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第65話:情報収集
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ミカエル国王からの婚姻の提案を断ると、マリエルは決断。彼女が窮地に陥らないように、ボクが動き出す。
先日の違和感の正体を暴くために、ニヒクン国王の調査を開始する。
「ヒニクン国王の調査か……まずは、なにからやろうかな?」
屋敷の自室で、慎重に作戦を練っていく。
何しろ相手は大国の君主であり、並大抵の相手ではない。ミカエル城の中でも国王のいる部屋は、警備が厳重でなかなか潜入できないのだ。
一応こっちには秘密の通路と、奥の手《怪盗百面相》もあるが、その前に事前に情報を収集しておきたい。
「ニヒクン国王のことを詳しい人は、誰かいないかな? できれば身近な人で……あっ、そうだ!」
そんな考えていた時、“ある人物”の顔が浮かんできた。あの人はニヒクン国王に近い存在で、たぶんボクに友好的に話をしてくれるだろう。
さっそく、その人物に会うために部屋を出ていく。
「ハルク様、お出かけですか?」
屋敷の玄関で、執事のセバスさんに声をかけられる。
あっ、そうだ。
せっかくだからセバスさんに相談をしてみよう。
「実はルインズ様に面会したいんですが、可能だと思いますか?」
「旦那様に面会を? はい、もちろんです可能です。ハルク様はいつでも面会可能だと、旦那様から言い伝えられていました」
「そうだったんですね! それじゃ、橋渡しをお願いします!」
話を聞きに行こうと思っていた人は、ルインズ様。先々代のミカエル王国の国王で、ヒニクン国王の実の父親である人だ。
あの人なら息子ヒニクン国王のことを、誰よりも知っているに違いない。
「……お待たせしました、ハルク様。ルインズ様がお待ちです」
「ありがとうございます、セバスさん!」
ルインズ様は隣の屋敷に住んでいる。すぐにセバスさんがアポイントメントをとってくれた。
情報を仕入れるために、ボクはルインズ様に会いにいく。
◇
セバスさんの先導で、隣の屋敷に到着。
本来セバスさんはルインズ様の執事。スムーズに応接室に案内してもらう。
「ハルク、待たせたな。会いに来てくれて嬉しいぞ」
やってきたのは初老の貴族風な男性、先々代のミカエル国王ルインズ様だ。
「こちこそ、ありがとうございます。忙しい中に急に来て、申し訳ありません」
「はっはっは……ワシは既に引退した身。むしろ毎日が暇で、飽き飽きしていたところだ」
ルインズ様は引退した身で、王政から身を引いていた。毎日、この屋敷で静かに暮らしているという。
「そういえば、王都での生活はどうだ、ハルク? セバスの話では、毎日のように活発に出かけているようだが?」
セバスさんは本来ルインズ様の専属の執事。半分居候中なボクたちの情報も、ルインズ様に報告しているのだろう。特に気にせずに世間話をする。
「はい、お蔭さまで王都の暮らしを満喫していました。色んな所に行ったり、あとマルキン魔道具という店で買い物もしていました!」
「ほほう、マルキンの店か。あの店は親の代から王家御用達の魔道具店で、ワシも今でもマルキンには世話になっておるぞ」
「えっ、そうだったんですか⁉ すごい偶然ですね!」
魔石を原動力とする魔道具は、今や市民の生活必需品。王家でも照明や家事道具、警備などに魔道具を活用しているのだ。
「はっはっは……人の繋がりは、面白いものだな。ワシとオヌシもようだが。そういえば今日はどのような用件だ? 別に雑談でもワシは構わないが、何か聞きたいことがあるのだろ、その顔だと?」
「あっ、はい。実は現国王……ヒニクン様のことを聞きたいなーと、思いまして」
いよいよ本題に入る。
だがヒニクン国王の名前を口に出してから、失敗した、と思ってしまう。
何故なら今までの話の流れで、ニヒクン国王のことが出てくるのは不自然。何か理由を口にしないと、怪しまれてしまう。
「えーと、王都の市民の暮らしが安定しているから、今の国王様はどんな人なのかなー? と急に思って、それでルインズ様に聞きにきたんです」
なんとか理由をこじつけて口にしてみる。でも口にしてから、また失敗した、と後悔してしまう。
どう聞いても、凄く無理やりな感じで怪しい。しかも訊ねている相手は、王族のルインズ様。下手したら国家転覆罪で捕まるレベルの言い訳だ。
「ふむ、やはりヒニクンのことか。ハルクほどの才人なら、あの者のことを気がつくとは思っていたが、そうか……」
「えっ?」
だがルインズ様は怪しんでこなかった。むしろ予測していたかのように、神妙な表情になる。もしかしたらニヒクン国王には、本当に何かあるのだろうか。
「我が愚息ダラク……先代のミカエル国王がハメルーン国に出兵した時に、この王都でクーデターが起こったことは、ハルクなら知っておるだろう?」
「えーと、はい。街の噂程度には」
実際にはダラク国王が率いていたミカエル軍と、戦っていたのはボクたち三人組。
その戦の間に、王都でクーデターが起きて政権が交代していたのだ。
「クーデターの発起人はララエルという女騎士だ。覚えているか?」
「ララエルさん⁉ はい、もちろんです。ボクも幼い時からお世話になった人です!」
女騎士ララエルさんはボクよりも十歳くらい歳上の人。
ミカエル城でもボクが信頼できる数少ない一人で、昔からお姉さんみたいな人だ。
彼女は弱い立場の市民を、大事にする真面目な騎士。
ダラク国王に追放された後でも、敵国であるハメルーンの市民のことも、心配になって報告に来てくれたのだ。
その後は王都に戻ってクーデターを起こす、と言っていた。そうか、クーデターの先導者はララエルさんだったのか。
「あの時、ララエルを先導者としてクーデターは成功した。だが新しい政権には、王家の血を引く新しい国王が必要。そこで聖堂で十数年間、隠遁していたヒニクンを新国王として立てたのだ」
「聖教会で隠遁していた。そうだったんですね……」
ボクはヒニクン国王の名前は知っていたけど、顔は見たことは無い。
ちょっと疑問だったけど、これで理由が判明した。聖堂で隠遁していたら、王城には一度も来なかったからなのだ。
ララエルさんたちクーデター軍は、王子であるヒニクンを国王に就かせた。お蔭で無駄な血が流されずに、王都の平和は保たれたのだ。
「ヒニクンか……」
「ん? どうかしましたか、ルインズ様?」
無駄な血が流されず、王都に無事に平和が戻った。
だが、そう語るルインズ様の表情が、やけに暗い。
いや……息子ニヒクンのことを語り始めた時から、ずっと表情が重いのだ。
「もしかして、なにかあったんですか、ヒニクン様と?」
「さすがにハルクほどの男に、隠し事は無理だったか。実はニヒクンには大きな問題があるのだ」
「大きな問題ですか?」
「ああ、そうだ。あの息子は……あの男は昔から、怪しげな偶像を好んでいた奇人なのだ」
「えっ……“怪しげな偶像”……ですか?」
「ああ、そうだ。なんの偶像か知らんが、本人は芸術作品だと言って、いつも作っておった。父親として怖い部分もあって、聖教会に修行と称して隔離していたのだ」
なるほど、そういう家庭事情があったのか。
ミカエル王国では聖教会が国教となっている。
個人の宗教は許可されているが、王位継承のある王子が偶像崇拝はまずい。そのため国民に知られないように、閉鎖的な聖教会に押し込んだのだろう。
「だがヒニクンは幼い頃から、頭が切れる奴だった。聖教会の中にいながらも、密かに貴族の中にも、人脈を築いておったのだ。クーデターの直後にも、その人脈を最大限に活用して、家臣団を固めて王座に就いたのだ」
「そうだったんですか……」
たしかに謁見の間で目にしたヒニクン国王は、かなり切れ者な雰囲気だった。
温厚そう見えて会話をしつつ、最後にはマリエルに爆弾を落として牽制もしてきた。かなりの知恵の回る策略家なのかもしれない。
「あと最近ではヒニクンの奴は、城の地下で何かをしようしていたな」
「えっ、城の地下ってミスリス鉱脈ですか⁉」
「ああ、そうだ。怪しげな魔道具を使って、何かを探しているらしい」
ミカエル城の地下深くには、ボクが発見して採掘していたミスリス鉱脈がある。
浅い部分は特に危険はないけど、最深部は魔素も濃くかなり危険。
でも、あんな石と金属の原石しかない価値ない場所で、いったい何を探しているのだろうか。個人的にかなり気になる情報だ。
「なるほどです。ん? そういえばララエルさんは、今は元気なんですかね?」
ふと浮かんだ疑問を口にする。
今の話によれば彼女はクーデターの立役者。だが謁見の間には、彼女の姿はなかった。何となく気になる。
「そういえばララエルの話を、最近は聞かないな。クーデターの時に怪我をして治療中、だと噂もあったが……」
ルインズ様でも知らないという。
怪我をしても、ポーションや治療の魔道具を使えば、回復は早いはず。ララエルさんは、いったいどこにいるのだろう。
「とにかく息子ニヒクンは、なんとも言えない存在。だが今のミカエル王国には他に国を守れる者はいない。だからワシも元国王として、そして父親として心残りで、毎日を過ごしていたのだ……」
全てを話し終えてルインズ様は、悲しい顔になっていた。この人は本当に名君で、当時のミカエル王国も笑顔に溢れていた。
だが長男のダラク国王は私利私欲に走る愚王として、邪竜によって天罰を受けていた。
また次男のヒニクン国王は知恵者だが、怪しい偶像崇拝者。今後になにをしでかすか、恐怖さえある。
立派な跡継ぎを育てられなかったことに、国王として、父親としてルインズ様は後悔をしているのだ。
「ふう……せっかく訊ねてもらったのに、つまらない家族間の話をしてしまったな、ハルク」
「いえ、ボクの方が聞いた話なので。こちらこそありがとうございます」
これ以上はルインズ様から聞くのは酷だろう。ボクは席を立ち、挨拶をして屋敷を後にすることにする。
だが、立ち去る前に、どうしても言いたいことがあった。
「あの……ルインズ様。追放されたボクが言うものなんですが、ミカエル王国は本当に素敵な国です。だから自信をもってください! 最近は少しバタバタしていますが、きっと、これから良い方向になると思います! ボクも微力ながら手伝いできれば、と思っています!」
「おお、ハルク……オヌシほどの男が、そこまで言ってくれるのか……ああ、そうだな。ミカエル王国はこれからだな!」
ボクの言葉を聞いて、なんとかルインズ様の顔が明るくなった。再び挨拶して、自分の屋敷に戻ることにした。
◇
屋敷に戻り自室で一人、再び作戦を練り上げる。
「それにしてもヒニクン国王は偶像崇拝者だったのか……それに地下鉱脈を、怪しげな魔道具で調査しているのか……」
ルインズ様のお蔭で、有益な情報が得られた。だが更に多くの疑惑が浮かんでくる。もしかしたらヒニクン国王の違和感の原因かもしれない。
「よし。久しぶりに地下鉱脈に行ってみるか!」
特に気になるのは地下鉱脈の件。
ミカエル城の地下にあるミスリス鉱脈への潜入に、ボクは挑戦することにした。
先日の違和感の正体を暴くために、ニヒクン国王の調査を開始する。
「ヒニクン国王の調査か……まずは、なにからやろうかな?」
屋敷の自室で、慎重に作戦を練っていく。
何しろ相手は大国の君主であり、並大抵の相手ではない。ミカエル城の中でも国王のいる部屋は、警備が厳重でなかなか潜入できないのだ。
一応こっちには秘密の通路と、奥の手《怪盗百面相》もあるが、その前に事前に情報を収集しておきたい。
「ニヒクン国王のことを詳しい人は、誰かいないかな? できれば身近な人で……あっ、そうだ!」
そんな考えていた時、“ある人物”の顔が浮かんできた。あの人はニヒクン国王に近い存在で、たぶんボクに友好的に話をしてくれるだろう。
さっそく、その人物に会うために部屋を出ていく。
「ハルク様、お出かけですか?」
屋敷の玄関で、執事のセバスさんに声をかけられる。
あっ、そうだ。
せっかくだからセバスさんに相談をしてみよう。
「実はルインズ様に面会したいんですが、可能だと思いますか?」
「旦那様に面会を? はい、もちろんです可能です。ハルク様はいつでも面会可能だと、旦那様から言い伝えられていました」
「そうだったんですね! それじゃ、橋渡しをお願いします!」
話を聞きに行こうと思っていた人は、ルインズ様。先々代のミカエル王国の国王で、ヒニクン国王の実の父親である人だ。
あの人なら息子ヒニクン国王のことを、誰よりも知っているに違いない。
「……お待たせしました、ハルク様。ルインズ様がお待ちです」
「ありがとうございます、セバスさん!」
ルインズ様は隣の屋敷に住んでいる。すぐにセバスさんがアポイントメントをとってくれた。
情報を仕入れるために、ボクはルインズ様に会いにいく。
◇
セバスさんの先導で、隣の屋敷に到着。
本来セバスさんはルインズ様の執事。スムーズに応接室に案内してもらう。
「ハルク、待たせたな。会いに来てくれて嬉しいぞ」
やってきたのは初老の貴族風な男性、先々代のミカエル国王ルインズ様だ。
「こちこそ、ありがとうございます。忙しい中に急に来て、申し訳ありません」
「はっはっは……ワシは既に引退した身。むしろ毎日が暇で、飽き飽きしていたところだ」
ルインズ様は引退した身で、王政から身を引いていた。毎日、この屋敷で静かに暮らしているという。
「そういえば、王都での生活はどうだ、ハルク? セバスの話では、毎日のように活発に出かけているようだが?」
セバスさんは本来ルインズ様の専属の執事。半分居候中なボクたちの情報も、ルインズ様に報告しているのだろう。特に気にせずに世間話をする。
「はい、お蔭さまで王都の暮らしを満喫していました。色んな所に行ったり、あとマルキン魔道具という店で買い物もしていました!」
「ほほう、マルキンの店か。あの店は親の代から王家御用達の魔道具店で、ワシも今でもマルキンには世話になっておるぞ」
「えっ、そうだったんですか⁉ すごい偶然ですね!」
魔石を原動力とする魔道具は、今や市民の生活必需品。王家でも照明や家事道具、警備などに魔道具を活用しているのだ。
「はっはっは……人の繋がりは、面白いものだな。ワシとオヌシもようだが。そういえば今日はどのような用件だ? 別に雑談でもワシは構わないが、何か聞きたいことがあるのだろ、その顔だと?」
「あっ、はい。実は現国王……ヒニクン様のことを聞きたいなーと、思いまして」
いよいよ本題に入る。
だがヒニクン国王の名前を口に出してから、失敗した、と思ってしまう。
何故なら今までの話の流れで、ニヒクン国王のことが出てくるのは不自然。何か理由を口にしないと、怪しまれてしまう。
「えーと、王都の市民の暮らしが安定しているから、今の国王様はどんな人なのかなー? と急に思って、それでルインズ様に聞きにきたんです」
なんとか理由をこじつけて口にしてみる。でも口にしてから、また失敗した、と後悔してしまう。
どう聞いても、凄く無理やりな感じで怪しい。しかも訊ねている相手は、王族のルインズ様。下手したら国家転覆罪で捕まるレベルの言い訳だ。
「ふむ、やはりヒニクンのことか。ハルクほどの才人なら、あの者のことを気がつくとは思っていたが、そうか……」
「えっ?」
だがルインズ様は怪しんでこなかった。むしろ予測していたかのように、神妙な表情になる。もしかしたらニヒクン国王には、本当に何かあるのだろうか。
「我が愚息ダラク……先代のミカエル国王がハメルーン国に出兵した時に、この王都でクーデターが起こったことは、ハルクなら知っておるだろう?」
「えーと、はい。街の噂程度には」
実際にはダラク国王が率いていたミカエル軍と、戦っていたのはボクたち三人組。
その戦の間に、王都でクーデターが起きて政権が交代していたのだ。
「クーデターの発起人はララエルという女騎士だ。覚えているか?」
「ララエルさん⁉ はい、もちろんです。ボクも幼い時からお世話になった人です!」
女騎士ララエルさんはボクよりも十歳くらい歳上の人。
ミカエル城でもボクが信頼できる数少ない一人で、昔からお姉さんみたいな人だ。
彼女は弱い立場の市民を、大事にする真面目な騎士。
ダラク国王に追放された後でも、敵国であるハメルーンの市民のことも、心配になって報告に来てくれたのだ。
その後は王都に戻ってクーデターを起こす、と言っていた。そうか、クーデターの先導者はララエルさんだったのか。
「あの時、ララエルを先導者としてクーデターは成功した。だが新しい政権には、王家の血を引く新しい国王が必要。そこで聖堂で十数年間、隠遁していたヒニクンを新国王として立てたのだ」
「聖教会で隠遁していた。そうだったんですね……」
ボクはヒニクン国王の名前は知っていたけど、顔は見たことは無い。
ちょっと疑問だったけど、これで理由が判明した。聖堂で隠遁していたら、王城には一度も来なかったからなのだ。
ララエルさんたちクーデター軍は、王子であるヒニクンを国王に就かせた。お蔭で無駄な血が流されずに、王都の平和は保たれたのだ。
「ヒニクンか……」
「ん? どうかしましたか、ルインズ様?」
無駄な血が流されず、王都に無事に平和が戻った。
だが、そう語るルインズ様の表情が、やけに暗い。
いや……息子ニヒクンのことを語り始めた時から、ずっと表情が重いのだ。
「もしかして、なにかあったんですか、ヒニクン様と?」
「さすがにハルクほどの男に、隠し事は無理だったか。実はニヒクンには大きな問題があるのだ」
「大きな問題ですか?」
「ああ、そうだ。あの息子は……あの男は昔から、怪しげな偶像を好んでいた奇人なのだ」
「えっ……“怪しげな偶像”……ですか?」
「ああ、そうだ。なんの偶像か知らんが、本人は芸術作品だと言って、いつも作っておった。父親として怖い部分もあって、聖教会に修行と称して隔離していたのだ」
なるほど、そういう家庭事情があったのか。
ミカエル王国では聖教会が国教となっている。
個人の宗教は許可されているが、王位継承のある王子が偶像崇拝はまずい。そのため国民に知られないように、閉鎖的な聖教会に押し込んだのだろう。
「だがヒニクンは幼い頃から、頭が切れる奴だった。聖教会の中にいながらも、密かに貴族の中にも、人脈を築いておったのだ。クーデターの直後にも、その人脈を最大限に活用して、家臣団を固めて王座に就いたのだ」
「そうだったんですか……」
たしかに謁見の間で目にしたヒニクン国王は、かなり切れ者な雰囲気だった。
温厚そう見えて会話をしつつ、最後にはマリエルに爆弾を落として牽制もしてきた。かなりの知恵の回る策略家なのかもしれない。
「あと最近ではヒニクンの奴は、城の地下で何かをしようしていたな」
「えっ、城の地下ってミスリス鉱脈ですか⁉」
「ああ、そうだ。怪しげな魔道具を使って、何かを探しているらしい」
ミカエル城の地下深くには、ボクが発見して採掘していたミスリス鉱脈がある。
浅い部分は特に危険はないけど、最深部は魔素も濃くかなり危険。
でも、あんな石と金属の原石しかない価値ない場所で、いったい何を探しているのだろうか。個人的にかなり気になる情報だ。
「なるほどです。ん? そういえばララエルさんは、今は元気なんですかね?」
ふと浮かんだ疑問を口にする。
今の話によれば彼女はクーデターの立役者。だが謁見の間には、彼女の姿はなかった。何となく気になる。
「そういえばララエルの話を、最近は聞かないな。クーデターの時に怪我をして治療中、だと噂もあったが……」
ルインズ様でも知らないという。
怪我をしても、ポーションや治療の魔道具を使えば、回復は早いはず。ララエルさんは、いったいどこにいるのだろう。
「とにかく息子ニヒクンは、なんとも言えない存在。だが今のミカエル王国には他に国を守れる者はいない。だからワシも元国王として、そして父親として心残りで、毎日を過ごしていたのだ……」
全てを話し終えてルインズ様は、悲しい顔になっていた。この人は本当に名君で、当時のミカエル王国も笑顔に溢れていた。
だが長男のダラク国王は私利私欲に走る愚王として、邪竜によって天罰を受けていた。
また次男のヒニクン国王は知恵者だが、怪しい偶像崇拝者。今後になにをしでかすか、恐怖さえある。
立派な跡継ぎを育てられなかったことに、国王として、父親としてルインズ様は後悔をしているのだ。
「ふう……せっかく訊ねてもらったのに、つまらない家族間の話をしてしまったな、ハルク」
「いえ、ボクの方が聞いた話なので。こちらこそありがとうございます」
これ以上はルインズ様から聞くのは酷だろう。ボクは席を立ち、挨拶をして屋敷を後にすることにする。
だが、立ち去る前に、どうしても言いたいことがあった。
「あの……ルインズ様。追放されたボクが言うものなんですが、ミカエル王国は本当に素敵な国です。だから自信をもってください! 最近は少しバタバタしていますが、きっと、これから良い方向になると思います! ボクも微力ながら手伝いできれば、と思っています!」
「おお、ハルク……オヌシほどの男が、そこまで言ってくれるのか……ああ、そうだな。ミカエル王国はこれからだな!」
ボクの言葉を聞いて、なんとかルインズ様の顔が明るくなった。再び挨拶して、自分の屋敷に戻ることにした。
◇
屋敷に戻り自室で一人、再び作戦を練り上げる。
「それにしてもヒニクン国王は偶像崇拝者だったのか……それに地下鉱脈を、怪しげな魔道具で調査しているのか……」
ルインズ様のお蔭で、有益な情報が得られた。だが更に多くの疑惑が浮かんでくる。もしかしたらヒニクン国王の違和感の原因かもしれない。
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