幸せだ

翡翠

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幸せだ

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肌寒さで目を覚ました。
寝る前までは暖かかったのに。
ああ、あいつがいないんだ。
まだ眠っている頭では気づくのに時間がかかった。

いないとわかれば探すのみ。
まぁ、あいつのいるところなんてわかっているが。

ぺたぺたと薄暗い廊下を歩く。
秋の中盤にもなれば夜は随分と冷え込んでいる。

ガチャリと扉を開ければ、ベランダに恋人の姿が見えた。

ベランダの扉を開けると同時に煙草の匂いが漂う。
どうしてもこの匂いだけはすきになれんな。
でも、こいつの吸ってるやつなら少しばかり好きになってやってもいいか、なんて。
煙草の匂いの中に、少しだけこいつの匂いが入っているのが好きだ。
いつもの匂いだなって安心出来る。

「起きた?」

「うん。
    寒くないの」

「ちょっとね」

「早く寝よ」

「もうちょっと待って」

そう言って煙草を咥える。
顔がいいからなのか、自分が惚れているからなのかは分からないが、煙草を咥えるとか煙を吐くとかなんでもない動作がいちいちかっこよく見える。
そんな自分が照れくさくなって夜の街に視線を移す。

ポツポツと電気がついているビル。
ちらほら見える人影。

全部綺麗だ。

ずっとこいつと一緒ならばどれだけ幸せだろう。

弾けるような笑顔も、低めの声も、細い指先も、白く透き通るようだけど男らしさがある体も、いつまで見ることができるのだろう。
隣にいるこいつは人間でいつ死ぬか分からない。事故に遭うかもしれない。病気になるかもしれない。若いうちに死ぬ事がなくても、いずれは寿命と言うものが来る。
対した俺は、神と呼ばれるものだ。
事故になんか遭わないし、病気にもならない。ましてや寿命なんてある訳もなくて。
もしこいつが死んだら俺は___

「余計なこと考えないの」

いきなり視界が暗くなったかと思えば、少し上から声が降ってきた。

「ほら、寝るよ。おいで」

視界を塞いでいた手は俺の手を引いている。
引かれるままに寝室へ連れていかれ、優しくベッドに寝かせられた。

「俺はどこにもいきませんからね、神様」

「ふふ、お見通しだったかあ」

「そりゃ、小さい時から誰よりも近くであんたを見てきたんだから。なんでもわかりますよ」

そういえばそうだったなあ。前までいた神社の境内に捨てられてたのを拾ったんだ。
今では恋人だからなあ。あの時はこうなるなんて思ってなかった。

そんなことを考えながら目の前のでかくなった奴に抱きつく。

ああ、幸せだ。

「おやすみ」

どちらともなく言葉をこぼした。

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