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11話 愛深きゆえに
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【】リシア
ベース:Lv16
ジョブ1:プリースト
ジョブ2:エレメンタラー
リシアの職業を変えたは良いが、プリーストやエレメンタラーとしてちゃんと機能するのだろうか?
特に精霊使い。
ファンタジーモノの鉄板として、精霊は鉄を嫌うというのが有る。
エレメンタラーは金属装備が使えない。
これは意識したほうが良い。
リシアがそれを知っているのか定かではないが一応聞いてみたところ、確かにエレメンタラーは金属装備を避ける傾向にあるそうだ。
「魔法銀製の装備や魔法のかかった品なら問題ないみたいですよ」
「へー」
これもお約束。
この辺は俺のファンタジー知識と差は無いな。
「にしても、初心者冒険者なのに良く知ってるね」
「そうですね……。私は父や母と共にリベクさんのお手伝いとして商談や他所のお店に連れて行ってもらいますので、そこで色々と見聞きさせて頂いてますから、いつの間にか覚えていることが多いです。宝石や希少金属なら目利きや相場なども分かりますよ」
ちょっと得意顔になるリシアさん。
だがいちいち頭を撫でていると話が進まないのでここはグッと我慢した気になる(なでなで)
「じゃぁプリーストは、教義次第で刃物が使えなかったりするの?」
「刃物が使えない? どうしてですか?」
逆に聞き返されたってことは、そう言ったことは一切ないようだ。
だがこれもわからなくも無い。
元々刃物を使えないってのは坊主が「殺生はダメだからそれを起因するような刃物はダメ」って考えのところから来ていたはず。
だがそもそも自然界は弱肉強食である。
そんな世界を創った神を崇めての奇跡がプリースト魔法なら、そんな不自然な規則がある方がおかしい。
もう少し詳しく聞くと、エレメンタラーは精霊と交信するための〈精霊語〉が必要で、プリーストは特定の神様を信仰していないといけないそうだ。
「俺の場合は猫神様でもいけるのか?」
「ネコカミサマ、ですか?」
「うん、ちなみに猫神様は俺が作ったオリジナルの神様で、信者は俺しか居ない超マイナー神」
これには困り顔で呆れるリシア。
お願い引かないで。
ちなみに姿は真っ白な猫が赤いポンチョを着ている設定だ。
「教義というか、ご利益は『叶えたい願いがあればとにかく頑張れ。それでも不安なら猫に餌を上げてお祈りしろ。そうすればどんな願いでも猫神様が叶えてくれる。ただし、猫神様の気が乗れば』だけど」
追いすがるようにどうでもいい設定――もとい、教えを説く。
要は『人事を尽くして天命を待つ』を極めてバカっぽく言ってるだけである。
「ふふっ、トシオ様の傍にはすごい神様がいらっしゃるのですね」
するとリシアが冗談を受け入れ、屈託無い笑顔で笑ってくれた。
「いやいや、ちゃんと実在するんよ?」
足元に居る猫神様を両手で掴み、胸元で抱っこするパントマイムを披露する。
赤ちゃんを胸に抱くお母さんのイメージで。
「ほ、本当にいらっしゃるのですか!?」
「どうだろうね?」
と今度は胸元から顔に上がり踏みつけられ、「痛い痛い痛い」と言いながら爪を立てられた風を装い、首をゆっくり右に傾け顔の左側をしかめる。
「本当にそこに居るみたいです……」
目を見開きながらすごく歓心してくれた。
良いお客さんだ。
「まぁこれ位はね」
今度は顔を踏んでいる猫神様を両手で掴み、リシアに渡すと、慌てて赤子を抱えるように胸元で抱いて見せた。
「こ、こうですか?」
「はは、上手い上手い。ちゃんと出来てるよ」
ちゃんとできてはいるんだが、大きな胸が強調されてるだけにしか見えないのは俺の邪まな心が原因だ。
この後リシアに猫神様の容姿を説明したら、すごく……そう、すごくなんとも言えない表情で引きつった笑みになった。
一体なにが……?
そんなことをやっていると、ワイザーさんからリベクさんの執務室に二人で来るようにとの呼び出しを受けた。
俺もこの後伺うつもりだったので都合が良い。
リベクさんの執務室だが、俺達が寝起きしたり食事をしていた母屋とは離れた大きな建物の中にあり、いたるところで人の談笑などが聞こえて来た。
その声のする部屋を覗くと、きわどい衣装の女性や、別の場所では屈強な男達が少し見える。
…あ、そういえばリベクさんは奴隷商人だったな。
じゃぁあの人たちは商品ってことかな?
リシアのほかにも妾的な奴隷を……は流石にリシアの許可が無ければ無理な話だし、普通の女性がそれを許可するだなんて思えないので諦めよう。
この世界にリシア以上の女の子が居るとは思えない。彼女の嫌がることだけは絶対にしてはならないと心に誓う。
にしても、奴隷が談笑している奴隷の店ってのもある意味すごいな。
こんなの異世界漫画やラノベだけの世界で、実際には古代ローマを題材とした史実作品のイメージがあっただけに、少し拍子抜けする。
奴隷が談笑できる世界観の方が俺も好きだけど。
半歩先を歩いて先導してくれていたリシアが、扉の前で立ち止まりノックをする。
「リシアです」
「入りなさい」
「失礼します」
「失礼します」
「おっ来たねトシオくん、リシア」
リシアに続いて部屋に入ると、リベクさんが立派な事務机に着き、書類を握りながら迎えてくれた。
部屋にはジスタさんやベラーナさんも居る。
何気に〝くん〟付けに変わっているのは家族として受け入れてくれたからかな?
皆に向かって会釈をする。
「すまんがこっちはもう少しかかりそうなんだ、ちょっと待っていてもらえるかね?」
リベクさんはそう言うと、忙しなく書類とにらめっこする。
「お忙しそうですね」
「いやなに、昨日連れてきた者達の身元引き受け先を―っと、君にはまだ私の仕事を伝えて無かったかな」
ジスタさんに小声で言ったのだが、リベクさんが答えてくれた。
「はい、ですがなんとなくわかります」
「なら問題はなかろう。実は呼んだのはリシアの事でねぇ」
リベクさんの話によると、リシアは現在リベクさんの奴隷としてここで暮らしている。
というか家族以外の殆どを税金対策で奴隷として養っているそうだ。
なんでも奴隷と一般人では人頭税に約3倍の差が有るとか。
ちなみに奴隷は奴隷商人が使う奴隷化魔法によって〈奴隷紋〉と呼ばれる紋章を刻むことで縛り、『主人の命令に絶対服従』『主人に危害を加えるな』などの設定出来る。違反すれば凄まじい苦痛を受け、最悪死ぬことも有るとか。
あと主人が死んだときは『開放される』とか『一緒に死ぬ』などの設定も出来るそうだ。
テンプレートな設定だ。
リベクさんは自分のところで働いている奴隷にはちゃんと給金を払い、自分の死後解放することになっているとか。
食費や住居費、人頭税分は抜かれているらしいが、普通に給料が出て税金が少ないなら、この家の住人からすれば奴隷の方が良いわな。
しかも昨日頂いた食事はどれも家庭的でやや薄味だが、とても美味しかった。
「それでだねぇ、リシアの身柄をどうしようかと思って君に来てもらった訳だよ」
あぁなるほど、リシアを奴隷として引き取るか、奴隷から開放して引き取るかってことか。
奴隷として引き取る場合は妻とは認められない。あくまで所有物になるそうだ。
まぁ妻であることを隠して奴隷と言い張るって手も有る訳だが。
「俺は彼女を妻として迎えたつもりです。奴隷から解放してもらえればと思います」
そう応えると、ジスタさん夫妻が安堵の表情を浮かべた。
「…あの、よろしいでしょうか?」
しかし、すぐさまリシアが畏まった様子で声を上げた。
「どうかした?」
「はい…、トシオ様にそう思われているだけで私は十分幸せです。…ですが、私はトシオ様との強い繋がりが欲しいです。トシオ様さえよろしければ奴隷としておそばに置いて欲しいです…」
この子は男心をくすぐる天才なのではないだろうか…。
『束縛して欲しい』
可愛い女の子にそう言われたいという願望を夢想する男が星の数程居て溢れかえっているくらいだ。
だが実際束縛されたいと思う女性は言うほど多くは無いはず。
なのに魔法で奴隷として拘束出来てしまう世界でそれを言ってのけるのは、並みの決意ではないだろう。
これは彼女の俺に対する愛の深さである。
ジスタ夫妻もそれがわかっているので歯を食いしばって口出しをしなかった。
ならば一生を費やしてでも、俺はそれに応えなければならない。
「わかった。リシアがそう望むならそうしよう。俺もリシアを他の誰かの物になんてさせたくないから、君を一生繋ぎ止めたい」
「ありがとうございます…」
「話は決まったことだし、早速だがぱぱっとやってしまおう」
そう言ってリベクさんが取り出したのは、なにやら文字が書かれた紙と、インクの入った小さな瓶と畳針サイズの鋭い大きな針だった。
まさか…。
「すまんがトシオくん、このインクに君の血をもらえるかね?」
ですよねぇ……。
「は、はい…」
実は軽度とはいえ先端恐怖症で、この歳になっても注射針が体内に入ってると想像するだけで手に変な汗が出るのだ。
えっと、これで刺すの?
どうやって?
指先……は無いな、神経が集中してるから鋭利な異物が刺さったと実感しちゃうもん……あ、こうすれば。
先端が僅かに隠れるくらいに針を握り締め、手を打つように小指球を刺した。
たいした痛みも無く、ジワリと血が滲む。
「こんなのでよろしいでしょうか?」
指した場所を絞ってインクの小瓶に数滴たらす。
「結構結構」
リベクさんはそのインクを使って紙になにやら書き込み、リシアに見せる。
「これでいいかね?」
「あとこれもお願いします」
「なっ……本当にいいのかね?」
「はい、お願いします」
リベクさんはリシアに念押すと、再び紙に書き込みを加えてその紙を上に投げた。
投げられた紙から帆脳が上がり、一瞬で燃え尽きる。
「これで契約は結ばれた。トシオくん、これから君の死はリシアの死でもあると肝に銘じておいてほしい」
「「「な!?」」」
リベクさんの言葉に俺とジスタさん夫妻は驚愕の声をあげた。
『主人が死ぬと使役されている奴隷も死ぬ』
先程リシアがリベクさんに願い出ていたのはそれだったのだ!
「リシア、なんてことを…!」
渋い顔でリシアに詰め寄るジスタさん。
「お父さんお母さん、ごめんなさい。でも私はもうトシオ様の居ない世界で生きていくことなんてできないの。だから…」
両親にそう伝え、ぽろぽろと涙をこぼすリシア。
ベラーナさんはそんな娘の意を汲み取り、強く娘を抱きしめた。
ジスタさんの視線が俺に向けられると、俺は頭を下げることしか出来なかった。
リベクさんの俺達二人に対する用事はこれだけだったので、次は俺の用件をリベクさんに伝えることにした。
1.これからは冒険者としてやっていこうと思っている。
2.出来るだけ早くこの家を出ようとも思っている。
恐らく俺がこの家に居れば、リベクさんは仕事を斡旋してくれるだろう。
それだけで生きていくことは可能となる。
それではリベクさんの庇護に依存しかねない。
そんな揺り篭の中に居ては、皆を探しに旅立つことが出来なくなってしまう。
リベクさんに俺の今後を告げる。
「君の意思は尊重するが、当面は家に居なさい」
「……わかりました。ですが、さすがにあの豪華な客間を使わせてもらう訳にはいきません」
「なら丁度空きの有る家があってね、少し補修しなければならないが、すぐに手配しよう。家の手入れが終わるまで別の部屋を用意するから、そこを使ってくれたらいい。なぁに、ちゃんと家賃は取り立てるから気せんでくれたまえ」
家賃を取るのは俺が引け目を感じないようにとのリベクさんの配慮であろう。
リシアの事といい住居のことといい、俺のような見ず知らずの人間に、リベクさんは本当によくしてくれている。
俺はこのお茶目なおじさんとジスタさん夫妻には一生頭が上がることはないだろう。
ただ、俺が客間は使えないと申し出た辺りで、リベクさんが変な笑みを浮かべていたのが気にかかる。
このおっさん、絶対にまた何かやらかす気だ……。
ベース:Lv16
ジョブ1:プリースト
ジョブ2:エレメンタラー
リシアの職業を変えたは良いが、プリーストやエレメンタラーとしてちゃんと機能するのだろうか?
特に精霊使い。
ファンタジーモノの鉄板として、精霊は鉄を嫌うというのが有る。
エレメンタラーは金属装備が使えない。
これは意識したほうが良い。
リシアがそれを知っているのか定かではないが一応聞いてみたところ、確かにエレメンタラーは金属装備を避ける傾向にあるそうだ。
「魔法銀製の装備や魔法のかかった品なら問題ないみたいですよ」
「へー」
これもお約束。
この辺は俺のファンタジー知識と差は無いな。
「にしても、初心者冒険者なのに良く知ってるね」
「そうですね……。私は父や母と共にリベクさんのお手伝いとして商談や他所のお店に連れて行ってもらいますので、そこで色々と見聞きさせて頂いてますから、いつの間にか覚えていることが多いです。宝石や希少金属なら目利きや相場なども分かりますよ」
ちょっと得意顔になるリシアさん。
だがいちいち頭を撫でていると話が進まないのでここはグッと我慢した気になる(なでなで)
「じゃぁプリーストは、教義次第で刃物が使えなかったりするの?」
「刃物が使えない? どうしてですか?」
逆に聞き返されたってことは、そう言ったことは一切ないようだ。
だがこれもわからなくも無い。
元々刃物を使えないってのは坊主が「殺生はダメだからそれを起因するような刃物はダメ」って考えのところから来ていたはず。
だがそもそも自然界は弱肉強食である。
そんな世界を創った神を崇めての奇跡がプリースト魔法なら、そんな不自然な規則がある方がおかしい。
もう少し詳しく聞くと、エレメンタラーは精霊と交信するための〈精霊語〉が必要で、プリーストは特定の神様を信仰していないといけないそうだ。
「俺の場合は猫神様でもいけるのか?」
「ネコカミサマ、ですか?」
「うん、ちなみに猫神様は俺が作ったオリジナルの神様で、信者は俺しか居ない超マイナー神」
これには困り顔で呆れるリシア。
お願い引かないで。
ちなみに姿は真っ白な猫が赤いポンチョを着ている設定だ。
「教義というか、ご利益は『叶えたい願いがあればとにかく頑張れ。それでも不安なら猫に餌を上げてお祈りしろ。そうすればどんな願いでも猫神様が叶えてくれる。ただし、猫神様の気が乗れば』だけど」
追いすがるようにどうでもいい設定――もとい、教えを説く。
要は『人事を尽くして天命を待つ』を極めてバカっぽく言ってるだけである。
「ふふっ、トシオ様の傍にはすごい神様がいらっしゃるのですね」
するとリシアが冗談を受け入れ、屈託無い笑顔で笑ってくれた。
「いやいや、ちゃんと実在するんよ?」
足元に居る猫神様を両手で掴み、胸元で抱っこするパントマイムを披露する。
赤ちゃんを胸に抱くお母さんのイメージで。
「ほ、本当にいらっしゃるのですか!?」
「どうだろうね?」
と今度は胸元から顔に上がり踏みつけられ、「痛い痛い痛い」と言いながら爪を立てられた風を装い、首をゆっくり右に傾け顔の左側をしかめる。
「本当にそこに居るみたいです……」
目を見開きながらすごく歓心してくれた。
良いお客さんだ。
「まぁこれ位はね」
今度は顔を踏んでいる猫神様を両手で掴み、リシアに渡すと、慌てて赤子を抱えるように胸元で抱いて見せた。
「こ、こうですか?」
「はは、上手い上手い。ちゃんと出来てるよ」
ちゃんとできてはいるんだが、大きな胸が強調されてるだけにしか見えないのは俺の邪まな心が原因だ。
この後リシアに猫神様の容姿を説明したら、すごく……そう、すごくなんとも言えない表情で引きつった笑みになった。
一体なにが……?
そんなことをやっていると、ワイザーさんからリベクさんの執務室に二人で来るようにとの呼び出しを受けた。
俺もこの後伺うつもりだったので都合が良い。
リベクさんの執務室だが、俺達が寝起きしたり食事をしていた母屋とは離れた大きな建物の中にあり、いたるところで人の談笑などが聞こえて来た。
その声のする部屋を覗くと、きわどい衣装の女性や、別の場所では屈強な男達が少し見える。
…あ、そういえばリベクさんは奴隷商人だったな。
じゃぁあの人たちは商品ってことかな?
リシアのほかにも妾的な奴隷を……は流石にリシアの許可が無ければ無理な話だし、普通の女性がそれを許可するだなんて思えないので諦めよう。
この世界にリシア以上の女の子が居るとは思えない。彼女の嫌がることだけは絶対にしてはならないと心に誓う。
にしても、奴隷が談笑している奴隷の店ってのもある意味すごいな。
こんなの異世界漫画やラノベだけの世界で、実際には古代ローマを題材とした史実作品のイメージがあっただけに、少し拍子抜けする。
奴隷が談笑できる世界観の方が俺も好きだけど。
半歩先を歩いて先導してくれていたリシアが、扉の前で立ち止まりノックをする。
「リシアです」
「入りなさい」
「失礼します」
「失礼します」
「おっ来たねトシオくん、リシア」
リシアに続いて部屋に入ると、リベクさんが立派な事務机に着き、書類を握りながら迎えてくれた。
部屋にはジスタさんやベラーナさんも居る。
何気に〝くん〟付けに変わっているのは家族として受け入れてくれたからかな?
皆に向かって会釈をする。
「すまんがこっちはもう少しかかりそうなんだ、ちょっと待っていてもらえるかね?」
リベクさんはそう言うと、忙しなく書類とにらめっこする。
「お忙しそうですね」
「いやなに、昨日連れてきた者達の身元引き受け先を―っと、君にはまだ私の仕事を伝えて無かったかな」
ジスタさんに小声で言ったのだが、リベクさんが答えてくれた。
「はい、ですがなんとなくわかります」
「なら問題はなかろう。実は呼んだのはリシアの事でねぇ」
リベクさんの話によると、リシアは現在リベクさんの奴隷としてここで暮らしている。
というか家族以外の殆どを税金対策で奴隷として養っているそうだ。
なんでも奴隷と一般人では人頭税に約3倍の差が有るとか。
ちなみに奴隷は奴隷商人が使う奴隷化魔法によって〈奴隷紋〉と呼ばれる紋章を刻むことで縛り、『主人の命令に絶対服従』『主人に危害を加えるな』などの設定出来る。違反すれば凄まじい苦痛を受け、最悪死ぬことも有るとか。
あと主人が死んだときは『開放される』とか『一緒に死ぬ』などの設定も出来るそうだ。
テンプレートな設定だ。
リベクさんは自分のところで働いている奴隷にはちゃんと給金を払い、自分の死後解放することになっているとか。
食費や住居費、人頭税分は抜かれているらしいが、普通に給料が出て税金が少ないなら、この家の住人からすれば奴隷の方が良いわな。
しかも昨日頂いた食事はどれも家庭的でやや薄味だが、とても美味しかった。
「それでだねぇ、リシアの身柄をどうしようかと思って君に来てもらった訳だよ」
あぁなるほど、リシアを奴隷として引き取るか、奴隷から開放して引き取るかってことか。
奴隷として引き取る場合は妻とは認められない。あくまで所有物になるそうだ。
まぁ妻であることを隠して奴隷と言い張るって手も有る訳だが。
「俺は彼女を妻として迎えたつもりです。奴隷から解放してもらえればと思います」
そう応えると、ジスタさん夫妻が安堵の表情を浮かべた。
「…あの、よろしいでしょうか?」
しかし、すぐさまリシアが畏まった様子で声を上げた。
「どうかした?」
「はい…、トシオ様にそう思われているだけで私は十分幸せです。…ですが、私はトシオ様との強い繋がりが欲しいです。トシオ様さえよろしければ奴隷としておそばに置いて欲しいです…」
この子は男心をくすぐる天才なのではないだろうか…。
『束縛して欲しい』
可愛い女の子にそう言われたいという願望を夢想する男が星の数程居て溢れかえっているくらいだ。
だが実際束縛されたいと思う女性は言うほど多くは無いはず。
なのに魔法で奴隷として拘束出来てしまう世界でそれを言ってのけるのは、並みの決意ではないだろう。
これは彼女の俺に対する愛の深さである。
ジスタ夫妻もそれがわかっているので歯を食いしばって口出しをしなかった。
ならば一生を費やしてでも、俺はそれに応えなければならない。
「わかった。リシアがそう望むならそうしよう。俺もリシアを他の誰かの物になんてさせたくないから、君を一生繋ぎ止めたい」
「ありがとうございます…」
「話は決まったことだし、早速だがぱぱっとやってしまおう」
そう言ってリベクさんが取り出したのは、なにやら文字が書かれた紙と、インクの入った小さな瓶と畳針サイズの鋭い大きな針だった。
まさか…。
「すまんがトシオくん、このインクに君の血をもらえるかね?」
ですよねぇ……。
「は、はい…」
実は軽度とはいえ先端恐怖症で、この歳になっても注射針が体内に入ってると想像するだけで手に変な汗が出るのだ。
えっと、これで刺すの?
どうやって?
指先……は無いな、神経が集中してるから鋭利な異物が刺さったと実感しちゃうもん……あ、こうすれば。
先端が僅かに隠れるくらいに針を握り締め、手を打つように小指球を刺した。
たいした痛みも無く、ジワリと血が滲む。
「こんなのでよろしいでしょうか?」
指した場所を絞ってインクの小瓶に数滴たらす。
「結構結構」
リベクさんはそのインクを使って紙になにやら書き込み、リシアに見せる。
「これでいいかね?」
「あとこれもお願いします」
「なっ……本当にいいのかね?」
「はい、お願いします」
リベクさんはリシアに念押すと、再び紙に書き込みを加えてその紙を上に投げた。
投げられた紙から帆脳が上がり、一瞬で燃え尽きる。
「これで契約は結ばれた。トシオくん、これから君の死はリシアの死でもあると肝に銘じておいてほしい」
「「「な!?」」」
リベクさんの言葉に俺とジスタさん夫妻は驚愕の声をあげた。
『主人が死ぬと使役されている奴隷も死ぬ』
先程リシアがリベクさんに願い出ていたのはそれだったのだ!
「リシア、なんてことを…!」
渋い顔でリシアに詰め寄るジスタさん。
「お父さんお母さん、ごめんなさい。でも私はもうトシオ様の居ない世界で生きていくことなんてできないの。だから…」
両親にそう伝え、ぽろぽろと涙をこぼすリシア。
ベラーナさんはそんな娘の意を汲み取り、強く娘を抱きしめた。
ジスタさんの視線が俺に向けられると、俺は頭を下げることしか出来なかった。
リベクさんの俺達二人に対する用事はこれだけだったので、次は俺の用件をリベクさんに伝えることにした。
1.これからは冒険者としてやっていこうと思っている。
2.出来るだけ早くこの家を出ようとも思っている。
恐らく俺がこの家に居れば、リベクさんは仕事を斡旋してくれるだろう。
それだけで生きていくことは可能となる。
それではリベクさんの庇護に依存しかねない。
そんな揺り篭の中に居ては、皆を探しに旅立つことが出来なくなってしまう。
リベクさんに俺の今後を告げる。
「君の意思は尊重するが、当面は家に居なさい」
「……わかりました。ですが、さすがにあの豪華な客間を使わせてもらう訳にはいきません」
「なら丁度空きの有る家があってね、少し補修しなければならないが、すぐに手配しよう。家の手入れが終わるまで別の部屋を用意するから、そこを使ってくれたらいい。なぁに、ちゃんと家賃は取り立てるから気せんでくれたまえ」
家賃を取るのは俺が引け目を感じないようにとのリベクさんの配慮であろう。
リシアの事といい住居のことといい、俺のような見ず知らずの人間に、リベクさんは本当によくしてくれている。
俺はこのお茶目なおじさんとジスタさん夫妻には一生頭が上がることはないだろう。
ただ、俺が客間は使えないと申し出た辺りで、リベクさんが変な笑みを浮かべていたのが気にかかる。
このおっさん、絶対にまた何かやらかす気だ……。
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