九十九鬼夜行 ~孤独だった僕が鬼様=兄様に溺愛されてるわけ~

田神ナ子

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7 鬼様は兄様

6 兄弟にもいろいろ居(お)りまして

 
 聞こえてくる音の方に僕は顔を向けた。

 それは食堂入り口の障子戸の前で止まった。

 ズズズ‥‥‥‥ペチャ…
 
 何かが入ってきた。

 それが障子戸を開けた瞬間、僕の背筋が凍りついたようだった。
「ひぃっ」と悲鳴を上げそうになるのを両掌で強く押さえた。それから、僕の全身はガクガク震え出してしまった。

 (な…なに‥‥あれ‥‥)

 ゆっくりとその湿ったような身体は食堂に入ってきた。

 あまりの姿に僕は凝視できない。漏れそうになる悲鳴を抑えながらぎゅっと固く目を閉じていた。

 それは‥‥
人の姿ではない。当然だ、ここは地獄なんだから。かと言って、鬼の姿でもない。
 体長3メートル半?床に這っているあれは尾なのか?ねっとりと湿っている身体の一部であろうそれを引き摺りながらこっちにやってくる。
頭は、というと、それもない。確かに立っている姿なのだが、頭、顔、なんてものはなく、ぬめっとしたまるでミミズをでっかくしたみたいな、怪物だ。ただ、身体の一部と言わんばかりに、にょきっと生えた手がなんとなく可愛くもある。


 「‥‥またぁ~兄さんの席は、あっち」

 (へ?‥‥今、なんて言った?)
  僕は耳を疑った。
「いつも間違えんだよなぁ」
 ハバラ兄さんは口をもごもごさせながら席を立つと、その得体の知れないに腕を回した。それから、その怪物を誘導するようにして向かい側の、僕たちが座ってる席より3脚ほどずれた席に座らせてまた自分の席に戻ってきた。
蚯蚓クイン兄さんっていつもあ―なんだよ。ほら、目がねぇだろ?だからよく見えないんだ。悪気があってのことじゃねぇから、許してやって」
 ちょっと申し訳なさそうに言ってた。

 いやいやいや?‥‥そーゆう問題じゃなくて!
もう僕の脳みそはぐちゃぐちゃに掻き回されてる感じ。
(兄さん、て)
 が?ってつい口から出そうになっちゃったけど、それは喉の奥にしまって、自分なりに解釈することにした。
 そりゃぁ、九十八の兄弟がいれば、色んながいるんだろうけど。ハバラ兄さんみたいな鬼様との差がありすぎだ。
 僕はごくっと唾を飲み込んでから
「は、初めまして」
 ペコっとお辞儀した。
 そしたら向こうもゆ~っくりお辞儀した。
(あ…、意外と礼儀正しいんだね)


 
「ミツキは~好きな食いもんとかあるの?ほら、で作ってもらってたもんとかさ」
 ハバラ兄さんの食べる勢いはさっきから全然変わってない。それで興味津々に聞いてくる。
「好きな食べ物か——‥‥」
 そんなこと言われてみれば、僕の記憶の中には、母親が作ってくれたものなんてこれと言って好きなものもなかった。弟の好物はたくさんあったようだけど、それについでで食べてた感じだから。
「ないなぁ」
「そっか。でもミツキはなんでも食べられる?」
「うん、わりと好き嫌いはないほうだね」
 それに
「華歯さんの料理はおいしい!こんな僕でもいっぱい食べられるよ!」
「ミツキィィ!なんていい子だ!」
 感激しちゃってハバラ兄さんは食べてる途中なのに僕をむぎゅゅって抱き締めた。
「ね…いたい、よ」
「ゴメン!」

 あ‥‥今、華歯さん——
エプロンで目頭を押さえてたような‥‥。




 「きゃは——っ!ハハハ——っ!」
 「ね、でしょ?ウケる——っ!」

 今度はなに?!なにっ?!
 障子戸の向こうで甲高い女子の声が聞こえた。
確かに女子の声。え?女子高生?まさか…ね。

 話が盛り上がってるようで、スパーンと戸を開けてもキンキンした声が止まらなかった。

 「あ…え‥‥‥‥?」
  ぽかんとなってしまった。

 しばらく瞬きするのも忘れてたくらいに、僕はその姿に見入ってしまってた。
(双子?の女子?)
 しかもこれまた可愛い容姿をしてて、こんなごっついハバラ兄さんのこれまた兄弟?!って目を疑う。

 双子が気づいた。
「あ~ん♡ハバラ兄様、来てたの?それに蚯蚓兄様も♡」
 双子の女子が甘えた声で身体をくねらせてる。
「おゥ!蓮妃レンヒ葉妃ヨウヒ。まぁ、いっつもおまえら騒がしい奴らだなぁ」
 ハバラ兄さんが意地悪気に笑って言った。
「ん~もお!そんなこと言わないでぇ!」
 双子は同時にぷくっと頬っぺを膨らませてた。
 僕もいるんだけど?感じにハバラ兄さんの横から顔を出してみた。

「い、い、いやぁぁぁぁ————っ!!」

「‥‥へ?」
 そんな引くこと?
 頬っぺに掌をくっつけて驚愕に口が開いたままおんなじ顔してる。
なんか…ショック。僕、嫌われっちゃったのかな?
「うるせ—よ、おまえらぁ」
 呆れた顔のハバラ兄さん。
「だって、だってぇぇぇ!ハバラ兄さんの隣に座ってるんだよ?!ど—いうことなの?!」
「ねぇぇぇ!ズルい!ズルいぃぃ!」
 避難轟々だよ。隣に座ってるってだけで。

 「‥‥コホン」
  華歯さんの咳払いで一喝。

 それでも小声でブ—ブ—言いながら自分たちの定位置に座った。

 「あ—ん‥‥華歯ぃ、またこれ?」
 「蓮、この野菜ニガテなんだよねぇ」
  華歯さんが少々、困った顔になってる。

 なんか‥‥
 ちょっと‥‥腹が立った。

 「一生懸命作ってくれてる人がいるんだよ。その人の気持ち、考えたら?」

 し————ん

 これは最悪な空気?
 ハバラ兄さんの大事な妹を叱ってしまった。僕のような分際で生意気なこと言ってしまった。
 双子は目を見開いたまま動かない。泣きだすんじゃないか?いや怒って反撃するんじゃないか?
内心ハラハラしながら僕も双子から視線を離さなかった。

「カハハハッ!ほんっと、えらいなミツキは!」
  
 ハバラ兄さんの太い笑い声が食堂に響いてた。
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