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第五章 コトリバコ編 エピローグ

270話

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「ご主人様っ、どこに行かれるのですか?」
「まだ回復はしてないが、妹の容態が気になるからな」

 ふらつく足で立ち上がり、俺は妹が寝ているであろう病室へと向かう。
 視界は歪み、足元がおぼつかないが、自分で歩けないほどではない。
 妹の容態は、問題ないとアディールから報告は受けているが、やはり気になるものは気になる。
 
「ご主人様」

 俺を支えてくる白亜。
 
「お前も、少しは休んだ方がいいんじゃないのか?」
「問題ありません。それよりも、妹ということは、妾にとっては義理の妹となるわけで――、それを助けられるのでしたら、妾も力を貸すのは当然というもの」
「どこから、その発想が出てくるのか分からないが、とりあえず助かる」

 病室が見えてきた所で、病室の前には黒服の男達が立っている姿が目に入る。

「ご主人様の知りあいかの?」
「知らん。だが、もしかしたら警察庁の人間かも知れないな」

 日本政府から何か言われたとか言っていたから、小言のために俺に接触するため御偉いさんが来ている可能性もある。

「桂木優斗く――、桂木警視監でよろしいかな?」
「あんたは?」

 集まっていた黒服の中から、姿を現し俺に話しかけてきたのは白髪交じりの小太りした男。

「日本国外務大臣の川野拓郎という。君と連絡がつかなかったので、火急的な要と言う事もあり、こちらまで来させてもらった」
「なるほど……。話しは、あとにしてくれ」

 俺は、男を押しのけて病室のドアをスライドする。

「――き、君! 失礼だぞ! 目上の人間に対して!」
「目上?」

 俺は、川野と名乗った男へと視線を向ける。

「俺は、100億年は精神の牢獄に存在していたが、そんな俺よりも年上だと言うのか?」
「世迷言を……、いや――、神の力を有しているのなら……」
「分かったなら、退いてくれ。話しは後で聞く」

 俺は有無を言わさずに、部屋へと入る。

「桂木殿っ! 待っておりました!」
「住良木。遅くなったな」
「――いえ。それよりも治療を早く――」
「分かっている」

 幾分か回復した中で、白亜の肩を借り乍ら、妹のベッドの横に置かれているパイプ椅子に座る。

「桂木殿。彼女は妖狐なのでは?」
「アディールから詳しい話は聞いてくれ」
「分かりました。桂木殿が、そう言われるのでしたら――」

 アディールよりも人生経験が豊かな証拠なのか、白亜に敵対心を持つ事もなく、自身が立っていた場所を白亜に譲る住良木。

「ご主人様。あの者は、アディールよりも力がありますのう」
「そうか?」
「はい。おそらくは戦闘力は、妾と同格かと――」
「なるほど……」

 住良木とは、時折、一緒にいた事があったが、そこまでの実力者だとは思わなかったが、アディールも、よく知らない術を使うことで、それなりの力を有していたからな。見た目では、霊能力者の力は図れないか……。

 心の中で思考しつつ、俺は妹の体を見る。
 妹は、二の腕と太ももまで炭化して砕けていて――、それらが、胴体まで浸食していたが、浸食自体は止まっている。

「ふううう」
 
 深呼吸し――、生体電流を操作する。
 自身の肉体修復と身体強化には膨大なエネルギーが必要になるが、他者の体内の細胞を操作し編集するくらいなら、そこまでは消費しない。
 俺は妹のDNAを解析しゲノム編集を行う。
 そして――、ミトコンドリアを通じて肉体の再生を行っていく。
 体は、まったくと言っていい程、本調子ではないが妹の体の修復を無事終わらせる。

「細胞をチェックしても、再改変されるような事はないな」
「……何と言うか、さすがはご主人様。他者の肉体まで再生してしまうとは……、しかも妖術や神術ではないところが、素晴らしいです」
「まぁ、おかげで体力はすっからかんだがな」

 軽く肩を竦める。

「――うっ……」

 妹が、小さな声をあげる。
 生物の設計図の修正、細胞の再生と修復したことで麻酔が消えたからだろう。

「……おにい……ちゃん?」
「ああ。大丈夫か?」
「う……ん……。わたし、一体……」

 さて――、何と答えるべきか。
 呪いに罹って死にかけていた説明するのは、ショックが大きいだろう。
 ここは貧血で倒れたって事にしておくか。

「ご主人様の妹君よ! 主は、呪いに罹って死にかけておったのだ! だが! もう案ずることはない! 妾のご主人様が、完治させたのだからな!」
「おい……」

 俺は、ガシッと白亜の頭を掴むと首に力を入れて回す。
 ゴキッ! と、言う音と共に、俺の横のパイプ椅子に座っていた白亜が後ろへと倒れて意識を失う。

「――え? お兄ちゃん?」
「気にするな。このバカが行った事は世迷言だ。胡桃は、貧血で倒れて、この病院に担ぎ込まれただけだ」
「……本当に?」
「ああ。本当だ。俺が嘘をついたことがあったか?」
「うん。いつもしょうもない嘘をつくよね? 今回だって、絶対に嘘だよね? だって、どう見ても、その人の耳……」

 床に倒れて気絶している白亜の頭には、狐の耳が出現していているし……。
 それを見て、俺は思わず額に手を当てた。
 
 




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