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第1章
第1話「老害」
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よく晴れた夏の昼だった。蝉がやかましい。首にかけたタオルで汗を拭いながら上を見る。
青い。
涼しい風が吹き、麦わら帽子が飛ばされそうになった。
権三は畑の横のベンチに腰掛け、一息ついた。桑を側に置き、煙草を一服した。そのときである。夏休み中だろうか、子供が3人走ってきた。追いかけっこをしてはしゃいでいる。ふと、一人の少年が足を踏み外し、ドリアン畑に突っ込んでしまった。未熟なドリアンの実が二つほど落ちてしまった。少年は痛がっており、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「てめえ!!ぶっ殺すぞクソガキがあ!!」
権三が発狂すると残りの二人の子供は逃げ出し、ドリアン激突少年は号泣してしまった。
「ったく…親の顔が見てみてえわ。」
ぶつぶつ文句を言いながら、落ちたドリアンの実を回収する。
「ケガはねえか?クソガキ。」
少年は泣いてばかりで、何を言っているのか分からない。
「はっきり言えねえのか!!それでも男か!!」
またも大声を出す権三に、少年は萎縮していた。
「なな、な、無いです!大丈夫です!はい!」
少年はなんとかして嗚咽の中に言葉を作った。
「名前は?」
権三は少年に目を向けることもなく、淡々と作業をしながら尋ねた。
「はい?」
「名乗れっつんてんだよ!!」
権三のイライラはピークに達していた。今年こそは全日本ドリアン選手権で優勝をしようと思い、インドネシアから直々に仕入れた種子を使って愛情を込めたドリアンが、ものの一瞬で素性もよく分からない悪童に粉砕されたからだ。
「ユウキです!」
「ほう…。」
暫く沈黙が流れた。ユウキは泣き止んだ。
「どけやあ!!」
畑に座ったままのユウキを、またも急に叱りつけた。
まったくこの爺さんは情緒が不安定である。
ユウキはすぐさま立ち上がり、畑の横に出た。
「本当にごめんなさい!大事な畑を荒らしちゃって…」
ユウキはいつでもまた泣き出しそうなくらい弱々しい声で謝った。
突如、権三は桑をぶん投げた。桑は宙を巻い、畑の奥にある木造住宅の壁に突き刺さった。
「おめえが殺したんだよ!!俺のドリアンを!!許せる訳ねえだろ!!」
その後も権三は説教を続けた。
小屋の影から、子供二人がその様子を覗いていた。
「ユウキやばくねえ?」
「な、あれもう生きて帰れねえな!」
「あいつドジだからなー。」
「格好のネタだな!これ。」
「休み明けたら言いふらそうぜ!」
そしてようやく説教が終わった。
「親どこだ?ちくってやる。」
権三が言った。
「僕、親というか、家族がいないんだ。」
ユウキが俯きながら答えた。
「は?じゃあお前誰と暮らしてんだよ?」
「田中の爺ちゃん。親が事故で死んだ時に引き取ってくれたんだ。」
ここで権三の顔色が変わった。
「田中?もしかして町会長の?」
「うん。」
「そう言えばこの前あいつ養子がなんたらとか言ってたな…。」
「おじちゃん知り合いなの?」
ユウキが顔を上げた。
「知り合いなんてもんじゃねえよ!あいつには迷惑してんだ!てめら揃ってなんなんだよ!」
「もしかしておじちゃんの名前、ゴンゾウさん?」
「ああそうだよ!!てめえ表札の漢字が読めるのか?」
「ううん、違うよ。爺ちゃんがよくゴンゾウさんの話してるよ。町内会の荒くれ者で、随一の曲者。老害の極みだって。3年前から勝手にドリアンを作り始めて、風下の集落じゃ異臭が絶えないんだって。散々注意しても聞かないから近々サイバン?とかなんとかするかもって!」
「さ、お前裁判の意味わかってんのか?」
「ううん、何?」
「そ、そうか…まあ、軽~いお茶会みたいな?ははは。」
「なにそれ楽しそう!僕も混ぜて!お菓子貰えるの?」
0.5秒後、権三の拳は既に少年の目前1cmで静止していた。危ない。これ以上やると流石に怖い。てか何、裁判って初耳なんですけど。え、何?勝てるわけないじゃん。俺不利すぎん?いや、こうなったのも自業自得か。いやいや、俺は何も間違っていない。田中の野郎、良いだろう。そうくるなら俺だって闘ってやる。法廷で会おう。
「ってな。」
権三は不気味な笑みを浮かべた。
「ゴンゾウさんどうしたの?」
「うるせえ!!」
二人は暫くなら間談笑(?)した。
「てかお前の連れはどうした?」
「逃げちゃったよ。そういう奴らなんだ。」
「友達じゃねえのか?」
「うーん。一応そうみたい。」
「ったく…仲間置いて逃げるって最悪だな。」
「絶対あいつら仲間だなんて思ってないよ。いつも僕をからかって馬鹿にするんだ。」
暫く沈黙が流れた。
「その二人をここに連れて来い。俺が話してやる。世の中の道理ってもんを教えてやるよ。」
「え?ほんとに?」
「ああ。だから早く呼んでこいや!!」
少年は驚きつつも、嬉しい気持ちで走っていった。僕のためにあいつらを叱ってくれるなんて、本当はゴンゾウさん、良い人なんだ。
「ええ?なんで俺らが行かねえといけねえの?」
二人の少年は困惑した。
「いや、でもドリアンのことはもう大丈夫みたいだよ。それに、ゴンゾウさん話してみると意外と良い人だったし…」
「うるせえんだよ。」
片方の少年が、ユウキの胸ぐらを掴んだ。
「東京から来たお前が学校で居場所なんかねえんだよ。俺らが相手してやってんの分かってんだろ?口答えすんなよな?」
少年がユウキに殴りかかろうと、拳を振り上げた。そのとき、何者かがその手首をつかんだ。
「おい。」
権三だった。
「てめえら二人とも、なんか大事なこと忘れてんじゃねえの?ちょっとこっち来いや!!」
「ユウキ、お前は帰っていい。」
そう言って権三は少年二人を連れ、共に家の庭に姿を消した。
「ドリアンはあああ!!俺の生きがいなんだよおお!!分かってんのかあ??」
権三は二人を怒鳴りつけた。
説教は5時間続いた。二人は泣き出し、日が暮れるまで叱られ続けた。
次の朝、ユウキが二人に会うと、彼らは別人のようだった。
「おはようございます、ユウキ様。」
「ユウキ様、お腹は減ってますか?お菓子あるんで好きなだけ食べて下さい!」
すごい、ゴンゾウさんが僕の事大事にするように言ってくれたんだ。本当にいい人だなゴンゾウさんって。ユウキは心の底から喜んだ。
「あのジジイと仲良いからな。歯向かうと危ないぜ。」
二人の少年は小声で対応を確認し合っていた。
青い。
涼しい風が吹き、麦わら帽子が飛ばされそうになった。
権三は畑の横のベンチに腰掛け、一息ついた。桑を側に置き、煙草を一服した。そのときである。夏休み中だろうか、子供が3人走ってきた。追いかけっこをしてはしゃいでいる。ふと、一人の少年が足を踏み外し、ドリアン畑に突っ込んでしまった。未熟なドリアンの実が二つほど落ちてしまった。少年は痛がっており、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「てめえ!!ぶっ殺すぞクソガキがあ!!」
権三が発狂すると残りの二人の子供は逃げ出し、ドリアン激突少年は号泣してしまった。
「ったく…親の顔が見てみてえわ。」
ぶつぶつ文句を言いながら、落ちたドリアンの実を回収する。
「ケガはねえか?クソガキ。」
少年は泣いてばかりで、何を言っているのか分からない。
「はっきり言えねえのか!!それでも男か!!」
またも大声を出す権三に、少年は萎縮していた。
「なな、な、無いです!大丈夫です!はい!」
少年はなんとかして嗚咽の中に言葉を作った。
「名前は?」
権三は少年に目を向けることもなく、淡々と作業をしながら尋ねた。
「はい?」
「名乗れっつんてんだよ!!」
権三のイライラはピークに達していた。今年こそは全日本ドリアン選手権で優勝をしようと思い、インドネシアから直々に仕入れた種子を使って愛情を込めたドリアンが、ものの一瞬で素性もよく分からない悪童に粉砕されたからだ。
「ユウキです!」
「ほう…。」
暫く沈黙が流れた。ユウキは泣き止んだ。
「どけやあ!!」
畑に座ったままのユウキを、またも急に叱りつけた。
まったくこの爺さんは情緒が不安定である。
ユウキはすぐさま立ち上がり、畑の横に出た。
「本当にごめんなさい!大事な畑を荒らしちゃって…」
ユウキはいつでもまた泣き出しそうなくらい弱々しい声で謝った。
突如、権三は桑をぶん投げた。桑は宙を巻い、畑の奥にある木造住宅の壁に突き刺さった。
「おめえが殺したんだよ!!俺のドリアンを!!許せる訳ねえだろ!!」
その後も権三は説教を続けた。
小屋の影から、子供二人がその様子を覗いていた。
「ユウキやばくねえ?」
「な、あれもう生きて帰れねえな!」
「あいつドジだからなー。」
「格好のネタだな!これ。」
「休み明けたら言いふらそうぜ!」
そしてようやく説教が終わった。
「親どこだ?ちくってやる。」
権三が言った。
「僕、親というか、家族がいないんだ。」
ユウキが俯きながら答えた。
「は?じゃあお前誰と暮らしてんだよ?」
「田中の爺ちゃん。親が事故で死んだ時に引き取ってくれたんだ。」
ここで権三の顔色が変わった。
「田中?もしかして町会長の?」
「うん。」
「そう言えばこの前あいつ養子がなんたらとか言ってたな…。」
「おじちゃん知り合いなの?」
ユウキが顔を上げた。
「知り合いなんてもんじゃねえよ!あいつには迷惑してんだ!てめら揃ってなんなんだよ!」
「もしかしておじちゃんの名前、ゴンゾウさん?」
「ああそうだよ!!てめえ表札の漢字が読めるのか?」
「ううん、違うよ。爺ちゃんがよくゴンゾウさんの話してるよ。町内会の荒くれ者で、随一の曲者。老害の極みだって。3年前から勝手にドリアンを作り始めて、風下の集落じゃ異臭が絶えないんだって。散々注意しても聞かないから近々サイバン?とかなんとかするかもって!」
「さ、お前裁判の意味わかってんのか?」
「ううん、何?」
「そ、そうか…まあ、軽~いお茶会みたいな?ははは。」
「なにそれ楽しそう!僕も混ぜて!お菓子貰えるの?」
0.5秒後、権三の拳は既に少年の目前1cmで静止していた。危ない。これ以上やると流石に怖い。てか何、裁判って初耳なんですけど。え、何?勝てるわけないじゃん。俺不利すぎん?いや、こうなったのも自業自得か。いやいや、俺は何も間違っていない。田中の野郎、良いだろう。そうくるなら俺だって闘ってやる。法廷で会おう。
「ってな。」
権三は不気味な笑みを浮かべた。
「ゴンゾウさんどうしたの?」
「うるせえ!!」
二人は暫くなら間談笑(?)した。
「てかお前の連れはどうした?」
「逃げちゃったよ。そういう奴らなんだ。」
「友達じゃねえのか?」
「うーん。一応そうみたい。」
「ったく…仲間置いて逃げるって最悪だな。」
「絶対あいつら仲間だなんて思ってないよ。いつも僕をからかって馬鹿にするんだ。」
暫く沈黙が流れた。
「その二人をここに連れて来い。俺が話してやる。世の中の道理ってもんを教えてやるよ。」
「え?ほんとに?」
「ああ。だから早く呼んでこいや!!」
少年は驚きつつも、嬉しい気持ちで走っていった。僕のためにあいつらを叱ってくれるなんて、本当はゴンゾウさん、良い人なんだ。
「ええ?なんで俺らが行かねえといけねえの?」
二人の少年は困惑した。
「いや、でもドリアンのことはもう大丈夫みたいだよ。それに、ゴンゾウさん話してみると意外と良い人だったし…」
「うるせえんだよ。」
片方の少年が、ユウキの胸ぐらを掴んだ。
「東京から来たお前が学校で居場所なんかねえんだよ。俺らが相手してやってんの分かってんだろ?口答えすんなよな?」
少年がユウキに殴りかかろうと、拳を振り上げた。そのとき、何者かがその手首をつかんだ。
「おい。」
権三だった。
「てめえら二人とも、なんか大事なこと忘れてんじゃねえの?ちょっとこっち来いや!!」
「ユウキ、お前は帰っていい。」
そう言って権三は少年二人を連れ、共に家の庭に姿を消した。
「ドリアンはあああ!!俺の生きがいなんだよおお!!分かってんのかあ??」
権三は二人を怒鳴りつけた。
説教は5時間続いた。二人は泣き出し、日が暮れるまで叱られ続けた。
次の朝、ユウキが二人に会うと、彼らは別人のようだった。
「おはようございます、ユウキ様。」
「ユウキ様、お腹は減ってますか?お菓子あるんで好きなだけ食べて下さい!」
すごい、ゴンゾウさんが僕の事大事にするように言ってくれたんだ。本当にいい人だなゴンゾウさんって。ユウキは心の底から喜んだ。
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