日報:世界征服

横側 すづき

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【第3話】狂犬と参謀、そして跳ねる正義。

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砂煙が視界を遮る中、金塊入りのダッフルバッグ、札束の詰まったリュックを担いだ黒い戦闘服の集団が銀行から飛び出してくる。

 黒塗りのSUVに次々と飛び乗り、エンジンを唸らせて逃走ルートへと滑り込む。街の雑踏が悲鳴に変わり、シグナル無視の車列がビル街を縫っていった。

 そして――部隊の離脱を見計らったように、ミントグリーンのクロスカントリー車が路地からスピンを効かせて飛び出す。

 ギュルルルッ──!!

 砂煙を撒き散らしながら横滑りし、ジムニーが山田の前に停車。

 そのパステル調で可愛らしいフォルムに、山田のこめかみがピクリと跳ねた。

「……!? なんですかこの車は!!」

「すっ、すいません……ノースさんがこれにしろって……」

 バツの悪そうな若い部下の声に、山田は叫んだ。

「くっそバカ犬がァ!!」

 ドアが蹴り開けられ、屋根の上に仁王立ちするノースがマチェーテをぶら下げてにやつく。

「っるせーな、かわいいじゃんこの車。ヘレンって言うんだぜ?」

 ノースの合図と共にジムニーは猛スピードで飛び出し、街を駆ける。

 山田は半身を窓から出して、すぐさま上空の索敵へ切り替える。ライフルのスコープ越しに、ドローンらしき影を確認すると、

「ノース!! やりすぎるな!!追跡が来るぞ!!」

 と天井に向かって怒鳴った。

「へーへー、わかってらぁ。つっても派手な方が楽しいだろ?」

 狂犬は、にたりと笑う。

 急にヘレンが方向転換して車体が大きく揺れる。ノースはバランスを崩し片膝を天井に着いてしまった。目の前に人影が立っているのだ。

「悪党に告ぐ!!君たちの行い、全部ブーメランだ!」

 丸々とした体形の海パン姿の男が、道の真ん中で仁王立ちしていた。

「ヒーローコード1129、正規ヒーロー・ブーメラン!!」

 全身の脂肪が絶妙に波打ち、山田はスコープ越しに微かに眉をひそめた。

「くっ…なんてふざけたコードなんですか」

「はっはっはっ、なんだあいつ!服着忘れてるぜ!!」

 ノースが屋根の上で爆笑する。

「のんのんのん、この肉体こそスーツ!!」

 その瞬間、上空から新たな声が飛び込んできた。

「悪事はここまでだッ!!」

 ホバリングドローンの上に立ち、ギアまみれの小柄な男が飛び出す。

「ヒーローコード1082!俺の名はエディット!この日のために作った“ギアバスターMk.Ⅱ”、くらえぇえええ!!」

 腕からスパークを発し、小型ドローンを発射。

「……ん?」

 ノースはドローンをマチェーテで真っ二つにした。

「うわああああ!!今朝完成したばっかなんですけどぉおおお!!」

 膝をついて絶叫するエディットをよそに、ノースがにやりと笑う。

「もうちょっと遊ぼぉぜぇ」

 ノースが勝手に車から飛び降りる気配に、山田のこめかみがまたピクリと動いた。

「バカ犬が。また勝手に!!」

 勢いよく駆け出し、マチェーテで鋭い弧を描き、ブーメランの腹へ一撃。

 バイィイィイイン!!

 鈍い音とともに、ぶよんと腹に食い込み、そのまま反発するように跳ね返された。

「あ”?」

 ノースが軽くバックステップで距離を取る。

「安心してください!筋肉です!!」

(脂肪だろ!!)

 山田は、ぐぅっとその言葉を飲み込んだ。ブーメランは、にっこり笑ったままポーズを決めている。

「……なら、これでどうだよォ!!」

 ギィンッ!!

 再びマチェーテが弧を描いた。さっきの倍、いや三倍近い速度と重量。

「ぶっ壊せば結果オーライだろぉがあああ!!」

 バシュッ!

 マチェーテが風を裂き、ブーメランの巨体が吹き飛ぶ。

 砂煙が舞い、辺りが静まり返る。

「安心し……ぶべっ!」

 その場に崩れ落ちるブーメラン。

「な、なんだとぉ……っ!」

 草陰に隠れていたエディットが、ドローン越しにそれを見て絶望の声を漏らした。

 ノースはマチェーテをクルッと回して背中に戻すと、血の気のない笑顔で呟いた。

「もうちょっと遊べっかなぁって思ってたけどよォ……ま、今日はこんぐらいでいっかー」

 ひょいっとジムニーのドアを開けて、砂ぼこりまみれで後部座席にドカッと座り込む。

 その前に、振り返って一言。

「また遊ぼーなぁ~、肉団子のおっさーん!」

 砂煙の向こうで崩れ落ちたブーメランが、白目をむきながらピクリとも動かない。

 ドンッと響いた音に、運転席の部下が小さく「ひっ」と肩を震わせた。

「ったく、お前……報告書何枚書かせるつもりですか……」

 山田は、同じく後部座席に腰掛けながらライフルのマガジンを外してケースに収め、ため息をひとつ。

 ノースはすぐ隣で、にやにや笑いながら体を傾けてくる。

「へへっ、帰ったらさぁ~。ちょっと遊ぼうぜぇ~? まだちょっと体温まってっからよォ~」

「お断りします」

「ぶぅ~、つれねーなぁ。俺様、まだ満足出来ねぇよ」

「……うるさいバカ犬、黙ってください。帰投ルート最短で」

「りょっ、了解であります……!」

 ジムニー「ヘレン」は、夕日の中を爆音とともに駆け抜けていった――。



 夕焼けの街の片隠れ。  
古びた小さな公園に、ささやかな人工滝がひっそりと水を落としていた。 
 観光地でもなければ、目立つこともない——まさに“隠れた入口”そのものだ。

 そこへ、ミントグリーンのクロスカントリー車——通称「ヘレン」が滑り込むように停車した。

 運転席の若手社員は、目の下にクマを漏らせ、振るえる手でハンドルを持っていた。

「だ、だだ大丈夫ですかねコレ…滝、突っ込んでいいんですか……?」

「大丈夫です。センサー登録されてるから開きます。」

 後部座席でノースに抜かれそうになってる山田が静かに告げる。  
ほぼ寝転ぶような形でノースは、ニヤニヤと窓の外を見ていた。

「へへっ、この角度……よしっ! いっけぇヘレン!!」

 部下が半泣きでアクセルを踏む。  滝へ向かって加速するジムニー。

ズブンッ!!!

——水しぶきがあがるはずもなく、滝の水流が一瞬で左右に割れ、車体がスルリとそのまま食べられる。

『ピッ…確認完了。ナンバー登録車両、通行許可。
 おかえりなさい 株式会社 悪の組織 本部へ。』

 システム音声が響き、滝の裏には広大な地下通路が現れる。

「うへー、やっぱ気持ちいいなコレ。俺様ん家って感じぃ~!」

「いい加減重いからどけ!」

 山田がノースの顔を胳でグリグリと押す。  ヘレンは自動誘導路に乗り、滑るように本部内部を進んでいく。

 左右には無機質なセメント壁、時抑「防衛装置点検中」や「社員用通路につき立入禁止」のカンバンが見える。  内部の灯りが等間隔に点燈し、まるで「おかえりなさい」と言われているようだ。

 やがて、車は広いロータリーで止まった。

「はい、地下3階、社員専用ロビーです……お、お疲れ様でした…っ!」

 部下が声を振るわせながら降車する。 
 先に降りた山田は、手慣れた動きでスーツの乱れを直し、ライフルケースを背負い直す。

「ノース、日報は絶対に書かせますからね」

「え~俺様腹減ったし~! なんか食ってから遊びてぇ~!」

「お前が書かないと、俺がまた代筆する罰目になるんだよこのバカ犬が!!」

「おいおいそんな怒んなって。俺様、愛されてるぅ?」

「地獄に落ちろ」

 【地下1階 総務部オフィス前】

 ガチャッ

「よぉ~、報告書出しに来てやったぜぇ総務くん」

 報告書には、ところどころインスタントラーメンの汁の漏れがついており、  
書かれた文字もとても大人の字には見えないほど淡さい。

「え~……ノースさんこれは……ちょっと受け取れないですねぇ。」

 総務担当は、漏れのない紙の端を指でつまんで、やんわり言いつつも無表情でゆらゆらする。

「いいじゃ~ん、読めるって。字もちゃんと書いたぞ?味噌味だけど。」

「すいませんすいませんすいません!!」

 山田が全力で詫りながら、報告書を握って小走りで去っていく。

 【地下2階:山田のオフィス】

 カチカチカチ・・・(キーボード音)

 報告書を書き直してる山田。眉間にしわ、眼鏡の奥の瞳は死んでる。

 事務の上には、読み解くのも苦労するノースの報告書。 


 しかも味噌の香りが


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