Little Garden

きはる

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ある晴れた日の

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 見上げるたびに青い空が、光る太陽が、僕を嘲笑っているようで通りを歩く人達に聞こえるよう舌打ちをした。なのに、誰一人眉一つ動かさないで僕の目の前を通り過ぎていく。
 あぁ、嫌だ。まるで僕がここにいないみたいだ。
 だから、晴れた日は嫌いなんだ。僕という存在がどれほどのものか思い知らされるから。親もいない。行く宛も帰る宛もない。誰も僕を知らない。僕がそんな人間だってありありと思い出させる。
 いつか来るこの世界の終わりに夢を見て、僕は今日も惰眠を貪る。固い地面の上に寝転がれば、少しだけ熱を持つ路地の石畳が心地良い。それだけが、僕を安心させる唯一のことだった。


 ゴンッ
 突然の頭への衝撃で目が覚める。盗賊かと思い急いで起き上がったが、眼前にいたのは、僕の主アルビオだけだった。
「あぁ、アルビオ。おかえり。さっぱりした?」
 おそらく殴られたであろう頭をさすりながら、水を含んだ銀髪の少女へと話しかける。すると、小さな息を吐きながら彼女は口を開けた。
「えぇ、おかげさまでね。だけど、私は荷物を見ているようあなたに言ったのよ?それなのに、なんで寝ているの」
 鈴を鳴らすような声が空気を震わす。水浴びをした後のアルビオの声はいつも以上に透き通っていて、僕の好きなものの一つだ。
「こんなに天気が良いんだ。眠ったってしょうがないよ」
 雲一つない青空に、僕達がいる森に暖かい日差しを送る太陽。こんなにも彼らが眠気を誘っているんだから、それに素直に従わないと。
 そんな僕の理屈を並べると、今度は大きくアルビオは息を吐いた。
「あなた、この前盗賊に襲われたのを忘れたの?私が助けなかったら、身ぐるみ全て奪われて殺されていたのかもしれないのよ?もう少し、危機管理を持ってほしいわ」
 一気に言葉をまくしたてると、アルビオは手に持っていたコアの実を2つ僕に渡した。
「早く食べてここを抜けましょう。“隣人たち”に聞いたら、森のすぐ先に次の国があるらしいわ」
「じゃあ、あいつの言ってたことは正しかったんだ」
「何言ってるの!森を抜けるまで散々、オオカミや毒ヘビに会ったじゃない!彼、こんなことまで言って無かったわ」
 声に怒気を含めながら、アルビオはコアの実にかぶりつく。それを見て、僕もその実にかぶりついた。
「でもさ、ハーベスの町からじゃ一週間もかかるんでしょ?三日でつけるなら近道のほうが良いよ。それに、オオカミが襲ってきてもアルビオがいるなら大丈夫じゃないか」
 真っ赤に熟れたコアの実は歯をたてるだけで赤い汁が滴りだす。一滴の汁だけで強い甘味が口一杯に広がる赤い実は、王都でも親しまれる味だ。
「フフ、おいしいね」
 ほおばりながら、アルビオに笑いかける。頭の芯にまで渡る瑞々しい甘さが僕の喉を潤す。起きた後の柔らかい微睡みからやっと目が覚めてきた。
 ふと、アルビオの赤い瞳と僕の黒い瞳の目があった。
「?、どうしたの?」
 そう問いかけると、アルビオは小さく笑った。
「リオはおかしいわね」
 目を細めて笑うアルビオを見て、何がおかしいのか不思議に思う。だけど、彼女が笑ってくれたなら何でもいいや。
「次の国を抜ければ、大陸の境界に入るわ。忙しくなるからそのつもりでいなさい」
 コアの実を食べ終わったアルビオは支度を始める。それを見て、残りの果実を全て口に詰め込み、昨日の夜に洗って木にかけた青い外套を取りに行く。それをひらりと羽織り、身支度を確認すれば、僕の支度は終わる。僕の荷物はアルビオからもらった外套だけだから。他には何一つ無い。
「リオ、行くわよ」
 同じように外套に身を包んだアルビオが僕を呼ぶ。すぐに駆け寄って、真っ白な彼女の手を握る。ひんやりと冷たい、だけど仄かに暖かい手の平に触れるだけで、僕をひどく安心させる。
 笑う彼女を見て、今日は晴れていて良かったと思った。
 だって、そのほうが彼女の顔がよく見える。アルビオの笑う顔は本当に綺麗で僕が好きなものなんだ。
 いつの日か訪れる世界の終わりが、今はアルビオといるこの瞬間のために来ないで欲しいと願っている。なんて、傲慢だろうけど。
 遠くで鐘の音が聞こえる。昨日、微かに聞こえた音よりも確かに僕の耳に響く。
 緑生い茂る森はもうすぐ抜ける。
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