妖狐と風花の物語

ほろ苦

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13 学食

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「別荘?」

風花は友達の結衣と学食でお昼ご飯を食べていた
結衣の父親の会社が所有している別荘に夏休み遊びに行かないかと誘われて、風花は返事を悩む
バイトもあるし、夏休みの間に仕上げたいレポートもある

「大分の南にあって前から行ってみたかったのー矢野さん免許もってたよね?車は私が手配するから、女子旅しようよ~!」

目を輝かせながらお願いしてくる結衣
大分の南って事は、ココがいる祠まで車で1時間ちょっとで行けるな…
風花は夏になると無性に妖狐に会いたくなる

「よし!いいよ!バイトの都合つけて行けると思う」

「ほんと?やったー!」

結衣は満面の笑みで喜んでいると、竹内先輩が近付いて来た
風花は以前襲われて以来、極力関わらない様にしていたのだが、馴れ馴れしく話しかけてくる

「なに?何処か行くの?」

「あ、竹内先輩。別荘に遊びに行こうかと思って」

結衣は風花と竹内先輩の事を知らないので普通に話していたが風花は顔をそむけて竹内先輩を見ないようにしていた

「いいなー俺も行きたいなー」

冗談じゃない!
風花は絶対に嫌だった
竹内先輩からの生ぬるい視線が風花に向けられる
風花は鳥肌が立ち悪寒がした
結衣が返事に困っていると横からまた違う声が割り込んでくる

「残念。俺達と行くからアンタはダメだよ」

風花はその聞き覚えがある声の主を見るとそこには目立つ茶髪ピアスの靖が不敵な笑みを浮かべて学食の定食を持って立っていた
そのすぐ後ろに無表情な玲もいる
今日は家政婦さん弁当はお休みかな?

「え!?安倍先輩も来ますか!?」

結衣は学内で人気者の靖に話し掛けられ舞い上がる
靖は大学4年生で目立つルックスとイケメンなので学生人気投票ナンバー1らしい
風花はそういった事に興味が無かったので知らなかったが…
靖はなに食わぬ顔で風花の隣に座り、その向かい側に玲が座る
竹内先輩を無視するように靖は笑顔で結衣に話しかけた

「いいよね?いつにする?」

その様子を悔しそうに見つめ竹内先輩は黙って去って行った
風花は内心ホッとしたが、安倍兄弟と行くのも微妙だと後から気がつく

「兄さん、迷惑がってるよ」

玲がメガネをくいっと上げて靖を注意すると結衣が頬を赤くしてブンブンと首を横に振り

「とんでもないです!是非、来て下さい!」

「ほら?いいって。な、風花?」

靖は意地悪な笑顔を風花に向け、風花はいきなり呼び捨てされ、少し顔を引き攣らせ「まぁ」と小さく返事をした
結衣は靖と風花のやり取りを見て二人が知り合いだと気づく
その後、結衣は靖に自己紹介をしてアドレス交換をしていた
風花は残りの学食を食べていると、好物で最後に残していた唐揚げを靖が横から手づかみで横取りしてパクっと食べた

「あ゛ーーー!」

ニヤニヤしながら口をもぐもぐさせている靖を風花は睨みつける
向かい側に座っていた玲がため息をついて

「もー、兄さん…矢野さんごめん」

と、言って玲は自分の定食の唐揚げを箸でとり風花の口元に近づける

「…あーん?」

「…」

食べろと言う事なのだろうか…
風花は玲の予想外の行動に困惑したが、唐揚げが食べたかった自分に負けてパクっと食べた
その一瞬の出来事に結衣はキャーと小さな悲鳴をあげて赤面し、靖は少し曇り顔になった
風花は口をもごもごさせながら玲にお礼を言うとそれを見て、玲はくすりと小さく笑う

「おい。風花、お前のアドレスも教えろ」

靖はスマホを右手で持ってプラプラさせている
風花はその偉そうな態度にムッとして

「嫌です!結衣と交換したなら連絡つくでしょ?」

「あ?」

食べ物の恨みは怖いんだぞ!
風花はぷいっとそっぽを向いて、靖は額に青筋が浮いていた
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