世界ランク1位の冒険者、初心者パーティーに紛れ込み、辺境で第二の人生を満喫する

ハーーナ殿下

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第11話:試射会

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試作のクロスボウを作り、老鍛冶師バルドンに量産を依頼。
たった一日で二十丁も量産。しかも専用の矢まで四百本ほど用意されていた。

「ほほう。本当に一日で完成させたのか、バルドン」

「当たり前じゃ。ドワーフ族は人族とは違って、ウソは言わぬ」
 
皮肉を言いながらも、バルドンは嬉しそうにしていた。
久しぶりの武器作りに、職人魂に火が点いていたのであろう。
最初に会った時の負の表情は、もはたどこにもない。

クロスボウの完成品を手に取って、オレは動作を確認していく。
数も揃えつつ見事な完成度。《鉄の全てを知る者》の名は伊達ではなかった。

「ん? 試作品よりも、一回り小型化したのか?」

「ああ、そうじゃ。これを使うのはガキ共なんじゃろ? 力加減も調整しておいたぞ」

「ほほう。助かった」

 バルドンは腕利き職人であると同時に、賢い男であった。
オレが依頼した先を理解して、カスタマイズして子ども用に量産してくれたのだ。

「小型化して、威力はどうなった?」

「試作品とほぼ同等じゃ。森の獣程度なら問題ない」

「そうか」

 今回のクロスボウ量産の目的は、主に食料となる獣を狩るため。
バルドンはサイズを小さくすることにより、村の子どもでも軽く使えるように改造しれくれたのだ。

うむ、全て動作は良好。
さて、連れてきた村の子どもたちで、試射会を行おう。
全員を集めて説明をしていく。

「お前たちも見て気が付いていると思いが、これはいしゆみの一種でクロスボウという。使うのはお前たち子ども衆。目的は森の獣を狩って、食料を得ることだ」

子どもの相手はあまり得意ではない。
怖がらせないように、なるべく丁寧な口調で説明していく。

「えっ⁉ ボクたちが獣を⁉」
「狩りの練習はしたことはあるけど、今の森は怖いよ……」
「そうだよ……ボクも父ちゃんが魔獣に、食い殺されたんだよ……」

案の定、子どもたちの数人は怖がっている。
リーダー格のラインと、数人の男子は大丈夫そう。
だが、大多数の子どもは半信半疑で、怖がっている。

「たしかに獣や魔獣は危険だ。だが“牙”さえあれば、人の方が何倍も強い。それを今から証明してやる。おい、ライン。これを、あの的に向かって発射してみろ」

「えっ、ボクが?」

「ああ、当たらなくてもいい。この引き金を引くだけだ」

リーダー格のラインに、クロスボウを渡して説明する。
射る先は用意していた鉄の板。
最初なので、あまり遠くない距離の場所に設置する。

「よし、撃ってみろ」
「うん、ザガン兄ちゃん!」

 狙いをつけてラインは、引き金を引く。

ビュン、ザシュッ!

クロスボウから弾丸のように放たれた矢が、見事に命中。
鉄の板を簡単に貫通した。

「「「おお!」」」

子どもたちから歓声が上がる。
金属板をこんなに簡単に、貫通できると思っていなかったのであろう。

「よし、次はお前だ」

「えっ? ボク? でもボクは力がないから……」

「大丈夫だ。こうやって、引いて、次を装填するだけだ」

次は子どもの中でも一番小柄な少年に、クロスボウを引かせてみせる。
この子ができたなら、他の全員が使えるという訳だ。

「えっ、ボクでも出来た⁉」

「よし、あの的を狙ってみろ」

「うん……よし!」

 小柄な少年は一人で無事に、弦を引くことができた。
続けて構えてトリガーを引くと、凄まじい勢いで矢が発射される。

ビュン、ザシュッ!

金属板の的に、今度も見事に命中。
今度も貫通する。

「「「おお!」」」
「本当に、穴が空いちゃったよ!」
 
子どもたちから歓声があがる。先ほどと違い表情も明るい。
どこの世界でも子ども達は、こうした危険な実験が大好きなのであろう。

「さて、的を多めに設置して、練習していくぞ。次に撃ちたい者はいるか?」
「「「はーーい!」」」

全員が手を上げて名乗り出る。我先にオレの所に群がってくる。

「ああ、分かった。交代で試射をしていく。ただし矢の先は絶対に人に向けるな。こうやって扱う。分かったか?」

「「「うん!」」」

それから子どもによる、クロスボウの大試射会が開幕。
二十台の量産品を、全員で交代に扱っていく。

上手い者には声をかけて、同じ位のグループに分けていく。
あまり上手くない者は、コツを教えてやる。
本人が納得するまで、何度でも教えていった。

「「「おお!」」」

その内に子どもは全員、コツを掴み始める。
オレのアドバイスが無くても、次々と的に命中させていく。

さて、これなら少しくらい放っておいても大丈夫だろう。
子どもは無理に教えつけない方が、才能が伸びていくのかもしれない。

「ふん。大したもんじゃな! まさか、こんなガキ共でも、こうも簡単に扱えるとは」

老鍛冶師バルドンが話かけてきた。感心しながら子どもたちを見つめている。

「これもアンタが使いやすいように、改造してくれたお蔭だ。感謝する」
「ふん。お前の試作品が凄すぎたから、ワシも年甲斐もなく張り切ったのじゃ」

「そうか。この威力なら剛毛の獣に対しても、十分に威力を発揮しそうだな。あと矢も獣用に特別製なんだろう?」
「ふん。そうじゃ。適当に加工しておいた」

 バルドンガは簡単そうに言っているが、この職人の腕はやはり凄い。
 野生の獣の剛毛と脂肪は、見た以上に分厚く頑丈で厄介だ。
だが、このクロスボウなら楽々に貫通できる威力があり、しかも量産に向いているのだ。

「それにしても随分と矢の装填そうてんが早いな」
「うむ、そこもちょっと仕掛けをしておいたぞ」

「仕掛けだと?」
「歯車の部分を改良したのじゃ」

 バルドンの言葉を受けて、量産品クロスボウを手に取る。
なるほど。確かに弓を引く歯車の部分が、オレの渡した見本と微妙に違っていた。

(何だ、この歯車は? あり得ない方向にかみ合って、連結しているのか)

 パッと見でその原理を、何となく理解はできる。
 だが歯車の金属加工が見たこともない技術により、繊細かつ大胆だ。

「たいしたものだな、この歯車の構造は」

「ふむ、不愛想なオヌシでも、さすがに驚いたか」

「ああ、そうだな。予想以上だ」

 オレの本職は冒険者。滅多なことでは他人を褒めない性分だが、優れた者に対しては勝算を惜しまない。

「ちなみに、この歯車を模作できる者は、ドワーフ族でも他にはいるのか?」

「ん? 戦争に悪用されるのを、心配しておるのか?」

「ああ、そうだが。これほどの完成度。野心家の手に渡って、大量生産された戦の常識が変わる」

 これほどの高威力で連射性能のクロスボウが、悪用されるのは防ぎたかった。
あくまでも村を生かし守るために使いたいのだ。

「ふん。安心しろ。歯車の分は、ワシの独自の技じゃ。大陸最高峰の鍛冶師でも作れん。あとお前のくれた特殊な素材がないと、生産自体が不可能じゃ」

 心配を予見していたバルドンは、ニカッと笑みを浮かべて説明してくる。
 形は同じに模作できても、数回使っただけで壊れる特殊な仕組みなのだと。
これで戦争に悪用されるのは、防げるという訳だ。

「なるほど、そうか。それなら次の仕事を頼む。長弓を二個ほど作ってくれ」

「随分と人使いの荒い小僧じゃのう。だが二個ということは、お前と誰かが使うのじゃ?」

「いや、オレは自分の長弓があるから不要。使うのはリンシアと、あそこのライトいう少年だ」

「リンシア嬢ちゃんと、あの小僧じゃと? だが、どうしてじゃ? クロスボウがあれば、長弓など不要だろう?」

「いや、あの二人は天性の弓の才能がある。長弓を鍛えていけば、将来的に面白いことになるかもしれない」

先ほどからの試射会を見ていた、判明した。
リンシアとライトは弓を射る才能に、格段に優れていく。
長い目で見て、あの二人は専門の弓士に鍛えたいだの。

「ふむ。そんなもんかのう? 同じように見えるがのう?」
「今はな。【天弓】の称号を知っているか?」

「ああ、もちろんじゃ。ワシを誰だと思っておるのじゃ! かつては大陸最高峰の武器職人と呼ばれた男じゃぞ! 数代までの【天弓】持ちの女弓士にも、長弓を作ったこともあるのじゃぞ!」

「そうか。それなら話は早い。先代の【天弓ゼノス】はこの村の出身で、リンシアに実の兄。ライトの従兄弟にあたる」

「なっ……バカな⁉ あの家出ゼノスが……【天弓】の称号を⁉ おお、そうじゃったのか! あの暴れん坊が、そこまで出世しておったのか!」

まるで自分の孫のことのように、バルドンは喜ぶ。
恐らくゼノスが村にいた時から、何かと目をかけていたのだろう。

「ゼノスは今どこにおるのじゃ⁉ 高ランカーじゃから、王都でも大邸宅を構えて優雅に暮らしているのか?」

「いや、ヤツは少し前に死んだ。王国を守るために名誉の負傷。そのまま息を引き取った。立派な最期だった」

天弓ゼノスは王国を守るために、その身を犠牲にした。
オレは別の依頼で、駆け付けるのが遅れてしまったのだ。

「そ、そうじゃったのか……くそっ。どうして、この世の中は理不尽なのじゃ……才能ある良い奴から先に死んで、ワシのような老いぼれが……」

「そう、落ち込むな、バルドン。ゼノスの才能は、あの二人が受け継ぐだろう。だから長弓の製作を頼む。期限は明日までだ」

「なっ、明日までじゃと⁉ ワシは昨夜、徹夜じゃったぞ⁉ 殺す気か、オヌシは⁉」

「不屈のドワーフ職人でも、出来ないのか? それなら日は伸ばすが」

「ふん! ワシを誰だと思っておるのじゃ! 三日三晩徹夜でも、何ともない鉄の男じゃぞ! 黙って待っておれ!」

そうブツブツ言い残し、バルドンは工房に戻っていく。
だがその背中は頼もしい。
この分だと長弓の製作も任せても大丈夫だろう。お蔭でオレは次の仕事に取りかかれる。

「よし、試射はそこまでだ。これから森に行くぞ。獣の狩り方を教えてやる。成功したら肉が食えるぞ」

「「「おおー!」」」

 肉と聞いて、子どもたちの目の色が変わる。
全員が一斉に準備に取りかかる。

最初の怯えていた面影は、もはやどこにもない。
誰もが牙を手に入れて、明るい希望に満ちあふれていた。

準備を終えてから、軽く狩りの方法を教えてやる。
道具も準備して、あとは実戦を積んでいけだ。

「よし、いくぞ」

こうしてオレは子ども衆を率いて、危険な森の中に入っていくのであった。
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