氷の薔薇は愛に目覚める~婚約破棄された令嬢と救国の王子~

イアペコス

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愛の奇跡 3

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古城砦は、まるで死の世界の入り口のように、不気味なほどに静まり返り、そこには、もはや人間の気配というものが、一切感じられなかった。オルダス公爵の、かつては忠実だったはずの私兵たちは、その冷酷な主の、あまりにも劇的で、そしてあまりにも無様な失脚を知り、自分たちにもその罪が及ぶことを恐れ、まるで蜘蛛の子を散らすように、あるいは、沈みゆく船から逃げ出すネズミのように、あっという間に逃げ去った後だった。エリザベスたちは、松明の、頼りないが、しかし希望を繋ぐ赤い光を手に、まるで地獄の底へと続くかのような、暗く、そしてどこまでも湿った、そして不気味なほどに長い石段を、息を切らしながら、そして心臓を激しく高鳴らせながら駆け下りた。カビと、そしておそらくは多くの人々の血の匂いである鉄錆の、むせ返るような不快な匂いが、彼女たちの鼻を容赦なくつき、どこからか、まるで死者の涙のように、絶え間なく滴り落ちる水の音が、その、あまりにも静かで、そしてあまりにも絶望的な空間に、不気味に、そしてまるで運命の秒読みのように響いていた。
そして、その、迷路のように入り組んだ地下牢の、最も奥深く、最も暗く、そして最も冷たく、そしておそらくは最も多くの絶望が染みついているであろう一室で、彼らは、ついに、その探し求めていた、そして同時に、見ることを心の底から恐れていた、ルシアンの姿を、発見した。
しかし、その、あまりにも変わり果てた姿は、エリザベスの、そしてそこにいた全ての者たちの記憶の中に、鮮明に、そして永遠に刻み込まれているはずの、あの、誰よりも気高く、誰よりも強く、そして誰よりも美しかった、太陽のような騎士の面影を、もはや、辛うじて、そして痛々しいほどに留めているだけの、あまりにも無残で、そしてあまりにも絶望的で、そしてあまりにも言葉を失うような、悲劇的なものだった。
ルシアンは、冷たく、そして汚れた石の床の上に、まるで、魂を抜かれ、そして誰にも見向きもされずに打ち捨てられた、壊れた人形のように、力なく、そしてぐったりと横たわり、その、かつては鍛え上げられた美しい身体は、おびただしい量の、そしてまだ乾ききっていない、生々しい血で、どす黒く汚れた、ぼろ布のような、かつては上質だったであろう衣服の残骸に、辛うじて包まれ、その、かつては自由の象徴であったはずの手足は、重く、そして錆びついた、あまりにも残酷な鉄の枷で、冷たい石の壁に、まるで磔にでもされたかのように、無残に繋がれていた。その、かつては薔薇色に輝いていたはずの顔は、まるで死人のように蒼白で、そこからは、もはや一滴の血の気も、そして一筋の生命の輝きも、完全に失われているように見えた。その、かつては月光を編み込んだかのように美しかった銀灰色の髪は、おびただしい量の冷たい汗と、そしておそらくは彼自身の血で、無惨に額に張り付き、閉じられた、そして深く落ち窪んだ瞼は、もはや、二度と開かれることはないのではないかと思わせるほどに、重く、そして固く閉ざされていた。
「ルシアン様っ!!ああ、ルシアン様…!嘘でしょう…!?こんな…こんなことが…あっていいはずが…!」
エリザベスは、その、あまりにも残酷で、そしてあまりにも信じがたい光景を前にして、もはや人間が発することのできるとは思えないほどの、魂の奥底からの、血を吐くような悲痛な叫び声を上げ、まるで何かに憑かれたかのように、彼の、もはや冷たくなりかけているようにさえ感じられる、その無残なそばへと、よろめきながら駆け寄った。その、彼女の、あまりにも痛切で、そしてあまりにも絶望的な叫び声は、この、死の匂いが充満する、冷たく暗い地下牢の、無慈悲な石の壁に、ただただ虚しく、そしてどこまでも悲しくこだました。
ゲルハルト老騎士が、その、もはや涙で何も見えなくなっているであろう目で、震える、そして血に汚れた手で、ルシアンの、その細い首筋に、祈るような気持ちでそっと触れ、その、もはや感じられるかどうかさえも分からないほどの、か細い脈を、必死で確かめた。そして、その、ほんの数秒間が、まるで永遠の拷問のように感じられた後、彼は、その顔から全ての血の気を失い、まるで石像のように硬直した、絶望的な表情で、ゆっくりと、そして力なく首を横に振った。
「エリザベス様…!お…お気を確かに…!残念ながら…我らが、誇り高きルシアン殿下は…もはや…もはや、神の御許へと…召されてしまわれた…のかもしれませぬ…!ああ…なんということだ…!この老いぼれが…この老いぼれが、代われるものならば…!」
その、老騎士の、もはや言葉にならないほどの、そして魂からの慟哭に満ちた言葉は、エリザベスにとって、この世界の、全ての光と、全ての音と、そして全ての意味が、一瞬にして、そして永遠に消え失せてしまうかのような、絶対的で、そして救いのない、世界の終わりを告げる、冷酷無比な宣告に等しかった。
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