あなたの隣で

ほろ苦

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濃い魔瘴気が溜まり中心には魔石が3っぼんやりと光っている。
この魔石を同時に3つ持ち上げないと、残りの魔石から魔物が生まれると依頼所の人が言っていた。
現状ここには私とレックスふたりしかいないのでもう一人だれか来るのを待つしかなかった。
レックスと二人っきり…

「…」
「…」

この沈黙はつらい。
私の心臓の音がレックスに聞こえているのではないのだろうか…
呼吸をすることも意識しないと出来ないくらい緊張していた

「…ふぅ。そんなに気を張るな」
「え!?」

レックスは洞窟の壁に背もたれしてリラックスするように腰を下ろした。

「こんな所でそんなに緊張していたら無駄に疲れるだろう。戦闘時に自分の力を発揮できなくなる」
「は、はあ…」

と言っても緊張の原因が貴方なのでリラックスしろというのはちょっと無理かも。
また沈黙が続き私は何かレックスに話しかける内容を一生懸命考えた。
失礼な事を言ってもいけないし、嫌われる事を話してもいけない。
うーん…

「…その刀、良い刀だな」
「あ、はい!これはナナンから譲り受けた刀です!古い刀らしいのですがまるで新品のような切れ味でビックリしますよ」
「だろうな。持ち主の能力を最大限発揮できる魔術がかけられている。しかも潜在能力も引き出せる特殊能力付きだ」
「え!そうなんですか?どうしてわかるのですか?」
「あーこれ」

左手をあげて手首に着けている複雑な模様が入っているブレスレットを見せてくれた。

「ドラゴンを討伐した時に貰った神具だ。これに鑑定の能力が付いている」
「へー便利ですね」
「まぁな、偽物がすぐにわかる所で役に立ってるさ。この前なんて、俺が鑑定の神具を持ってると知らない商人が偽物を売りつけようとしてきて、かなり面白かったぞ」

少し笑いながら話してくれるレックスが私の緊張をほぐそうと気を使ってくれていると感じ、私は心が熱くなってきた。
そんな時、ザッザッと遠くから足音が聞こえてきた。
あーレックスとふたりっきりの時間が終わりかと安堵と残念さが複雑に絡み合った心境で足音の方向に目を凝らすと、そこには手負いのロッソをモモが肩を貸して歩いている姿が見えた。
レックスは立ち上がり私と二人に駆け寄った。

「ロッソ、大丈夫か?これは酷いなぁ…」

ロッソの左脇の防具は壊れ赤黒く染まっている。
ロッソは無表情だが額の汗から相当重症なのはすぐにわかった。

「ごめぇんねロッソ。わたしをかばって強い一撃をくらっちゃったのぉ…何とか回復薬で凌いでいる状態」
「あまり時間がないな…急いで終わらせよう。俺とモモで魔石周辺の調査に行ってくる。すぐに戻って来るからミリアはロッソを安全な所に移動しておいてくれ」
「はい」

モモさんと私はわかれて、大柄なロッソを洞窟の隅っこに連れて行った。
大柄なロッソはやはり重たく、近くにいると血の臭いがする。

「ロッソさん、大丈夫ですからね!あそこに座りましょう」
「…ぁぁ」

ゆっくりロッソを座らせると私はロッソの傷の様子を見た。
深くえぐれている体から出血が止まらない。

「…ロッソさん…」
「…」

ロッソは意識が朦朧としているのか視点が私に合っていなかった。
…悩んでいる場合ではない。

「ロッソさん、眠ってていいですよ。すぐに痛みはなくなります」
「…」

私はレックスとモモさんが近くにいないか周囲を確認しロッソの傷口に両手を近づけ目を閉じた。
体の奥深くにある自分の気の流れに集中し両手に集める。
すると両手小さく黄色い光に包まれロッソに注ぎ込む。

「痛み…と傷口を癒します。すぐに良くなりますよ」

止まらなかった出血が止まり、ロッソの顔色が青白くなっていたのが少しづつ血色が戻っていく。
完全回復するには時間が足りないのでとりあえず応急処置をして私はすぐに魔力を抑えた。
気が付くとロッソはスヤスヤと寝息を立てて眠っている。
この調子なら大丈夫だろう。
私は額の汗を手でふき取りロッソの汗をカバンの中からタオルをだして拭いてあげた。

「よし!ミリア!こっちに」
「は、はい!」

魔石の場所の安全を確認したレックスから呼び出され私は小走りでレックス達の所に向かった。
3つの魔石は私の頭よりも少し大きい白い石だ。

「ロッソは…」

モモさんが聞きづらそうに訊ねて来た。
あの状態ではいつ命がつきてもおかしくないと思っているのだろう。

「大丈夫です。いまは眠っています」
「そっか…」
「さあ、とっとと魔石を回収しよう」

レックスがそういうと私とモモさんはそれぞれ魔石の所に立った。
こんなに大きな魔石を触るのは初めてでどのくらいの重さか見当がつかない。
それでもレックスとモモさんと同時に持ち上げなければならないので、私は気を引き締めた。
魔石に手を掛けようとしたその時、ドタドタと走って来る音がする。

「ちょっと待った―――!!!それは俺の仕事だ!」
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