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最終話
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「ふう……だいぶ書いたし、そろそろ休もうかな」
執筆中の原稿を一度保存してから私は身体を上に伸ばした。幾つもの作品を書いては世に送り出してきたとはいえ、やっぱり執筆活動というのはしっかりと疲れるみたいだ。
「でもまあ、これもあの『ふかふか』のお陰だよね。あれがヒットしたから私も売れっ子になれて、こうして他の作品だって書けるんだから」
私はクスリと笑った。『闇深ダウナーお姉さんを拾ったら深い愛に包まれた』こと『ふかふか』は結梨と立華の喧嘩や結梨に恋する立華の恋敵の登場などを経てようやく完成し、この出来に太子編集長や塔子さんも満足してくれていた。そしていざ出版してみると、私達が思っていた以上の人気が出ていき、アニメ化やドラマ化までされる大ヒットになっていた。
「まさかここまでウケると思ってなかったけどね。でもまあ、それがあったから家のローンも問題なく払えたし、なんなら前よりもいい家に住めてる。それに、その前に書いてた『ゆりぱに!』も『ふかふか』の経験を活かして書いたら本当に大ヒットしたし、『ふかふか』の存在がなかったら今ごろどうしてたんだろうなあ……」
そんな事を考えていた時、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「美音、入るよ」
凛莉さんがドアを押し開けながら入ってくる。漂ってくる甘い匂いから考えるにおやつを作ってくれていたようだ。
「凛莉さんちょうどよかった。いま休憩しようかなと思ってたところなんです。今日のおやつはなんですか?」
「今日はザッハトルテだよ。紅茶も用意してるからリビングまでおいで」
「はーい。ふふ、有名レストランの料理長さんの料理をただで食べられるなんて本当に得してるなあ」
「アンタ達にならいつだって作ってやるよ」
凛莉さんが笑みを浮かべながら言う。凛莉さんは今は有名なレストランの料理長として働いていて、この前も料理雑誌やテレビ番組で紹介されていた。初めは小さな料理屋さんで働いていたけれど、そこに偶然テレビの取材が来た際に凛莉さんの料理にロケ隊が感激して、その噂が広まった結果としていま働いているレストランのオーナーが凛莉さんをスカウトして今に至るのだった。
「この前はドラマで有名な俳優さんがレストランの紹介をしてましたし、その前は凛莉さんのファンの人が花束を持って出待ちしてましたよね。恋人として誇らしいけど、ちょっと妬けちゃうな……」
「アンタ以外にアタシのオンナはいないよ。それに、他の奴にかまける気もない。まだまだ修行中で気持ちが不安定な時でも支えてくれたのはアンタだし、そんな相手をほっぽいてどこかのオンナに懸想するほどアタシは薄情じゃないよ」
「わかってますけど、それでも凛莉さんはとても魅力的な人だから不安にはなるんですよ」
「まったく……アタシの彼女は本当に可愛いね」
凛莉さんはニッと笑いながら私を抱き締めてくる。前までなら私は顔を赤くしながら止めてくれるように言っていただろうけど、今となってはこうしてもらう方が落ち着くようになっていた。一緒にお風呂に入ったり夜に凛莉さんから愛してもらったりするようになったし、昔の私からすればだいぶ大きな違いがある。
「そういえば、愛奈さんは今ごろはパリでしたっけ」
「そういやそんな事を言ってたね。ただのアパレル店員だったアイツも今では大人気ブランドの社長だなんて世の中どうなるかわからないもんだ。でもまあ、それを決めたのはアイツ自身だし、アタシ達はそれを応援するまでだよ」
「そうですね」
アパレル店員だった愛奈さんは自分の好みを追求するために独立して会社を興した。初めは軌道に乗らせる色々大変そうであり、私達もその愚痴をよく聞いていたけれど、度重なる営業活動によって愛奈さんが作ったブランドのホワイトリリーは人気ブランドになって、今では幾つもの専門店が出来るほどになっていた。
因みに、愛奈さんは自分を同性愛者であることを公表すると同時に自分のような同性愛者が大っぴらに恋愛出来るように、という事でそれを応援する団体の代表も務めている。色々非難もされたしメディアでも取り上げられたけれどその活動も精いっぱい頑張っているし支援者も今はとても多く、同性愛者達が普通に結婚出来るようになるのもそう遠くない未来かもしれない。
「愛奈もそうだけど、友美も今は外国じゃなかった? たしかローマとか言ってたと思うけど……」
「そうですね。でも、運命のめぐり合わせって本当に不思議ですよね。まさか友美さんと恋斗さんが出会って結婚までするなんて」
「だねえ」
旅行会社に勤めている友美さんだけど、なんとお客さんで来た恋斗さんと出会ってそのまま恋に落ち、この前結婚をしたばかりなのだ。友美さん曰く、特別イケメンではないけれどそれでもしっかりとしたところはあって優しいところに惹かれたとのことで、たまにウチに来ては恋斗さんとの生活について楽しそうに話していく。
そして恋斗さんはといえば、あの日に私がやった仕返しについては怒っていないようで、改めて私が辛さや恥ずかしさを知ることが出来たと後日話していた。何だかんだであれから会う機会は幾らか増え、恋斗さんと私はいい友達であり、作家と編集長という関係性で落ち着いている。因みに、恋斗さんも私の作品のファンだそうで、お義母さんである太子編集長と一緒に私の作品を楽しんで読んでくれているみたいだ。
「そういえば、実家からはなんか連絡あったのかい? アタシの方は来ても無視してるけど」
「私もそうです。今になって私を褒めてきたり実家に戻ってきてくれないかとか言ってきたりしますけど、どうせ生活が苦しくなったから私をいいように使いたいだけだと思うのでどうでもいいです」
「それでいいと思うよ。アタシ達はアタシ達なりに生きていけばいいのさ。誰かに指図なんてされない自由な生き方でね」
「はい」
凛莉さんの言う通りだ。私達は自己責任で好きを貫きながら生きている。それを誰かにとやかく言われる筋合いもなければ言われたくはない。私達は責任を果たしている上でそういう生き方をしているのだから。
「それにしても、あの日に出会ってからいっぱい色々な事がありましたね。それを多少脚色を加えて書いたのが『ふかふか』ですけど、未だにそれが現実に起きた事とは言ってないですし、それを公表したら世間はどんな反応をするんでしょうね」
「さてね。でもまあ、それを知ってるのが限られてる奴らだけでもいいんじゃない? それを知らない奴らが色々予想したり話したりしてるのをアタシ達はクスクス笑いながら見てればいいのさ」
「ですね」
凛莉さんに抱き締められながら私は答える。気分転換でした雨の夜の散歩だったけれど、あれをして本当によかったと思っている。それがなかったら今ごろ私達は出会うこともなく、私達はこうして幸せにはなれなかったから。
「よし、そろそろおやつを食べに行こうか」
「ですね。これは今日の夕食も楽しみだなあ」
「あはは、もう夕飯の話かい?」
私の言葉を聞いて凛莉さんが苦笑いを浮かべるけれど楽しみなのだから仕方ないと思う。そして私は書きかけの原稿を画面に出したまま凛莉さんと一緒にリビングに向けて歩き始めた。どこに出す気もない作品である『雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった』の原稿を。
執筆中の原稿を一度保存してから私は身体を上に伸ばした。幾つもの作品を書いては世に送り出してきたとはいえ、やっぱり執筆活動というのはしっかりと疲れるみたいだ。
「でもまあ、これもあの『ふかふか』のお陰だよね。あれがヒットしたから私も売れっ子になれて、こうして他の作品だって書けるんだから」
私はクスリと笑った。『闇深ダウナーお姉さんを拾ったら深い愛に包まれた』こと『ふかふか』は結梨と立華の喧嘩や結梨に恋する立華の恋敵の登場などを経てようやく完成し、この出来に太子編集長や塔子さんも満足してくれていた。そしていざ出版してみると、私達が思っていた以上の人気が出ていき、アニメ化やドラマ化までされる大ヒットになっていた。
「まさかここまでウケると思ってなかったけどね。でもまあ、それがあったから家のローンも問題なく払えたし、なんなら前よりもいい家に住めてる。それに、その前に書いてた『ゆりぱに!』も『ふかふか』の経験を活かして書いたら本当に大ヒットしたし、『ふかふか』の存在がなかったら今ごろどうしてたんだろうなあ……」
そんな事を考えていた時、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「美音、入るよ」
凛莉さんがドアを押し開けながら入ってくる。漂ってくる甘い匂いから考えるにおやつを作ってくれていたようだ。
「凛莉さんちょうどよかった。いま休憩しようかなと思ってたところなんです。今日のおやつはなんですか?」
「今日はザッハトルテだよ。紅茶も用意してるからリビングまでおいで」
「はーい。ふふ、有名レストランの料理長さんの料理をただで食べられるなんて本当に得してるなあ」
「アンタ達にならいつだって作ってやるよ」
凛莉さんが笑みを浮かべながら言う。凛莉さんは今は有名なレストランの料理長として働いていて、この前も料理雑誌やテレビ番組で紹介されていた。初めは小さな料理屋さんで働いていたけれど、そこに偶然テレビの取材が来た際に凛莉さんの料理にロケ隊が感激して、その噂が広まった結果としていま働いているレストランのオーナーが凛莉さんをスカウトして今に至るのだった。
「この前はドラマで有名な俳優さんがレストランの紹介をしてましたし、その前は凛莉さんのファンの人が花束を持って出待ちしてましたよね。恋人として誇らしいけど、ちょっと妬けちゃうな……」
「アンタ以外にアタシのオンナはいないよ。それに、他の奴にかまける気もない。まだまだ修行中で気持ちが不安定な時でも支えてくれたのはアンタだし、そんな相手をほっぽいてどこかのオンナに懸想するほどアタシは薄情じゃないよ」
「わかってますけど、それでも凛莉さんはとても魅力的な人だから不安にはなるんですよ」
「まったく……アタシの彼女は本当に可愛いね」
凛莉さんはニッと笑いながら私を抱き締めてくる。前までなら私は顔を赤くしながら止めてくれるように言っていただろうけど、今となってはこうしてもらう方が落ち着くようになっていた。一緒にお風呂に入ったり夜に凛莉さんから愛してもらったりするようになったし、昔の私からすればだいぶ大きな違いがある。
「そういえば、愛奈さんは今ごろはパリでしたっけ」
「そういやそんな事を言ってたね。ただのアパレル店員だったアイツも今では大人気ブランドの社長だなんて世の中どうなるかわからないもんだ。でもまあ、それを決めたのはアイツ自身だし、アタシ達はそれを応援するまでだよ」
「そうですね」
アパレル店員だった愛奈さんは自分の好みを追求するために独立して会社を興した。初めは軌道に乗らせる色々大変そうであり、私達もその愚痴をよく聞いていたけれど、度重なる営業活動によって愛奈さんが作ったブランドのホワイトリリーは人気ブランドになって、今では幾つもの専門店が出来るほどになっていた。
因みに、愛奈さんは自分を同性愛者であることを公表すると同時に自分のような同性愛者が大っぴらに恋愛出来るように、という事でそれを応援する団体の代表も務めている。色々非難もされたしメディアでも取り上げられたけれどその活動も精いっぱい頑張っているし支援者も今はとても多く、同性愛者達が普通に結婚出来るようになるのもそう遠くない未来かもしれない。
「愛奈もそうだけど、友美も今は外国じゃなかった? たしかローマとか言ってたと思うけど……」
「そうですね。でも、運命のめぐり合わせって本当に不思議ですよね。まさか友美さんと恋斗さんが出会って結婚までするなんて」
「だねえ」
旅行会社に勤めている友美さんだけど、なんとお客さんで来た恋斗さんと出会ってそのまま恋に落ち、この前結婚をしたばかりなのだ。友美さん曰く、特別イケメンではないけれどそれでもしっかりとしたところはあって優しいところに惹かれたとのことで、たまにウチに来ては恋斗さんとの生活について楽しそうに話していく。
そして恋斗さんはといえば、あの日に私がやった仕返しについては怒っていないようで、改めて私が辛さや恥ずかしさを知ることが出来たと後日話していた。何だかんだであれから会う機会は幾らか増え、恋斗さんと私はいい友達であり、作家と編集長という関係性で落ち着いている。因みに、恋斗さんも私の作品のファンだそうで、お義母さんである太子編集長と一緒に私の作品を楽しんで読んでくれているみたいだ。
「そういえば、実家からはなんか連絡あったのかい? アタシの方は来ても無視してるけど」
「私もそうです。今になって私を褒めてきたり実家に戻ってきてくれないかとか言ってきたりしますけど、どうせ生活が苦しくなったから私をいいように使いたいだけだと思うのでどうでもいいです」
「それでいいと思うよ。アタシ達はアタシ達なりに生きていけばいいのさ。誰かに指図なんてされない自由な生き方でね」
「はい」
凛莉さんの言う通りだ。私達は自己責任で好きを貫きながら生きている。それを誰かにとやかく言われる筋合いもなければ言われたくはない。私達は責任を果たしている上でそういう生き方をしているのだから。
「それにしても、あの日に出会ってからいっぱい色々な事がありましたね。それを多少脚色を加えて書いたのが『ふかふか』ですけど、未だにそれが現実に起きた事とは言ってないですし、それを公表したら世間はどんな反応をするんでしょうね」
「さてね。でもまあ、それを知ってるのが限られてる奴らだけでもいいんじゃない? それを知らない奴らが色々予想したり話したりしてるのをアタシ達はクスクス笑いながら見てればいいのさ」
「ですね」
凛莉さんに抱き締められながら私は答える。気分転換でした雨の夜の散歩だったけれど、あれをして本当によかったと思っている。それがなかったら今ごろ私達は出会うこともなく、私達はこうして幸せにはなれなかったから。
「よし、そろそろおやつを食べに行こうか」
「ですね。これは今日の夕食も楽しみだなあ」
「あはは、もう夕飯の話かい?」
私の言葉を聞いて凛莉さんが苦笑いを浮かべるけれど楽しみなのだから仕方ないと思う。そして私は書きかけの原稿を画面に出したまま凛莉さんと一緒にリビングに向けて歩き始めた。どこに出す気もない作品である『雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった』の原稿を。
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