独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

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第41話:新たなる旅立ち (1章:最終話)

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使節団の話を聞いてから、数日が経つ。
マリエルがハメルーンを出発する当日になる。

ちょうど今、ハメルーン城の中庭では、出発式が行われていた。
友人枠で招待を受けて、ボクとサラも参列している。

「それではハルク様、サラ……いってきます。必ず戻ってくるので、その時はお茶会の続きを、是非とも」

「はい、マリエル様。絶対に約束ですよ!」
「マリエル、気をつけてね!」

いよいよマリエルの乗った馬車の、出発の時間となる。
真剣な表情のマリエルを、ボクたちは見送る。

馬車はゆっくりと動き出す。ハメルーン城の正門を出て、街の大通り進んでいく。
そのまま街の東の門から出て、ミカエル王都への街道を進んでいくのだ。

「よし、サラ。ボクたちも行くよ!」
「はい、ハルク君!」

タイミングを見計らって、二人で城の正門から出ていく。
向かう先は下町にあるドルトン工房だ。

急ぎ足で工房に到着。
工房の奥の倉庫にいくと、ドワーフ職人のドルトンさんが待っていた。

「ふむ、その様子だと、お姫さんは出発したのか?」

「はい、先ほど。これかボクとサラも後を追いかけます!」

工房に来たのは、倉庫に置いておいた《ハルク式荷馬車チャリオット《改》》に乗り込むため。

数日前から倉庫で、更なる改造を加えていた。王都に行っても使いやすいように、色々とバージョンアップしていたのだ。

「そうか。やはりサラの嬢ちゃんも一緒か。よく頑固者のマーズナルが、旅の許可をしたのう?」

「なんとか説得してみました。お蔭で山のような宿題は出ましたが」

マーズナルはサラのお婆ちゃん。孫娘サラが王都へ旅立つ話には、最初はかなり反対された。
けど最後はサラの熱意が通じて、マーズナルお婆ちゃんも折れてくれたのだ。

サラの勉強道具とポーション抽出機器一式は、全てボクの収納に入れてある。
王都に到着したら出す予定だ。

「そうか、あのマーズナルを説得できたのか。可愛い顔をして嬢ちゃんも似て、頑固という訳か」

ドルトンさんと魔術師マーズナルさんは、何やら昔からの知り合いらしい。
懐かしそうにサラの顔を見ている。

あと、これから出発するボクたちのことを、少し羨ましそうに見ていた。
あれ? もしかして、ドルトンさんも?

よし、聞いてみよう。

「もしかしてドルトンさんも、王都に行きたいんですか?」

「そうじゃのう。王都には知り合いの鍛冶師もおる。懐かしい思い出の場所じゃ」

「そうだったんですか。それなら一緒に行きませんか、ボクたちと?」

思いっきって誘ってみる。
ドルトンさんも一緒に行ったら、きっと実りがある旅になるに違いない。

「ふん。随分と気軽に行ってくれるのう。だがワシには抱えている鍛冶の仕事がある。納期はだいぶ先だが仕事を終わらせるために、工房を離れる訳にはいかんのじゃ」

「なるほどです。あっ! それなら『工房が王都にあったら』ドルトンさんも行けるんですか?」

「ん? 変なことを聞くな。もちろん、王都にこの工房があれば、問題はない」

よし、いいことを聞いたぞ。
ボクは《ハルク式荷馬車チャリオット《改》》を運転して、倉庫から一度外に出す。

「えーと、ドルトンさんも倉庫から出てください」

「ん、こうか? 一体何をするつもりじゃ、ハルク?」

「ちょっと待っていてください……【収納】!」

意識をドルトン工房に向けて、【収納】を発動。

シュイン!

おっ、上手くいった。
ドルトン工房を丸ごと、収納の中にしまうことができたぞ。

跡に残ったのは、何もない更地。
このままだ近所の人に怪しまれるから、看板を立てておこう。

内容は『ドルトン工房は一度解体して、新築準備中です』だ。
よし、これでいいだろう。

「ドルトンさん、お待たせしました! それじゃ、荷馬車に乗ってください!」

ん?
様子がおかしいぞ。

ドルトンさんとサラは更地を見つめながら、固まっている。
目を点にして口を開けて、何かに呆れていた。

いったいどうしたのだろうか?

「い、い、いったい、どうしたのだろう、じゃないぞ、ハルク! ワシの工房は、どこに消えたのじゃ⁉」

「そうです、ハルク君! あの大きな工房はどこに⁉」

あっ、そうか。
二人とも工房がどうなったか理解できないで、固まっていたのか。

これはボクの失敗。
ちゃんと先に説明をしておけばよかったのだ。

「心配しないでください。ドルトン工房は、ボクの【収納】にちゃんと保管してあります。王都に“オススメの場所”があるので、到着したらそこで出します。これでドルトンさんは仕事をしながら、夕方以降には王都観光ができる作戦です! どうですか⁉」

後になってしまったが、今回の作戦を伝えておく。
ボクの【収納】の中は時間が止まっているので、保存状態かなり良い。
建物を収納しても、特に問題はないのだ。

「あ、あんな大きな工房を収納しただと⁉ なぁ、嬢ちゃん。普通の魔術師は、こんな事ができるのか?」

「い、いえ……《大賢者》や《大魔導士》の方でも、これほど綺麗に建物ごとは無理だと思います……」

「やはり、そうか……ふぅ……」
「はい、そうですね……はぁ……」

何やら二人で会話をしながら、呆れ顔でため息をついている。

もしかしてボクは礼儀作法を間違っていたのだろうか。
……『鍛冶師の工房は収納してはいけない!』みたいな、鍛冶ギルドのマナー違反とか?

「いや、気にするな、ハルク。事前に気がつかなかったワシが悪い。慣れてきたと思っていたが、相変わらずじゃのう。さて、嬢ちゃんを追いかけるんじゃろう?」

「あっ、そうでしたね! 早く追いかけないと!」

ハメルーンとミカエル王都の間の街道には、たまに危険な魔物が出没する。
前回のようにマリエルの馬車が、魔物に遭遇したら大変。
道中も遠くから見守ることにしているのだ。

「それじゃ二人とも乗ってください!」

「はい、ハルク君!」

「うむ。行くとするか、ワシも」

三人で《ハルク式荷馬車チャリオット《改》》に乗り込む。
前回のバルドス戦から改造してあるので、前の運転席に三人で座ることが可能。居住性もアップしておいたのだ。

だが戦闘能力は落ちてはいない。
戦闘時は、また砲座をリフトアップして、サラは砲座に。ドルトンさんが荷台の装填手に移動となる。

操縦手は前と同じボク。
よし、まずは動力を起動する。

「ミスリル・モーター、起動!」

キュィ――――ン!

起動スイッチを押すと、荷台の下にあるミスリル・モーターが、高速回転を始める。
モーターの出力も前回の時よりも、少しだけパワーアップしていた。心地よい金属音だ。

「“光学迷彩ミスリル・カモフラージュ”、起動!」

次に起動したのは“光学迷彩ミスリル・カモフラージュ”。
特殊な加工してあるミスリル装甲の光を、屈折をさせて視認性を低くする機能。

これによって《ハルク式荷馬車チャリオット《改》》の姿を、周りの人は目では発見しにくくなるのだ。

「出発するけど、二人とも大丈夫?」
「はい、私はOKです!」
「うむ。ワシもいつでもいいぞ」

「それじゃ、いくよ……《ハルク式荷馬車チャリオット《改》》、発進!」

ギアを繋げて、アクセルをゆっくり踏んでいく。
車体は静かな音で、ドルトン工房跡地から出発。

この後は、城壁近くの勾配を利用して、ジャンプして街の外に脱出。
光学迷彩ミスリル・カモフラージュ”で姿を隠しながら、マリエルの馬車の後を付いていく予定だ。

ヒュイ――――ブゥオン!

よし、無事にジャンプして、街の外に出られたぞ。着地もスムーズだ。

衝撃吸収装置は何回もバージョンアップしている。
だからジャンプと着地をしても、乗っている人にはそれほど衝撃は伝わらないのだ。

街の外に出てからは、あまり高速にならないように、東に進んでいく。

「ハメルーンとも、しばらくお別れか……あっ、そうだ。ドルトンさん、サラ、今後ともよろしくお願いします!」

運転しながら、隣の二人に挨拶をする。

「ん? どうしたのじゃ、いきなり改まって?」
「そうですね。何かありましたか、ハルク君?」

「ふと、思ったんです。ボクがこうして普通にしていられるのも、ドルトンさんやサラ……あとハメルーンの多くの人のお陰だな……って。だから、つい言葉が出ちゃいました」

ミカエル王国を追放されたボクを、ハメルーンの人たちは温かく迎えてくれた。
ハメルーンの人たちがいなかったら、今ごろボクがどうなっていたか、想像もできない。
だから感謝の言葉を、まずは近い二人に伝えたのだ。

「それなら私たちの方が『ありがとうございます、ハルク君』ですよ。こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします!」

「嬢ちゃんの言うとおりじゃ。ハメルーンが平和になったのは、オヌシのお蔭だ。だが近いワシらは、かなり心臓に悪いがのう」
「たしかに、ハルク君は規格外すぎて、心臓に悪いですね」

「あっはっはっは……ありがとうございます」

相変わらず褒められているのか、怒られているのか分からないから、笑って答えておく。

でも……この雰囲気は嫌いではない。
お互いに上辺の言葉ではなく、本音で言い合える仲間……みたいな感じなのだ。

「よし! 気分も上がってきたので、少しスピードを上げます。何かに掴まってください、二人とも!」

「お、おい、いきなり加速するな⁉ オヌシと違って、ワシらは普通の身体なんじゃぞ⁉」
「ハ、ハルク君⁉」

こうしてボクらは王都に向かう。

道中や王都で、何が待っているのか、予想もつかない。

また王国を追放されたボクが、ミカエル王都に着いたら、どうなるのか。

そしてマリエルの周囲で、どんな事件が起こるのか。
何も予想もできない。

でも今のボクには怖いモノはなかった。

何故なら今のボクには頼もしい仲間と、冒険者としての少しの経験があるから。
未知の問題にあったとして、怯まずに挑めるのだ!









だが、この時のハルクは知らなかった。

王都で自分を待ち構える、困難の大きさを。

『魔王様。魔神将ベリアルを倒した者の、足取りが掴めました。“占い魔将”の話では「人族のミカエル王国の王都に、その者は姿を現す」ということでした』

『そうか。それなら魔神将……四魔将を向かわせて、調査させろ。見つけたら王都ごと消滅させてもかまわん』

『はっ!』

復活間際の魔王から刺客が、王都に向けて出発したことをハルクは知らなかった!










「今日で、ちょうど“約束の十年目”か。そろそろ王都に、ハルクを迎えにいくぞ」

「族長。その役目はぜひ私に。あのような“デキ損ない”を迎えるのは、私一人で十分です!」

「では任せたぞ。だが油断はするな。十年前はデキ損ないだったが、仮にもハルクは“あの男”の息子だ。今はどう育っているか見当もつかない」

「御意! 我らの一族の名にかけて、ハルクをこの里に連れ帰って参ります!」

ハルクが五歳まで生まれ育った里から、新たな規格外が旅立ったことを!







「んっ? あの“大きめの魔物”……このままだとマリエルの馬車に、遭遇しそうだな? あまり強そうじゃないから退治しよう!」

こうして更に過酷で痛快な第二幕へ、ハルクの冒険は突入していくのであった。
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