独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

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第32話:ハルク式荷馬車《改》

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ハメルーンの街の城壁は、陥落寸前だった。
ボクは“ハルク式荷馬車チャリオット《改》”を操縦しながら、ミカエル軍の本陣へ突撃していく。

ミカエル軍の大軍が、目の前に迫ってくる。

「それじゃ、速度をギア2に落とすよ!」

運転席の御者台にいたボクは、すかさず左手のシフトを操作。
高速移動のギア5から、戦闘速度のギア2へとシフトチェンジする。

「よし、サラ。上げるよ!」
「はい、お願いします」

ボクは手元のスイッチを押す。
中型ミスリル・モーターと歯車の連動によって、サラの乗った台座が上に上がっていく。

荷馬車の屋根の上に飛び出て、動きは止まる。
周囲をミスリル・ガラスに覆われた、円柱の砲座だ。

「サラ、説明したとおり、目標に向けて真ん中の十字マークをセット。手元の引き金を引くだけだから。とりあえず練習がてら、一発目、盛大に頼むよ!」

「では、いきます。ポーション弾、発射!」

キュイーーン!

サラが引き金を引いた直後、台座の小型ミスリル・モーターが高速回転。

ドーーン!

詰め込んでいたポーション弾は、高速で発射される。

ヒューーーン、パーーン!

ミカエル軍の本陣の空中で、ポーション弾は爆散。
周囲にポーションの成分が、飛散していく。

バタ! バタ! バタ! バタ! バタ! バタ!

直後、周囲のミカエル兵が、バタバタと倒れていく。
ポーションの効果を受けて、深い睡眠状態に陥ったのだ。

「ナイス射撃、サラ! よし、少し迂回するから、第二射の準備を。ドルトンさん、ポーション弾の補充をお願いします!」

「ああ、任せておけ。それにしても凄まじい威力だな、ハルクの作ったこの戦車は!」

ドワーフ職人のドルトンが口にするように、今回はハルク式荷馬車チャリオット《改》を“戦車”に改造していた。

パッと見の外見は前と同じ、“馬がいないほろ付きの荷馬車”
でもここ数日の突貫作業で、色々と機能を追加していた。

一番の改造点は、サラが座っている砲座部分を設置したこと。
戦闘モードに移行することで、砲座が屋根の上にリフトアップ。
細い砲身をもった戦車となるのだ。

砲身から発射されるのはポーション弾。
中にはサラ特製の非殺傷系のポーションが込められている。

砲手が引き金を引くことによって、砲座部分の小型ミスリル・モーターによって高速発射。
対象にポーションの効果を与えることが可能なのだ。

先ほどのサラが発射したのは、【睡眠】の効果があるポーション。
吸い込んだ者を、眠らせてしまう攻撃だ。

「いやー、それにしてもサラの睡眠ポーションの効果は凄いね! 今での二十人は戦闘不能にしたんじゃない?」

「い、いえ、私の睡眠ポーションでは、せいぜい一人しか眠らせることは出来ません。しかも、あんな昏睡状態に出来たのは、全てハルク君の抽出器改造のお蔭です」

「えっ? どういう意味だろう」

「おい、ハルク。次の弾の準備は終わったぞ!」

「了解です。いま、車体を安定させます!」

ちなみにポーション弾の補充は手動。
荷台部分に乗っているドルトンさんが、手作業でポーションを用意していく。

本当は補充も半自動に出来そうだったけど、今回は時間がないので手動にしてある。

・今回の搭乗員は、車輌を指揮する車長と操縦手がボク。(先頭の御者台)

・主砲を照準し射撃を行う砲手がサラ。(屋根の上の砲座)

・砲弾の装填を行う装填手がドルトンさん。(荷台)

この三名で分担して行っている。
車体が走行中も、中はあまり揺れないように改造もしていた。
だからサラとドルトンさんも、作業に集中できるのだ。

「む? おい、ハルク。横から軽騎兵が突撃してくるぞ!」

荷台のドルトンさんが、敵の接近に気がつく。

“ハルク式荷馬車チャリオット《改》”は各所にミスリル・ガラスを取り付けて、視認性も向上させていた。
全員の周囲の死角を、無くしていたのだ。

「よし、それじゃ、サラ。次は左、頼むよ!」

「はい、いきます。ポーション弾、発射!」

キュイーーン、ドーーン!

サラが引き金を引いた直後、小型ミスリル・モーターによって、ポーション弾が高速で発射される。

ヒューーーン、パーーン!

ミカエル軽騎兵の目の前で、ポーション弾は爆散。
周囲にポーションの成分が飛散していく。

「うわぁ⁉ なんだ、これは⁉」
「目が焼けるようだ!」
「喉も! 息が⁉」
「おえぇえええ!」

直後、ミカエル騎兵がバタバタと倒れていく。
ポーションの効果を受けて、戦闘不能状態に陥ったのだ。

「む? なんだ、あれは? 何のポーションじゃ、ハルク?」

「あれは“催涙ポーション弾”です」

“催涙ポーション”はボクが材料を渡して、更にサラに作ってもらったオリジナル品。

人の粘膜に作用して強い刺激を生じ、咳やくしゃみ、涙、嘔吐などの症状を発症。
相手の行動を阻害するポーションで、半日は戦闘不能になる効果がある。

材料は鉱山時代にいた、厄介な害虫を退治して得たモノ。成分をボクが収納で保管。
今回はそれをサラにポーションとして調合してもらったのだ。

「な……“催涙ポーション弾”じゃと⁉ まったく、とんでもない物を考えるもんじゃのう、オヌシは」

「はっはっは……今回は非殺傷が目的なので、色々と頭を使いました」

ボクはミスリル軍を皆殺しにきたのではない。
あくまで無益な戦を回避してもらうために、相手を戦闘不能にしたいのだ。

「ハルク君、前後を挟まれます。あと、弓矢部隊がきます!」

見晴らしの良い、砲座部分のサラから報告がはいる。
どうやらミカエル軍の本陣に、深く入りすぎたらしい。
周囲は敵だらけの状況なのだ。

「大丈夫、サラ。そのまま攻撃を続行して。ドルトンさんは随時、弾の補充をお願いします!」

だが今は退く訳にいかない。
“ハルク式荷馬車チャリオット《改》”の機動力をもってすれば、離脱は容易。

でも、そうしたらハメルーンの街に、また敵が押し寄せてしまう。
ボクたちは囮となり、一人でも多くのミカエル兵を引きつけ、戦闘不能する必要があるのだ。

「いきます。ポーション弾、発射!」

キュイーーン、ドーーン!

サラとドルトンさんの連携で、ポーション弾を連続発射していく。
砲座部分はサラの両足のペダルで、左右にモーター転回することが可能。
連続発射によって周囲のミカエル兵は、次々と戦闘不能に陥っていく。

――――そんな時だった。

シュン、シュン! シュン、シュン! シュン、シュン! シュン、シュン! 

周囲のミカエル兵から、無数の矢と“投げ槍”が放たれる。
放物線を描いで、ボクたちに襲いかかる。

「ハルク君⁉」
「大丈夫だ、サラ!」

だが矢はボクたちには届かなかった。

カン、カン、カン、カン、カン、カン!

荷馬車の幌とミスリル・ガラスによって、攻撃は弾かれていったのだ。

「ふん。今の攻撃で無傷か。防御力も反則級じゃのう、オヌシの作った荷馬車は」

「搭乗員の安全第一ですからね。たぶん、矢や投げ槍程度なら大丈夫なはずです」

“ハルク式荷馬車チャリオット《改》”は総ミスリル製の荷馬車。
幌を含めて周囲の防御力は高い。

ボクの座る御者台とサラの砲座の周囲は、ミスリル・ガラスで被われている。
そのため“多少の攻撃”には耐えられる計算なのだ。

「よし、このまま敵の本陣を突っ切っていくよ。攻撃の方は頼みます、サラ、ドルトンさん!」

今回の相手はあまりにも多勢。
それに対してボクたちは、一台の荷馬車でしかない。

だから主な目的は突撃突破による、相手への“かく乱”攻撃。
突撃と離脱を何度も繰り返すことで、相手の戦力を削っていくのだ。

「いきます。ポーション弾、発射!」

キュイーーン、ドーーン! キュイーーン、ドーーン! キュイーーン、ドーーン!

サラとドルトンさんの連携で、ポーション弾を連続発射。
周囲のミカエル兵を、次々と戦闘不能にしていく。

相手の攻撃は、今のところ完璧に防御している。
このまま順調にいけば、何とかなるかもしれない。

――――だが、その時だった。

「ハルク君。ハメルーンの街の方から、何か接近してきます!」

「ん? あれは……」

こっちに突撃してくるのは、完全武装の騎士団。
虹色に輝く甲冑と武器を装備した、荒くれ者の集団だった。

「あれはミスリル武具の騎士団……ボクの製造した……」

こうして危険なミスリル武具の騎士団と、“ハルク式荷馬車チャリオット《改》”との戦いが幕を開けるのであった。
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