妖狐と風花の物語

ほろ苦

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23 玲と英明

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夏休みも終わり、無事にレポートを提出出来たけど、風花は学食堂に通う日々は続いていた
ベーカリーのお兄さんを観察して、わかった事は週3日朝早くから夕方まで働いているバイトでファンの学生からはパン王子と呼ばれ、かなりモテている
絶対ベーカリー屋さんの売上伸びたな…
名前は名札など無いのでわからなかったが、誰かが聞いたらしく『稲荷英明』と言っていた
歳は28歳?見えない…
もっと若い気がする…
風花はもう自分はプチストーカーだなっと思うが、英明を遠くから眺めるのを止めたくなかった
迷惑にならない程度なら…いいよね?
そんなにある日
いつもの様にパンを買うと英明から話かけられた

「いつもアンパンだね。他のも美味しいよ?」

「え!あ、アンパン好きなので…」

ドキドキして優しい声で話かける英明の顔が直視出来ない風花は頬を赤くして俯きならが話す
お金を支払い、お釣りをもらう手が英明の両手でしっかり包まれる

「?!」

驚き英明を見ると

「携帯?買ったんだ。連絡しても…いい?」

照れながら笑いかける英明に風花はドキドキして呼吸をするのも忘れて頷く
そっと手を離され英明の手の温もりが消えていき、やっと呼吸が出来た
風花はベーカリーをふらふら出ると嬉しさのあまり叫びたい衝動にかられるがなんとか耐えた

その日の晩、未登録アドレスでメールが届く
ドキドキしながら確認すると、期待通り英明からのメールだった

『大学パン屋の稲荷英明です。080********です』

最近の若者にしてはシンプルな文章に少し違和感を感じたが、本当に連絡が来た事が嬉しく、風花は部屋をゴロゴロ転がりながらもがいて、即効返事を送る
それからというと、ほぼ毎日メールのやり取りをして、休みや時間が合う時は大学外で会う仲までになった
風花は本当に英明に恋をしていたのだ


そんなある日

「いらっしゃい…ませ」

学食堂ベーカリーレジに黒ブチメガネ短髪黒髪の学生がパンを買いに来た
英明は顔を曇らせ周りを気にする
数日前に退院した、玲が英明に静かに話かける

「なんのつもりですか…」

「…ここでは話せない。夜、話そう」

英明は携帯の番号を紙に書き、玲に渡す
玲は目を細め紙を受け取りパンは買わずに帰った
その日の夜、仕事が終わった英明は携帯電話で玲を呼び出し近くの公園で待ち合わせをした

秋の肌寒い季節、夜の公園のベンチで2人は腰をかける

「怪我…大丈夫?」

「お陰様で、完治しましたよ。あの時は病院に運んで頂きありがとうございました」

玲は一応とばかりにお礼を言うと、英明はフッと微笑む

「俺、少しでも風花の側に居たくって、週に3日だけ変幻してあそこで働いているんだ」

妖狐が人間の姿に変幻を週3回、それも長時間はかなり肉体的に厳しいものだ
それでも無理をして続けている
玲は難しい顔をして黙って聞いていた

「おそらく…主様の術は解けない。風花は俺を思い出さないと思う。だから、せめて後少し…風花の側に居させてもらえないだろうか」

英明は玲の瞳をまっすぐに見つめ切ない瞳をして必死に頼み込む
玲は同情しそうになり視線をそらす

「風花は…風花の気持ちはどうなるんですか。今下手に期待させて、後居なくなるのでしょう?!」

「わかってる。俺は風花と幸せを感じたいんだ…少しの間でいい…人間として風花の側に居たい」

玲は顔をゆがめ拳を強く握る
すっと立ち上がり数歩歩き振り向かないまま

「約束の日まで、黙っています」

英明は笑顔になり、帰って行く玲の背中に

「ありがとう」

立ち上がり頭を下げた


それから一年が経過した
恋人の一大イベント、クリスマスを目前にして風花は悩みに悩んでいる
英明とかなり仲良くなり、自分なりに精一杯アピールしてきた
もう、告白してもいいのではないかと…
理想を言うなら告白して欲しいが、英明はまったくそんな素振りがない
かといって、嫌われていない自信はある
バイト先のコンビニで悩みながら品出しをしていると、靖がやってきた

「風花、アメド2本ー」

アメドとはアメリカンドックだ
バイト中にちょくちょく現れ、何故かアメリカンドックを毎回2本買って行く
最初は玲と食べるのかと思っていたけど、どうやらそれも違うらしい

「毎回毎回、2本買いとか、絶対太るよ?」

「ばぁか、俺ひとりで食うわけじゃねーよ」

「玲は食べてないって言ってたよ?あ、わかった!彼女でしょー?」

「…」

頬を染めて少し困った顔をする靖
あら?図星っぽかった?
風花が準備したアメリカンドックが入ったコンビニ袋を荒く受け取りお金を置いて帰って行く

(彼女かぁー英明さん私の事どう思っているのかな…?)

あまり恋愛という恋愛はしてこなかった風花は恋の駆け引きなんてものもよく解らない
直球で英明に聞きたいが、聞いて嫌われるのが嫌で悩む
バイトが終わって、毎回英明にメールを送るのが習慣になっていた風花はつい余計な事を打ってしまった

『今、バイト終わりました~(^-^)/私の事、どう思っていますか?』

送った後、ハッと我に返り取り消す事の出来ないメールにアワアワしていた
すると、すぐにメールが返ってくる

『お疲れ様。太陽のようだと思っています』

太陽・・・・・ん?
一瞬に何かが頭をよぎる
何かぽっかり空いたモノがある
風花は微妙な返事にまた頭を悩ませた
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