異世界だから何でもあり、しかしこの世界は幾ら何でも多すぎる。

いけお

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意味不明な戦い

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「そろそろグレイウッド公爵家の屋敷が見えてくる頃です」

 小高い丘に登りながら、ウミナの案内で進む一行。
 再びカトブレパスに擬態したスラミンの曳く馬車に揺られること3日、領内はのんびりとしたものである。

 民は道ばたの木陰で昼寝をしているし、入り口の関所を守る兵士に至っては王家の旗を掲げるウミナに敬礼までする始末。

(本当にここの領主が反旗を翻したの?)

 不思議なことはウミナの羽や尻尾を見て、誰も不審に思わないことだ。
 疑問を感じていると、領民の1人がその訳を答えてくれた。

「新しくベルモンド様の執事として仕えるようになってくれた方が本当に良い人で、税率を下げてくれたり医療や子供の教育費用を無償にしてくれたりと皆で感謝しています」

 近くに居た領民と世間話をしながらリアは感心する、父親の補佐役にも相応しいだけの人望や能力を兼ね備えているらしい。

「へぇ~そんな優秀な人材があいつに仕えようとするなんて、もの凄い奇跡ね。 それでその執事の名前はなんて言うの?」

「ええと確か……デモンさんです、大きな黒い羽と長い尻尾がよくお似合いの方で」

 ブーッ!!
 リアはもちろんだが、ウミナも飲んでいた水を吹き出してしまった。

「ベルモンド様が王都から戻られたすぐ後に、あの方は領内を見て回られて我々1人1人に声を掛けて回られました。 『今までよくあの領主のもとで我慢してこられた、こんな姿だが出来る限りのことはするつもりだ。 もうすぐ王家から討伐隊が派遣され、領主や私は討たれることになるが決して抵抗だけはしないように』と。 だから我々はその言葉を守ろうと決めているのです」

 リア達一行は、このデモンについて相談を始める。

「ねえ、こいつ本当にデモンなの? 凄い良い奴じゃない」

「もしかすると勝ち目が無いことを悟って、人が変わったとか?」

「案外デモンを良い奴に変えたのは、ベルモンド本人じゃないのか?」

 カイの予想を聞いたリア達は、思わずギョッとした。

「奴や家臣の無能ぶりを間近で見て、流石のデモンも不憫に思えたとか……」

「そんな筈は……と否定出来る要素が見当たりません」

 この世の滅亡を企むデモンに不憫に思われる領民、一体今までどんな暮らしぶりをしてきたのだろうか?
 そんな訳でリア達一行がすぐに向かわない理由は、デモンを生け捕りにする方法を検討しているからである。



 丘の上に辿り着いた一行が下を見ると、屋敷の前で私兵達が陣を敷いていた
 その陣の中央に巨大な魔方陣が描かれているのを、5人はすぐに気付く。

「あれだけ巨大な魔法陣を使って、一体何を呼び出すつもりだ!?」

 5人が遠視を使って状況を確認すると、想像とはまるで違う事が起きていた。

「あそこに居るのは、多分生け贄なんだよな? 爺さんにしか見えないが」

「デモンと握手して、別れを惜しんでいるようにも見えるし……」

「これから死ぬのが、そんなに嬉しいことなの?」

 5人の目にはデモンと握手して泣きながら感謝の言葉を言っている、よぼよぼの爺さんの姿が映っていた……。

 「よし、皆の者。 無事儀式が終わるまで、この地を死守するのだ! ご老体とデモン殿に指1本触れさせてはならぬ。 ゆくぞ!!」

『ご老体に安らかな眠りを!』

『ご老体に安らかなる死を!!』

 ベルモンドが先頭に立って飛び出した、すると兵士達もそれに続き異様なほどに士気も高まっている。
 するとベルモンドの軍勢の側面を突くように6人ほどの一団が突如現れ、魔法陣に向け走り始めた。

「進めぇ! 父上を奪還するのは今ぞ」

「お祖父ちゃん、死んじゃやだ~!」

「お祖父ちゃん、死なないで~!」

 よく見ると全員が白いローブを羽織っており、何か治癒系の魔法を放っているようにも見える。

「おい、今の連中はもしかしてあの爺さんの家族か?」

「あの家族はお爺さんを助けようとしているのに、お爺さんの方は生け贄に選ばれて逆に喜んでいる。 一体どういうこと!?」

 リア達が困惑している間に、爺さんの家族はベルモンドの兵に行く手を塞がれ前へ進めなくなっていた。
 そしてこの場をどう処理するか迷っていると、ついに魔法陣が完成してしまう!



「時間だ、待たせて済まなかったな爺さん。 今度は、家族に連れ戻されないように気を付けるんだぞ」

「心配かけて済まないね、婆さん。 悪いが先に逝かせてもらうよ、ところで婆さんや」

「婆さんじゃねえっつの。 はいはい、何ですかお爺さん?」

「飯はまだかの?」

「これから生け贄になる奴に、飯が必要あるか!!」

 デモンがキレると同時に、爺さんの身体が空高く上昇する。
 そして雲を突き抜けると、その先から光の柱が降りてきた。

「おいおいおいおい! あれはちょっと、マズイんじゃないのか!?」

「カイ様! とんでもない量の気を感知しました、魔力……ではなく神気? まさか彼らは、異世界の神を召喚しようとしているのですか!?」

 光の柱が魔法陣に触れると、天空から何か茶色い点のようなものが姿を見せる。
 空から急に攻撃されるとまずいので、リア達は最大望遠でその動きを注視したのだが、目に映るものは誰も予想していないものであった。

(ワラの束? なんでワラの束が何故こんな強い気を放つ)

 さらに注意して観察しようとした時、急にウミが笑い出す!

「ぷっ! 何あれ、顔中粉まみれ!!」

(粉まみれ?)

 言っている意味がよく分からなかったカイ達がもう1度見てみると、そのワラ束は人が巻かれたものでその巻かれた人物、女性は顔中が粉まみれとなり真っ白だった。

「おい。 もしかして簀巻きにされた上に、顔に小麦粉か何かを蒔かれたのか?」

「……ぷぷぷ! 召喚されたのにあんな登場の仕方じゃ、威厳も何も無いですね」

 ポンコツ女神のアニスに笑われるようでは、この神が可哀相だ。
 そして顔中粉まみれの女性はムシロに身体を巻かれたまま、魔法陣の中央の地面に叩きつけられた……。

 ズドーン!!
 およそ2000mの高さから落下して地面に激突、魔法陣のあった場所には大きな穴が空いており、その衝撃波で付近の兵士達は吹き飛ばされている。

 召喚に成功したベルモンドとデモンではあったが、この召喚された神が一体どんな人物か分からないので恐る恐る近づく。
 するとまだ土煙があがる穴の底から、女性の声が聞こえてきた。

「覚えていなさいよ、ハジメ・サトウにゴルトス! 絶対システィーナに戻って復讐してやるんだから~!」

「あ、あの、貴方様は?」

 ベルモンドとデモンを一瞥した女性は、思わずぞっとする声で己の名を語り始める。

「私の名はシスティナ、こことは違う世界システィーナを治めていた女神。 愚かな者達の手によってこの世界に飛ばされたが、長居するつもりなど毛頭無い。 まずはお前達に1つ、命令を与える。 女神からの直接の命令じゃ、感激に打ち震えながら聞くがよい」

 ゴクッ
 ベルモンドが唾を飲み込みながら頷くと、システィナを名乗る女神が最初の命令を2人に与えた。

「このムシロを解いてくれ、このままでは身動きすら出来ぬ。 あと濡れたタオルも1枚持ってきてくれ、顔に付いたクリームと小麦粉を落としたい」

(もしかすると、召喚する相手を間違えたかもしれない)

 ベルモンドとデモンは、内心で後悔し始めていたのである。
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