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第五章 コトリバコ編

234話

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「コトリバコ?」
「はい。霊力の無い――、抵抗力の無い者は、口にするだけで災厄が降りかかると言われている程に強力な呪物とされています」
「なるほど……」
「桂木殿は、その御様子から知らないので?」
「まぁな――」

 オカルト方面については、俺は興味がなかったから全く知らない。
 学友などと話が合えば、そういう情報を仕入れることもあったかも知れないが――。

「それと桂木殿」
「これは携帯か?」
「はい。以前の携帯電話は破損してしまったと伺っておりましたので――」
「悪いな」
「桂木殿が利用されている警察庁から渡されている携帯電話に掛けると通信を傍受される恐れがありますので、私と連絡を取る時は、お渡しした携帯電話からかけてください」
「分かった」

 ポケットに携帯電話を入れたあと、身体強化を行い地面を蹴り上空へと飛ぶ。
 そして――、病院の方へと向けて空中を音速の速度で移動を開始し――、数分で病院が見えてくる。
 屋上へ降り立ったあとは、エレベータ―を使い1階へ移動し受付へと向かう。

「桂木胡桃さんですね。少々、お待ちください」

 受付の女性が、機械を操作すると眉間に皺を寄せたあと――、俺を見てくる。

「桂木優斗さんで宜しいでしょうか? 本当に、ご本人様で?」
「ああ。何か問題でもあるのか?」
「身分証の提示をお願いできますでしょうか?」

 何だ? ずいぶんと物々しいな。

「これでいいか?」
「警察て――。は、はい。確認致しました。それでは案内係りを呼びますので」


 1分ほど経過したところで――。

「お待たせしました、桂木優斗さん」

 受付に来た医師は、温和な態度の30代後半と思わしき男。

「問題ない。それよりも、緊急だと連絡があって来たのだが、すぐに会わせてもらえるか?」
「もちろんです」

 受付から移動――、狭い通路に入り歩きだしたところで――、

「外科担当の日下部(くさかべ)晴道(はれみち)と言います。桂木胡桃さんの主治医をしています」
「外科? 内科ではなく?」
「今回の病気に関しては外科の担当分野でもありますので――」
「どういうことだ?」
「それよりも、まずは――」

 長い廊下を抜けた先には、明らかな別病棟。
 人気が殆どないことから、俺は眉を顰める。

「こちらを着てください」

 日下部が差し出してきたのは、テレビなどでウイルスが発生した場所で着こむような防護服。

「これは? いまは、どのようなウイルスなのかが判明していない状況ですので、防護服を身に着けてください。感染しては困りますので」
「感染しては困る?」
「はい。すでに3人が、感染しています」
「……俺には必要ない」
「――ですが! これは規則ですので」
「俺の話は行ってないのか……」
「何の話でしょうか?」
「俺は全ての病気に対しての抗体がある。だから、そのようなモノは必要ない」

 俺は波動結界を展開し、胡桃が居る場所を確認し医師をスルーし、病室へとむかう。
すると病室へと向かう途中で、完全防護服を身に纏った男が此方へ近づいてくる。

「桂木警視監、お待ちしていました」
「いまは、そのような体裁は必要ない。それよりも、妹が罹ったのは病なのは本当なのか?」
「いえ。報告どおり間違いなく呪物の類です。問題は、どのくらいの影響力があるのかまでは……。ただ……感染している人間が出ている以上、かなり危険な代物かと――」
「分かった」

 判断がつかないのなら、話をしていても意味はない。
 都と妹の護衛の為にと付けていた陰陽連の男の横を通りすぎ、病室へと向かう。
 病室の前に到着したところで、部屋の名札を確認する。
 名札には桂木胡桃と名前が書かれていることを確認しドアを開ける。
 部屋の中には完全防護服の医師と、ベッドに寝かされている胡桃と、あと防護服を身に着けていない都の姿があった。
 彼女は、俺が入ってきたことに気が付くと――、
 
「優斗っ! 胡桃ちゃんが!」
「分かっている。話しは聞いた」

 涙目で――、涙声で訴えかけてくる。
 彼女とは、俺は視線を合わせず胡桃の傍へと移動する。

「――き、君っ! 待ちたまえ! ここは、いまは隔離されている病棟だよ! ここは防護服を着てない人は入らないように通達しておいたのに――」
「少し黙っていろ」

 俺は殺気を含めて男へと言葉を叩きつけると一瞬で、静かになる。
 白衣を着ていることから医者だと推測できるが、俺は男の話を無視しながら胡桃の手足へと視線を向ける。

「どういうことだ?」

 両手両足が壊死ではなく黒く変色しているだけでなく、崩れ落ち、指の形を無くしている。
 それどころか、崩れ落ちた細胞自体、炭のように固く硬化しており、人間の細胞とは別種へと変化しているというのが一目で分かる。

「優斗、胡桃ちゃんが病院で診察を受けている時にね、突然――、意識を失ったと思ったら、指先が砕けたの! もう、どういうことなのか分からなくて――」
「指先が砕けた?」
「うん。両手の指が全部、砕けたの……。それで、私……、どうしたらいいのか分からなくて――、優斗に電話したけど、電話が繋がらなくて……、それで警察の人にお願いしたの」

 俺は視線を胡桃の両手へと向ける。
 すると10本の指が全て失われているのが確認できた。


 
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