氷の薔薇は愛に目覚める~婚約破棄された令嬢と救国の王子~

イアペコス

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囚われの騎士と偽りの告白 2

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その知らせは、エリザベスにとって、まさに青天の霹靂であり、彼女の心を打ち砕く最後の一撃となった。
ルシアンが…あの、誰よりも強く、賢く、そして自分を愛してくれたルシアンが、自分のために捕らわれ、命の危険に晒されている…?
エリザベスの頭の中が真っ白になり、全身から血の気が引いていくのを感じた。足元が崩れ落ちるような、強烈な眩暈と吐き気に襲われ、彼女はその場に膝から崩れ落ちそうになった。ゲルハルトが、慌てて彼女の身体を支える。
「エリザベス様!しっかりなさいませ!」
しかし、エリザベスの耳には、もはや何も届いていなかった。彼女の瞳には、ただ深い絶望の色だけが浮かび、その唇は、声にならない慟哭に震えていた。
(私のせいで…私のせいで、ルシアン様までが…!)
もはや、エルム村の人々だけでなく、自分の最も愛する人までも、自分の存在が破滅へと導いてしまったのだ。その事実は、彼女の心を、これ以上ないほどに残酷に抉り取った。

そのエリザベスの絶望を、まるで待ち構えていたかのように、リリアが、数名の護衛兵を伴い、勝ち誇ったような、そしてサディスティックなまでの愉悦に満ちた笑みを浮かべて、エリザベスの前に姿を現した。彼女は、もはやエルム村の抵抗が潰えるのも時間の問題と見て、エリザベスに最後の屈辱を与えるために、わざわざここまでやって来たのだ。
「あら、エリザベス様。随分とみすぼらしいお姿になられましたこと。かつての『氷の薔薇』も、今ではただの『泥中の薔薇』ですわね。うふふ」
リリアの声は、猫が鼠をいたぶるかのように甘く、しかしその奥には、底知れないほどの悪意と残酷さが隠されていた。
「そして、お聞きになりました?貴女が頼りにしていた、あの凛々しいシルヴァリアの王子様も、今や私たちの虜囚の身。貴女が降伏を拒み続ける限り、彼には、それはそれは辛い運命が待っていることでしょう。もしかしたら、貴女への見せしめに、八つ裂きにされてしまうかもしれませんわね?」
リリアの言葉の一つ一つが、鋭い毒針のように、エリザベスの心に突き刺さる。
エリザベスは、憎悪に燃える目でリリアを睨みつけたかった。しかし、今の彼女には、もはやそんな気力さえ残されていなかった。ルシアンの身に危険が迫っているという事実が、彼女から全ての抵抗の意志を奪い去ってしまったのだ。

リリアは、そんなエリザベスの絶望を見透かしたように、さらに追い打ちをかけるような、残酷な提案を持ちかけた。
「でも、エリザベス様、一つだけ、貴女の愛するルシアン王子を救う方法がございますわ。そして、この哀れなエルム村の人々の命も、もしかしたら助けてあげられるかもしれません」
「…何…ですって…?」エリザベスは、かろうじて声を絞り出した。
リリアは、その美しい顔に、悪魔のような笑みを浮かべて言った。
「簡単ですわ。貴女が、全ての罪を認め、自分が『悪役令嬢』であり、このエルム村での反乱も、シルヴァリア王国との共謀も、全て貴女一人が企てたことだと、エドワード王太子殿下の前で、そして全ての兵士たちの前で、涙ながらに告白するのです。そうすれば、エドワード殿下も、これ以上無益な血を流すことをお望みにはならないでしょうし、ルシアン王子も、貴女に騙された哀れな被害者として、あるいは寛大な処置を受けられるかもしれませんわ」
それは、あまりにも卑劣で、そして残酷な罠だった。エリザベスに、自らの尊厳を完全に踏みにじり、愛する人々を救うために、自分自身を永遠に「悪役令嬢」の汚名の中に閉じ込めろというのだ。
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