独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

文字の大きさ
22 / 46

第53話:買い出し

しおりを挟む
パーティードレスの危機を、なんとか乗り切ることができた。
マリエルは昨夜の宴で終始笑顔。ミカエルの貴族からも大人気で、そのまま宿泊の屋敷に戻っていった。



宴の翌日の朝になる。

「さて、今日のマリエルのスケジュールは……屋敷にいるみたいだから、護衛は大丈夫かな」

ボクは自分の屋敷で、朝食を終えたところ。朝食会場の廊下で、今日のスケジュールを思い出す。

昨日のミスリル・ミラー越しに、マリエルの王都滞在中のスケジュールは調査していた。それによると、今日のマリエルは護衛がいらない一日となる。
つまりボクたち三人も今日一日は、自由時間となる。

「ふむ。それならワシは工房で、自分の仕事をしてくるぞ」

ドワーフのドルトンさんは朝食後、庭の工房へと向かう。
ハメルーンの顧客から請け負っていた鍛冶の仕事を、王都滞在中もコツコツと進めていくのだ。

「サラも今日は勉強を?」

同じく直食後のサラに、今日の予定を尋ねてみる。
彼女が祖母から、多くの魔術の宿題を出されていた。時間がある時は、庭の魔道工房で勉強する予定なのだ。

「いえ、ハルク君。今日は魔道具の買い出しに、行こうかと思います」

「魔道具の買い出し?」

「はい。自分の研究用と、あと祖母から頼まれていた買い物があるので」

王都は大陸の中でも、かなり大きな都市。ハメルーンにない素材も、王都の大きな魔術専門店には売っているという。

「魔道具の買い出しか……あっ! よかったら、ボクも付き合っていい?」

「はい、もちろん。この店なんですが……場所、分かりますか?」

サラが出したのは、店名が書いてある紙。祖母マーズナルさんから聞いてきた、魔道具の専門店の名だという。

「うーん、ごめん。王都の店のことは、本当に分からないんだ」

王都には十年間住んでいたが、常に城の地下に鉱脈にいた。だから街の店のことは、全く知らない。
その代わり王都の地下の資質のことなら、隅々まで知っている。でも今は役に立たない知識だ。

「そうですか。それは困りましたね」

もちろん王都に初めて来たサラも、地理にはうとい。
もしかしたらドルトンさんなら知っているかもしれないが、今は工房に籠っている。さすがに仕事中に、道案内を頼むのは失礼というものだ。

――――そんな風に食堂前の廊下で、二人で困っていた時だった。

「おそれいります、ハルク様。よろしかったら、わたくしがご案内いたしましょうか?」

声をかけてきたのは、二十代半ばくらいのオールバックの青年……執事のセバスさんだ。
職務として魔道具店まで、道案内してくれるという。せっかくなので好意に甘えることにした。

「有りがたいです。よろしくお願いします!」

「かしこまりました。馬車を正面に用意いたします」
「えっ、馬車があるんですか?」
「はい。ルインズ様から承っております」

ルインズ様は先々代のミカエル国王。
セバスさんの本当の主であり、この屋敷の元の持ち主で、ボクが幼い時にお世話になった人だ。

なんでもボク専用の馬車を、昨日の内に用意。屋敷と同じく馬車もボクの名義だという。

「分かりました。それならお願いします。でも、できれば店から離れた所で、馬車から降ろしてもらえると助かります」

「かしこまりました。ですが、今後のために理由を聞いてもよろしいですか、ハルク様?」

「いやー、ボクは一介の駆け出し冒険者で鍛冶師なので、馬車なんて不相応な乗り物は、少し恥ずかしいんです。だから近くまで送ってくれたら、後は自分の足で歩いていきます!」

専用の馬車を使うのは、王族や上級貴族、大商人くらいなもの。ボクのような存在が使うべきではないのだ。
あと少し歩いて王都の街並みも見たい、という個人的な希望もあった。

「……かしこまりました。今後も肝に命じておきます。では馬車の準備ができましたので、こちらにどうぞ、ハルク様。サラ様」

セバスさんの案内で、用意された馬車に乗り込む。
乗ってみて驚いたけど、凄く豪華な馬車だった。
四頭の馬に引かれる大きな車体。外観には装飾品で豪華に飾られて、何かの家紋もあった。

馬車の中は高級ソファみたい座席で、テーブルや調度品も置かれている。
セバスさんの説明だと声をかけたら、飲み物や軽食も用意してくれるという。まるで貴族の応接間のようなリッチな馬車だった。

「す、凄いですね、ハルク君。ここだけの話、マリエル様の馬車よりも豪華ですね……」

「う、うん、そうだね。そして落ち着かないね」

サラと緊張しながら、馬車に揺れられていく。馬車には貴重なガラス小窓も付いており、外の景色を楽しむこともできた。
王都の大通りを進んでいくと、通行人が声を上げていた。

……「あら! あの豪華な馬車は一体、誰が乗っているのかしら?」
……「あの豪華さは王族や公爵クラスですわ、きっと……」
……「でも見たことがない家紋。もしかしたら他国の王族が乗っているのかしら?」
……「あんなリッチな場馬車に乗れる暮らし、憧れちゃうわね……」

そんな感じで通行人は、称賛と憧れの声を上げていた。
やはり王都の中でも、この馬車の豪華さは別格なのだろう。とにかく目立つ馬車なのだ。

「うっ……なんか、申し訳というか、恥ずかしいな……」

そんな称賛と憧れの声を聞きながら、ボクは肩身が狭くなる。
何故なら中に乗っているのは、一介の駆け出しの冒険者。月の十五万ペリカを稼ぐのも、ギリギリな庶民なのだ。

こんな豪華な馬車に乗っているのも、ルインズ様の温情があったから。かなり恥ずかしい。

「……ハルク様、お待たせいたしました。目的地の近くに到着しました」

セバスさんの指示で、馬車が停車する。窓の外の雰囲気的に、ひと気のない裏通りだ。

有能なセバスさんが気を効かせて、通行人が少ない場所を選んでくれたのだろう。有りがたい気配りだ。

「良かったら店頭まで、わたくしがご案内いたしますか、ハルク様?」

「えーと、大丈夫です。ここからなら大丈夫です。あと道は覚えたので、帰り二人で歩いて帰ります!」

執事服のセバスさんが同行したら、それこそ注目を浴びてしまう。丁重に辞退して、帰るは歩くと伝える。

「かしこまりました。それではお気をつけて、いってらっしゃいませ、ハルク様、サラ様」

セバスさんに見送られながら、サラと馬車から降りていく。
ボクたちは馬車とは無関係を装いながら、裏通りから大通りに向かう。

「あっ! ハルク君、あの看板……目的の店です」

「あっ、本当だ。うわぁ……それにしても大きな魔道具店だね……」

目的の店は、予想以上の大きさだった。
大通りに面した五階建ての商館。入り口には怖そうな守衛もいて、凄く厳格で高級そうな店だ。

「あんな高級そうな店……大丈夫かな、ボクは」

こうして不安を抱えながら、王都一の魔道具店に向かうのであった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在4巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...