氷の薔薇は愛に目覚める~婚約破棄された令嬢と救国の王子~

イアペコス

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黒い陰謀の影 1

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エリザベスが、ルシアンへの返信に、自らの魂の選択を記してから数週間。エルム村には、春本番の、生命力に満ち溢れた空気が満ちていた。試験的に作付けされた畑には、新しい品種の麦や野菜が、まるで村人たちの希望を体現するかのように、力強く青々とした芽を出し、森では、村の女たちが、エリザベスと薬草学者の指導のもと、貴重な薬草を丁寧に採集し、乾燥させる作業に勤しんでいた。小さな窯では、不格好ながらも、日常使いには十分な品質の陶器が焼かれ始め、子供たちの間からは、久しぶりに、屈託のない明るい笑い声が聞こえるようになっていた。村全体が、まるで長い冬眠から目覚めたかのように、活気に満ち、そして未来への確かな希望に輝いていた。

しかし、そのエルム村の、ささやかだがかけがえのない平和と希望の光を、遠く離れた王都から伸びてくる、黒く、そして冷酷な陰謀の影が、容赦なく覆い尽くそうとしていた。
オルダス公爵とリリアは、エリザベスを社会的に完全に抹殺し、そしてルシアン王子との関係を決定的に破壊するための、最終的で、そして最も卑劣な策略を着々と実行に移していた。
まず、彼らは、王宮内の息のかかった貴族や役人たちを使って、エリザベスに関する、悪意に満ちた偽情報を、王国内に組織的に流布し始めた。「エルム村に追放されたエリザベス・フォン・クライフォルトは、反省するどころか、その地で妖術を使い、村人を洗脳し、王家に対する反乱を企てている」「彼女は、隣国のシルヴァリア王国と密かに通じ、王子ルシアンと共謀して、アルカディア王国を内側から転覆させようとしている」――そのような、荒唐無稽だが、しかし巧みに真実味を帯びさせられた噂は、瞬く間に王都の社交界や民衆の間に広まり、人々の間に、エリザベスへの恐怖と憎悪、そしてシルヴァリア王国への不信感を植え付けていった。
特に、かつてエリザベスの婚約者であったエドワード王太子は、リリアの巧みな涙と甘言、そしてオルダス公爵の巧妙な情報操作によって、完全に彼らの筋書き通りに操られ、エリザベスに対する強い怒りと、そしてかつての婚約者としての責任感から、「エリザベスを厳罰に処し、王国の秩序を回復させなければならない」と、国王に強く進言するようになっていた。国王自身も、オルダス公爵の権勢と、国内の不穏な空気に押され、徐々にエリザベス討伐へと傾きつつあった。

これらの不穏な情報は、ルシアンがエルム村との間に秘密裏に確立した、幾重にも張り巡らされた情報網を通じて、ほぼリアルタイムでエリザベスの元へも届けられていた。その報告書の一枚一枚が、まるで冷たい毒針のように、エリザベスの心を刺し、彼女に、エルム村と、そこに住む罪のない人々に、そして何よりも、自分を信じ、支えてくれているルシアンにまで、取り返しのつかない災厄が降りかかろうとしていることを、容赦なく告げていた。
エリザベスは、夜ごと、ランプの灯りの下で、ルシアンからの最新の報告書と、エルム村の地図、そして専門家たちから提出された村の防衛計画に関する資料を広げ、迫り来る脅威にどう立ち向かうべきか、眠る時間も惜しんで、熟考と分析を重ねていた。彼女の顔には、疲労の色が濃く浮かんでいたが、その瞳の奥には、かつての「氷の薔薇」を彷彿とさせる、鋭く、そして決して屈することのない闘志の炎が、静かに、しかし力強く燃え盛っていた。
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