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第四話 おばさん冒険者、弟子の依頼を受ける
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「行きます!」
リーナは掛け声をかけて跳羽鼠を狙う。羽を小さくして身体を大きくした蝙蝠といった見た目で、高くジャンプする魔物だ。
鼠がジャンプするタイミングに合わせて、リーナは指先から発射するイメージで水球砲を撃った。
「キュッ!」
顔に水球を受けた鼠は鳴き声を上げて吹っ飛んだ。
「やりました!」
リーナは小さく拳を握った。
アリスとの修行の成果で、リーナの魔法の命中率も上がり、今まで当てられなかった小物にも当てられるようになってきた。
「リーナ、まだ魔物は生きているわよ」
アリスの指摘を受け、リーナは再び鼠を狙う。溺れさせるつもりで、ふらついている鼠の頭上に大きな水球を出して落としたのだが……。
「きゃっ!」
「ええっ!? ノーラ!」
リーナが落とした水球は、鼠にとどめを刺そうとしたノーラにかかってしまった。
ノーラはずぶ濡れになりながら、鼠をレイピアで倒す。
魔物が全て討伐されたのを確認してから、リーナはノーラに駆け寄った。
「わあ、ごめんなさい。ノーラにかけるつもりはなかったんですー! あっ、タオル! これ、使ってください!」
「ありがと」
素直にリーナからタオルを受け取ったノーラは、
「割り込んだ私も悪かったわ」
と謝る。
「二人とも反省会ね」
リーナたちの戦いを見ていたアリスがそう言って、ノーラに洗浄の魔道具を使った。
――馬車の旅なのに、なぜ魔物を討伐しているのか。
それはもう「魔物がそこにいたから」としか言いようがなかった。
あるいは「アリスが同行していたから」。
「あら、跳羽鼠。ちょうどいいわ。リーナ、修行の成果を見せてちょうだい」
そんなアリスの発言から魔物討伐講習が始まったのだった。
ここは、ハードルと領境の街レッツェルの間の野営地だ。
街の宿に泊まりながらゆっくり旅する長距離馬車もあるが、今回は野営しながら最短で進む馬車を選んだ。今日はこの野営地で一泊することになる。
公設の野営地なので、魔物を寄せ付けない魔道具が設置されていて井戸や炊事場もある。リーナたちが乗ってきた長距離馬車以外にも、野営しているグループがいくつもあった。
翌朝の出発時間までに集合すればいいため、乗客はどこにテントを張ってもかまわない。広場を物色していたところで、結界の外に魔物を見つけた、という経緯だった。
リーナはアリスの指示だったけれど、ノーラは自分から「私も『完全防御の魔女』の指導を受けたい」と言い出して、二匹の跳羽鼠を二人で討伐することになった。
「リーナの命中率も上がってきたし、ノーラは危なげもなく討伐できているから、ひとりひとりは問題ないわ。でも、共闘については課題が多いわねぇ」
倒した跳羽鼠を解体しながら、リーナとノーラはアリスの説教を聞く。アリスもアリスで、高性能魔道具テントを設置しながらだ。
「リーナは、魔物だけじゃなくて味方の動きにも気を配るようにしなさい。ノーラは仲良くない相手だからって遠慮しないで、いつものパーティで討伐するときみたいに打ち合わせたり声を掛け合ったりしなさい」
(アリスおばさん、仲良くない相手ってそんなはっきり言わなくても……)
その指摘は心の中に取っておいて、リーナは「わかりました」とだけ返事する。しかし、ノーラは「打ち合わせ? 声かけ?」と戸惑っている。
「え? 打ち合わせたりしないの? ああ。慣れている相手ならアイコンタクトってこともあるわね。でも、それは初めて共闘する相手には通じないから」
首をかしげてから自己解決したアリスに、ノーラは否定する。
「打ち合わせもアイコンタクトも、やってないわ」
「ええ? それじゃあ、普段どうしているの? 二人パーティだったわよね?」
「向こうが先に突っ込むから、私はそれを見てフォローして……」
ノーラは気まずそうに答えて、視線を鼠に移した。
「それで討伐しやすいならいいけれど、ノーラの負担が大きくない?」
「今までもそうだったから慣れたわ」
気を使わないアリスはリーナに「コリンもそうだったの?」と聞いてくる。
「そうですねー。私が作戦を立てても聞いてくれないこともありましたから、あんまりひどいときは喧嘩しましたねー。……でも、私は戦力にならなくて最終的にはコリンが全部倒していたので、たぶんコリンのほうが負担が大きかったと思います」
リーナが答えると、ノーラが驚いた顔でこちらを見る。
「喧嘩したの? コリンと?」
「しましたよ」
「付き合っているときに?」
「え? 付き合ってたって喧嘩くらいしますよね?」
逆に驚いたリーナはアリスに振る。
「するわよ。結婚したって喧嘩するわよ」
「ですよね」
うなずき合うリーナとアリスに、ノーラは「そういうものなの?」と首をかしげる。
「不満があるなら言ったほうがいいわよ。我慢したっていいことなんか何もないんだから」
「わかったわ……」
(ノーラは恋人に強く言えないタイプなんでしょうか? 意外……でもない、ですかね……?)
コリンがリーナに絡んできたとき、ノーラはコリンを止めたらしいけれど聞き入れてもらえず、追従していた。コリンの横暴だと思っていたけれど、ノーラの主張が控えめだったのかもしれない。
(この旅のあとも付き合いがあるかわからないですけど)
「次に討伐するときは、打ち合わせをしましょう!」
リーナがそう言うと、ノーラは小さくうなずいた。
----
間が空いてしまって申し訳ありません。
再開します。
リーナは掛け声をかけて跳羽鼠を狙う。羽を小さくして身体を大きくした蝙蝠といった見た目で、高くジャンプする魔物だ。
鼠がジャンプするタイミングに合わせて、リーナは指先から発射するイメージで水球砲を撃った。
「キュッ!」
顔に水球を受けた鼠は鳴き声を上げて吹っ飛んだ。
「やりました!」
リーナは小さく拳を握った。
アリスとの修行の成果で、リーナの魔法の命中率も上がり、今まで当てられなかった小物にも当てられるようになってきた。
「リーナ、まだ魔物は生きているわよ」
アリスの指摘を受け、リーナは再び鼠を狙う。溺れさせるつもりで、ふらついている鼠の頭上に大きな水球を出して落としたのだが……。
「きゃっ!」
「ええっ!? ノーラ!」
リーナが落とした水球は、鼠にとどめを刺そうとしたノーラにかかってしまった。
ノーラはずぶ濡れになりながら、鼠をレイピアで倒す。
魔物が全て討伐されたのを確認してから、リーナはノーラに駆け寄った。
「わあ、ごめんなさい。ノーラにかけるつもりはなかったんですー! あっ、タオル! これ、使ってください!」
「ありがと」
素直にリーナからタオルを受け取ったノーラは、
「割り込んだ私も悪かったわ」
と謝る。
「二人とも反省会ね」
リーナたちの戦いを見ていたアリスがそう言って、ノーラに洗浄の魔道具を使った。
――馬車の旅なのに、なぜ魔物を討伐しているのか。
それはもう「魔物がそこにいたから」としか言いようがなかった。
あるいは「アリスが同行していたから」。
「あら、跳羽鼠。ちょうどいいわ。リーナ、修行の成果を見せてちょうだい」
そんなアリスの発言から魔物討伐講習が始まったのだった。
ここは、ハードルと領境の街レッツェルの間の野営地だ。
街の宿に泊まりながらゆっくり旅する長距離馬車もあるが、今回は野営しながら最短で進む馬車を選んだ。今日はこの野営地で一泊することになる。
公設の野営地なので、魔物を寄せ付けない魔道具が設置されていて井戸や炊事場もある。リーナたちが乗ってきた長距離馬車以外にも、野営しているグループがいくつもあった。
翌朝の出発時間までに集合すればいいため、乗客はどこにテントを張ってもかまわない。広場を物色していたところで、結界の外に魔物を見つけた、という経緯だった。
リーナはアリスの指示だったけれど、ノーラは自分から「私も『完全防御の魔女』の指導を受けたい」と言い出して、二匹の跳羽鼠を二人で討伐することになった。
「リーナの命中率も上がってきたし、ノーラは危なげもなく討伐できているから、ひとりひとりは問題ないわ。でも、共闘については課題が多いわねぇ」
倒した跳羽鼠を解体しながら、リーナとノーラはアリスの説教を聞く。アリスもアリスで、高性能魔道具テントを設置しながらだ。
「リーナは、魔物だけじゃなくて味方の動きにも気を配るようにしなさい。ノーラは仲良くない相手だからって遠慮しないで、いつものパーティで討伐するときみたいに打ち合わせたり声を掛け合ったりしなさい」
(アリスおばさん、仲良くない相手ってそんなはっきり言わなくても……)
その指摘は心の中に取っておいて、リーナは「わかりました」とだけ返事する。しかし、ノーラは「打ち合わせ? 声かけ?」と戸惑っている。
「え? 打ち合わせたりしないの? ああ。慣れている相手ならアイコンタクトってこともあるわね。でも、それは初めて共闘する相手には通じないから」
首をかしげてから自己解決したアリスに、ノーラは否定する。
「打ち合わせもアイコンタクトも、やってないわ」
「ええ? それじゃあ、普段どうしているの? 二人パーティだったわよね?」
「向こうが先に突っ込むから、私はそれを見てフォローして……」
ノーラは気まずそうに答えて、視線を鼠に移した。
「それで討伐しやすいならいいけれど、ノーラの負担が大きくない?」
「今までもそうだったから慣れたわ」
気を使わないアリスはリーナに「コリンもそうだったの?」と聞いてくる。
「そうですねー。私が作戦を立てても聞いてくれないこともありましたから、あんまりひどいときは喧嘩しましたねー。……でも、私は戦力にならなくて最終的にはコリンが全部倒していたので、たぶんコリンのほうが負担が大きかったと思います」
リーナが答えると、ノーラが驚いた顔でこちらを見る。
「喧嘩したの? コリンと?」
「しましたよ」
「付き合っているときに?」
「え? 付き合ってたって喧嘩くらいしますよね?」
逆に驚いたリーナはアリスに振る。
「するわよ。結婚したって喧嘩するわよ」
「ですよね」
うなずき合うリーナとアリスに、ノーラは「そういうものなの?」と首をかしげる。
「不満があるなら言ったほうがいいわよ。我慢したっていいことなんか何もないんだから」
「わかったわ……」
(ノーラは恋人に強く言えないタイプなんでしょうか? 意外……でもない、ですかね……?)
コリンがリーナに絡んできたとき、ノーラはコリンを止めたらしいけれど聞き入れてもらえず、追従していた。コリンの横暴だと思っていたけれど、ノーラの主張が控えめだったのかもしれない。
(この旅のあとも付き合いがあるかわからないですけど)
「次に討伐するときは、打ち合わせをしましょう!」
リーナがそう言うと、ノーラは小さくうなずいた。
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間が空いてしまって申し訳ありません。
再開します。
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