ヲタクに、私はなる!

九戸政景

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「あー、これっていま流行りのアニメでしょ? アタシ達も話混ぜてよ」

 お昼休み、アタシは仲のいい友達二人と一緒にあるグループに近づいた。それはクラスのオタクグループ。いつも固まってアニメやゲームの話をしてるからギャルグループのアタシ達との接点はあまりない。

「や、八木澤やぎさわさん達……!?」
「み、皆さんもこの神作品に興味がおありで……!?」
「そーそー。この前から観始めててさー」

 実際はタイトルや概要を聞きかじった程度。でも、こうしていわゆるオタクに優しいギャル的なのの登場に嬉しそうにするオタク達はちょっと可愛らしい。だけど。

「ニワカ乙。いや、ニワカですらないな」

 眉毛の下くらいまで黒い前髪を伸ばしたメガネ君にアタシ達の視線が向く。

「オタクに優しいギャルを演じて悦に浸るなど実に愚かだな」
「は? そんなのアンタにわかるわけ――」
「“最近観始めた”。その発言で既に自爆しているんだよ」

 その瞬間、他のオタク達がハッとした。

「そうか、僕達が話していたこのアニメは、終わったばかりで現在地上波でやっていない上にまだ本編の円盤すら出ていないもの! そういうことですな、奥田殿!」
「え、円盤……?」
「DVDやBlu-rayの事だ。一応、サブスクで観られなくはないが、今季は豊作だった覇権アニメ候補達に埋もれていた作品。いわば、掘り出し物! それも把握せずにアニメの話をしとけば喜ぶだろうと考えて俺達のような日陰者アンダーグラウンドに声をかけるなど愚の骨頂! どうせ、オタクとヲタクの違いも理解していない情弱で、オタクを称号アチーブメントではなく職業ジョブだと思っているんだ。オタクを毒牙にかけようと目論むなんちゃってギャル達はその辺でショート動画でも撮って、生徒指導の先生にでも絞られていればいいんだ」

 長い言葉をまるで呪文のように早口で言うとソイツはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。




「ほんと、あったまきた、アイツー!」

 放課後、いつものカフェでアタシは怒りをぶちまけた。こっちから話しかけたのに本当になんて態度だ。

「まあまあ、気にしなくていーんじゃない?」
「オタクってなんかきむずかしーイメージじゃん? 奥田もそんなだったんだって」
「違うの。アイツにもムカムカしてるけど、それだけじゃない」

 二人がまたかって顔をする。

「あー……いつもの悪癖?」
瑠璃るりってば、結構負けず嫌いだし、ほんとは真面目だからねー」
「たしかにあまり知りもせずに話しかけたアタシも悪いよ。でも、アイツだってアタシの事をしっかりも知りもせずにあれこれ言ってけなしてきた。何かをけなしたり文句言うならそれをしっかりと知ってこそでしょ!」

 アタシの事もギャルの事も何も知らないくせに奥田は変に敵対視してけなしてきた。これはアタシ的に我慢ならない。

「二人とも、オタクについて今から学んでいい?」
「いーよー。とりま形から入っちゃう?」
「なんかアタシもアガってきたかも。色々調べて、奥田に一泡吹かせちゃお」

 頷いてからアタシ達はスマホを使ってオタクについて調べ始めた。その翌日、登校してきた奥田を見つけたアタシ達はその前に立ちふさがった。

「奥田! どーよ!」
「……コテコテのオタクファッションとか草生える」
「は?」

 奥田のメガネの奥の目が呆れている。

「おおよそ、昨日の件でまずは形から入ることにしたんだろうが、その考えがそもそも浅はか。少しやぼったさを意識した制服の着こなしとバッグにつけた適当な缶バッジ。ソックスもしっかりと履いてるようだが、普段からルーズソックスぎみにしているのがシワの感じから明らか。そんなんでオタクを学んだ気になるなよ、ニワカ」
「ぐっ……」
「昨日も言ったが、オタクはなるものじゃなく称号だ。今度はその辺をしっかりとggrぐぐるんだな」

 奥田はそのままアタシ達の横を通り抜けていった。その姿はなんだかちょっとかっこよかった。

「ダメだったかあ……」
「んで、どする? このまま白旗上げちゃう?」
「んなわけ。アタシの覚悟が甘かったのもわかったし、このままでいいなんて思えない。しっかりとアイツに認めさせるまでやるに決まってんじゃん!」

 打倒奥田を掲げ、アタシは拳を固く握った。いつか奥田にアタシをオタクとして認めさせ、アタシを知らずにバカにした事を謝らせるために。

「……おまえ達、ちょっと生徒指導室に来い」
「あ」
「はーい……」

 いつの間にか後ろにいた生徒指導の先生に連れられ、アタシ達はきっちり怒られた。
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