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165話 ヴァッツゼノンの勇者
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昼食後、リビングにはまったりとした空気が流れ、皆がそれぞれくつろいでいる。
3日間とはいえ鬼の様なシゴキで早朝から昼までは武器を振り回し、午後は魔法の練習と濃密な時間を過ごしているのだ、食休みくらいはのんびりしたい。
していたいのだが、今に限っては出来なかった。
シンくんが帝都に到着し、今朝の6時、〈シン時間〉で言えば夕方の6時には勇者お披露目会が催されるとのこと。
時間的には向こうはもう深夜帯で、お披露目会は既に終了している。
チャットルームに行ってもシンくんから直接報告を受けることは無いかもだが、代わりにレンさん達から聞けるはずだ。
シンくんの国で呼び出された勇者がまともだったらいいんだけど……。
これまでの経験と修行の成果はその日の内に報告している。
いくら何でも呼ばれたばかりで右も左も分からない様な勇者相手に後れはとらないと信じながら、俺はチャットルームに接続した。
ピロン♪
《トシオがチャットルームに入室しました》
『ただいマジカル☆』
『おかえリア・リラックス☆』
『おか……何かのネタか?』
『『魔法少女まいん☆マギマッスル』』
『知らんな』
いい年こいた大人とは思えない挨拶を大福さんと交わすと、レンさんが信じられないことを宣いやがった。
『筋肉至上主義のレンさんが、まいん☆マギマッスルを観ていない、だと……?』
『レンさん、それはもったいないことしたな』
『と言うと?』
『だって、萌え萌えな女の子が理想の筋肉を得られるという伝説のアイテム〈BMP〉求めて魔法で変身し、世紀末覇者みたいな顔と肉体で殴り合い奪い合うマッスルバトルアニメデスヨ?』
『毎度食事シーンで、ホンマにあるメーカーのプロテインが一般家庭の食卓にさらっと置かれとんのが不自然過ぎて逆におもろかったで』
『なん……だと……? 俺はそんな神アニメを見逃していたと言うのか!?』
『今期から始まったアニメやしね』
ふり絞る様に出された声は、ものすごい絶望感を醸し出していた。
まだ観てもいないアニメを神認定するのもどうなんだ?
『レンさんこっちに来る前辺りはなかなかチャットにINして来なかったやろ? せやからつい話しそびれてもうたわ』
『あの頃か、エターナルアースオンラインのサービス開始までに取り組んでいた仕事を片付けておきたかったんでな。くそっ、元の世界に戻りたくなってしまったではないか』
『メールとかでメッセージだけでも残しとけばよかったね』
『せやな』
今更言っても詮無き事だけど。
あ、そうだ、私にいい考えがある。
『オ客サン、貴方ノ手元ニハ遠見ノ宝珠ガ有リマスネ? ソレニダンジョンコアノ魔力ヲ用イレバアラ不思議、元居タ世界ガ写シ出サレルデハアリマセンカー』
『つまり、この世界に居ながらにしてアニメが見れるということか? ねこさん天才かよ!』
『いや待て落ち着けレンさん騙されとるで、ダンジョンコアの魔力をそんなことに使こてどないすんねん』
『確かにアニメ一本を見るには割の合わんコストが発生しかねんな』
『ちっ、気付きやがったか』
『いや誰だって気付くやろ』
『せやろか?』
『せやで』
『せやな』
『せやせや』
3人でネットスラング〝せやな〟の定型文を言い合ったところで本来の目的を思い出す。
そうだった、シンくんのことをすっかり忘れてたや。
確かなんとかゼノンって国が呼び出した勇者にはもう会っているはずなのだが。
『ところでシンくんは?』
『それがまだ戻らんのだ』
『せやけど、一度は戻って来たんやろ?』
『あぁ、丁度3時間前にな。だが〝勇者に会ったが心配するな〟と言い残しそれっきりだ』
レンさんの沈んだ口調からシンくんを心配している気配が窺える。
『勇者の顔を見て尚〝心配すんな〟か……』
『なら本当に大丈夫なのかもね』
大福さんの言葉に俺が気休めを口にするも、連絡が途切れて3時間も前だ、安心なんて出来ないだろう。
レンさんにとっては年の離れた弟の様な存在なだけに、不安も募るというものだ。
『妙に思わせぶった口ぶりなだけに、本当に心配する必要はないのだろうが、どうしても気になってな』
『案外ワシらの知ってる奴が呼ばれとったりしてな』
『確かに、可能性としてはありえなくもない話しだ』
『それかシンくんの身内って可能性もあるかもね』
2人が召喚されたであろう勇者の予測をし始めたので、俺も可能性を提示する。
『シンの身内か……、両親と弟が1人、あとは近所の親戚にシンと同い歳の澪って女の子、それと二十歳になる俺の妹の綾香か。ちなみにシンの親父さんと弟の健吾は特撮オタクで叔母さんは典型的な教育ママ、澪は根はいい子だが見た目がその辺に居るギャルで萌えオタのシンとは極めて相性が悪い。逆に俺の妹はシンを溺愛していると言っても過言ではない程のショタ萌え女だ」
『おかん以外全員汚染されとるやないかい』
『ははっ、否定はできんぞ親類縁者ども、特に我が妹よ!』
大福さんが身もふたもないことを言ってしまうと、レンさんも全肯定しやがった。
てか大福さん的にギャルは汚染物なんか……。
まぁそれは兎も角、レンさんしかいない時に意味あり気に言ってたみたいなので、親類縁者の線が濃厚か?
こういうのは面白い方が良いので、俺としては親父さんと弟以外の血縁者が来いとつい願ってしまう。
『それら以外にもシチュエーション的に愉快な奴が来たりしてな』
『ほなツンデレ美少女勇者に振り回されるシンくん』
『か、勘違いしないでよね、別にあんたのために戦うんじゃないんだから! なによその女、私が居るのにベタベタしないでよっ!』
『恋人がいるシンくんには有難迷惑やな』
『いや、あいつはツンデレ萌えも備えている。案外両手に華で喜びそうなシチュエーションかもしれんぞ』
俺のツンデレ演技に大福さんがツッコミ、レンさんが真面目ぶった口調で思案する。
レンさんにかかればシンくんの性癖なんぞまるはだかだ。
『んじゃぁ年下美少女勇者に迫られ妹萌えや後輩萌えに目覚めるシンくん』
『元同年代好きの更なる|新境地か』
『シンくんなだけにやな』
『年上と年下のサンドウィッチやぁ~』
『どっかのグルメリポーターみたいになっとるがな』
俺とレンさんのくだらない軽口に、大福さんが更にツッコミ。
こうなると大福さんがツッコミ役に回ってくれるので会話が弾む。
『病んデレ勇者に愛されて追い回されるシン』
『ヤンデレの私が異世界に勇者として呼ばれたら、私好みの美少年が居た! だけどそいつには彼女が居たので男の子を殺して私も死ぬ!』
『web小説モノみたいなタイトルになっとるで』
レンさんの案にタイトルをつけると、大福さんが冷静なツッコミが飛んできた。
『病弱勇者が役に立たなさ過ぎて悶絶するシン』
『すまないねぇシンくん、ワシがこんな身体なばかりに、けほっけほっ。それは言わない約束だよおじいさん。こうしてシンくんは勇者の病気(エヘン虫)を治す薬を探しに各地を奔走するのであった』
『ヴァッツゼノン帝国とやらも滅亡待ったなしだな』
『まぁそれはそれでおもろいけどな。てかなんでさっきからストーリー仕立てなんや?』
そんな下らない冗談を言い合いながら、それぞれがこれだと言う人物を予想し終えたところで、チャットルームにいつもの間の抜けた電子音がなる。
ピロン♪
《シンゴがチャットルームに入室しました》
『『『おっ』』』
『ただいまー』
『おかえりやで』
『おーかー』
『待っていたぞシン。それで、勇者はどうだったんだ?』
『それがですね、聞いて驚かないでくださいよ?』
レンさんの問いに、戻ってきたばかりのシンくんが思わせぶりに間を取りもったいぶった。
その口調が既に〝これから凄い事を言います〟と言わんばかりである。
増々俺達の予想通りな可能性が出てきやがったが、反面〝あ、これはすべる奴や〟と悪い予感が脳裏に過る。
『なんと、勇者として居たのは――――鬼灯さんでした!』
『マジかぁ……』
『ホンマかいな……』
『お、おう……』
『いやぁ本当に僕もビックリし――』
『全員外れでしたとさ』
『一番無難な所が来てしまったな』
『普通過ぎておもろないなぁ』
『ましたよ……あれ?』
溜めに溜めたその口ぶりからは、レンさんの言う通り最も無難で、大福さんの言うように面白みの無い回答が出されてしまった。
3人のやれやれ感しかないテンションに、シンくんが1人取り残される。
『なに? どういうことです?』
『いやなに、お前を待っている間にどんな奴が来たかを3人で予想していたのだが……。俺はてっきり綾香が現れ、勇者の立場を利用してお前を手籠めにする騒動があると予想していた』
『ワシはシンくんのお母さんが来て城に軟禁されるに十億ジンバブエドルやったで』
『俺は澪って子が来てわがまま放題してシンくんが振り回されるって話しが聞きたかった』
『……あ、あんたら僕が不安に駆られながら勇者のお披露目パーティに出席したって時になにやってるんだ!? それにもし澪や母さんなんかに来られたら、念願の異世界生活が台無しじゃないか!?』
『え、それを踏まえた上での予想やで?』
珍しく敬語じゃないシンくんに、大福さんがさも当たり前であるかのように返す。
でも『大丈夫だから心配するな』とレンさんに言い残したのはシンくんなんだよなぁ。
『あと綾香姉さんが来たらどうしてそんなことになるんだよ?!』
『なんだ、シンは気付いていなかったのか? 綾香がお前のことが好きなのを』
『え、そうなの!? 会っても不機嫌そうな顔をしてすぐ居なくなるし、気が付くと物陰から睨まれてたりするしで、てっきり嫌われているのかと……』
『溺愛しすぎてお前の前で醜態を晒すのを堪えた状態がそれなんだがな』
『そうなの!? 綾香さんに避けられ続けたのが原因で年上の女性が苦手になったのに!』
『そうだったのか、とんだ裏目だったな妹よな』
シンくんの衝撃と言うよりも残念なカミングアウトに、レンさんが呆れながら遠く離れた妹に語り掛けた。
好き過ぎたのが裏目に出ちゃうとか切ないなぁ……。
しかし、呼び出された鬼灯さんは実家が個人経営の定食屋で、自身も厨房に立つ料理人。
『シンくんの所に鬼灯さんが行ったということは、レンさんが呼び出して食の向上を目指すなんてことが出来なくなった訳だ』
『なっ、俺が密かに計画していた食文化改善計画がねこさんにバレているだと!?』
思ったことを口にしたら、本当に計画していたようだった。
『あ、そうか、これで僕も和食が食べられるようになるんだ。……ねぇねぇ兄貴、今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?』
先程の鬱憤を晴らすかのように、日頃善良なシンくんとは思えないほどの悪意に満ちたNDKが炸裂した。
うわぁ、リアルガチなNDKをしてる場面に初めて遭遇したわ。
でもこれがシンくんの親離れならぬ兄貴離れ。
こうして少年は傷つき汚れ、そして大人へと成長していくのである。
『そうだな……』
『アニキ?』
『一言で言い表すなら〝殴りたい〟、二言で言うなら〝すごく殴りたい〟だ』
『マーマイトでも食べてろ♪」
ピロン
《シンゴがチャットルームから退出しました》
『……よし、殺す』
『『なんでやねん』』
清々しく爽やかなレンさんの宣言に、俺と大福さんのツッコミが見事に重なった。
食べ物が絡むと人は鬼にも悪魔にもなるんだなぁとなんとなく思ったが、まぁどうせ明日になれば元サヤであろう。
その翌日、シンくんが中々戻ってこなかった理由が『皆が集まってからの報告の方が反応も良いかなと思って』とのことだった。
もしもやって来ていたのが親類縁者だった場合はレンさんにしかウケ無いだろうから、レンさんだけの時にさっさと話しているか。
そこを読み間違えたのが予想を外した大きな原因という訳だ。
なんて斜め上な反省をしていると、『そんなくだらない事で皆を心配させるな』とレンさんの氷刃の様な声によるマジ説教が長々と続き、そこに大福さんが頃合いを見て割って入り『この世界はワシらでもいつ命を落とすかもわからんのやさかい、そんな冗談はもうしたらあかんで?』とやんわりと窘め終息に導いた。
その後、シンくん経由で鬼灯さんの話を伺うと、料理人と言ってもしょせんは街の小さな飯屋の次期店主。
味噌や醤油などの調味料なんかは自作できるはずもなく、食材や調味料は普段使っている物とは違うため、日本食と言っても簡単なものしか作れないのだとか。
それでもレンさんがダシの取り方や代替品を必死に聞き出し、米(パサパサして美味しくない)と卵焼きにコロッケなどでどうにか日本の食卓に並びそうな物を再現することができたと涙ながらに教えてくれた。
おちゃめな弟に食事に国家運営にと、レンさんも大変だなぁ。
……はぁ、カレーライスうめぇ。
3日間とはいえ鬼の様なシゴキで早朝から昼までは武器を振り回し、午後は魔法の練習と濃密な時間を過ごしているのだ、食休みくらいはのんびりしたい。
していたいのだが、今に限っては出来なかった。
シンくんが帝都に到着し、今朝の6時、〈シン時間〉で言えば夕方の6時には勇者お披露目会が催されるとのこと。
時間的には向こうはもう深夜帯で、お披露目会は既に終了している。
チャットルームに行ってもシンくんから直接報告を受けることは無いかもだが、代わりにレンさん達から聞けるはずだ。
シンくんの国で呼び出された勇者がまともだったらいいんだけど……。
これまでの経験と修行の成果はその日の内に報告している。
いくら何でも呼ばれたばかりで右も左も分からない様な勇者相手に後れはとらないと信じながら、俺はチャットルームに接続した。
ピロン♪
《トシオがチャットルームに入室しました》
『ただいマジカル☆』
『おかえリア・リラックス☆』
『おか……何かのネタか?』
『『魔法少女まいん☆マギマッスル』』
『知らんな』
いい年こいた大人とは思えない挨拶を大福さんと交わすと、レンさんが信じられないことを宣いやがった。
『筋肉至上主義のレンさんが、まいん☆マギマッスルを観ていない、だと……?』
『レンさん、それはもったいないことしたな』
『と言うと?』
『だって、萌え萌えな女の子が理想の筋肉を得られるという伝説のアイテム〈BMP〉求めて魔法で変身し、世紀末覇者みたいな顔と肉体で殴り合い奪い合うマッスルバトルアニメデスヨ?』
『毎度食事シーンで、ホンマにあるメーカーのプロテインが一般家庭の食卓にさらっと置かれとんのが不自然過ぎて逆におもろかったで』
『なん……だと……? 俺はそんな神アニメを見逃していたと言うのか!?』
『今期から始まったアニメやしね』
ふり絞る様に出された声は、ものすごい絶望感を醸し出していた。
まだ観てもいないアニメを神認定するのもどうなんだ?
『レンさんこっちに来る前辺りはなかなかチャットにINして来なかったやろ? せやからつい話しそびれてもうたわ』
『あの頃か、エターナルアースオンラインのサービス開始までに取り組んでいた仕事を片付けておきたかったんでな。くそっ、元の世界に戻りたくなってしまったではないか』
『メールとかでメッセージだけでも残しとけばよかったね』
『せやな』
今更言っても詮無き事だけど。
あ、そうだ、私にいい考えがある。
『オ客サン、貴方ノ手元ニハ遠見ノ宝珠ガ有リマスネ? ソレニダンジョンコアノ魔力ヲ用イレバアラ不思議、元居タ世界ガ写シ出サレルデハアリマセンカー』
『つまり、この世界に居ながらにしてアニメが見れるということか? ねこさん天才かよ!』
『いや待て落ち着けレンさん騙されとるで、ダンジョンコアの魔力をそんなことに使こてどないすんねん』
『確かにアニメ一本を見るには割の合わんコストが発生しかねんな』
『ちっ、気付きやがったか』
『いや誰だって気付くやろ』
『せやろか?』
『せやで』
『せやな』
『せやせや』
3人でネットスラング〝せやな〟の定型文を言い合ったところで本来の目的を思い出す。
そうだった、シンくんのことをすっかり忘れてたや。
確かなんとかゼノンって国が呼び出した勇者にはもう会っているはずなのだが。
『ところでシンくんは?』
『それがまだ戻らんのだ』
『せやけど、一度は戻って来たんやろ?』
『あぁ、丁度3時間前にな。だが〝勇者に会ったが心配するな〟と言い残しそれっきりだ』
レンさんの沈んだ口調からシンくんを心配している気配が窺える。
『勇者の顔を見て尚〝心配すんな〟か……』
『なら本当に大丈夫なのかもね』
大福さんの言葉に俺が気休めを口にするも、連絡が途切れて3時間も前だ、安心なんて出来ないだろう。
レンさんにとっては年の離れた弟の様な存在なだけに、不安も募るというものだ。
『妙に思わせぶった口ぶりなだけに、本当に心配する必要はないのだろうが、どうしても気になってな』
『案外ワシらの知ってる奴が呼ばれとったりしてな』
『確かに、可能性としてはありえなくもない話しだ』
『それかシンくんの身内って可能性もあるかもね』
2人が召喚されたであろう勇者の予測をし始めたので、俺も可能性を提示する。
『シンの身内か……、両親と弟が1人、あとは近所の親戚にシンと同い歳の澪って女の子、それと二十歳になる俺の妹の綾香か。ちなみにシンの親父さんと弟の健吾は特撮オタクで叔母さんは典型的な教育ママ、澪は根はいい子だが見た目がその辺に居るギャルで萌えオタのシンとは極めて相性が悪い。逆に俺の妹はシンを溺愛していると言っても過言ではない程のショタ萌え女だ」
『おかん以外全員汚染されとるやないかい』
『ははっ、否定はできんぞ親類縁者ども、特に我が妹よ!』
大福さんが身もふたもないことを言ってしまうと、レンさんも全肯定しやがった。
てか大福さん的にギャルは汚染物なんか……。
まぁそれは兎も角、レンさんしかいない時に意味あり気に言ってたみたいなので、親類縁者の線が濃厚か?
こういうのは面白い方が良いので、俺としては親父さんと弟以外の血縁者が来いとつい願ってしまう。
『それら以外にもシチュエーション的に愉快な奴が来たりしてな』
『ほなツンデレ美少女勇者に振り回されるシンくん』
『か、勘違いしないでよね、別にあんたのために戦うんじゃないんだから! なによその女、私が居るのにベタベタしないでよっ!』
『恋人がいるシンくんには有難迷惑やな』
『いや、あいつはツンデレ萌えも備えている。案外両手に華で喜びそうなシチュエーションかもしれんぞ』
俺のツンデレ演技に大福さんがツッコミ、レンさんが真面目ぶった口調で思案する。
レンさんにかかればシンくんの性癖なんぞまるはだかだ。
『んじゃぁ年下美少女勇者に迫られ妹萌えや後輩萌えに目覚めるシンくん』
『元同年代好きの更なる|新境地か』
『シンくんなだけにやな』
『年上と年下のサンドウィッチやぁ~』
『どっかのグルメリポーターみたいになっとるがな』
俺とレンさんのくだらない軽口に、大福さんが更にツッコミ。
こうなると大福さんがツッコミ役に回ってくれるので会話が弾む。
『病んデレ勇者に愛されて追い回されるシン』
『ヤンデレの私が異世界に勇者として呼ばれたら、私好みの美少年が居た! だけどそいつには彼女が居たので男の子を殺して私も死ぬ!』
『web小説モノみたいなタイトルになっとるで』
レンさんの案にタイトルをつけると、大福さんが冷静なツッコミが飛んできた。
『病弱勇者が役に立たなさ過ぎて悶絶するシン』
『すまないねぇシンくん、ワシがこんな身体なばかりに、けほっけほっ。それは言わない約束だよおじいさん。こうしてシンくんは勇者の病気(エヘン虫)を治す薬を探しに各地を奔走するのであった』
『ヴァッツゼノン帝国とやらも滅亡待ったなしだな』
『まぁそれはそれでおもろいけどな。てかなんでさっきからストーリー仕立てなんや?』
そんな下らない冗談を言い合いながら、それぞれがこれだと言う人物を予想し終えたところで、チャットルームにいつもの間の抜けた電子音がなる。
ピロン♪
《シンゴがチャットルームに入室しました》
『『『おっ』』』
『ただいまー』
『おかえりやで』
『おーかー』
『待っていたぞシン。それで、勇者はどうだったんだ?』
『それがですね、聞いて驚かないでくださいよ?』
レンさんの問いに、戻ってきたばかりのシンくんが思わせぶりに間を取りもったいぶった。
その口調が既に〝これから凄い事を言います〟と言わんばかりである。
増々俺達の予想通りな可能性が出てきやがったが、反面〝あ、これはすべる奴や〟と悪い予感が脳裏に過る。
『なんと、勇者として居たのは――――鬼灯さんでした!』
『マジかぁ……』
『ホンマかいな……』
『お、おう……』
『いやぁ本当に僕もビックリし――』
『全員外れでしたとさ』
『一番無難な所が来てしまったな』
『普通過ぎておもろないなぁ』
『ましたよ……あれ?』
溜めに溜めたその口ぶりからは、レンさんの言う通り最も無難で、大福さんの言うように面白みの無い回答が出されてしまった。
3人のやれやれ感しかないテンションに、シンくんが1人取り残される。
『なに? どういうことです?』
『いやなに、お前を待っている間にどんな奴が来たかを3人で予想していたのだが……。俺はてっきり綾香が現れ、勇者の立場を利用してお前を手籠めにする騒動があると予想していた』
『ワシはシンくんのお母さんが来て城に軟禁されるに十億ジンバブエドルやったで』
『俺は澪って子が来てわがまま放題してシンくんが振り回されるって話しが聞きたかった』
『……あ、あんたら僕が不安に駆られながら勇者のお披露目パーティに出席したって時になにやってるんだ!? それにもし澪や母さんなんかに来られたら、念願の異世界生活が台無しじゃないか!?』
『え、それを踏まえた上での予想やで?』
珍しく敬語じゃないシンくんに、大福さんがさも当たり前であるかのように返す。
でも『大丈夫だから心配するな』とレンさんに言い残したのはシンくんなんだよなぁ。
『あと綾香姉さんが来たらどうしてそんなことになるんだよ?!』
『なんだ、シンは気付いていなかったのか? 綾香がお前のことが好きなのを』
『え、そうなの!? 会っても不機嫌そうな顔をしてすぐ居なくなるし、気が付くと物陰から睨まれてたりするしで、てっきり嫌われているのかと……』
『溺愛しすぎてお前の前で醜態を晒すのを堪えた状態がそれなんだがな』
『そうなの!? 綾香さんに避けられ続けたのが原因で年上の女性が苦手になったのに!』
『そうだったのか、とんだ裏目だったな妹よな』
シンくんの衝撃と言うよりも残念なカミングアウトに、レンさんが呆れながら遠く離れた妹に語り掛けた。
好き過ぎたのが裏目に出ちゃうとか切ないなぁ……。
しかし、呼び出された鬼灯さんは実家が個人経営の定食屋で、自身も厨房に立つ料理人。
『シンくんの所に鬼灯さんが行ったということは、レンさんが呼び出して食の向上を目指すなんてことが出来なくなった訳だ』
『なっ、俺が密かに計画していた食文化改善計画がねこさんにバレているだと!?』
思ったことを口にしたら、本当に計画していたようだった。
『あ、そうか、これで僕も和食が食べられるようになるんだ。……ねぇねぇ兄貴、今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?』
先程の鬱憤を晴らすかのように、日頃善良なシンくんとは思えないほどの悪意に満ちたNDKが炸裂した。
うわぁ、リアルガチなNDKをしてる場面に初めて遭遇したわ。
でもこれがシンくんの親離れならぬ兄貴離れ。
こうして少年は傷つき汚れ、そして大人へと成長していくのである。
『そうだな……』
『アニキ?』
『一言で言い表すなら〝殴りたい〟、二言で言うなら〝すごく殴りたい〟だ』
『マーマイトでも食べてろ♪」
ピロン
《シンゴがチャットルームから退出しました》
『……よし、殺す』
『『なんでやねん』』
清々しく爽やかなレンさんの宣言に、俺と大福さんのツッコミが見事に重なった。
食べ物が絡むと人は鬼にも悪魔にもなるんだなぁとなんとなく思ったが、まぁどうせ明日になれば元サヤであろう。
その翌日、シンくんが中々戻ってこなかった理由が『皆が集まってからの報告の方が反応も良いかなと思って』とのことだった。
もしもやって来ていたのが親類縁者だった場合はレンさんにしかウケ無いだろうから、レンさんだけの時にさっさと話しているか。
そこを読み間違えたのが予想を外した大きな原因という訳だ。
なんて斜め上な反省をしていると、『そんなくだらない事で皆を心配させるな』とレンさんの氷刃の様な声によるマジ説教が長々と続き、そこに大福さんが頃合いを見て割って入り『この世界はワシらでもいつ命を落とすかもわからんのやさかい、そんな冗談はもうしたらあかんで?』とやんわりと窘め終息に導いた。
その後、シンくん経由で鬼灯さんの話を伺うと、料理人と言ってもしょせんは街の小さな飯屋の次期店主。
味噌や醤油などの調味料なんかは自作できるはずもなく、食材や調味料は普段使っている物とは違うため、日本食と言っても簡単なものしか作れないのだとか。
それでもレンさんがダシの取り方や代替品を必死に聞き出し、米(パサパサして美味しくない)と卵焼きにコロッケなどでどうにか日本の食卓に並びそうな物を再現することができたと涙ながらに教えてくれた。
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……はぁ、カレーライスうめぇ。
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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