1 / 41
第1話:無能を自覚して、家出をする。
しおりを挟む
「999……1,000回!」
王都にある大きな屋敷の、中庭。
夕暮れの中、ボクは一人で、剣の素振りに励んでいた。
「ふう……今日はいい感じだったな……」
日課を終えると、何とも言えない高揚感と達成感がある。
「ちょっと、ハリト! 何やってんのよ!」
そんな時、甲高い女性の罵声が庭に響き渡る。
凄まじい剣幕でやってきたのは、三歳上の姉のエルザ。
赤毛で長身の女剣士だ。
「な、何って、日課の剣の稽古だけど、エルザ姉さん?」
「はっ? ハリトが剣の稽古? いつも言っているけど、あんたには剣の才能がないのよ! 無駄って言っているのが、分からないの⁉」
「才能が無い……いや、それは分かっているけど」
エルザ姉の指摘は正しい。
ボクは剣士としての才能が皆無。
幼い時から家族の指導を受けて、毎日のように剣を振るってきた。
だが家族のようには、一向に上達しない。
「男のくせに私から一本も取れないだから、剣の稽古なんて辞めて、他の道を探しなさい!」
「そ、それは、知っているけど……」
姉は剣が得意だ。
ボクは幼い時から一回も勝ったことがない。
細腕な女の人である姉にすら勝てない。
正直なところ自分には、剣の才能がないのだろう。
「おい、二人ともそこで、なに喧嘩しているんだ?」
「あっ、兄さん! 聞いてよ! またハリトが隠れて剣の稽古なんてしていたのよ!」
「何だと⁉ ハリト本当か?」
次にやってきたのは、五歳上の兄のラインハルト。
金髪の長身の魔導士の仕事をしている。
「はい、ライン兄さん、本当です……」
「またか。あとオレの出した魔術の課題はどうした?」
「あっ……ごめんなさい。【第九階位の魔術式】がどうしても解析できなくて……」
「なんだと⁉ あんな簡単な術式も解析できないのか? オレはお前の歳の頃には、とっくに解析していたんだぞ!」
「ご、ごめんなさい、ライン兄……」
兄は魔法が得意だ。
ボクも魔法の勉強は好きだけど、兄には敵わない。
この屋敷からボクは、あまり外に出たことがない。
他の人と比べたことはないが、たぶん自分には魔法の才能もないのだろう。
「おい、庭で何を騒いでいるんだ⁉」
「あっ、父さん! 聞いてください! ハリトの奴が、また隠れて剣との稽古をしていたんですよ。しかも魔法の課題も解けていないのに?」
「何だと? それはいかんな、ハリトよ」
次にやってきたのは父親のバラスト。
金髪の屈強な体格だけど、魔道具の研究の仕事をしている。
「それに私の頼んでおいた、魔道具の改造が済んでなかったぞ、ハリト?」
「は、はい、ごめんなさい。父さん。魔高炉の性能を五段階、上げるのが、どうしても出来なくて……」
「やはり、そうか。あと母さんと約束していた、聖魔法の課題はどうした?」
「うっ……ごめんなさい。そっちも【不死王の浄化術式】に手こずって……」
小さな時から魔法と魔道具の開発、聖魔法も修行も好きだった。
でも才能がないボクは、家族の期待に応えることは出来なかった。
他にもお爺ちゃんの教えてくれる【異世界チート論】や、お婆ちゃんの【まかい術式理論】も同じ。
好きで一生懸命に努力してきたけど、どれも才能が無し。
家族の期待に応えることが出来ずに、全てが中途半端。
なんの特徴もない器用貧乏なまま、明日の十四歳の誕生日を迎えてしまうのだ。
「とりあえず今宵は家族会議を開く。覚悟しておきなさい、ハリト」
「は、はい、分かりました、父さん……」
◇
その日の夕食後は、本当に辛い時間だった。
家族全員から厳しい言葉を、ずっと言われていった。
『お前は私の息子なんだから、もっと出来るはずだ!』
『あなたは私の子なのよ。もっと精進するのよ、ハリト』
『あんたみたいな愚弟がいると、私まで恥ずかしいのよ!』
『ハリトにはもっと魔法の才能があると思っていたんけどな……』
『爺ちゃんが若いことのう、もっと凄かったじゃぞ……』
『そうですね、お爺さん』
とにかく家族全員から厳しい言葉で叱られた。
そしてその夜。
――――ボクの中の何かが“キレて”しまった。
「このままじゃボクは、ダメ駄目なまま人生を終えてしまう。でも、どうすれば? あっ、そうだ! どこか遠い国で、一人で頑張ってみよう……夢見ていた一任前の冒険者になるために!」
こうして翌朝、ボクは家出を決行。
屋敷の地下にあった転移装置で、遠い国へと移動。
装置を破壊して、ボクの移動証拠を完全消去。
これで家族の助けは無くなり、退路も断たれた。
「それにしても、ここが屋敷の外の世界……ボクの知らない世界か。よし、できる限り頑張っていこう!」
とりあえず遠くに見えている、城壁に囲まれた小さな街を目指すことにした。
走って向かっていく。
でも、それにしても、随分とボロボロな城壁だな?
大丈夫かな、あそこは?
王都にある大きな屋敷の、中庭。
夕暮れの中、ボクは一人で、剣の素振りに励んでいた。
「ふう……今日はいい感じだったな……」
日課を終えると、何とも言えない高揚感と達成感がある。
「ちょっと、ハリト! 何やってんのよ!」
そんな時、甲高い女性の罵声が庭に響き渡る。
凄まじい剣幕でやってきたのは、三歳上の姉のエルザ。
赤毛で長身の女剣士だ。
「な、何って、日課の剣の稽古だけど、エルザ姉さん?」
「はっ? ハリトが剣の稽古? いつも言っているけど、あんたには剣の才能がないのよ! 無駄って言っているのが、分からないの⁉」
「才能が無い……いや、それは分かっているけど」
エルザ姉の指摘は正しい。
ボクは剣士としての才能が皆無。
幼い時から家族の指導を受けて、毎日のように剣を振るってきた。
だが家族のようには、一向に上達しない。
「男のくせに私から一本も取れないだから、剣の稽古なんて辞めて、他の道を探しなさい!」
「そ、それは、知っているけど……」
姉は剣が得意だ。
ボクは幼い時から一回も勝ったことがない。
細腕な女の人である姉にすら勝てない。
正直なところ自分には、剣の才能がないのだろう。
「おい、二人ともそこで、なに喧嘩しているんだ?」
「あっ、兄さん! 聞いてよ! またハリトが隠れて剣の稽古なんてしていたのよ!」
「何だと⁉ ハリト本当か?」
次にやってきたのは、五歳上の兄のラインハルト。
金髪の長身の魔導士の仕事をしている。
「はい、ライン兄さん、本当です……」
「またか。あとオレの出した魔術の課題はどうした?」
「あっ……ごめんなさい。【第九階位の魔術式】がどうしても解析できなくて……」
「なんだと⁉ あんな簡単な術式も解析できないのか? オレはお前の歳の頃には、とっくに解析していたんだぞ!」
「ご、ごめんなさい、ライン兄……」
兄は魔法が得意だ。
ボクも魔法の勉強は好きだけど、兄には敵わない。
この屋敷からボクは、あまり外に出たことがない。
他の人と比べたことはないが、たぶん自分には魔法の才能もないのだろう。
「おい、庭で何を騒いでいるんだ⁉」
「あっ、父さん! 聞いてください! ハリトの奴が、また隠れて剣との稽古をしていたんですよ。しかも魔法の課題も解けていないのに?」
「何だと? それはいかんな、ハリトよ」
次にやってきたのは父親のバラスト。
金髪の屈強な体格だけど、魔道具の研究の仕事をしている。
「それに私の頼んでおいた、魔道具の改造が済んでなかったぞ、ハリト?」
「は、はい、ごめんなさい。父さん。魔高炉の性能を五段階、上げるのが、どうしても出来なくて……」
「やはり、そうか。あと母さんと約束していた、聖魔法の課題はどうした?」
「うっ……ごめんなさい。そっちも【不死王の浄化術式】に手こずって……」
小さな時から魔法と魔道具の開発、聖魔法も修行も好きだった。
でも才能がないボクは、家族の期待に応えることは出来なかった。
他にもお爺ちゃんの教えてくれる【異世界チート論】や、お婆ちゃんの【まかい術式理論】も同じ。
好きで一生懸命に努力してきたけど、どれも才能が無し。
家族の期待に応えることが出来ずに、全てが中途半端。
なんの特徴もない器用貧乏なまま、明日の十四歳の誕生日を迎えてしまうのだ。
「とりあえず今宵は家族会議を開く。覚悟しておきなさい、ハリト」
「は、はい、分かりました、父さん……」
◇
その日の夕食後は、本当に辛い時間だった。
家族全員から厳しい言葉を、ずっと言われていった。
『お前は私の息子なんだから、もっと出来るはずだ!』
『あなたは私の子なのよ。もっと精進するのよ、ハリト』
『あんたみたいな愚弟がいると、私まで恥ずかしいのよ!』
『ハリトにはもっと魔法の才能があると思っていたんけどな……』
『爺ちゃんが若いことのう、もっと凄かったじゃぞ……』
『そうですね、お爺さん』
とにかく家族全員から厳しい言葉で叱られた。
そしてその夜。
――――ボクの中の何かが“キレて”しまった。
「このままじゃボクは、ダメ駄目なまま人生を終えてしまう。でも、どうすれば? あっ、そうだ! どこか遠い国で、一人で頑張ってみよう……夢見ていた一任前の冒険者になるために!」
こうして翌朝、ボクは家出を決行。
屋敷の地下にあった転移装置で、遠い国へと移動。
装置を破壊して、ボクの移動証拠を完全消去。
これで家族の助けは無くなり、退路も断たれた。
「それにしても、ここが屋敷の外の世界……ボクの知らない世界か。よし、できる限り頑張っていこう!」
とりあえず遠くに見えている、城壁に囲まれた小さな街を目指すことにした。
走って向かっていく。
でも、それにしても、随分とボロボロな城壁だな?
大丈夫かな、あそこは?
210
あなたにおすすめの小説
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる