あなたの隣で

ほろ苦

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落下しながら何か方法がないかと、焦って魔力を発動すると下に水を感じた。
私の身体はアイヴァンに抱き締められドボンっと水に落ちる。
かなり深くまで潜ったが空の明かりが見えたので、アイヴァンは私を放し水面に向かって指を指し、私たちは泳ぎ浮かび上がった。

「ミリア!こっち!!」
「はい!」

なんとか岸にたどり着き、上空を見上げると空が一気に赤くなる。
あれは、炎?

「この感触は最上位魔獣かもしれない」
「地下から出てきたのでしょうか?」
「わからない。とりあえずここから出ないと話にならない」
「わかりました。行きましょう」

こんな街の近くで最上位魔獣が暴れたら、街の被害は膨大だ。
恐らく一番近くにいるのハンターは私たち。
急いで穴を抜け出すと、すでにひとりハンターが大きな蛇のような魔獣と戦っていた。
それは遠くからでもわかる、金色の髪に青白閃光が宙を舞っている。

「レックス!」
「アイヴァン、ミリア?」

私たちが駆け寄るとレックスは魔獣に剣を構えて顔を歪めていた。

「なんだ、この魔獣は……」

アイヴァンは魔獣を観察して、少し目を細めた

「新種か?太刀が入りづらいようだね」
「魔法弱化型かもしれない。ち、こんなときに限ってあのゼノはいないのか」
「宿で熱出して寝込んでる。」
「とりあえず、街には近づけさせるな。ここで、食い止めるぞ。ミリア!街に魔術師がいるかもしれない。援軍を呼びに行ってくれ」
「でも……」
「いいから、早く!!」

レックスの声に私は悔しいが従った。
戦力にならないとわかっている。
レックスと並んで戦っているアイヴァンが羨ましかった。
走って街に戻りギルド館に向かうと、ギルド館の外でナナンが空を見上げいる姿が見えた。

「嫌な感じの雲」
「ナナン!大変!レックスとアイヴァンが見たことない大きな魔獣と戦ってる!」

私は急いでギルド館に入り職員に魔術師を集めるよう話したが、生憎戦えそうなレベルの魔術師は誰も居なかった。

「誰もいない!?」
「困りました……このままでは……せめてゼノさんが動ければ」
「っーその、ゼノさんは何処にいますか!?」
「確かに街の高級宿で寝ているとアイヴァンさんがおっしゃってましたが」
「わかった!」
「ちょっと、ミリア!」

ナナンが止める声を無視して、私は急いで街一番の高級宿に向かった。
その間も何度が地響きがしている。
恐らく二人が戦っているのだろう。
高級宿のフロントにゼノの部屋を聞いて、制止するのを無視して部屋に入ろうとすると、鍵がかかっていた。

「お客様!困ります!」
「時間がないの!っーだ!!」

私は扉をおもいっきり蹴り破り部屋に突入すると、宿の従業員はあわてて人を呼びに行った。
ズカズカと部屋の奥に入りベッドルームに突入すると、顔を真っ赤にして虚ろな眼のゼノが邪険な顔をしてベットで起き上がろうとしていた。
いつもローブで顔や髪は隠れているがその姿はとても美しく男か女かわからないくらいだ。

「はぁはぁ。なんだ……お前は」

相当高熱なのだろう、とても苦しそうだ。

「私はハンターのミリアです!今からする事は……秘密にしてください!」

私は魔力を解放して両手に集めるとベットでなんとか上半身を起こしていたゼノの首に手を添えた。

「っ!なにを……!?」

集中して小さな声で詠唱をする。
より強い状態異常回復と治癒を、出来るだけ最短で。
黄色く暖かい光がゼノの首から全身を覆うと、ゼノは信じられないといった目で私をガン見していた。
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