四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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29話 ローザ

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「ここが新しい家です」
「でけぇよ!」

 連れてこられたのは冒険者ギルドにそこそこ近い庭付きの一軒家。
 車庫の様なものまであるのでなんか邸宅と呼びたくなるような大きさだと思うのは、日本人だからであろうか?
 さすがにリベクさんの屋敷程ではないが、一般家庭からすれば十分すぎる程に大きい。
 モリーさんのお店もそこそこ広かったがあくまでも向こうは店舗であり、それと比べても1.5倍くらいの大きさだった。
 実際にモリーさんのお店の真裏で、完全にお店が隠れてしまっている。

 偶然だよな……?
 てかここに住むってことは、モリーさんに挨拶しにいかなきゃダメなんじゃね?

 昨日のアレを思い出してぐんにょりとした気持ちになりながらも敷地に入り、大き目な正面玄関の扉を開いた。

 玄関だ……うん、玄関。
 普通に玄関土間があってそこで靴を脱いで上がる、日本の一般住宅のような作りの玄関だ。

 まさかファンタジーな世界に来て日本家屋みたいな内装とは恐れ入った。

 しかも既に靴が1足脱ぎ揃えられてる。
 玄関から真っ直ぐ廊下が伸び、廊下の突き当たりには裏口の扉が見える。
 廊下の中央には左へ曲がる通路があり、その奥には二階へ続く階段はがある。
 そして廊下の右側には扉が二つ。
 手前のは空いており、奥にある扉は閉まっている。

「上がられないのですか?」
「あ、あぁ……」

 リシアに促されるまま靴を脱いで上がった。

 廊下がワックスでも塗ったようにピッカピカなんですが…。

 そのまま右手にある一番手前の扉を開くと、リビングダイニングとなっており、リベクさんのところの食堂にあった脚の短な広くて長い大きめのテーブルと、座布団数枚がフローリングの床に置かれている。

 十数人が並んで宴会ができる程広いの何なの?
 田舎でもここまで広い部屋はそうは無いだろ。
 
 その先は土間に繋がっていて、レンガで出来た釜戸があり、タイル作りのシンクの下には排水管の様なものがあることから排水路は完備されているようだ。
 二階から入るさわやかな風が、開け放たれた土間の扉から抜けていく。

 これで囲炉裏があれば完璧だな。
 
 第一印象はそれだったが、もっと気になる存在が視界に入る。

「おかえりなさい、トシオさん……」

 そのリビングでお茶を飲みながらおっとりとした口調でそう迎えてくれたのは、今まで俺を避けていたはずのローザだった。
 少し薄着な町娘風の恰好をした彼女だが、顔は相変わらず熱っぽくて辛そうだ。
 そしてそのローザの隣では、赤いポンチョを着た白い猫が座り、一瞬だけ俺達に目を向けるもすぐに無視。
 床に置かれた皿の肉を租借している。

 ルーナ迄居るのか。

「ただいまっ」

 俺はあえて普通に返事をしてから彼女の前に座ると、リシアは俺の隣ではなくローザの隣に座る。

「えっと、なんでローザがここに?」

 一番に思ったことを率直に口に出すと、ローザが益々頬を赤くして俯いてしまったが、何かに期待するように時々こちらを上目遣いで見てくる。

 うん、正直普通に可愛いと思ってしまう今の俺には気が散るから、そういう仕草はちょっとやめなさい。
 あと胸元のやわらかそうな谷間がリシア以上の暴力性を持っているので余計状況に集中できない。

「えっとですね、ローザちゃんも今日から私達と暮らすことになっていまして……」
「……え、そうなの?」

 リシアは「どう話せばいいかなぁ?」みたいな表情で更に言葉を続ける。

「あのですね、ローザちゃんもトシオ様の事を好きになってしまったので、私としてもローザちゃんの想いを叶えてあげたくて……」
「その、トシオさんの…、いえ、トシオ様の奴隷としてここに置いて頂ければと……」

 あまりの突拍子の無い言動にめまいを覚える。
 ……家政婦としてとかなら兎も角なんでいきなり奴隷なんだ。

「それでこうして奴隷契約も……」

 ローザは立ち上がり服をめくってその我侭なお腹を見せると、なにやら薄っすらと紋章の様なものが浮かんでいる。

「これってもしかして……」
「奴隷紋です……」

 リシアを見るとこくりと頷いた。
 え、てことはリシアのお腹にもこんな紋章があるの?

 実はリシアのお腹を明るいところで見たことが無いので、今まで全然気付かなかった。

 そして紋章の場所が場所だけに、俗に言う淫紋みたいでなんかエロい……。
 ……いやそうじゃなくて!
 なんで奴隷契約が勝手にされてるんだ!?

 ステータスウィンドウを開き従者の欄を慌てて確認する。


使役奴隷
リシア
ローザ

使役モンスター
なし


 いつの間にか登録されているローザの名前。

 奴隷契約には主人の血が必要なんじゃなかったのか?

 必要なものは主人の血の入ったインクである。
 実際に契約の手続きを一から見てやったことがあるだけにはっきりと覚えているので間違いない。

 ……ああああああああああ!?
 リベクさんが俺の血が入ったインクの瓶を捨てる所を見ていない!?
 そしてリシアと奴隷契約をした時のあの笑み、更にはリシアと一緒になってしている悪だくみっぽい内緒話!
 あのおっさん、あの時からこれを狙ってたのか!?

「家事は全て私がやります! 戦いだってこれから覚えますからどうかお傍に置いて下さい!」
「二人でならこの家の管理は十分してみせますので、私からもお願いします!」

 リベクさんの企みに強い脱力感を味わっている俺へ、二人が悲痛に訴えてくる。

「二人とも、少し落ち着いて……」

 いや、落ち着くのは自分もだな……。

「ちょっとそれもらえる?」

 喉の渇きに我慢できず、俺はローザの飲みかけのお茶を飲み干す。
 こうして無理やり一息入れ、冷静に今の状況を整理する。

 まずなんでローザが俺のことを好きになっているのかがわからんし、突然奴隷契約なんて頭のネジが飛んでるとしか思えない暴挙に出たのかも想像が付かない。

 想像はできないが、本人が目の前に居るんだし聞いてみるのが一番早いか。

「そもそもローザがなんで俺を好きになるのかがわからないんだけど、まずそこから教えてくれないかな?」

 呆けた表情で俺と空のコップを見ていたローザが、はっとなって我に返る。

「……私はこんな見た目ですから、男の方からは誰にも好きになってはもらえなくて……。それなのにトシオ様はこんな私をずっと気にかけてくれてるのが嬉しくて、気が付いたら好きになっていて、今も私が口をつけた飲み物を気にせず飲んでくださいますし……」

 感情が高ぶって来たのか、途中から涙目でぽつぽつと訴えると、再び口を閉ざし俯いた。
 訴えているときのローザがとても健気で愛おしく思う。
 リシアの折れ耳と同じで、彼女は自分の肥満体をコンプレックスに思っているようだ。
 だが俺の性癖が残念な程に悪食で、それすら魅力に感じ始めているため全く問題ではない訳だが。

「えっと、正直ローザのことは異性としてすごく魅力的な女性だとは思うんだけど、傍に置くと手を出したくなる。リシアの事を考えるとそれは困るかなと」
「私は全然気にしませんよ?」

 今のはかなり危うい発言に思えてヒヤヒヤしていたのだが、当の本人であるリシアがあっけらかんと言ってのけた。

 聞き間違いか?

「んん?」
「トシオ様がローザちゃんも愛してくれるなら、私も嬉しいです……」
「え、良いの?」
「はい。これまでと同じように――いえ、これまで以上に私を愛してくださるのなら、トシオ様がローザちゃんだけでなく、他の女性と関係を結ぶことにも異論はありません」

 まさかの正妻によるハーレム許可が下りた。
 お金の時と同様、さすがにそれも男にとって都合よすぎる。
 だがここを通しておけば、今後のPTメンバーの拡充や活動の幅が広がりやすくなるのも確かだ。
 どう転ぶかはわからないが、ここが敢えて乗らせてもらおう。

「……わかった。これからは必要な場合は女性を迎え入れることにする。けど、それでリシアを蔑ろにすることは絶対にしないと約束するよ」

 そう宣言してリシアとローザの間に入り二人を抱き寄せる。
 風の通る涼しいリビングに、二人の体温が心地よい。
 
「約束ですからね?」

 上目遣いで甘えた声のリシアを片手で抱きしめキスをする。

「ローザも二番目の奥さんとして、これからはよろしくね」
「はい……」

 次にローザを抱き寄せ唇を奪うと、ローザも力いっぱい俺に縋りつき、胸に顔を埋めて嗚咽を漏らし始める。
 初めて男性に好意を向けられたことで、彼女が抱えていた不安と昂りが、涙となって流れ出る。
 それが静まるまで優しく髪を撫でてあやし続ける。

 今になってリベクさんがあの大金を惜しげもなく俺に渡した理由がわかる。
 あれは恐らくローザの結納金の様なもの。
 結納は本来ならば男の俺が支払うところだが、これだけの大金を渡すからローザを大事にしてくれというリベクさんの願いであり親心であろう。

 それを汲み取らなくて、何が恩返しなのか。
 恩返しにもなっているかが怪しいところだが、今はこれで良しとしよう。

 家の中を吹き抜ける風が、ローザの心の淀みを連れていった。
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