妖狐と風花の物語

ほろ苦

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22 パン王子

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やばい!

風花は色々とありバイトを休んでいたので、毎日バイトを入れて生活費を稼いでいるとレポート提出期限が迫っている事をすっかり忘れていた
長い夏休みなので油断していた…
久々に大学に行き、資料をかき集め帰ろうとすると大学校内の一角にある学食堂の方がにぎやかになっている
丁度おなかも空いてきたし、食堂内にある小さなベーカリーでパンを買って帰ろうと思ったが
いつもはあまり客がいないベーカリーなのに今日に限って人が多い
それも女子女子女子たまに男子…
珍しいなーと思いなんとかパンを手に取りレジに向かう

「いらっしゃいませ。120円です」

いつものおばちゃんではなく、若い男の声
風花は顔をあげて驚き固まった
優しく微笑む、キャンプ場のお兄さん…がいる!?

「また、あったね」

自分を覚えていてくれたと解るとさらにテンションが上がり顔を赤くして何か言わなければと思うけど後ろ並んでるし焦って口がパクパクなっていた
お兄さんはお金を受け取りお釣りを渡す手が風花に触れ笑顔で

「またね」

「…はい」

ゆでだこの様に真っ赤になった顔でフラフラとベーカリーを出る
は!!!名前聞けばよかった!!
また、ベーカリーに戻ろうとしたがレジで忙しそうに働くお兄さんが目に入り邪魔になるな…と思い諦めた
風花のお釣りをもらった手が少し震えている
明日もパン買いに行こう…

大学に来る不純な理由が増えたことにより、思った以上にレポートはスムーズに出来上がっていった
バイトがない日、お昼は学食堂に行きパンを食べながら仕上げる
遠目でもお兄さんを見ていると楽しく、たまにこちらを見て目が合う度に心が飛び跳ねる
そういえば…連絡ないな…
そうだよねーいきなり逆ナンパされてしないよね普通…
きっと軽い女と思われてるだろうな…
自分が起こした行動に後悔をしていると、目の前の席に誰かが座る

「レポートか?」

金髪肩ピアスの靖が缶コーヒーを二本持って座り、一つを風花に投げた
風花はパシッと片手で受け取り

「ありがとうございます」

靖は苦笑いして缶コーヒーを飲むと風花も缶コーヒーを開けていただく
周りのひそひそ声が聞こえ、痛い視線を感じる…
く、こいつ(安倍兄)とこういう所で一緒に居たくないな
風花は特に靖に話題をフルことなくレポートに集中すると靖は頬杖をつき風花をジッと見つめ
首にかかっている首飾りを確認する
ちゃんと着けてるな
しばらく何も話さずただ座っている靖に風花は痺れをきらし

「あ、あの。何か用事ですか?」

「べつに。ここに座ってちゃいけないのかよ?」

「周りの女子の視線が痛いんですが・・・・・レポート作成に集中も出来ないし」

「俺は女子だけじゃないぜ?」

ニヤニヤとする靖に風花は女子だけじゃないって弟もね!!って事かおい!
顔を引き攣らせまたレポート作成に集中する

「そうだ、今から玲の見舞いに行かねーか?」

「え…」

風花は心が詠まれたのかと一瞬焦ったがそんなことあるわけ無いとすぐに思い入院中の玲を思い出す
最近バイトとレポートばかりで見舞いにも行ってない
記憶がないので何があったかわからないが、玲は風花とデート中に崖から足を踏み外し怪我をしたと言っていた
デート中ねー…まさか、私が崖から蹴落としたとか…

「い、行こうかなーちょっと待って。準備するから」

散らかった資料とレポートをいそいそと片付ける風花と車の鍵を準備してジャラジャラならしている靖を遠くのベーカリーから眺めて表情を曇らせている彼に風花は気が付いていなかった

玲は最近近くの病院に移された
近くと言っても大学から車で20分
大抵見舞いは靖のRVRで行く事になっていた
玲はいいところのおぼっちゃんなのか、個室の病室だ

ブーブー
病室手前で靖の携帯が鳴りだす

「あ、悪い、先行ってて」

携帯を持ち、急いで電話に出れそうな所を探しに行く靖に風花は軽く手を振り先に玲の病室に向かった

ガラガラ

「こんに「玲が好きだ…」

扉を開けるとベットに押し倒されている玲と覆い被さっているブロンド髪の男が目に入る
風花は愛の告白をしているらしい、その男と目が合い思いっきり嫌な顔をした
ヒカルも邪魔に入ったのが風花だと確認すると、目を細め睨む

「や、矢野さん?!ヒカルどいて!」

玲は赤面してヒカルを押しのけ起き上がり、メガネをかけ直す

「スミマセン。お邪魔しちゃいましたね…」

風花が扉を締めて去ろうとすると、玲は慌てて風花を引き止めた

「待って!!ヒカル…悪いけどもうヒカルの気持ちに応えられない。ごめん」

静かな病室に響く玲の声が冷たくヒカルに刺さる

「玲…」

ヒカルは悲しい瞳をして、ゆっくりと玲のベットから降り病室を出ていく
風花とすれ違う時、かなり憎しみのこもった目で風花を睨むが風花は目を合わせない様にヒカルとは反対方向を見ていた
気まずい…
風花は病室に入り、玲のベットに近づくがなんて切り出したらいいのかわからず、沈黙が続いていた
その沈黙に耐えかねた玲は何かを振り切った様に話し出した

「…俺、小さい頃から恋愛感情とか解らなくて、兄さんやヒカルが可愛いがってくれるから全然抵抗もしないでそういう事が出来たんだ。でも、もう出来ない…」

風花はそういう事の意味を考え安倍兄弟と出会った日を思い出し頬を赤く染めた
玲は熱い眼差しを風花に向けて

「好きな人が出来たんだ」

玲の突然の告白に風花はニコリと微笑み

「その人と上手くいくといいね!」

ガタン!
病室の入口でよろめいて靖が現れ、玲は脱力して俯きガッカリしていた
額を抑えながら靖は病室に入り、ものすごーく残念な目でキョトンとしている風花に

「鈍感女…」

小さく呟き、玲の肩をポンポンと叩く

「玲、もう少しで退院だって、良かったなー」

「あぁ、うん…」

風花は玲が誰を好きなのか想像して、看護婦さんかな?退院したくないのかな?と考えていた
玲と靖は大きくため息をついた
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