おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子

文字の大きさ
12 / 24
第二話 おばさん冒険者、特命依頼を受ける

4

しおりを挟む
 畑の調査に時間がかかったので、リーナたちはその場で野営することにした。
 有真白は食用に向かないため、素材になる部位を取ったあとは埋められた。その墓を背に、正面は違法薬物の材料の畑。――かなり奇妙な野営地だ。
 今日の夕食はアリスがマジックバッグで持ち込んだシチューだ。鍋ごと出てきたけれど、リーナはもう驚かない。
「ミラに作ってもらったのよ!」
「てこたぁ、ギルドの食堂の味か!」
「アリスと組むと、これがあるからなぁ」
「最初から頼りにしてて悪いが、役得だよな」
 アリスの料理持ち込みは以前からだったようで、『籠目』の三人は嬉しそうだ。
 リーナも採取依頼に同行する際、毎回ミラ手製の弁当や街の店の持ち帰り料理などを分けてもらっていた。
(確かに役得ですね!)
 調査員のビリーもギルドの食堂で食べたことがあるそうで「好物なんです」と頬を緩めており、初めて食べた二人にも好評だった。
「そういえば、アリスおばさんは料理しないんですか?」
「しないわね」
 リーナが尋ねると、アリスはきっぱり否定した。
 リックが身を乗り出して、
「嬢ちゃん、絶対こいつに飯を作らせるなよ!」
「え、そんなにあれなんですか?」
 『籠目』の三人は何度もうなずいた。
「生焼けかと思ったら、次は黒焦げだろ。ちょうどいいのがねぇんだよ」
「そうそう。味がしないか、濃すぎて食えないか」
「惜しい、もう一息ってこともないんだよな」
 三人に暴露され、アリスは嘆く。
「表を何分焼いて裏を何分焼くって、きっちり指定してくれたら、あたしだってちょうど良く焼けるわよ! 調味料だって入れる分を計っておいてくれたらいいのに。微調整を要求してくるからわからなくなるんじゃない! 中まで火を通すとか味を整えるとか言われても、加減がわからないのよ」
 皆が笑った。
「警備兵も遠征ってあるんですか?」
 リーナが聞くと、ラリーが「ありますよ」と答えてくれる。
「要請があれば領地内のどこでも行きますし、他領に行くこともあります。『リリンの森』に来ることは滅多にないですけどね」
「へー、そうなんですねー。遠征のときのご飯って兵士の皆さんが作るんですか?」
「もちろんです」
「俺たちの遠征料理は、さっきアリスさんが言ったみたいに、調味料は最初から一回分ずつに分けられてますよ」
 ビリーがそう言うと、アリスが「ほら見なさいよ!」と胸を張り、また皆が笑った。

 食後、片付けを済ませて、リーナは手帳に今日の出来事をメモした。帰ったら報告書にまとめないとならないから、こまめにつけている。
(今日は書くことが多いですね……)
 アリスの防御魔法にばかり頼っていると負担になるため、野営地では結界の魔道具を使っている。『籠目』の三人とアリスは交代で見張りをするが、リーナは免除してもらっていた。
 申し訳ないと思う部分もあるけれど、寝ないと体力が続かずに逆に迷惑をかけるだけだ。仕方ないと割り切っている。
(アリスおばさんの弟子になった始めのころよりは体力がついたと思うんですけど、まだまだですよね)
 アリスが採取依頼を受けているうちはついていけるけれど、討伐依頼なら無理だ。
 リーナはギルド職員だから、アリスの依頼全てに同行しなくてもいい。でも、一緒に行けないのは寂しいだろうな、と思う。
(だって、アリスおばさんと冒険に出るのは楽しいんですもん)
 朝早めに出勤してギルドの演習場を走ろうかな、と考えるリーナだった。
 そこで、リーナは皆から少し離れたところに、サダイズがいるのを発見した。
 ずっと気になっていたことがあったリーナは、目立たないようにさりげなくサダイズのところまで行って話しかける。
「サダイズさん、ちょっと内密のお話なんですけど……」
「ん? 内密?」
 革の胸当ての手入れをしていたサダイズは怪訝な顔でリーナを見上げた。
「治療院の割引の件です」
 リーナが声を落とすと、サダイズは静かに立ち上がって、リーナを結界の外に促した。
 焚き火の灯りが届かない場所まで行き、サダイズは立ち止まった。
「結界から出て危なくないですか?」
「巨大魔物の匂いが残ってるから、小物は近寄らねぇよ。そんな距離でもねぇしな。魔物が出たら結界まで走ればいい」
 不貞腐れたような言い方でサダイズは木にもたれた。
「じゃあ手短に言いますけど。サダイズさん、どこか身体を悪くしてるんじゃないですか? それに、そのことを『籠目』の皆さんに秘密にしていますよね?」
「…………」
「定期的に治療院に通っているのは知ってるんです」
「………………」
「サダイズさん!」
 リーナが迫ると、サダイズはため息をついた。
「……ギルドの割引制度なぁ。リーナに頼んだことあったもんなぁ」
 冒険者ギルドには治療院の割引制度がある。冒険者のレベルや貢献度に応じて回数制限があるが、治療院の領収書をギルドに提出すると治療費の二割が払い戻される仕組みだ。
 リーナはサダイズの領収書を処理したことが何度もあった。
「病気ですか? 怪我ですか?」
「怪我っつうか古傷っつうか……、まぁ年のせいだな」
(『籠目』の皆さんはギルドマスターより一つか二つ年上だったでしょうか……)
 四十代後半に差し掛かったころだと思う。
「若いころに怪我した膝が、今になってガタがきたのか、痛み出したんだわ。治癒魔法でも治せないから、薬を処方してもらってんだよ」
 サダイズは左膝を軽く叩く。
 治癒魔法やポーションは、古傷や老化など治せないものもある。ファーラドの治療院には治癒魔法使いと医師と薬師がおり、連携していた。
「薬で治るんですか……?」
「年のせいだっつったろ? 薬は症状を緩和するだけで、大元は治せねぇんだ」
「え、じゃあ……」
 リーナは二の句が継げない。
(このまま冒険者を続けるのは難しいんじゃないでしょうか……)
「膝に負担をかけないようにって注意されたんじゃない?」
 ふいに背後からアリスの声がかかった。
「アリスおばさん!」
 リーナは驚いたけれど、サダイズはアリスに気づいていたようで驚かなかった。
「歩くのは禁止されてないぜ」
「それって、討伐は禁止されてるってことでしょ?」
 アリスが突っ込むと、サダイズは視線を逸らした。
「だから、あんなところでつまずいたのね」
 アリスが指摘したのは今日の討伐のことだろう。
 リーナもかなり心配した。
「今後のことは考えてるの?」
「ああ………パーティは抜けようかって思ってる。この膝じゃ引退しかないだろ」
 サダイズは先ほどより強く左膝を叩いた。
「今日はさすがに肝が冷えた……。自分でも驚いたよ。ああいうことがあると、もう、こりゃあ潮時だなって思うよ」
 辞めるしかない、とサダイズは繰り返す。
 アリスは少し柔らかい声音で、
「進退はゆっくり考えたらいいわよ。でも、膝の不調はリックとダウトにも知らせたほうがいいんじゃない? あなたに無理がないようにしないと」
「だよなぁ」
 サダイズは髪をかき混ぜ、唸る。
「機会を見つけて話してみるわ。アリスもリーナも、ありがとな」
 サダイズは少しだけ笑顔を見せて、野営地に戻って行く。
 リーナとアリスは振り返って見送ったけれど、アリスがはっとした様子で、
「あ! 護衛依頼の最中だからね! メンバー以外も人がいるんだから、伝え方には注意しなさいよ。間違っても喧嘩なんかしないようにね!」
「おぅ」
 サダイズは片手を振って答えた。
 ――しかし、リーナが翌朝起きると、サダイズとリックは険悪な状態になっていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

処理中です...