妖狐と風花の物語

ほろ苦

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14 一目惚れ

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2泊3日別荘に遊びに行く日がやって来た
車は安倍兄弟の方で準備してもらい、靖が運転するRVRで行く事になった
道中、結衣はテンションが高く風花は窓の外の景色を見て妖狐に会いたかったなーとぼんやり思っていた
靖の車を勝手に運転は出来ないのでやっぱ無理かな…

別荘に着くと、とても立派な建物で4LDK露天風呂付き、隣接するキャンプ場もあり、その日の晩はキャンプ場でカレーを作る事にした

「買い出し班と準備班にくじ引きで別れるぞ」

ノリノリの靖は割り箸で簡単なくじを作り、風花と玲は準備班で靖と結衣は買い出しと別行動になった
風花と玲は焚き火用の木の枝や葉っぱを集め、キャンプ場の共同釜にくめる
今の時期、キャンプ場はぼちぼち賑わっており、他の利用者も多数いた

「何だか喉乾いたね。何か買ってくるよ。矢野さんなにがいい?」

「んーお茶、お願いします」

玲は自販機を探しに行って風花は火の番をする
パチパチと燃える火を見つめていると暇だったので消化用の水をバケツに汲みに行って戻ると、風花はうっかりつまづきバケツの水を火にぶっかけてしまった

ジュー…

「…やってしまった…」

白い煙を見ながら唖然としていた

「あーあ…」
後ろから男の人の声が聞こえ振り返ると、濃い茶髪に切れ長の瞳、同い年ぐらい?白シャツにオレンジ色のチノパン姿のすらっとした男性が立っていた

「ちょっと待ってて」

そういうと、急いでどこかに行って両手いっぱいに木の枝や葉などを持って帰ってくる
共同釜の濡れてない釜に手際よく薪をくみあげ

「火種ある?ここ、下から付けて」

風花は持っていたマッチで火をつけると見事に焚き火が完成
ぼちぼち大きく薪をくめて火力を安定させる
風花はあまりに手際がいいので惚れ惚れしながら眺めていた

「これで、大丈夫かな?」

男の人は風花を見て優しく笑う
風花はその笑顔に釘付けになり、心臓がドクンドクンと大きくなった
頬を染め、胸が苦しくなる
今まで、こんな気持ちになった事がない…
まさか、これが一目惚れ?
風花の熱い視線に男の人は照れて少し俯く

「あ、ありがとうございます!!あの、キャンプですか?」

「え?ああ、うん」

「あの、もしよかったらー」

「矢野さん?どうしたの?」

玲が両手にペットボトルを持ち帰り、男の人を見ると少し顔を歪めた
男の人は少し悲しげに微笑み

「…彼氏さん?」

「!!ちちちち、違います!!ただの同じ大学の同級生です!」

風花の必死な反応に男の人と玲は驚き目を丸くした
ハッと我に返り顔を真っ赤にして俯いた
恥ずかしい…

「そう、ただの同級生ですよ。今はね…」

玲が冷たい瞳で男の人を睨むと男の人も玲を睨み返す
風花はあ!そうだ!と急いで自分のカバンの中をあさり手帳にアドレスを書き丁寧に破りとり男の人に差し出す

「あ、あの良かったら連絡下さい!」

男の人はキョトンとした表情でその紙を受け取り
風花を見つめて優しく微笑む

「…ありがとう。じゃ、また」

軽く右手を上げて去って行った
風花は両手を両頬に当て悶えていた
生まれて初めての逆ナンパをしてしまった…
その様子を見ていた玲は小さくため息をもらし去って行った男の人をみる

アイツ…もしかして…
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