1 / 1
お試し
しおりを挟む
「あー、これっていま流行りのアニメでしょ? アタシ達も話混ぜてよ」
お昼休み、アタシは仲のいい友達二人と一緒にあるグループに近づいた。それはクラスのオタクグループ。いつも固まってアニメやゲームの話をしてるからギャルグループのアタシ達との接点はあまりない。
「や、八木澤さん達……!?」
「み、皆さんもこの神作品に興味がおありで……!?」
「そーそー。この前から観始めててさー」
実際はタイトルや概要を聞きかじった程度。でも、こうしていわゆるオタクに優しいギャル的なのの登場に嬉しそうにするオタク達はちょっと可愛らしい。だけど。
「ニワカ乙。いや、ニワカですらないな」
眉毛の下くらいまで黒い前髪を伸ばしたメガネ君にアタシ達の視線が向く。
「オタクに優しいギャルを演じて悦に浸るなど実に愚かだな」
「は? そんなのアンタにわかるわけ――」
「“最近観始めた”。その発言で既に自爆しているんだよ」
その瞬間、他のオタク達がハッとした。
「そうか、僕達が話していたこのアニメは、終わったばかりで現在地上波でやっていない上にまだ本編の円盤すら出ていないもの! そういうことですな、奥田殿!」
「え、円盤……?」
「DVDやBlu-rayの事だ。一応、サブスクで観られなくはないが、今季は豊作だった覇権アニメ候補達に埋もれていた作品。いわば、掘り出し物! それも把握せずにアニメの話をしとけば喜ぶだろうと考えて俺達のような日陰者に声をかけるなど愚の骨頂! どうせ、オタクとヲタクの違いも理解していない情弱で、オタクを称号ではなく職業だと思っているんだ。オタクを毒牙にかけようと目論むなんちゃってギャル達はその辺でショート動画でも撮って、生徒指導の先生にでも絞られていればいいんだ」
長い言葉をまるで呪文のように早口で言うとソイツはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ほんと、あったまきた、アイツー!」
放課後、いつものカフェでアタシは怒りをぶちまけた。こっちから話しかけたのに本当になんて態度だ。
「まあまあ、気にしなくていーんじゃない?」
「オタクってなんかきむずかしーイメージじゃん? 奥田もそんなだったんだって」
「違うの。アイツにもムカムカしてるけど、それだけじゃない」
二人がまたかって顔をする。
「あー……いつもの悪癖?」
「瑠璃ってば、結構負けず嫌いだし、ほんとは真面目だからねー」
「たしかにあまり知りもせずに話しかけたアタシも悪いよ。でも、アイツだってアタシの事をしっかりも知りもせずにあれこれ言ってけなしてきた。何かをけなしたり文句言うならそれをしっかりと知ってこそでしょ!」
アタシの事もギャルの事も何も知らないくせに奥田は変に敵対視してけなしてきた。これはアタシ的に我慢ならない。
「二人とも、オタクについて今から学んでいい?」
「いーよー。とりま形から入っちゃう?」
「なんかアタシもアガってきたかも。色々調べて、奥田に一泡吹かせちゃお」
頷いてからアタシ達はスマホを使ってオタクについて調べ始めた。その翌日、登校してきた奥田を見つけたアタシ達はその前に立ちふさがった。
「奥田! どーよ!」
「……コテコテのオタクファッションとか草生える」
「は?」
奥田のメガネの奥の目が呆れている。
「おおよそ、昨日の件でまずは形から入ることにしたんだろうが、その考えがそもそも浅はか。少しやぼったさを意識した制服の着こなしとバッグにつけた適当な缶バッジ。ソックスもしっかりと履いてるようだが、普段からルーズソックスぎみにしているのがシワの感じから明らか。そんなんでオタクを学んだ気になるなよ、ニワカ」
「ぐっ……」
「昨日も言ったが、オタクはなるものじゃなく称号だ。今度はその辺をしっかりとggrんだな」
奥田はそのままアタシ達の横を通り抜けていった。その姿はなんだかちょっとかっこよかった。
「ダメだったかあ……」
「んで、どする? このまま白旗上げちゃう?」
「んなわけ。アタシの覚悟が甘かったのもわかったし、このままでいいなんて思えない。しっかりとアイツに認めさせるまでやるに決まってんじゃん!」
打倒奥田を掲げ、アタシは拳を固く握った。いつか奥田にアタシをオタクとして認めさせ、アタシを知らずにバカにした事を謝らせるために。
「……おまえ達、ちょっと生徒指導室に来い」
「あ」
「はーい……」
いつの間にか後ろにいた生徒指導の先生に連れられ、アタシ達はきっちり怒られた。
お昼休み、アタシは仲のいい友達二人と一緒にあるグループに近づいた。それはクラスのオタクグループ。いつも固まってアニメやゲームの話をしてるからギャルグループのアタシ達との接点はあまりない。
「や、八木澤さん達……!?」
「み、皆さんもこの神作品に興味がおありで……!?」
「そーそー。この前から観始めててさー」
実際はタイトルや概要を聞きかじった程度。でも、こうしていわゆるオタクに優しいギャル的なのの登場に嬉しそうにするオタク達はちょっと可愛らしい。だけど。
「ニワカ乙。いや、ニワカですらないな」
眉毛の下くらいまで黒い前髪を伸ばしたメガネ君にアタシ達の視線が向く。
「オタクに優しいギャルを演じて悦に浸るなど実に愚かだな」
「は? そんなのアンタにわかるわけ――」
「“最近観始めた”。その発言で既に自爆しているんだよ」
その瞬間、他のオタク達がハッとした。
「そうか、僕達が話していたこのアニメは、終わったばかりで現在地上波でやっていない上にまだ本編の円盤すら出ていないもの! そういうことですな、奥田殿!」
「え、円盤……?」
「DVDやBlu-rayの事だ。一応、サブスクで観られなくはないが、今季は豊作だった覇権アニメ候補達に埋もれていた作品。いわば、掘り出し物! それも把握せずにアニメの話をしとけば喜ぶだろうと考えて俺達のような日陰者に声をかけるなど愚の骨頂! どうせ、オタクとヲタクの違いも理解していない情弱で、オタクを称号ではなく職業だと思っているんだ。オタクを毒牙にかけようと目論むなんちゃってギャル達はその辺でショート動画でも撮って、生徒指導の先生にでも絞られていればいいんだ」
長い言葉をまるで呪文のように早口で言うとソイツはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ほんと、あったまきた、アイツー!」
放課後、いつものカフェでアタシは怒りをぶちまけた。こっちから話しかけたのに本当になんて態度だ。
「まあまあ、気にしなくていーんじゃない?」
「オタクってなんかきむずかしーイメージじゃん? 奥田もそんなだったんだって」
「違うの。アイツにもムカムカしてるけど、それだけじゃない」
二人がまたかって顔をする。
「あー……いつもの悪癖?」
「瑠璃ってば、結構負けず嫌いだし、ほんとは真面目だからねー」
「たしかにあまり知りもせずに話しかけたアタシも悪いよ。でも、アイツだってアタシの事をしっかりも知りもせずにあれこれ言ってけなしてきた。何かをけなしたり文句言うならそれをしっかりと知ってこそでしょ!」
アタシの事もギャルの事も何も知らないくせに奥田は変に敵対視してけなしてきた。これはアタシ的に我慢ならない。
「二人とも、オタクについて今から学んでいい?」
「いーよー。とりま形から入っちゃう?」
「なんかアタシもアガってきたかも。色々調べて、奥田に一泡吹かせちゃお」
頷いてからアタシ達はスマホを使ってオタクについて調べ始めた。その翌日、登校してきた奥田を見つけたアタシ達はその前に立ちふさがった。
「奥田! どーよ!」
「……コテコテのオタクファッションとか草生える」
「は?」
奥田のメガネの奥の目が呆れている。
「おおよそ、昨日の件でまずは形から入ることにしたんだろうが、その考えがそもそも浅はか。少しやぼったさを意識した制服の着こなしとバッグにつけた適当な缶バッジ。ソックスもしっかりと履いてるようだが、普段からルーズソックスぎみにしているのがシワの感じから明らか。そんなんでオタクを学んだ気になるなよ、ニワカ」
「ぐっ……」
「昨日も言ったが、オタクはなるものじゃなく称号だ。今度はその辺をしっかりとggrんだな」
奥田はそのままアタシ達の横を通り抜けていった。その姿はなんだかちょっとかっこよかった。
「ダメだったかあ……」
「んで、どする? このまま白旗上げちゃう?」
「んなわけ。アタシの覚悟が甘かったのもわかったし、このままでいいなんて思えない。しっかりとアイツに認めさせるまでやるに決まってんじゃん!」
打倒奥田を掲げ、アタシは拳を固く握った。いつか奥田にアタシをオタクとして認めさせ、アタシを知らずにバカにした事を謝らせるために。
「……おまえ達、ちょっと生徒指導室に来い」
「あ」
「はーい……」
いつの間にか後ろにいた生徒指導の先生に連れられ、アタシ達はきっちり怒られた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる