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188話 ウィッシュタニア城攻略戦その3
しおりを挟む・ウィッシュタニア城一階:中央広場
「「「ふっはははははははははは!!!」」」
超エネルギーの塊とも言える風の魔神が10体も並び、バカでかい笑い声を真夜中に轟く。
距離にして30メートルは離れているが、緑の巨人を中心に渦巻く暴風は、存在するだけですさまじい風圧を押し付けてくる。
「これはなかなかにまずい状況ですな。……ミネルバ、ワープゲートで一旦出直すとしよう」
「大量の高位精霊が呼び出された影響で次元が歪んでる……、ワープゲートが開けない……」
「なに、精霊召喚にそのような副作用があるとは恐れ入る」
義妹から告げられた不測の事態にユニスの内心が揺さぶられるが、プレッシャーに押しつぶされないよう軽口を言うことで動揺を払った。
単純計算ならば、自分が持つ最高火力スキル〈イチイバル〉をあと10発撃てばこの状況は打破できる。
だがたったの1撃で疲労から立つこともおぼつかない有様では、絵空事も良いところだ。
それに一射毎に溜めが必要な攻撃を10発分、そんな悠長な時間を与えてくれる間抜けな敵が居るものか。
打開するビジョンが視えず、ユニスは歯を噛みしめる。
「まさに絶対絶命というヤツか」
「私が時間を稼ぐわ」
ユニスが死の覚悟を固めそうになると、横に立っていたククテナが、2人を庇うように純白の体毛で覆われた太い前足で踏み出した。
「クク殿無茶です!」
「私はあなた達の盾。例えどの様な攻撃からでもあなた達を守ってみせるわ。だからユニス、あなたがこの状況を打ち破る術を考えて」
「私が、ですか? ……それこそ無茶というもの、クク殿は私を買い被っておられる。私にそのような知略などありません!」
「大丈夫よ、あなたの物事の考え方は、私達の中で一番ご主人様に似ているもの」
ククテナが笑みを浮かべ「お姉ちゃんの言うことは聞きなさい」と告げ正面へ向き直ると、全身から純白の粒子がはらはらと落ちる。
「何をする気か知らないけど、やらせるはずがないでしょ!」
ミレイアの強い口調にジン達が押し寄せた。
「やらせはしないのはこちらです。ブリージンガメン!」
ククテナが濃度を増した白い粒子を大盾に集約させると、大盾と同サイズの白くて薄いエネルギーシールドが大量に飛び出した。
エネルギーシールドが緑の魔神に直撃するや、まるでシャボン玉のように弾けると、あらゆるものの侵入を阻む不可視の障壁となる。
その壁は一瞬で消失したが、魔神が前進を開始しようとしたところへ2枚3枚と盾が次々とぶつかり侵入を拒み続けた。
効果は一瞬だがあらゆる攻撃を防ぐ絶対防壁。
夫の使った防御魔法を参考に、猛特訓の末に得たククテナの新たな守りの力だった。
しかし、1枚1枚を薄くすることでエネルギー消費を抑えているとはいえ、その効果はあまりにも規格外。
このスキルが長時間継続可能ではないことを、特訓中のククテナを見ていたユニスは知っている。
クク殿は私がトシオ殿に一番似ていると仰った。
ならば、もし彼であったならこの状況をどうするだろうか?
まず状況の洗い出しだ。
一番の問題は敵の最大戦力であるジンだが、これは必ずしも打ち破る必要はない障害である。
そしてこの場で倒さなければならないのは、ジンの召喚者であるミライアだ。
ミライアを討つにはどうするか……今回の作戦に当てはめてみてはどうだ?
最終目標を玉座に居る者達の掃討であり、そこへ最大戦力をぶつけるべく敵戦力の分散が我々の目的だ。
玉座をミライアに置き換え、敵戦力をジンだとする。
クク殿がジンを引き付けている間に、私とミネルバで直接ミライア討つ。
だがミライアは巧妙に姿を隠蔽している。
まずはあの隠蔽魔法をどうにかしな――そうか、隠蔽か。
しかし、本当にこんな作戦で大丈夫なのだろうか?
『クク殿、ミネルバ――』
ユニスが自身の思い付きに迷いながらも、悩んでいる時間は無いため思い切って提案する。
『……分かったわ、その作戦で行きましょう』
『ちー……!』
念話で伝えた作戦に、2人は頷き同意を示す。
そこからの行動は早かった。
ククテナが輝く盾の放出を止め、大盾からこれまで以上の光を放つ。
「シタデルウォール!」
ブリージンガメンを経て更に進化したククテナ最大の防御スキルが、U字型の分厚い壁となって巨人達の前に立ちはだかった。
中央がへこんだその壁に各個で阻まれていたジンが一か所に集中。
ぶつかりあった魔神が次々と融合して膨張を始めた。
そうして現れた大魔神を中心に暴風が勢いを増し超巨大竜巻となるや、中庭の木々や土砂を巻き上げる。
「馬鹿ねぇ。これ程の巨大な力、コントロールが効かなくなるから分散させていたのに。それを自らやってくれたのだから、所詮は獣程度の知性ってことかしら?」
ミライアの勝ち誇った言葉に従うかのように、ククテナの城壁から徐々に純白の光が消え、そのサイズも縮小していくと、終には荒れ狂う嵐にのみ込まれた。
しばらくしてあれほど荒れ狂っていた風が鳴りを潜め視界が晴れると、青く茂っていた芝が捲れた地面ではハーピーの群青色の羽根が散乱していた。
地面に落ちていたククテナの大盾からは、白い体毛に包まれた腕が力なく投げ出されていた。
しかし、大盾の下に人が挟まる程のスペースが存在しないことなど、誰が見ても一目瞭然であった。
「あらあら、やりすぎて腕だけになっちゃったのかしら? ごめんなさいねー。けど、恨むのなら実力もなく乗り込んできたあなた自身を恨んでよね」
聞く者の神経を逆撫でする口調と共に、金色の巻き毛に装飾華美な鎧を身に着けたハーフエルフの女騎士が姿を現す。
「姉さん、何をしてるの!?」
不用意に姿を晒したことへの驚きの声に、ミライアが視線だけをそちらに動かす。
当然そこには誰もいないが、暴風でむき出しになった土には足跡が付いていた。
「何をって、そりゃあどんな無様な死にざまをしてるのか拝んでやるのよ」
常人ではあり得ない程のレベルアップを遂げた今の自分が、冒険者風情を仕損じるとは微塵も思ってはいなかった。
なにせ呼び出せる者もまず居ないと言われる上位精霊が10体、それが1つに重なって生まれた超級の魔神が暴れたのだ。
仮にあそこに居たのが自分であったとしても、決して助からないとミライア自身が思うほどの圧倒的な力だった。
「それにあの大盾を見なさい、アダマンタイト製よ! あれを持って帰ったら豪邸が建つわよ!」
尖った耳をピョコピョコと跳ねさせ、欲に目がくらんだミライアが軽やかなステップで落ちた戦利品を回収に向う。
「盾に成形される前のアダマンタイトだったら、豪邸どころか城が建ってたのに。さすがケダモノ、物の価値をわかってないわねぇ」
「危ないよ姉さん、やめなって」
「レイミーは相変わらず心配性ねぇ、嫌なら付いて来なきゃいいでしょ? その代わりあれは私だけのモノだから」
「ま、待ってよ!」
妹にそう告げたミライアが大盾に接近した途端、全身を浮遊感が襲う。
足元の地面が抜け落ちたのだ。
「えっ――?」
「姉さん!?」
唐突な出来事にミライアは全く反応できず、上下の感覚を失うほど激しく転げ落ち、深い穴底に到着した。
「痛っ~……、何よこ」
「姉さん大丈きゃーーーー!?」
ミライアが口を開いたところへ、心配そうに穴の縁から顔をのぞかせていた透明化したままのレイミーが真上から落下してきた。
姉妹仲良く頭をぶつけて縺れ合う。
「ちょっと、あんたまで落ちてきてどうするのよ!」
「違う、後ろから誰かに蹴られたのよ!」
言い合っているところへ穴の入り口から「ちー……!」という澄んだ鳴き声が聞こえてくるや、白い大鷲が2人の視界を埋め尽くした。
「……よもやこれほど上手く行くとは思いませんでした」
「あら、私は上手く行くと思っていたわ」
氷で閉ざされた穴を見下ろすユニスへ、ククテナが手甲と大盾を拾いながら微笑んだ。
ユニスの立てた作戦はこうだ。
ジンによって巻き上げられた土砂や木々で互いに視界が封じられている内に、向こうに対抗してミネルバが隠ぺい魔法をかけてもらい土操作魔法による掘削を開始。
まずは塹壕サイズの穴を掘り大盾を被せる。
大盾の前に深い縦穴を掘り、その入り口部分を土で塞いで落とし穴を完成させるとミネルバは暴風に乗って上空へ逃れた。
最後に大盾からククテナの腕だけを出しておけば、死体を確認しにミライアが来ると予想したのだ。
まさかその相方まで簡単に釣れるとは思わなかった。
ユニスがミライアの足跡とは別方向から続く足跡を見ながら、姑息な手段で最大級の結果を生み出したことにタメ息を漏らす。
「戦うまでもなかった……。結果オーライ……」
レイミーを背後から蹴り落とし姉妹を氷漬けにしたミネルバが、釈然としないユニスの心境を見越して当たり障りのないフォローを入れる。
だが今は作戦行動中、自身の心情など押し込めなければ…。
「……続きと行きますか」
「えぇ」
「ちー……」
ユニスが自分に言い聞かせながら2人を促すと、再び矢を番えて城へと向けた。
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