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第52話:王女の戦闘服
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《王女マリエル視点》
マリエルは控え室で一人、悲しみにくれていた時だった。
カタッ
背後で小さな音がする。誰もいないはずの控え室で物音がしたのだ。
「……?」
こぼれ落ちそうになっていた涙を、マリエルは抑えながら視線を後ろ向ける。
「えっ……これはいったい?」
そして信じられない物を目にするのであった。
「こ、これはドレス……?」
背後にあったのは一着のパーティードレス。
先ほどまで何もなかった空間に、いきなり虹色のドレスが出現していたのだ。
「どうして、いきなり⁉ でも、凄く綺麗なドレス……こんなに素敵なパーティードレス初めて見た……」
驚きよりも、更に強い感動がマリエルに押し寄せてくる。
何故なら出現したドレスは、見たことがないような光沢を放っていたのだ。
正面から見ると普通の色だが、角度を変えると色んな光沢に変化していく。まるで神話の中の女神の衣のような鮮やかさだった。
「それにデザインが素敵……」
ドレスの光沢は凄いが、可憐なデザインのお蔭で下品になっていない。そして何よりマリエルの雰囲気に、自分の好みに、とてもマッチしたデザインなのだ。
「でも、なぜ、いきなり? いったい誰が?」
感動が落ち着き、マリエルは冷静さを取り戻す。
だが周囲を見渡しても、誰もいない。あるのは等身大の鏡だけだ。
他の入り口は、先ほどまで自分が見えていた。誰も入り口からは侵入できない密室なのだ。
「ん? 手紙? メッセージカードが……」
よく見るとドレスには、メッセージカードが添えられていた。おそるおそる手に取り、マリエルは中を確認する。
――――『親愛なるマリエルへ。よかったら着てください。あなたを応援する者より』
「あっ……この字は……⁉」
メッセージカードをひと目見て、マリエルはハッとなる。この武骨だけど繊細な文字に、見覚えがあったのだ。
「ああ……この字は、間違いない……ハルク様……ありがとうございます……」
誰にも聞かれないように、その名を小さく呟き、マリエルはメッセージカードを胸にギュッと抱きかかえる。
常識的に考えたら、ハメルーンいるその人物が、王都にドレスを持ってこられるはずはない。
だがマリエルには確信があった。
あの優しい人は……自分が慕う英雄は、わざわざ自分のために、このドレスを用意してくれたことを。
そして姿を現せない事情があって、こうして静かに置いていったことを。
「ハルク様……」
屈託のない優しい笑顔の青年の顔を、思い出しマリエルは涙がこぼれ落ちそうになる。
この涙は先ほどの悲しみの涙とは違う。温かい感動の涙であった。
「ハルク様……っ!」
だがマリエルはぐっと涙をこらえる。何故なら今は、歓喜の涙を流している時ではない。
自分はこれからハメルーン王女として、ミカエル貴族令嬢が待ちかまえる戦場に向かう必要がある。
涙を流すのは、全てを成し遂げてからなのだ。
「ハルク様……お力をお借りします」
今着ているドレスを脱いで、マリエルは下着姿になる。そのまま新しいドレスに着替えていく。
「えっ、すごい。一人でも着られた⁉」
ドレスを着て、マリエルは声を上げる。
何故なら普通の令嬢ドレスは、一人で着るのは不可能。侍女たちに手伝ってもらわないと、完璧には着付けができないのだ。
だが、このドレスは違う。
どんな仕組みかは分からないけど、内側の紐を引いてみたら、一人で簡単に着ることができたのだ。
「それに凄く軽い……まるで背中に羽が生えているよう……」
着こなしを確認しながら、マリエルは更に感動する。
普通の令嬢ドレスはかなり重くて、動きにも制限がかかる。
だがこの虹色のパーティードレスは違う。
逆に全身に力がみなぎり、思い通りに身体が動かすことが可能。まるで何かの加護の力があるみたいだ。
「ああ、これもハルク様のお力なのですね。本当にありがとうございます」
マリエルはドレスの胸に両手をあて、想い人に感謝を告げる。その人の顔を思い浮かべているだけで、全身から勇気があふれ出てきた。
「では、いって参ります!」
新しいパーティードレスを着て、マリエルは控え室を飛び出していく。
「マ、マリエル様、そのドレスはいったい⁉」
「説明は後で。では参りますわよ!」
驚く家臣団と侍女を引き連れ、マリエルは颯爽と廊下を突き進んでいく。
これから彼女が向かう先は戦場。
陰湿なミカエル外交官と令嬢が待ちかまえる宴の場。
だが今のマリエルには何も怖いものはない。想い人の頼もしい力を、自分自身に感じていたからだ。
◇
◇
◇
その日、ミカエル王宮の宴で、一つの伝説が作られた。
伝説を作ったのは、ハメルーン国の第三王女マリエル。
彼女が会場に登場して、ミカエル貴族令嬢たちは目を丸くする。
何故なら予想とはまったく違うパーティードレスを、マリエルが着こなしていたからだ。
彼女が着ていたのは、大国ミカエル王国の大貴族ですら持っていない、虹色に輝くパーティードレス。
嘲笑する準備をしていた令嬢たちは、思わず逆に見惚れてしまう。
そして言葉を失い、下を向いしまう。
マリエルの素晴らしいドレスに比べたら、自分たちのドレスがあまりにも貧相に見えてしまうからだ。
その光景を影から見ていたミカエル外交官は、顔を真っ青に染める。
何故ならミカエル令嬢たちに恥をかかせてしまったのは、この男の責任。
あとで彼女たちからどんな酷い仕打ちをされるか、想像もできないのだ。
一方でマリエルは宴で大人気だった。
ミカエル王国の男性貴族たちに、絶大な注目を浴びていたのだ。
男性たちはマリエルの美貌と、ドレスの美しさを褒めたたえる。ミカエル王国内にマリエルのファンが増えていった。
国主催の宴で、ファンを増やすことは重要。今後の外交において、マリエルとハメルーン国は一歩前進したのだ。
「ハルク様……ありがとうございます」
虹色のドレスに手を置きながら、宴の最中のマリエルは終始に渡り笑顔であった。
◇
◇
◇
◇
「よかったマリエル……あんなに嬉しそうで」
そんな宴の様子をボクは、会場の鏡“ミスリル・ミラー”の反対側から見守っていた。笑顔のマリエルを見ているだけで、自分も幸せな気分になるのだ。
「ハルク君、お待たせしました! マリエル様。どうなりましたか⁉」
「おい、小僧、大丈夫じゃったか⁉」
ミスリル・ミラーの隠し通路に、サラとドルトンさんも到着した。
「はい、大丈夫でしたよ。なんとかマリエルにバレずに、《マリエル専用可憐服》を渡しました!」
二人にも王宮での出来ごとを説明していく。
こうして少しバタバタしちゃったけど『マリエルを影ながら助ける作戦』の第一弾は、無事に成功したのであった。
マリエルは控え室で一人、悲しみにくれていた時だった。
カタッ
背後で小さな音がする。誰もいないはずの控え室で物音がしたのだ。
「……?」
こぼれ落ちそうになっていた涙を、マリエルは抑えながら視線を後ろ向ける。
「えっ……これはいったい?」
そして信じられない物を目にするのであった。
「こ、これはドレス……?」
背後にあったのは一着のパーティードレス。
先ほどまで何もなかった空間に、いきなり虹色のドレスが出現していたのだ。
「どうして、いきなり⁉ でも、凄く綺麗なドレス……こんなに素敵なパーティードレス初めて見た……」
驚きよりも、更に強い感動がマリエルに押し寄せてくる。
何故なら出現したドレスは、見たことがないような光沢を放っていたのだ。
正面から見ると普通の色だが、角度を変えると色んな光沢に変化していく。まるで神話の中の女神の衣のような鮮やかさだった。
「それにデザインが素敵……」
ドレスの光沢は凄いが、可憐なデザインのお蔭で下品になっていない。そして何よりマリエルの雰囲気に、自分の好みに、とてもマッチしたデザインなのだ。
「でも、なぜ、いきなり? いったい誰が?」
感動が落ち着き、マリエルは冷静さを取り戻す。
だが周囲を見渡しても、誰もいない。あるのは等身大の鏡だけだ。
他の入り口は、先ほどまで自分が見えていた。誰も入り口からは侵入できない密室なのだ。
「ん? 手紙? メッセージカードが……」
よく見るとドレスには、メッセージカードが添えられていた。おそるおそる手に取り、マリエルは中を確認する。
――――『親愛なるマリエルへ。よかったら着てください。あなたを応援する者より』
「あっ……この字は……⁉」
メッセージカードをひと目見て、マリエルはハッとなる。この武骨だけど繊細な文字に、見覚えがあったのだ。
「ああ……この字は、間違いない……ハルク様……ありがとうございます……」
誰にも聞かれないように、その名を小さく呟き、マリエルはメッセージカードを胸にギュッと抱きかかえる。
常識的に考えたら、ハメルーンいるその人物が、王都にドレスを持ってこられるはずはない。
だがマリエルには確信があった。
あの優しい人は……自分が慕う英雄は、わざわざ自分のために、このドレスを用意してくれたことを。
そして姿を現せない事情があって、こうして静かに置いていったことを。
「ハルク様……」
屈託のない優しい笑顔の青年の顔を、思い出しマリエルは涙がこぼれ落ちそうになる。
この涙は先ほどの悲しみの涙とは違う。温かい感動の涙であった。
「ハルク様……っ!」
だがマリエルはぐっと涙をこらえる。何故なら今は、歓喜の涙を流している時ではない。
自分はこれからハメルーン王女として、ミカエル貴族令嬢が待ちかまえる戦場に向かう必要がある。
涙を流すのは、全てを成し遂げてからなのだ。
「ハルク様……お力をお借りします」
今着ているドレスを脱いで、マリエルは下着姿になる。そのまま新しいドレスに着替えていく。
「えっ、すごい。一人でも着られた⁉」
ドレスを着て、マリエルは声を上げる。
何故なら普通の令嬢ドレスは、一人で着るのは不可能。侍女たちに手伝ってもらわないと、完璧には着付けができないのだ。
だが、このドレスは違う。
どんな仕組みかは分からないけど、内側の紐を引いてみたら、一人で簡単に着ることができたのだ。
「それに凄く軽い……まるで背中に羽が生えているよう……」
着こなしを確認しながら、マリエルは更に感動する。
普通の令嬢ドレスはかなり重くて、動きにも制限がかかる。
だがこの虹色のパーティードレスは違う。
逆に全身に力がみなぎり、思い通りに身体が動かすことが可能。まるで何かの加護の力があるみたいだ。
「ああ、これもハルク様のお力なのですね。本当にありがとうございます」
マリエルはドレスの胸に両手をあて、想い人に感謝を告げる。その人の顔を思い浮かべているだけで、全身から勇気があふれ出てきた。
「では、いって参ります!」
新しいパーティードレスを着て、マリエルは控え室を飛び出していく。
「マ、マリエル様、そのドレスはいったい⁉」
「説明は後で。では参りますわよ!」
驚く家臣団と侍女を引き連れ、マリエルは颯爽と廊下を突き進んでいく。
これから彼女が向かう先は戦場。
陰湿なミカエル外交官と令嬢が待ちかまえる宴の場。
だが今のマリエルには何も怖いものはない。想い人の頼もしい力を、自分自身に感じていたからだ。
◇
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その日、ミカエル王宮の宴で、一つの伝説が作られた。
伝説を作ったのは、ハメルーン国の第三王女マリエル。
彼女が会場に登場して、ミカエル貴族令嬢たちは目を丸くする。
何故なら予想とはまったく違うパーティードレスを、マリエルが着こなしていたからだ。
彼女が着ていたのは、大国ミカエル王国の大貴族ですら持っていない、虹色に輝くパーティードレス。
嘲笑する準備をしていた令嬢たちは、思わず逆に見惚れてしまう。
そして言葉を失い、下を向いしまう。
マリエルの素晴らしいドレスに比べたら、自分たちのドレスがあまりにも貧相に見えてしまうからだ。
その光景を影から見ていたミカエル外交官は、顔を真っ青に染める。
何故ならミカエル令嬢たちに恥をかかせてしまったのは、この男の責任。
あとで彼女たちからどんな酷い仕打ちをされるか、想像もできないのだ。
一方でマリエルは宴で大人気だった。
ミカエル王国の男性貴族たちに、絶大な注目を浴びていたのだ。
男性たちはマリエルの美貌と、ドレスの美しさを褒めたたえる。ミカエル王国内にマリエルのファンが増えていった。
国主催の宴で、ファンを増やすことは重要。今後の外交において、マリエルとハメルーン国は一歩前進したのだ。
「ハルク様……ありがとうございます」
虹色のドレスに手を置きながら、宴の最中のマリエルは終始に渡り笑顔であった。
◇
◇
◇
◇
「よかったマリエル……あんなに嬉しそうで」
そんな宴の様子をボクは、会場の鏡“ミスリル・ミラー”の反対側から見守っていた。笑顔のマリエルを見ているだけで、自分も幸せな気分になるのだ。
「ハルク君、お待たせしました! マリエル様。どうなりましたか⁉」
「おい、小僧、大丈夫じゃったか⁉」
ミスリル・ミラーの隠し通路に、サラとドルトンさんも到着した。
「はい、大丈夫でしたよ。なんとかマリエルにバレずに、《マリエル専用可憐服》を渡しました!」
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※小説家になろうにも掲載しています。
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