おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子

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第二話 おばさん冒険者、特命依頼を受ける

4

 畑の調査に時間がかかったので、リーナたちはその場で野営することにした。
 有真白は食用に向かないため、素材になる部位を取ったあとは埋められた。その墓を背に、正面は違法薬物の材料の畑。――かなり奇妙な野営地だ。
 今日の夕食はアリスがマジックバッグで持ち込んだシチューだ。鍋ごと出てきたけれど、リーナはもう驚かない。
「ミラに作ってもらったのよ!」
「てこたぁ、ギルドの食堂の味か!」
「アリスと組むと、これがあるからなぁ」
「最初から頼りにしてて悪いが、役得だよな」
 アリスの料理持ち込みは以前からだったようで、『籠目』の三人は嬉しそうだ。
 リーナも採取依頼に同行する際、毎回ミラ手製の弁当や街の店の持ち帰り料理などを分けてもらっていた。
(確かに役得ですね!)
 調査員のビリーもギルドの食堂で食べたことがあるそうで「好物なんです」と頬を緩めており、初めて食べた二人にも好評だった。
「そういえば、アリスおばさんは料理しないんですか?」
「しないわね」
 リーナが尋ねると、アリスはきっぱり否定した。
 リックが身を乗り出して、
「嬢ちゃん、絶対こいつに飯を作らせるなよ!」
「え、そんなにあれなんですか?」
 『籠目』の三人は何度もうなずいた。
「生焼けかと思ったら、次は黒焦げだろ。ちょうどいいのがねぇんだよ」
「そうそう。味がしないか、濃すぎて食えないか」
「惜しい、もう一息ってこともないんだよな」
 三人に暴露され、アリスは嘆く。
「表を何分焼いて裏を何分焼くって、きっちり指定してくれたら、あたしだってちょうど良く焼けるわよ! 調味料だって入れる分を計っておいてくれたらいいのに。微調整を要求してくるからわからなくなるんじゃない! 中まで火を通すとか味を整えるとか言われても、加減がわからないのよ」
 皆が笑った。
「警備兵も遠征ってあるんですか?」
 リーナが聞くと、ラリーが「ありますよ」と答えてくれる。
「要請があれば領地内のどこでも行きますし、他領に行くこともあります。『リリンの森』に来ることは滅多にないですけどね」
「へー、そうなんですねー。遠征のときのご飯って兵士の皆さんが作るんですか?」
「もちろんです」
「俺たちの遠征料理は、さっきアリスさんが言ったみたいに、調味料は最初から一回分ずつに分けられてますよ」
 ビリーがそう言うと、アリスが「ほら見なさいよ!」と胸を張り、また皆が笑った。

 食後、片付けを済ませて、リーナは手帳に今日の出来事をメモした。帰ったら報告書にまとめないとならないから、こまめにつけている。
(今日は書くことが多いですね……)
 アリスの防御魔法にばかり頼っていると負担になるため、野営地では結界の魔道具を使っている。『籠目』の三人とアリスは交代で見張りをするが、リーナは免除してもらっていた。
 申し訳ないと思う部分もあるけれど、寝ないと体力が続かずに逆に迷惑をかけるだけだ。仕方ないと割り切っている。
(アリスおばさんの弟子になった始めのころよりは体力がついたと思うんですけど、まだまだですよね)
 アリスが採取依頼を受けているうちはついていけるけれど、討伐依頼なら無理だ。
 リーナはギルド職員だから、アリスの依頼全てに同行しなくてもいい。でも、一緒に行けないのは寂しいだろうな、と思う。
(だって、アリスおばさんと冒険に出るのは楽しいんですもん)
 朝早めに出勤してギルドの演習場を走ろうかな、と考えるリーナだった。
 そこで、リーナは皆から少し離れたところに、サダイズがいるのを発見した。
 ずっと気になっていたことがあったリーナは、目立たないようにさりげなくサダイズのところまで行って話しかける。
「サダイズさん、ちょっと内密のお話なんですけど……」
「ん? 内密?」
 革の胸当ての手入れをしていたサダイズは怪訝な顔でリーナを見上げた。
「治療院の割引の件です」
 リーナが声を落とすと、サダイズは静かに立ち上がって、リーナを結界の外に促した。
 焚き火の灯りが届かない場所まで行き、サダイズは立ち止まった。
「結界から出て危なくないですか?」
「巨大魔物の匂いが残ってるから、小物は近寄らねぇよ。そんな距離でもねぇしな。魔物が出たら結界まで走ればいい」
 不貞腐れたような言い方でサダイズは木にもたれた。
「じゃあ手短に言いますけど。サダイズさん、どこか身体を悪くしてるんじゃないですか? それに、そのことを『籠目』の皆さんに秘密にしていますよね?」
「…………」
「定期的に治療院に通っているのは知ってるんです」
「………………」
「サダイズさん!」
 リーナが迫ると、サダイズはため息をついた。
「……ギルドの割引制度なぁ。リーナに頼んだことあったもんなぁ」
 冒険者ギルドには治療院の割引制度がある。冒険者のレベルや貢献度に応じて回数制限があるが、治療院の領収書をギルドに提出すると治療費の二割が払い戻される仕組みだ。
 リーナはサダイズの領収書を処理したことが何度もあった。
「病気ですか? 怪我ですか?」
「怪我っつうか古傷っつうか……、まぁ年のせいだな」
(『籠目』の皆さんはギルドマスターより一つか二つ年上だったでしょうか……)
 四十代後半に差し掛かったころだと思う。
「若いころに怪我した膝が、今になってガタがきたのか、痛み出したんだわ。治癒魔法でも治せないから、薬を処方してもらってんだよ」
 サダイズは左膝を軽く叩く。
 治癒魔法やポーションは、古傷や老化など治せないものもある。ファーラドの治療院には治癒魔法使いと医師と薬師がおり、連携していた。
「薬で治るんですか……?」
「年のせいだっつったろ? 薬は症状を緩和するだけで、大元は治せねぇんだ」
「え、じゃあ……」
 リーナは二の句が継げない。
(このまま冒険者を続けるのは難しいんじゃないでしょうか……)
「膝に負担をかけないようにって注意されたんじゃない?」
 ふいに背後からアリスの声がかかった。
「アリスおばさん!」
 リーナは驚いたけれど、サダイズはアリスに気づいていたようで驚かなかった。
「歩くのは禁止されてないぜ」
「それって、討伐は禁止されてるってことでしょ?」
 アリスが突っ込むと、サダイズは視線を逸らした。
「だから、あんなところでつまずいたのね」
 アリスが指摘したのは今日の討伐のことだろう。
 リーナもかなり心配した。
「今後のことは考えてるの?」
「ああ………パーティは抜けようかって思ってる。この膝じゃ引退しかないだろ」
 サダイズは先ほどより強く左膝を叩いた。
「今日はさすがに肝が冷えた……。自分でも驚いたよ。ああいうことがあると、もう、こりゃあ潮時だなって思うよ」
 辞めるしかない、とサダイズは繰り返す。
 アリスは少し柔らかい声音で、
「進退はゆっくり考えたらいいわよ。でも、膝の不調はリックとダウトにも知らせたほうがいいんじゃない? あなたに無理がないようにしないと」
「だよなぁ」
 サダイズは髪をかき混ぜ、唸る。
「機会を見つけて話してみるわ。アリスもリーナも、ありがとな」
 サダイズは少しだけ笑顔を見せて、野営地に戻って行く。
 リーナとアリスは振り返って見送ったけれど、アリスがはっとした様子で、
「あ! 護衛依頼の最中だからね! メンバー以外も人がいるんだから、伝え方には注意しなさいよ。間違っても喧嘩なんかしないようにね!」
「おぅ」
 サダイズは片手を振って答えた。
 ――しかし、リーナが翌朝起きると、サダイズとリックは険悪な状態になっていたのだった。

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