144 / 254
136話 勇者召喚システム
しおりを挟む
勇者召喚に対する疑問を払拭するために、俺は王女以外で勇者召喚を知りうる人物にコンタクトを取ることにした。
ピロン♪
《トシオがチャットルームに入室しました》
『ただいも~』
『おかえりなさい』
『これ程頻繁に戻って来るとは珍しいな』
『どないしたんや?』
『おおう、皆まだ居たんだ』
俺達の中で勇者召喚を実際にやってのけたレンさんに話しを聞きに来たのだが、現在朝の7時ほど。
時差的には全員居るとは思っていなかった。
特に〈大福時間〉では午前1時くらいの大福さんね。
『ちょっとレンさんに聞きたいことがあって』
『なんだ?』
『レンさん、自分で勇者召喚を使ってぼっちさんを呼んだんだよね?』
『あぁ、俺自ら呼びだしたが、それがどうかしたか?』
『勇者召喚の詳細と、勇者召喚は誰がもたらしたとかわかる範囲で教えて欲しいんだけど』
『詳細か……。まず勇者召喚だが、ダンジョンコアが組み込まれた召喚陣を用いて行われる。召喚には膨大な魔力が必要だ。ただし、このまま召喚をしても日本人の誰が呼び出されるかはランダムだ。そのため、召喚コスト以外にも勇者を選定するための魔力と選定するためのアイテムが必要となる』
『ほうほう』
『不測の事態で足りない魔力を補うため、ダンジョンコアをフル稼働させて廃炉してしまったのは不味かった』
そういうと、ぼっちさんが会社から休日の深夜に出勤命令が下り、レンさんが予想していた場所に居なかったので長時間探す羽目になったのが原因だと教えてくれた。
『場所と日時を決め打ちし、いざ呼び出そうとしたらその場に居ないのだ。更に一度勇者召喚に入ると中断出来なくなるとは思わなかった。それくらい仕様書に書いておくだろ普通』
『書いてなかったんかいな』
『あぁ。魔力切れの前に見つけられたのが不幸中の幸いだった』
レンさんが恨みの籠った口調でぼやくと、大福さんも呆れる。
ずさんな仕様書もさることながら、休日の深夜に呼び出しとか、ぼっちさんの会社がブラックにも程がある……。
てかダンジョンコアってオーバードライブも出来るのか。
そして選定に使う魔力をケチると、アキヤの様な人格破綻者や、よしのんの様な戦闘に向いてなさそうな女の子を呼び出されるんだな。
でもなんで日本人限定なんだろ?
『勇者の選定に必要なアイテムってなんです?』
『どうやって選定するの?』
シンくんが細かなところに興味を示し、俺も気になったので便乗する。
この世界から元の世界の人間を選ぶってどうやるんだろ?
『選定には〈遠見の宝珠〉と言う、その名の通り遠くの物を見る水晶球を召喚陣に組み込んで使用する。〈遠見の宝珠〉は名前は違えどファンタジー物では定番のアイテムだな。使用感は覗き見たい国を選択してから魔力を込めることで、どのような場所でも見られるようになる。これは倍率の変更も可能なため、個人をピックアップすることもできる』
『何処でも見れるって便利ですね』
『いや、それは逆にヤバいんとちゃうか?』
〝どのような場所でも見れるとかすごいなぁ〟なんてシンくんと同じことを思っていると、大福さんが危険性を訴える。
『特にお偉いさんの会議とか覗き放題はマズいやろ』
『まぁな。なので、重要施設などは妨害魔法で普通に遮断されている。まず見ることは出来ないと思った方がいい』
『なんや、やっぱそうなんか』
『意外と制限を受けるんですね』
そうウマい話は無いということか。
そして3人が真面目な話をしてる中、女風呂覗き放題かよとか思ってましたごめんなさい。
妻達と一緒に風呂に入っている俺としては、今更女風呂なんて覗く必要性が微塵も無いが。
〝でも~、そういうのがすぐ思い浮かぶとか~、男子ってキモいよね~〟
顔をうっすらとしか覚えていない様な元同級生の女子にそんなことを言われた気がした死にたい。
『ちなみにだが、大衆浴場も覗きは不可能だ』
『へ、へぇ~……』
レンさんが俺の思考を見透かしたかの様な注釈を入れて来たのですっとぼけた返事をするも、余計に死にたくなる。
『その〈遠見の宝珠〉だが、召喚陣に組み込まれたものに限り、国の選択に何故か異世界である日本も含まれる様になる。その後の映像は念じれば思いのままだ。それと、距離よって必要な消費魔力も変わってくる。日本を長時間見続けるとなると、勇者召喚に匹敵する莫大な魔力が必要だ』
そう言うと、レンさんは〝ぼっちさんを探した際、奴が自宅に居なかったのにはあせらされた〟と付け加えた。
こちらの世界から向こうを見れるのは良いな。
俺の今期で一番お気に入りのアニメ〈機甲兵装ヴァルガラック〉の続きとか見れないかなぁ。
一週間遅れで放送される関西の俺からすれば、関東の放送分で言えばもう5話分くらい未視聴なんだよな。
最終回が2クールの24話前後だとして、残りは丁度10話、大体230~250分位か?
ダンジョンコア一つあればいけるかな?
何気にダンジョンコアとアニメ250分の尺を等価に考えだした辺り、先程の女風呂以上に業が深いし頭も悪い。
『それと勇者召喚をもたらしたとされる者だが、城にあった文献を見た限りでは、400年程前に俺の居る国が建国された際、謎の賢者がもたらしたと記されていた』
『建国と同時期にかいな?』
『あぁ』
『他の国はどうなんやろ?』
『あ、じゃぁちょっと聞いてみますね。――僕の国も建国と同時に勇者召喚が出来るようになったみたいです』
大福さんの疑問にシンくんが傍に居るであろう恋人からの情報を告げる。
『違う大陸でも似たようなことしとんのか』
『シン、建国した時期はわかるか?』
『まってくださいね。――建国したのが500年くらい前だそうです』
レンさんの問いに再びシンくんが答える。
『建国記念プレゼントかな?』
『くくっ、上手いこと言うな』
俺の適当な冗談にレンさんが小さく笑う。
『だが、異世界から人間を召喚する術を確立させるほどの魔法技術を、はるか昔に違う大陸で一世紀離れでも同じように広めてたとなると、やはり古代魔法人が関わっているだろうな』
『……文献って、他にはどんな内容が書かれてるのか教えてくれる?』
『あぁ、勇者召喚を伝えた賢者はもしかすると古代魔法人ではないかと昔の人間も予想していた様だ。ダンジョンコアもそいつがもたらしたモノであるとも記されているな。召喚方法も先程述べた通り、遠見の宝珠を用いて目標をロックの魔改造も記されていたようだ。あとは魔法陣に魔力を注いで簡単な呪文を唱えれば終了というお手軽なものだ。それと、別の文献にはこれまで召喚された勇者の記録がある。ぼっちさんも先程から書記官に質問攻めされているし、いずれは国の書庫に奴の記録が後世に残る事だろう』
ぼっちさんのくだりでは、何やら含みのある楽し気な声音で聞こえてきた。
基本的にぼっちさんは弄られキャラな上に、弄る頻度はドSのレンさんが一番高い。
リアルでも頻繁に会っている2人だし仲は良いのだろうけど、程々にしてあげてと心の中で願っておく。
口に出して窘めない所がミソだ。
しかし、魔力を注いで呪文唱えただけで勇者が呼べるとか、魔力を集めるのは大変そうだけど、それ以外はインスタントラーメン並みにお手軽だなぁ。
……ん? 魔力を注ぐだけ? ダンジョンコアを使い潰さなくても良いってことか?
そういえばさっきも〝ダンジョンコアの魔力が足りなかったから無茶して廃炉にした〟と言っていたし、別にダンジョンコアそのものを使わなくてもいいのかな?
一応確認しておこう。
『魔力って、ダンジョンコアじゃなくても別に構わないの?』
『あぁ、ダンジョンコアは必ずしも必要とはしない。それこそモンスターが落とす〈魔核〉と呼ばれる魔力蓄電池の様なアイテムで代用可能だ。問題はダンジョンコア一基分の魔核ともなると、国庫をカラにしてもまず集まらん。魔核を使うくらいなら、数十年放置するだけで勝手に勇者召喚に必要な魔力が集まるダンジョンコアの方が合理的だ』
〝召喚に使うならやっぱりダンジョンコアが一番便利だよね〟に戻ってくる訳か。
『逆に召喚した相手を日本に送り返すんは可能なんか?』
『どうだろうな。勇者召喚に関する文献に送還方法は書かれてはいない。だが召喚魔法で向こうに干渉できるのだ、その逆もまた可能ではないのか?』
大福さんが送り返すという逆転の発想をするも、送り返す手段までは確立されていないと告げられた。
もし可能なら、性格的に危険な奴は片っ端から強制送還してやればと思ったが、方法が無いのでは仕方ない。
『しかし、試す手段がない以上、こればかりは古代魔法人に直接聞いてみるしかないな』
『〈魔道具師〉みたいなのに頼んで解析できんのか?』
大福さんの言う魔道具師とは、イルミナさんの様な魔道具を作成できる職のことだ。
『魔道具師と一言でいっても、魔法剣を作れる程度のなら大きな国ならば十数人は居るが、勇者召喚のシステムを解析出来る程の者は大陸に1人居るかすら怪しいところだ』
『うちの奥さんの話しだけど、オリジナル魔法を作れるほどの魔道具師は魔族領でも民間にはあまり居ないんだってさ』
レンさんの憶測に、それすらも怪しいとを付け足しておく。
『意外と居ないものなんですね』
『やっぱ古代魔法人に聞くしかないか』
シンくんの率直な言葉に大福さんも諦め納得ムード。
アイヴィナーゼに行けば勇者召喚陣を見せてもらえるかな?
もしイルミナさんが解析出来れば、送り返す手段も構築できるかもしれない。
俺達4人の場合は元々ファンタジーが好きな方だし、全員がこちらの世界に恋人や奥さんが居るため帰りはしないだろう。
しかし、これ程勇者召喚や異世界人が横行している世界だ、今後日本に恋人や妻子を残して帰還を望む人と遭遇した場合を考慮し、帰還手段は確保しておきたい。
『んー、かと言って、成功するか分からないのに誰かを送り返すってのも、怖いものがあるなぁ』
『失敗して異次元や宇宙空間へ送ってしまうと、流石に罪悪感で心が摩耗しかねんぞ』
レンさんが失敗の具体例を挙げる。
レンさんですらそこには罪悪感が湧くようだ。
『それなら試しになにか適当なモンスターでも送ってみたらいいんじゃないですか?』
『ワシもシンくんの案に賛成やな。せやけど、下手なモン送ったらその辺の川にアリゲーターガーを放流するみたいなことにならんか?』
『『『確かに』』』
大福さんの意見ももっともだ。
送るものがゴブリンでは、凶悪殺人鬼を解き放つのと変わらないのでそれ以上に質が悪い。
仮に送るとしても、出来るだけ安全なのを選ぶようにしなければならない。
かと言って、スリープゴートなんて放っても喜ぶ奴なんてあまりいないしロマンに欠ける。
そもそもスリープゴートがモンスターだと気付かれない可能性が微レ存だな。
エキドナやオルトロスはロマンが溢れ返りすぎて大惨事待ったなしなので、ゴブリン以上に却下案件である。
でもエキドナなら剣や魔法でどうこうするには絶望的な相手だけど、的がでかい分ミニガンやミサイルでも死にかねないので拍子抜けとか言われそうだなぁ。
サンドワームをどこぞの荒野に放ったら、良いB級パニックホラーが完成しそう。
しかも繁殖でもしようものなら手が付けられなくなるのか胸熱だぜぇ。
良い子じゃなくても絶対真似したらアカン奴や。
まぁモンスターもロマンはあるけれど、やはりエルフやケモ耳の方が夢はあるしね。
突然地球にエルフや獣人が現れたら、俺達みたいなやつらが狂喜乱舞すること請け合いなため、そういった意味でも転送方法は確立しておきたい。
ワープゲートを流用して大勢が移動可能なゲートを開ければ、皆に夢と希望が与えられる!
慎重に動かないとゴブリンに屠殺されかねないので、絶望ももれなく付いて来るのはご愛敬デース。
先程からずっと自宅のリビングに繋いでいたワープゲートを一旦閉じると、試しに日本にある自宅の自室に繋がるように意識してゲートオープン!
しかし、ワープゲートは虚無に繋がるどころかワープゲートその物が現れなかった。
分かっていたこととはいえ、ワープゲートが繋がらない場所だと出現すらしないのか。
またリビングに繋いでおこう。
安易な実験をしている間も、レンさん達の会話は続く。
『何にせよ、壊れたダンジョンコアの代わりは取りに行っといた方がええやろな。帰還方法は元の世界に戻りたいって奴が居ったらの話しやが』
『何かの切り札として使えるかもしれんしな。……しかし、てっきりシンは帰りたがると思っていたのだが、俺以上に楽しんでしまっている感が否めない』
『確かにアニメを視たりゲームが出来ないのは不満ですけど、こっちの世界の女の子は美人で性格の良い人が多いから帰りたくありませんよ。それに、魔法を使ってモンスターと戦うのはゲーム以上に楽しいですし』
ぼやくような口調のレンさんに、シンくんが帰還を拒否る。
こちらの世界は美人で性格の良い女性が多いのは確かだからしょうがない。
クラウディア王女も家臣のためアキヤの暴挙に歯向かったことを想うと、ベクトルの向きが違うだけで根は清廉なのだろう。
せめてうさ耳でも生やしてくれたら、彼女の求婚にも少しは心が揺らぐのに残念だ。
それはさて措き――
『まぁ今後もし帰還を望む人と出会った場合、元の世界に戻るって可能性を提示してあげられるって意味で、出来るに越したことはないんだよね』
『確かにそうですね』
『その為にも、レンさんにはダンジョンコアを回収してきてもらおう』
『幸いこっちは潤沢な資金と装備がある。これから魔水晶を国費で買い集め、ぼっちさんと共にレベル上げだ。周辺諸国の情勢を見つつ、ダンジョン攻略に勤しむとしよう』
無茶ぶり罰ゲームチックに言ったつもりだったのだが、レンさんが涼し気に反則臭い事を言ってのけた。
潤沢な資金=国家予算。
装備=宝物庫。
これだから金持ちはッッ! 金持ちはッッッッ!!
いいよ、俺だってアイヴィナーゼに行けば良い装備が手に入るはずだから!
はず……だよな?
アイヴィナーゼの宝物庫にあったであろうオリハルコン装備一式を身に纏ったよしのんに目を向けると、本当にすごいアイテムが残っているのか不安になる。
うん、なんかもう不安しかない。
クラウディア王女の話が嘘だった場合、彼女の身柄と引き換えにウィッシュタニアの宝物庫を開放してもらおう。
敵国の姫様だし超美人だから喜ばれるだろ。
冗談でも流石にひどいと思うが、結果次第では俺が騙された事になるので、その時は本気で何かしてやろう。
よしのんを連れて食糧庫に忍び込み、片っ端からダブル収納袋様Lv10に詰めると言うのはどうだ?
地味だがかなり痛いはず。
まだ起きてもいない事への馬鹿な報復を考えつつ、そんなこんなで聞きたい事はこれで大体聞くことが出来た。
ピロン♪
《トシオがチャットルームに入室しました》
『ただいも~』
『おかえりなさい』
『これ程頻繁に戻って来るとは珍しいな』
『どないしたんや?』
『おおう、皆まだ居たんだ』
俺達の中で勇者召喚を実際にやってのけたレンさんに話しを聞きに来たのだが、現在朝の7時ほど。
時差的には全員居るとは思っていなかった。
特に〈大福時間〉では午前1時くらいの大福さんね。
『ちょっとレンさんに聞きたいことがあって』
『なんだ?』
『レンさん、自分で勇者召喚を使ってぼっちさんを呼んだんだよね?』
『あぁ、俺自ら呼びだしたが、それがどうかしたか?』
『勇者召喚の詳細と、勇者召喚は誰がもたらしたとかわかる範囲で教えて欲しいんだけど』
『詳細か……。まず勇者召喚だが、ダンジョンコアが組み込まれた召喚陣を用いて行われる。召喚には膨大な魔力が必要だ。ただし、このまま召喚をしても日本人の誰が呼び出されるかはランダムだ。そのため、召喚コスト以外にも勇者を選定するための魔力と選定するためのアイテムが必要となる』
『ほうほう』
『不測の事態で足りない魔力を補うため、ダンジョンコアをフル稼働させて廃炉してしまったのは不味かった』
そういうと、ぼっちさんが会社から休日の深夜に出勤命令が下り、レンさんが予想していた場所に居なかったので長時間探す羽目になったのが原因だと教えてくれた。
『場所と日時を決め打ちし、いざ呼び出そうとしたらその場に居ないのだ。更に一度勇者召喚に入ると中断出来なくなるとは思わなかった。それくらい仕様書に書いておくだろ普通』
『書いてなかったんかいな』
『あぁ。魔力切れの前に見つけられたのが不幸中の幸いだった』
レンさんが恨みの籠った口調でぼやくと、大福さんも呆れる。
ずさんな仕様書もさることながら、休日の深夜に呼び出しとか、ぼっちさんの会社がブラックにも程がある……。
てかダンジョンコアってオーバードライブも出来るのか。
そして選定に使う魔力をケチると、アキヤの様な人格破綻者や、よしのんの様な戦闘に向いてなさそうな女の子を呼び出されるんだな。
でもなんで日本人限定なんだろ?
『勇者の選定に必要なアイテムってなんです?』
『どうやって選定するの?』
シンくんが細かなところに興味を示し、俺も気になったので便乗する。
この世界から元の世界の人間を選ぶってどうやるんだろ?
『選定には〈遠見の宝珠〉と言う、その名の通り遠くの物を見る水晶球を召喚陣に組み込んで使用する。〈遠見の宝珠〉は名前は違えどファンタジー物では定番のアイテムだな。使用感は覗き見たい国を選択してから魔力を込めることで、どのような場所でも見られるようになる。これは倍率の変更も可能なため、個人をピックアップすることもできる』
『何処でも見れるって便利ですね』
『いや、それは逆にヤバいんとちゃうか?』
〝どのような場所でも見れるとかすごいなぁ〟なんてシンくんと同じことを思っていると、大福さんが危険性を訴える。
『特にお偉いさんの会議とか覗き放題はマズいやろ』
『まぁな。なので、重要施設などは妨害魔法で普通に遮断されている。まず見ることは出来ないと思った方がいい』
『なんや、やっぱそうなんか』
『意外と制限を受けるんですね』
そうウマい話は無いということか。
そして3人が真面目な話をしてる中、女風呂覗き放題かよとか思ってましたごめんなさい。
妻達と一緒に風呂に入っている俺としては、今更女風呂なんて覗く必要性が微塵も無いが。
〝でも~、そういうのがすぐ思い浮かぶとか~、男子ってキモいよね~〟
顔をうっすらとしか覚えていない様な元同級生の女子にそんなことを言われた気がした死にたい。
『ちなみにだが、大衆浴場も覗きは不可能だ』
『へ、へぇ~……』
レンさんが俺の思考を見透かしたかの様な注釈を入れて来たのですっとぼけた返事をするも、余計に死にたくなる。
『その〈遠見の宝珠〉だが、召喚陣に組み込まれたものに限り、国の選択に何故か異世界である日本も含まれる様になる。その後の映像は念じれば思いのままだ。それと、距離よって必要な消費魔力も変わってくる。日本を長時間見続けるとなると、勇者召喚に匹敵する莫大な魔力が必要だ』
そう言うと、レンさんは〝ぼっちさんを探した際、奴が自宅に居なかったのにはあせらされた〟と付け加えた。
こちらの世界から向こうを見れるのは良いな。
俺の今期で一番お気に入りのアニメ〈機甲兵装ヴァルガラック〉の続きとか見れないかなぁ。
一週間遅れで放送される関西の俺からすれば、関東の放送分で言えばもう5話分くらい未視聴なんだよな。
最終回が2クールの24話前後だとして、残りは丁度10話、大体230~250分位か?
ダンジョンコア一つあればいけるかな?
何気にダンジョンコアとアニメ250分の尺を等価に考えだした辺り、先程の女風呂以上に業が深いし頭も悪い。
『それと勇者召喚をもたらしたとされる者だが、城にあった文献を見た限りでは、400年程前に俺の居る国が建国された際、謎の賢者がもたらしたと記されていた』
『建国と同時期にかいな?』
『あぁ』
『他の国はどうなんやろ?』
『あ、じゃぁちょっと聞いてみますね。――僕の国も建国と同時に勇者召喚が出来るようになったみたいです』
大福さんの疑問にシンくんが傍に居るであろう恋人からの情報を告げる。
『違う大陸でも似たようなことしとんのか』
『シン、建国した時期はわかるか?』
『まってくださいね。――建国したのが500年くらい前だそうです』
レンさんの問いに再びシンくんが答える。
『建国記念プレゼントかな?』
『くくっ、上手いこと言うな』
俺の適当な冗談にレンさんが小さく笑う。
『だが、異世界から人間を召喚する術を確立させるほどの魔法技術を、はるか昔に違う大陸で一世紀離れでも同じように広めてたとなると、やはり古代魔法人が関わっているだろうな』
『……文献って、他にはどんな内容が書かれてるのか教えてくれる?』
『あぁ、勇者召喚を伝えた賢者はもしかすると古代魔法人ではないかと昔の人間も予想していた様だ。ダンジョンコアもそいつがもたらしたモノであるとも記されているな。召喚方法も先程述べた通り、遠見の宝珠を用いて目標をロックの魔改造も記されていたようだ。あとは魔法陣に魔力を注いで簡単な呪文を唱えれば終了というお手軽なものだ。それと、別の文献にはこれまで召喚された勇者の記録がある。ぼっちさんも先程から書記官に質問攻めされているし、いずれは国の書庫に奴の記録が後世に残る事だろう』
ぼっちさんのくだりでは、何やら含みのある楽し気な声音で聞こえてきた。
基本的にぼっちさんは弄られキャラな上に、弄る頻度はドSのレンさんが一番高い。
リアルでも頻繁に会っている2人だし仲は良いのだろうけど、程々にしてあげてと心の中で願っておく。
口に出して窘めない所がミソだ。
しかし、魔力を注いで呪文唱えただけで勇者が呼べるとか、魔力を集めるのは大変そうだけど、それ以外はインスタントラーメン並みにお手軽だなぁ。
……ん? 魔力を注ぐだけ? ダンジョンコアを使い潰さなくても良いってことか?
そういえばさっきも〝ダンジョンコアの魔力が足りなかったから無茶して廃炉にした〟と言っていたし、別にダンジョンコアそのものを使わなくてもいいのかな?
一応確認しておこう。
『魔力って、ダンジョンコアじゃなくても別に構わないの?』
『あぁ、ダンジョンコアは必ずしも必要とはしない。それこそモンスターが落とす〈魔核〉と呼ばれる魔力蓄電池の様なアイテムで代用可能だ。問題はダンジョンコア一基分の魔核ともなると、国庫をカラにしてもまず集まらん。魔核を使うくらいなら、数十年放置するだけで勝手に勇者召喚に必要な魔力が集まるダンジョンコアの方が合理的だ』
〝召喚に使うならやっぱりダンジョンコアが一番便利だよね〟に戻ってくる訳か。
『逆に召喚した相手を日本に送り返すんは可能なんか?』
『どうだろうな。勇者召喚に関する文献に送還方法は書かれてはいない。だが召喚魔法で向こうに干渉できるのだ、その逆もまた可能ではないのか?』
大福さんが送り返すという逆転の発想をするも、送り返す手段までは確立されていないと告げられた。
もし可能なら、性格的に危険な奴は片っ端から強制送還してやればと思ったが、方法が無いのでは仕方ない。
『しかし、試す手段がない以上、こればかりは古代魔法人に直接聞いてみるしかないな』
『〈魔道具師〉みたいなのに頼んで解析できんのか?』
大福さんの言う魔道具師とは、イルミナさんの様な魔道具を作成できる職のことだ。
『魔道具師と一言でいっても、魔法剣を作れる程度のなら大きな国ならば十数人は居るが、勇者召喚のシステムを解析出来る程の者は大陸に1人居るかすら怪しいところだ』
『うちの奥さんの話しだけど、オリジナル魔法を作れるほどの魔道具師は魔族領でも民間にはあまり居ないんだってさ』
レンさんの憶測に、それすらも怪しいとを付け足しておく。
『意外と居ないものなんですね』
『やっぱ古代魔法人に聞くしかないか』
シンくんの率直な言葉に大福さんも諦め納得ムード。
アイヴィナーゼに行けば勇者召喚陣を見せてもらえるかな?
もしイルミナさんが解析出来れば、送り返す手段も構築できるかもしれない。
俺達4人の場合は元々ファンタジーが好きな方だし、全員がこちらの世界に恋人や奥さんが居るため帰りはしないだろう。
しかし、これ程勇者召喚や異世界人が横行している世界だ、今後日本に恋人や妻子を残して帰還を望む人と遭遇した場合を考慮し、帰還手段は確保しておきたい。
『んー、かと言って、成功するか分からないのに誰かを送り返すってのも、怖いものがあるなぁ』
『失敗して異次元や宇宙空間へ送ってしまうと、流石に罪悪感で心が摩耗しかねんぞ』
レンさんが失敗の具体例を挙げる。
レンさんですらそこには罪悪感が湧くようだ。
『それなら試しになにか適当なモンスターでも送ってみたらいいんじゃないですか?』
『ワシもシンくんの案に賛成やな。せやけど、下手なモン送ったらその辺の川にアリゲーターガーを放流するみたいなことにならんか?』
『『『確かに』』』
大福さんの意見ももっともだ。
送るものがゴブリンでは、凶悪殺人鬼を解き放つのと変わらないのでそれ以上に質が悪い。
仮に送るとしても、出来るだけ安全なのを選ぶようにしなければならない。
かと言って、スリープゴートなんて放っても喜ぶ奴なんてあまりいないしロマンに欠ける。
そもそもスリープゴートがモンスターだと気付かれない可能性が微レ存だな。
エキドナやオルトロスはロマンが溢れ返りすぎて大惨事待ったなしなので、ゴブリン以上に却下案件である。
でもエキドナなら剣や魔法でどうこうするには絶望的な相手だけど、的がでかい分ミニガンやミサイルでも死にかねないので拍子抜けとか言われそうだなぁ。
サンドワームをどこぞの荒野に放ったら、良いB級パニックホラーが完成しそう。
しかも繁殖でもしようものなら手が付けられなくなるのか胸熱だぜぇ。
良い子じゃなくても絶対真似したらアカン奴や。
まぁモンスターもロマンはあるけれど、やはりエルフやケモ耳の方が夢はあるしね。
突然地球にエルフや獣人が現れたら、俺達みたいなやつらが狂喜乱舞すること請け合いなため、そういった意味でも転送方法は確立しておきたい。
ワープゲートを流用して大勢が移動可能なゲートを開ければ、皆に夢と希望が与えられる!
慎重に動かないとゴブリンに屠殺されかねないので、絶望ももれなく付いて来るのはご愛敬デース。
先程からずっと自宅のリビングに繋いでいたワープゲートを一旦閉じると、試しに日本にある自宅の自室に繋がるように意識してゲートオープン!
しかし、ワープゲートは虚無に繋がるどころかワープゲートその物が現れなかった。
分かっていたこととはいえ、ワープゲートが繋がらない場所だと出現すらしないのか。
またリビングに繋いでおこう。
安易な実験をしている間も、レンさん達の会話は続く。
『何にせよ、壊れたダンジョンコアの代わりは取りに行っといた方がええやろな。帰還方法は元の世界に戻りたいって奴が居ったらの話しやが』
『何かの切り札として使えるかもしれんしな。……しかし、てっきりシンは帰りたがると思っていたのだが、俺以上に楽しんでしまっている感が否めない』
『確かにアニメを視たりゲームが出来ないのは不満ですけど、こっちの世界の女の子は美人で性格の良い人が多いから帰りたくありませんよ。それに、魔法を使ってモンスターと戦うのはゲーム以上に楽しいですし』
ぼやくような口調のレンさんに、シンくんが帰還を拒否る。
こちらの世界は美人で性格の良い女性が多いのは確かだからしょうがない。
クラウディア王女も家臣のためアキヤの暴挙に歯向かったことを想うと、ベクトルの向きが違うだけで根は清廉なのだろう。
せめてうさ耳でも生やしてくれたら、彼女の求婚にも少しは心が揺らぐのに残念だ。
それはさて措き――
『まぁ今後もし帰還を望む人と出会った場合、元の世界に戻るって可能性を提示してあげられるって意味で、出来るに越したことはないんだよね』
『確かにそうですね』
『その為にも、レンさんにはダンジョンコアを回収してきてもらおう』
『幸いこっちは潤沢な資金と装備がある。これから魔水晶を国費で買い集め、ぼっちさんと共にレベル上げだ。周辺諸国の情勢を見つつ、ダンジョン攻略に勤しむとしよう』
無茶ぶり罰ゲームチックに言ったつもりだったのだが、レンさんが涼し気に反則臭い事を言ってのけた。
潤沢な資金=国家予算。
装備=宝物庫。
これだから金持ちはッッ! 金持ちはッッッッ!!
いいよ、俺だってアイヴィナーゼに行けば良い装備が手に入るはずだから!
はず……だよな?
アイヴィナーゼの宝物庫にあったであろうオリハルコン装備一式を身に纏ったよしのんに目を向けると、本当にすごいアイテムが残っているのか不安になる。
うん、なんかもう不安しかない。
クラウディア王女の話が嘘だった場合、彼女の身柄と引き換えにウィッシュタニアの宝物庫を開放してもらおう。
敵国の姫様だし超美人だから喜ばれるだろ。
冗談でも流石にひどいと思うが、結果次第では俺が騙された事になるので、その時は本気で何かしてやろう。
よしのんを連れて食糧庫に忍び込み、片っ端からダブル収納袋様Lv10に詰めると言うのはどうだ?
地味だがかなり痛いはず。
まだ起きてもいない事への馬鹿な報復を考えつつ、そんなこんなで聞きたい事はこれで大体聞くことが出来た。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる