1 / 2
ある晴れた日の
しおりを挟む
見上げるたびに青い空が、光る太陽が、僕を嘲笑っているようで通りを歩く人達に聞こえるよう舌打ちをした。なのに、誰一人眉一つ動かさないで僕の目の前を通り過ぎていく。
あぁ、嫌だ。まるで僕がここにいないみたいだ。
だから、晴れた日は嫌いなんだ。僕という存在がどれほどのものか思い知らされるから。親もいない。行く宛も帰る宛もない。誰も僕を知らない。僕がそんな人間だってありありと思い出させる。
いつか来るこの世界の終わりに夢を見て、僕は今日も惰眠を貪る。固い地面の上に寝転がれば、少しだけ熱を持つ路地の石畳が心地良い。それだけが、僕を安心させる唯一のことだった。
ゴンッ
突然の頭への衝撃で目が覚める。盗賊かと思い急いで起き上がったが、眼前にいたのは、僕の主アルビオだけだった。
「あぁ、アルビオ。おかえり。さっぱりした?」
おそらく殴られたであろう頭をさすりながら、水を含んだ銀髪の少女へと話しかける。すると、小さな息を吐きながら彼女は口を開けた。
「えぇ、おかげさまでね。だけど、私は荷物を見ているようあなたに言ったのよ?それなのに、なんで寝ているの」
鈴を鳴らすような声が空気を震わす。水浴びをした後のアルビオの声はいつも以上に透き通っていて、僕の好きなものの一つだ。
「こんなに天気が良いんだ。眠ったってしょうがないよ」
雲一つない青空に、僕達がいる森に暖かい日差しを送る太陽。こんなにも彼らが眠気を誘っているんだから、それに素直に従わないと。
そんな僕の理屈を並べると、今度は大きくアルビオは息を吐いた。
「あなた、この前盗賊に襲われたのを忘れたの?私が助けなかったら、身ぐるみ全て奪われて殺されていたのかもしれないのよ?もう少し、危機管理を持ってほしいわ」
一気に言葉をまくしたてると、アルビオは手に持っていたコアの実を2つ僕に渡した。
「早く食べてここを抜けましょう。“隣人たち”に聞いたら、森のすぐ先に次の国があるらしいわ」
「じゃあ、あいつの言ってたことは正しかったんだ」
「何言ってるの!森を抜けるまで散々、オオカミや毒ヘビに会ったじゃない!彼、こんなことまで言って無かったわ」
声に怒気を含めながら、アルビオはコアの実にかぶりつく。それを見て、僕もその実にかぶりついた。
「でもさ、ハーベスの町からじゃ一週間もかかるんでしょ?三日でつけるなら近道のほうが良いよ。それに、オオカミが襲ってきてもアルビオがいるなら大丈夫じゃないか」
真っ赤に熟れたコアの実は歯をたてるだけで赤い汁が滴りだす。一滴の汁だけで強い甘味が口一杯に広がる赤い実は、王都でも親しまれる味だ。
「フフ、おいしいね」
ほおばりながら、アルビオに笑いかける。頭の芯にまで渡る瑞々しい甘さが僕の喉を潤す。起きた後の柔らかい微睡みからやっと目が覚めてきた。
ふと、アルビオの赤い瞳と僕の黒い瞳の目があった。
「?、どうしたの?」
そう問いかけると、アルビオは小さく笑った。
「リオはおかしいわね」
目を細めて笑うアルビオを見て、何がおかしいのか不思議に思う。だけど、彼女が笑ってくれたなら何でもいいや。
「次の国を抜ければ、大陸の境界に入るわ。忙しくなるからそのつもりでいなさい」
コアの実を食べ終わったアルビオは支度を始める。それを見て、残りの果実を全て口に詰め込み、昨日の夜に洗って木にかけた青い外套を取りに行く。それをひらりと羽織り、身支度を確認すれば、僕の支度は終わる。僕の荷物はアルビオからもらった外套だけだから。他には何一つ無い。
「リオ、行くわよ」
同じように外套に身を包んだアルビオが僕を呼ぶ。すぐに駆け寄って、真っ白な彼女の手を握る。ひんやりと冷たい、だけど仄かに暖かい手の平に触れるだけで、僕をひどく安心させる。
笑う彼女を見て、今日は晴れていて良かったと思った。
だって、そのほうが彼女の顔がよく見える。アルビオの笑う顔は本当に綺麗で僕が好きなものなんだ。
いつの日か訪れる世界の終わりが、今はアルビオといるこの瞬間のために来ないで欲しいと願っている。なんて、傲慢だろうけど。
遠くで鐘の音が聞こえる。昨日、微かに聞こえた音よりも確かに僕の耳に響く。
緑生い茂る森はもうすぐ抜ける。
あぁ、嫌だ。まるで僕がここにいないみたいだ。
だから、晴れた日は嫌いなんだ。僕という存在がどれほどのものか思い知らされるから。親もいない。行く宛も帰る宛もない。誰も僕を知らない。僕がそんな人間だってありありと思い出させる。
いつか来るこの世界の終わりに夢を見て、僕は今日も惰眠を貪る。固い地面の上に寝転がれば、少しだけ熱を持つ路地の石畳が心地良い。それだけが、僕を安心させる唯一のことだった。
ゴンッ
突然の頭への衝撃で目が覚める。盗賊かと思い急いで起き上がったが、眼前にいたのは、僕の主アルビオだけだった。
「あぁ、アルビオ。おかえり。さっぱりした?」
おそらく殴られたであろう頭をさすりながら、水を含んだ銀髪の少女へと話しかける。すると、小さな息を吐きながら彼女は口を開けた。
「えぇ、おかげさまでね。だけど、私は荷物を見ているようあなたに言ったのよ?それなのに、なんで寝ているの」
鈴を鳴らすような声が空気を震わす。水浴びをした後のアルビオの声はいつも以上に透き通っていて、僕の好きなものの一つだ。
「こんなに天気が良いんだ。眠ったってしょうがないよ」
雲一つない青空に、僕達がいる森に暖かい日差しを送る太陽。こんなにも彼らが眠気を誘っているんだから、それに素直に従わないと。
そんな僕の理屈を並べると、今度は大きくアルビオは息を吐いた。
「あなた、この前盗賊に襲われたのを忘れたの?私が助けなかったら、身ぐるみ全て奪われて殺されていたのかもしれないのよ?もう少し、危機管理を持ってほしいわ」
一気に言葉をまくしたてると、アルビオは手に持っていたコアの実を2つ僕に渡した。
「早く食べてここを抜けましょう。“隣人たち”に聞いたら、森のすぐ先に次の国があるらしいわ」
「じゃあ、あいつの言ってたことは正しかったんだ」
「何言ってるの!森を抜けるまで散々、オオカミや毒ヘビに会ったじゃない!彼、こんなことまで言って無かったわ」
声に怒気を含めながら、アルビオはコアの実にかぶりつく。それを見て、僕もその実にかぶりついた。
「でもさ、ハーベスの町からじゃ一週間もかかるんでしょ?三日でつけるなら近道のほうが良いよ。それに、オオカミが襲ってきてもアルビオがいるなら大丈夫じゃないか」
真っ赤に熟れたコアの実は歯をたてるだけで赤い汁が滴りだす。一滴の汁だけで強い甘味が口一杯に広がる赤い実は、王都でも親しまれる味だ。
「フフ、おいしいね」
ほおばりながら、アルビオに笑いかける。頭の芯にまで渡る瑞々しい甘さが僕の喉を潤す。起きた後の柔らかい微睡みからやっと目が覚めてきた。
ふと、アルビオの赤い瞳と僕の黒い瞳の目があった。
「?、どうしたの?」
そう問いかけると、アルビオは小さく笑った。
「リオはおかしいわね」
目を細めて笑うアルビオを見て、何がおかしいのか不思議に思う。だけど、彼女が笑ってくれたなら何でもいいや。
「次の国を抜ければ、大陸の境界に入るわ。忙しくなるからそのつもりでいなさい」
コアの実を食べ終わったアルビオは支度を始める。それを見て、残りの果実を全て口に詰め込み、昨日の夜に洗って木にかけた青い外套を取りに行く。それをひらりと羽織り、身支度を確認すれば、僕の支度は終わる。僕の荷物はアルビオからもらった外套だけだから。他には何一つ無い。
「リオ、行くわよ」
同じように外套に身を包んだアルビオが僕を呼ぶ。すぐに駆け寄って、真っ白な彼女の手を握る。ひんやりと冷たい、だけど仄かに暖かい手の平に触れるだけで、僕をひどく安心させる。
笑う彼女を見て、今日は晴れていて良かったと思った。
だって、そのほうが彼女の顔がよく見える。アルビオの笑う顔は本当に綺麗で僕が好きなものなんだ。
いつの日か訪れる世界の終わりが、今はアルビオといるこの瞬間のために来ないで欲しいと願っている。なんて、傲慢だろうけど。
遠くで鐘の音が聞こえる。昨日、微かに聞こえた音よりも確かに僕の耳に響く。
緑生い茂る森はもうすぐ抜ける。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
豚公子の逆襲蘇生
ヤネコ
ファンタジー
肥満体の公爵令息ポルコは婚約者の裏切りを目撃し、憤死で生涯を終えるはずだった。だが、憤怒の中に燃え尽きたはずのポルコの魂は、社内政争に敗れ命を落とした男武藤の魂と混じり合う。
アニメ化も決定した超人気ロマンスファンタジー『婚約者の豚公子に虐げられていましたが隣国皇子様から溺愛されています』を舞台に、『舞台装置』と『負け犬』落伍者達の魂は、徹底した自己管理と泥塗れの知略で再点火する。
※主人公の『原作知識』は断片的(広告バナーで見た一部分のみ)なものとなります。
己の努力と知略を武器に戦う、ハーレム・チート・聖人化無しの復讐ファンタジーです。
準備を重ねて牙を剥く、じっくり型主人公をお楽しみください。
【お知らせ】
第7話「結実の前夜」は2026/02/09 08:00公開予定です。
続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
の続編です。
アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな?
辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる