か……何なんだここは。オレは一刻も早く、剣士学園に入学したいのに!」

 オレは叫ぶ。
 ここが何処か知らない。

 だから自分自身に向かって叫ぶ。
 オレは一人前の剣士……最強の剣士になるために、学園に向かいたいのだ!

 ボワン。

 直後、空間に異変が起きる。
 先ほど同じ異音が発生。

 カチャーン。

 そして金属音。
 どこからともなく目の前に、“一本の剣”が落ちてきたのだ。

「な、何だ、この剣は……?」

 怪しげな剣を警戒する。
 パッと見は普通の片手剣。

 色は黒い。
 あと、剣の横に、何かの呪印が掘られている。
 初めて見る文字で、解読は出来ない。

 こいつは一体なんなんだ?

 ボワン。

 直後、また異音が発生。
 同時に空間に異変が起きる。

「これは……道……か?」

 目の前に、細長い道が出現していた。
 先ほどまでは全くなかったモノ。

 異音と共に出現したのだ。

「どこに続いているんだ……これは?」

 通路はかなりの長さがある。
 だが空間が湾曲して、先がちゃんと見えない。

 果てしなく長く続いているのは分かる。
 だが、道中に、いくつもの障害が立ちはだかっているのだ。

「そうか……『この剣を使って進んでいく』……のか、ここは…」

 オレは“そう”感じた。
 全身の本能が……直感が、“そう”回答を教えてくれたのだ。

 自分でも不思議なくらい、胸の奥が高まってきた。

「ふう……どこの誰が仕組んだ、迷宮か知らないが……今のオレは諦めが悪いんだぜ!」

 剣士学園へ向かうには、手にした剣一本で突破することが必須。

 こうしてオレは“次元の狭間”に挑むのであった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...