日報:世界征服

横側 すづき

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【第2話】シフト外ヒーロー、報酬は3500円

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その日は、特に疲れていた。

俺の名は“ミラーレス”。しがないバイトヒーローだ。

大した犯罪がなかったことは、実に喜ばしいことだが。

 横断歩道を渡れないご老人の手伝い。  
猫を木から降ろす。  
飛んで行った風船を取ってあげる。  
自転車泥棒を捕まえる。  
そんなささやかなヒーロー活動を終え、専用端末で任務完了報告とシフトの退勤連絡を送った直後だった。

 派手な爆発音。目の前の銀行から煙が上がり、悲鳴が響く。

 本当についてない。

「へへへっ、貯金日和だなぁ~?財布も命も預けて行けよぉ!」

 下品な怒声と枯葉色の癖っ気のある髪の男が、巨大なマチェーテを振り回してニヤついているのが見える。 
 その隣には、黒いスーツをしっかり着こなした眼鏡の男が鋭い目つきで警戒している。

「ノース、カメラは、壊しましたか?」

「あぁ?全部ぶっ壊したよ!ぶっ壊せば結果オーライ!!」

 あっこれ関わったらやばい連中。 
 悪の組織の狂犬ノースと氷の参謀、山田だ。

 俺みたいな時給で働く下っ端ヒーローが関わるべき存在じゃない……。 

 でも、俺は——ヒーローだから!

「いくしかないか!!」

 走り出しながら専用端末を起動する。

(……シフト外でも、これは報酬出るやつだよな?)

 爆風の熱気が顔に当たってる時点で、もう遅い。 
 足は止まらなかった。

「止まれ!(株)正義の味方所属ヒーロー、コード041。

ミラーレス参上!お前たちを逮捕する!」

 ノースがこちらを見て、ニィッと牙をむいた笑みを浮かべる。

「おうおう、ヒーロー様じゃねぇか!バイトか?時給いくらよォ!」

「このおバカ……さっさとしろ。面倒なのが来てしまいました。」

 山田が銃を構え、こちらに照準を向けてくる。 
 ヒーローとして、退けない。

でも心の中ではこう叫ぶ。

(時給が!! 命に見合ってねぇんだよ!!!)

 俺の能力は、「5秒先の未来を見ること」。 

 5秒先——長いようで、やっぱり短い。

 しかもこいつら相手に通用するとは思えない。

 資料で読んだが、このノースという男……かなりやばいらしい……。

「こちとらぁ時給じゃなく成果報酬なもんでなぁ。」

 にたりと笑った口元から牙がぎらぎらとしている。
目が笑ってない。

これは、中々に怖いな。 

 俺の足は、かすかに震えていた。

「軽く遊んでやるよぉ下っ端ヒーローぉ。」

 最悪だ。
こんなつもりじゃなかったのにな。

 でも、よかった。あらかた一般人の避難は終わってるようだ。  
銀行内は、ひどいありさまだったが、けが人もいなさそうだ。

「ノース…ほどほどに。こちらは、あと10秒で金庫も開錠完了です。」

 目の前の凶悪な男は、マチェーテを担ぎ直し、腰を低く、いつでも飛びかかれる体勢をとる。

(見える、5秒後……!)

 未来視が映し出すのは——顔面にマチェーテが振り下ろされる俺の姿。

(あ、やっぱ通用しねぇわこの能力!!!)

 本能で回避、転がるように避ける。 

 辛うじて、かすっただけで済んだ。
左肩に薄い切り傷。血がにじむ。

「ちょろちょろ動きやがってぇ……チッ、ウゼェな!!」

 ノースの連撃。  未来視に頼りすぎると、タイムラグが命取りになる。

(落ち着け……見極めろ……!)

 俺はあくまで“支援型”のヒーロー。  

こういうのは、真正面からぶつかっちゃいけないんだよ!!

 警棒を逆手に構える。

「……避けろ、俺……っ!」

 次の瞬間、5秒後に飛び込むノースの足が一瞬浮いた。

(そこだ——!)

 警棒で床を叩き、破片を目に散らす。 

 ノースが片目を細めた刹那、その足元へスタンモードに切り替えた警棒を叩き込む——!

 バチッ!!

「ちょいチクっときたなぁ!? ははっ……悪くねぇ!!」

 ノースの顔が笑っている。効いてねぇのかよ、今の!!

「ノース! 撤退です!」

「へいへい……っと。じゃあな、ヒーローくん。
今度会ったときは、その“5秒”ぶっ壊してやるよォ」

 軽やかに、笑いながら彼らは撤退していく。 
 命はある。
街も守れた。

 ……でも。

(正義って……こんなに、報われないのかよ)

 ポケットに入れた端末が、報酬通知をピコンと鳴らす。

【報酬:3,500円(+ヒーローポイント1pt)】

「……やっぱり見合ってねぇだろォ!!」



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