四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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194話 止まる世界

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 エインヘリヤルの魔法装甲と顔の間に出来た血だまりを赤い蒸気として外へ強制排除。
 揺れる視界で全力疾走でこちらに向ってくる女勇者をとらえる。
 何が起きたのかわからないが、接敵するルージュに最大限の警笛が鳴る。

 二重加速ダブルアクセル

 二重加速は肉体と精神を加速させるアクセラレーションの重ね掛けに近いもので、精神のみの倍掛けで加速する魔法である。
 実験では体にも倍掛けしたところ、稼働時の不可に耐えられず関節とかがヤバイことになったため実質使えない。
 使い続ければ脳に極度の疲労と痛みを覚えるため長時間の使用には堪えないが、今はそれで十分だ。
 精神が加速したことで相対的に周囲に流れる時間が停滞したような感覚となり、近付いてくる危険がゆっくりとしたモーションとなったことでこちらに考える余裕が生まれる。

 まずは迎撃態勢を整えなければ。

 起き上がろうと試みるも体は動かず、おそらく打撲であろう複数の負傷ヶ所が痛みを訴え、脳震盪のうしんとうでも起こしているのか世界が揺らめいている。
 
 一体何を何発もらったんだ?

 激痛を魔法でカットするも、そんなものとは関係なく体が言うことを聞いてくれない。
 強力な再生能力を有した勇者の遺物アーティファクト〈生命のしずく〉が自動修復をはじめたが、回復を悠長に待ってる時間は無い。
〈生命のしずく〉と並行して回復魔法でも修復を急ぐ。
 肉体的に立ち上がれない身体を魔法装甲を魔力で操作することで無理やり起き上がらせる。
 時間稼ぎにとルージュへ物量防壁魔法ブリージンガメンを放つも、少女は足を止めることなく脇を閉め両手を顎の下に引いてコンパクトに構え、自身に向かって来る魔法盾を握り込まれた拳で粉砕しまくった。
 構えといい拳を振るう際の重心移動といい、明らかに格闘技経験者のそれである。
 セットされてるジョブは魔法系で占められてたけど、鑑定で映されるのはサードジョブまで。

 こいつが本当に得意なのは近接なのはもう間違いない。
 誤認させるためにわざとサードジョブまで魔法職で固めたってことか、やってくれる。

 そんなのに引っかかる方がマヌケなのだと自分の頭の悪さを呪っていると、そこでルージュの正体に気が付いた。

 こいつどこかで見たことがあると思ったら、前にニュースで見たことあるぞ。
 確か女子のキックボクシングだかシュートボクシングのミニマム級日本タイトルホルダーだ!?

 この世界に来る前、スーパーの半額弁当を食いながら「小さいのにすごいなぁ、化粧は珍妙だけど」とかテレビに向ってつぶやいていたのを思い出す。
 そんなルージュだが、次の瞬間には右側から至近に現れ、ボディブローを放っていた。
 
 ダブルアクセル中の俺がとらえきれない動きってなんだよ!?

 避けられないタイミングでの腹部への攻撃を、こちらも両手で守りを固め、エインヘリヤルの魔法装甲を補強と共に空間に固定して受けとめた。
 左肘にズドンと重い音を響かせるがなんとか耐える。
 固めたガードの上からでもルージュは人体の急所を的確に狙い撃ち、重たい拳やローキックを打ち下ろす。
 強打が体中を撃ち、砕かれた魔法装甲を魔力蓄電池から補充したマナで修復に充てる。
 全身の回復具合を確認し、全快したのを見計らい魔法装甲の空間固定を解除。
 ルージュの肉体言語を手で叩き落とし脚で防いでカットする。
 直線的で急所ばかりを最速最短で狙うルージュの攻撃は、フェイントを織り交ぜるチャドさんと比べると非常に分かりやすい。
 攻撃をさばきながら、格闘漫画で得た知識から様々な技を組み込み反撃に転じる。
 飛行魔法を用いた変則的な体捌たいさばきで間合いを取ると、鞭のようにしなり下や内側から跳ねるようなジャブで翻弄ほんろうし、一気に懐に踏み込みと同時に放った直突きをルージュの腹部へ――
 そこで俺の視界が激しく回り、きりもみ状態で玉座の間の中央に飛ばされていた。
 飛行魔法で姿勢制御を行い着地するも、左足に力が入らず倒れそうになる。
 左足に目を向けると、太ももの中辺りで魔法装甲が粉砕され、足が曲がってはいけない方向に折れていた。
 折れた足をギブスで固定するように魔法装甲で補強するとはすに構え、〝ダメージなんて受けてませんよ〟という雰囲気を出す。

 なんなんだ一体、催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの――

 とある有名なセリフを脳内で垂れ流していた正に時、そのセリフの場面と自分に起きている状況がぴたりと重なる。

 そうか、お前、そうなのか?
 いや、だったらあいつの不自然な動きのすべてに辻褄つじつまが合う。

「……ところでルージュちゃん、〝時間停止〟って胸キュン?」 
「な――ナンノコトカナー」

 こちらの問いにパンダとは白黒の配色が真逆な化粧をした少女が、頬をかきながら苦笑いを浮かべる。

「誤魔化すの下手か」

 てかナニ、時間停止って? そんなチートスキル俺も欲しい!

 バレンティンの持つ〈スターセイバー〉なんて霞んでしまう程の反則さに、自分が戦闘無チートでこの世界に放り出されたことをかえりみてむせび泣きたくなる。

「あ、あーしの能力言い当てるとかマジアリエンティ!」
「あんだけ使いまくられたら誰だって気付くわ」
「うっ……ま、まぁ良いわ。どーせアンタなんかじゃあーしの最強能力は止まんないんだから!」

 余裕の言葉と共に悠然ゆうぜんと歩き、玉座に張られた結界から出てくるルージュ。
 そこにウィッシュタニア最強の剣士、近衛騎士団長のバレンティンが並び立つ。
 前方には最悪のタッグ。
 周囲には死すら恐れぬ騎士たちと高レベルの兵士たち。
 バレンティンと同等の戦闘力を持つとされる老将ヴィクトルは、いつ部下を引きつれ戻ってくるかわからない。

 そんな最低な状況にも関わらず、俺は全力で戦えることにどうしようもなく喜びを感じていた。
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