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第31話:ライバルチームを偵察

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オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。

一学年生の大イベント【学内選抜戦】が開幕。
オレはマリエルとミーケの三人で挑戦し、一回戦を三連勝で無事に突破する。




チャラい男な軍団との一回戦の後。
オレたちは待機部屋で、小休憩にはいる。

次の二回戦までは、少しだけ時間が空く。
参加者は待機部屋で、体力を回復に励む時間だ。

「あれ、ハリトたん。どっかに行くのニャー?」

「あっ、うん。ちょっと散歩に」

だがオレは一人で、待機部屋を後にする。

「時間は大丈夫ですか、ハリト様?」

「ああ、すぐに戻ってくるから」

マリエルとミーケを待機室において、オレは会場の中を散歩することにした。
向かう先は観客席。
目的は、他の候補生の試合を偵察するためだ。

「一回戦は結構な強敵だったからな。とりあえず情報収集でもしておくか」

マリエルはともかく、オレとミーケは少し危ない試合だった。
出来れば二回戦以降は、楽に勝ち進んでいきたい。
そのための情報集で、偵察だ。

「さて、どんな感じかな……」

観客席に着席。
闘技場で行われていく試合を、観察していく。

「なるほど……全体的にレベルは高いな。みんな頑張って、ここまで成長してきたんだな」

試合を見ながら感心する。
入学直後の合同授業に比べて、生徒たちは圧倒的に成長していた。

誰もが必死に、鍛錬を積んできたのであろう。
剣術技の精度とレベルが、目に見えて向上している。

「でも、まぁ。なんとなくだけど、この分なら、決勝戦までいけそう……かな?」

客観的に見て、ミーケより強い生徒は何人かいる。
だがマリエルほどの者はいない。

選抜戦は三対三の団体戦。
つまり大将のオレさえ頑張れば、二勝以上をキープ可能。
決勝まで勧める可能性があるのだ。

「さて、あとは見なくていいかな?」

大よその情報収集は終わった。
そろそろ戻るとするか。

早く帰らないと、マリエルたちも心配するであろう。

「ん?」

そんな時であった。
ちょうど始まった試合に、思わず目を止まる。

「何だ、あの人たちは⁉」

明らかに今までとは違うチームが、登場したのだ。

凄く強い三人組だった。

圧倒的な戦闘力で、あっとう間に三連勝してしまう。

「あんな三人組……うちの学園にいたかな?」

見たこともない顔の三人だった。
間違いなく同じクラスの連中ではない。

ということは別のクラスか?
だが入学式の時には、見なかった顔の三人組。
というか戦闘の制服が、キタエル学園とは違う。

「ということは、特別参加の連中か?」

そういえば選抜戦には、他校から一チームが特別参加しているという。

思い出して見ると、制服デザインが若干違っている。
三人は黄色と白をベースとした制服。
これで他校からの特別参加組だと確定した。

「それにしても、今のあの戦い方は……あの三人、手を抜いていたよな……」

先ほどの戦い方を思い返す。
信じられないことに他校の三人組は、本気を出さずに三連勝。

うちの学校の連中が、誰もが必死で挑んでいる選抜戦。
それをあざ笑うかのよう、片手をポッケに入れた状態で戦っていたのだ。

「はぁ……何だろうな。この不快感は……」

オレはこのキタエル学園に、今や愛着がある。
だから三人組の戦い方を見ていたら、あまり気分はよろしくない。

「とりあえず……要注意だな」

不快感は別にして、特別参加の三人の実力は飛びぬけている。

トーナメント表によれば、オレたちとは反対側のブロック。
当たる可能性があるのは、最後の決勝戦で。

念のために、注意しておくことにした。

「さて、戻るとするか……」

情報収集も終わったので控え室に戻ることにした。
まだオレたちの第二試合まで、時間はある。

もう少し、ゆっくり出来るであろう。



出場者の休憩室に戻ってきた。
休憩室の前で、マリエルたちをバッタり会う。

「あれ? 二人もどこか行ってきたの?」

「ミーたちも、少し散歩してきたニャー!」

なるほど、そういうことか。

ミーケとマリエルも暇を持て余していた。
二人でコロッセオ外周を、散歩して来たという。

さて、三人揃ったところで、中に入ろう。
この後の二回戦の作戦会議をしよう。

(ん?……何だ、この視線は?)

控え室の入った時だった。
周囲から視線を感じる。

これは控え室にいる、他の参加者たちからの強い視線だ。

(視線はオレに対してじゃないな。これは隣の……マリエルに対して?)

つい先ほどの控え室とは、雰囲気から一変していた。
あまり好ましくない視線……負の視線が、マリエルに向けられているのだ。

主に視線を向けてくるのは、他のクラスの令嬢軍団。
ヒソヒソ話をしながら、マリエルをチラ見している。

当人のマリエルはミーケとの会話で、まだ気がついていない。

(とりあえず、何を蔭口しているか、調べておくか……【走馬灯そうまとうモード・壱の段】発動、盗み耳!)

意識を集中して、自分の地獄耳を強化。
これで盗み聞きができるはず。

さて、どんなことを言っていているのだろうか?

「…………ねぇ、聞きました? あのこと?」

「ええ……私も聞きましたわ……まさか、あのマリエル様が、あんなことになっていたとは……」

「同感ですわ……私たちもすっかり騙されていたということですわ……」

令嬢たちの会話の内容は、やはりマリエルについて。
でも、何の噂話なのであろうか?

「…………どうりで、あんな獣人の子や、イケメンだけど庶民出の男子と一緒にいる訳ですわ……」

「ですわね……お似合いの三人組だったという訳ですわね……」

驚いたことに、マリエルは白い目で見られていたのだ。

彼女は王女であり、転校してきた時から、特別な扱いをされてきた。
学園のカースト最上位いるお姫様マリエルに、まさかの異変が起きている。

原因はいったい何だ?
もう少し調べてみる。

「私たちも今まで、気を使って損をしましたわ……」

「そうよね……でも、これからマリエル姫も、お終いね……」

明らかに令嬢たちは、マリエルのことを陰で軽んじている。
つい先日まで持ち上げていたのに、すごい手のひらの返しようだ。

「可哀想に……あの“失墜の剣姫”さん……」

「そうね……あの“失墜の剣姫”は……」

そして令嬢たちが口にしているのは、聞きなれない呼び名。
“失墜の剣姫”という明らかにさげすんだ俗称だ。

(“失墜の剣姫”……だと。さっきの観客席でも聞こえたけど、どういう意味だ?)

耳慣れない言葉だが、間違いなくマリエルの対する悪口だ。

「マリエルたん……アイツ等……」

その時であった。
談笑していたミーケの顔が、急に曇る。

獣人族は聴覚も優秀。
自分の隣にいる友人に向けられている、負の視線の気が付いたのだ。

「大丈夫です、ミーケ。気にしないでも」

一方でマリエルは気にしていない。

いや、彼女は最初から、気が付いていたのだ。
控え室に戻ってきた時から。

最初から分かって、気にしなようにしているのだ。

「でも、マリエルたん、アイツ等、悪口を……」

「そうですね。ここまで広まってしまったら、二人だけには、事情を話さないと。ハリト様、ミーケ、少しだけお話があります。お時間、少しよろしいですか?」

マリエルは神妙な顔で訊ねてきた。
話の内容は十中八九、今の噂話についてであろう。

「ああ、大丈夫だ。二回戦までの時間も余裕がある。誰もいない、建物の裏で話を聞こう」

「もちろんミーも大丈夫ニャン」

マリエルの顔は今になく真剣だった。
仲間として、話を聞いてやらない訳にはいかない。

でも話とは、いったいどんな内容なんだろう……。
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