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第1話 この狂ったゲームの世界へようこそ
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今よりもVRとAR化の進んだ近未来、人々は眼鏡型のヘッドセットを装着しそこから発する電波と脳波をリンクさせ様々な情報を共有したりして日々の生活を豊かにしていた。買い物の決済や道のナビゲーションだけでなく外国人との会話などはお互いが自動翻訳機能を使う事で言葉の壁すら取り払われる。無論、ゲームの世界の進歩も凄まじくヘッドセットを常時装着するのが当たり前の世の中となっていた。
そんなある日のこと、この日の部活を終えて家に帰ろうと校門まで歩いてきた支結 契(しけつ けい)を幼馴染の村瀬 里美(むらせ さとみ)が待っていた。親同士も仲が良く小さい頃から共に過ごしてきた2人はお互いを大切な存在だと認識しているがそれを今まで口にした事は無かった。
高校に入学してから剣道を始めた契に対し、里美は帰宅部で先に帰る様になり一緒に過ごす時間は少なくなっていたが里美に同じクラスの友人が出来たと聞いていたので安心していた所だった。
「・・・・・契。帰りに家に寄っても良い?」
「そんな改まって聞く必要なんて無いだろ、どこか勉強で分からない所でも出てきたのか?」
「ううん、少しだけ相談したい事がが有るの」
家に着くまで2人は無言で歩いた、里美の顔を見た瞬間から分かっていた事だ。恐らく誰にも相談出来ない事件に巻き込まれてしまったのだ、外見上は明るく振舞っているかもしれないが泣きたいのを必死で堪えている様子だった。
契の自宅に着くと里美を部屋に案内する、微かに香る髪の匂いに胸の鼓動が早くなるがまずは落ち着いて彼女の相談を聞く事が先決だ。
「冷えた麦茶を持ってくるから少しだけ待ってて」
「後でいい、それよりも今は私の話を聞いて欲しいの」
「お前がそんな事を言い出す時は俺以外に相談出来ない悩みが有るのは分かってる、中学の頃に部活の先輩から酷い仕打ちを受けていた時もそうだった」
「・・・・・」
里美が高校に入学後、どの部活にも入らなかったのは中学時代に部の先輩から陰湿な苛めを受けていた事が原因だ。誰にでも優しく接する先輩の顔を演じながら、気に入らない後輩を見つけると影で頬をぶったりして憂さ晴らしをしていたのだ。部の顧問や担任などは偽りの先輩の顔のみを信用し里見の言葉を聞き入れようとはせず逆に嘘を付くなと詰られた。
部の中でも孤立しかけた里美が契に相談し、契は苛めの一部始終をカメラで隠し撮りして放送部内の協力者に頼んで昼の給食の時間に一斉に全校に先輩の本当の姿を放映して復讐を果たした。決まりかけていた推薦も取り消され、築き上げた信用を全て失ったその先輩は逃げる様に他の中学に転校したがそこで里美と同じ立場を卒業まで味わい続ける事となった。
(里美を傷つける奴は絶対に許さない)
大切な者を傷つける相手に対して契は苛烈な手段で報復する事も厭わない、今回里美が傷つく原因を作った者にはそれなりの代償を必ず支払わせる。契は心の中で決心を固めていた。
「それで里美、今回は誰がお前をここまで傷つけたんだ?」
里美は一瞬だけ身体を震わせた、そして徐々に顔が崩れ涙を流しながら契に助けを乞う。
「助けて契、私スレイブにされちゃった」
「スレイブ?」
その後の里美の言葉を聞いた契は思わず耳を疑った。教導戦記オンライン・・・ゲーム内での真剣勝負の勝者が敗者を教え導く師弟システムを売りに急速にプレイヤーを増やしているVRMMOであり契のクラスの男子生徒の間でも話題となっていた。
勝者となり師匠の立場を得た者は弟子となった敗者を一定期間指導出来る、その師弟システムのお陰で可愛い交際相手と巡り会えたなどの眉唾物の噂を信じた若者達が一斉にこのゲームを始めているのだ。だが光には必ず闇が付き従う、光が眩しければ眩しいほど闇もまたより暗く深い物へと姿を変えてゆく。
スレイブオンライン、それが教導戦記オンラインのもう1つの呼び名であり真の名称とも言える。師弟システムによって師匠は弟子の身体をある程度自由に操作する事が可能となる指導モードの権限を1週間与えられる。
しかし、その権限が発動するのは直接現実世界で顔を合わせた瞬間からであり24時間×7日の計168時間指導を受けないと解除されない。また指導モードへの突入を弟子の側から拒否出来ない事こそがスレイブオンラインと呼ばれる所以なのである。
VRMMO内において剣の達人と呼ばれる者達の多くを剣道の有段者が占めている事から分かる様に実生活の行動がゲーム内の強さにも直結している。その為、師弟システムの指導モードは現実世界で対面している相手の身体を直接動かす事でその身体に己の動きを覚えさせるのが本来の仕様の筈だった・・・。しかし気に入った相手の身体を支配すれば己の欲求を簡単に満たせるという歪んだ発想が広まると各地で奴隷同然の扱いを受けるプレイヤーが出始めた。
悪用の危険性を問題視する声も早い段階から出ていたが開発者や運営側さらには一部有力議員までもがこの欲望を満たすツールの虜と化しており、各マスコミに圧力を掛ける事で表面化される事がこれまで無かったのである。
「私、この間知里ちゃんに薦められて教導戦記オンラインを始めたの。クラスの男子達も休み時間にこのゲームの事を話していたしクラスの中で取り残されずに済むってほんの軽い気持ちだった」
知里ちゃんとは高校に入学してから里美が初めて作った友人の速水 知里(はやみ ちり)の事である。
「そして知里ちゃんと一緒に何日かプレイしていたのだけど、ある日知里ちゃんが『この人が私の師匠でとっても優しいの』と言って1人の男の人を私に紹介してきたの。そして何も知らないまま真剣勝負を挑まされ私はその男の弟子の1人にされてしまった・・・」
「・・・・・」
「知里ちゃんは師弟関係の解消を条件に男が気に入りそうな相手を探していて、それに私がうってつけだったから声を掛けて近付いたって言ったわ」
里美は目を真っ赤にしながら、肝心な事を契に説明した。
「知里ちゃんが私のヘッドセットのIDを男に教えた事でGPSで常に私の動きは監視されている、そして今度の土曜日に私を指導しに来ると昨晩ゲーム内で男に告げられたの」
「今度の土曜日って今日が水曜日だから後3日しかないじゃないか!?」
「このままじゃ私はあの男に何をされるか分からない、だからお願い!契、私を助けて」
「ちなみに男に俺が真剣勝負を挑んで勝った場合、その男の弟子はどうなるんだ?」
「勝った契の弟子に変わるわ、他にも弟子の売買や交換も師匠同士なら出来るみたい」
「・・・・そうか」
トイレに行くと言って一旦部屋を出た契の眼差しが残酷な物へと変わる。
(速水 知里は生贄に差し出すつもりで接近し偽りの友人を演じて里美を傷つけた。その選択を後で絶対に後悔させてやる!)
契は何も無かった様にしながら部屋に戻ると里美からゲームのインストール方法とキャラクターの作り方、そして男と知里のゲーム内でのプレイヤー名を教えてもらった。
「俺が絶対に助けるから、もう里美は心配しなくてもいいよ。それと知里には俺がゲームを始めた事を絶対に言わないでくれ」
「分かった」
里美を気遣い家まで送ると、里美の母親の響子さんが2人を温かく出迎えてくれた。
「契君には里美がいつも迷惑ばかり掛けて本当に済まないわね」
「いえ、俺が好きでやっている事ですから」
「それで今日は契君と一緒にどんな遊びをしていたの、もしかしてお医者さんごっこ?」
響子さんが茶化す様に言って2人の関係が更に進んだのかどうか確かめる、契はそんな意図に気付く様子も無く顔を赤くしながら反論した。
「お医者さんごっこって・・・そんな事する筈が無いでしょ!?里美から教導戦記オンラインってゲームがクラスの中で流行っているらしくてどんな物か聞かれたんだけど、俺もやった事が無いから分からないってそんな会話を部屋でしていただけですよ」
2人が別れ、それぞれの家の中に戻るのを見ながら響子は1人で呟いていた。
「ふ~ん、教導戦記オンラインねえ?」
夕食と風呂を早々と済ませると、契は部屋に戻り忌まわしいゲームを起動した。
「里美、お前は絶対に俺が助ける。だから少しの間だけ待っていてくれ!」
こうして支結 契は大切な者を守る為に禁忌のゲームの世界に足を踏み入れた・・・。
そんなある日のこと、この日の部活を終えて家に帰ろうと校門まで歩いてきた支結 契(しけつ けい)を幼馴染の村瀬 里美(むらせ さとみ)が待っていた。親同士も仲が良く小さい頃から共に過ごしてきた2人はお互いを大切な存在だと認識しているがそれを今まで口にした事は無かった。
高校に入学してから剣道を始めた契に対し、里美は帰宅部で先に帰る様になり一緒に過ごす時間は少なくなっていたが里美に同じクラスの友人が出来たと聞いていたので安心していた所だった。
「・・・・・契。帰りに家に寄っても良い?」
「そんな改まって聞く必要なんて無いだろ、どこか勉強で分からない所でも出てきたのか?」
「ううん、少しだけ相談したい事がが有るの」
家に着くまで2人は無言で歩いた、里美の顔を見た瞬間から分かっていた事だ。恐らく誰にも相談出来ない事件に巻き込まれてしまったのだ、外見上は明るく振舞っているかもしれないが泣きたいのを必死で堪えている様子だった。
契の自宅に着くと里美を部屋に案内する、微かに香る髪の匂いに胸の鼓動が早くなるがまずは落ち着いて彼女の相談を聞く事が先決だ。
「冷えた麦茶を持ってくるから少しだけ待ってて」
「後でいい、それよりも今は私の話を聞いて欲しいの」
「お前がそんな事を言い出す時は俺以外に相談出来ない悩みが有るのは分かってる、中学の頃に部活の先輩から酷い仕打ちを受けていた時もそうだった」
「・・・・・」
里美が高校に入学後、どの部活にも入らなかったのは中学時代に部の先輩から陰湿な苛めを受けていた事が原因だ。誰にでも優しく接する先輩の顔を演じながら、気に入らない後輩を見つけると影で頬をぶったりして憂さ晴らしをしていたのだ。部の顧問や担任などは偽りの先輩の顔のみを信用し里見の言葉を聞き入れようとはせず逆に嘘を付くなと詰られた。
部の中でも孤立しかけた里美が契に相談し、契は苛めの一部始終をカメラで隠し撮りして放送部内の協力者に頼んで昼の給食の時間に一斉に全校に先輩の本当の姿を放映して復讐を果たした。決まりかけていた推薦も取り消され、築き上げた信用を全て失ったその先輩は逃げる様に他の中学に転校したがそこで里美と同じ立場を卒業まで味わい続ける事となった。
(里美を傷つける奴は絶対に許さない)
大切な者を傷つける相手に対して契は苛烈な手段で報復する事も厭わない、今回里美が傷つく原因を作った者にはそれなりの代償を必ず支払わせる。契は心の中で決心を固めていた。
「それで里美、今回は誰がお前をここまで傷つけたんだ?」
里美は一瞬だけ身体を震わせた、そして徐々に顔が崩れ涙を流しながら契に助けを乞う。
「助けて契、私スレイブにされちゃった」
「スレイブ?」
その後の里美の言葉を聞いた契は思わず耳を疑った。教導戦記オンライン・・・ゲーム内での真剣勝負の勝者が敗者を教え導く師弟システムを売りに急速にプレイヤーを増やしているVRMMOであり契のクラスの男子生徒の間でも話題となっていた。
勝者となり師匠の立場を得た者は弟子となった敗者を一定期間指導出来る、その師弟システムのお陰で可愛い交際相手と巡り会えたなどの眉唾物の噂を信じた若者達が一斉にこのゲームを始めているのだ。だが光には必ず闇が付き従う、光が眩しければ眩しいほど闇もまたより暗く深い物へと姿を変えてゆく。
スレイブオンライン、それが教導戦記オンラインのもう1つの呼び名であり真の名称とも言える。師弟システムによって師匠は弟子の身体をある程度自由に操作する事が可能となる指導モードの権限を1週間与えられる。
しかし、その権限が発動するのは直接現実世界で顔を合わせた瞬間からであり24時間×7日の計168時間指導を受けないと解除されない。また指導モードへの突入を弟子の側から拒否出来ない事こそがスレイブオンラインと呼ばれる所以なのである。
VRMMO内において剣の達人と呼ばれる者達の多くを剣道の有段者が占めている事から分かる様に実生活の行動がゲーム内の強さにも直結している。その為、師弟システムの指導モードは現実世界で対面している相手の身体を直接動かす事でその身体に己の動きを覚えさせるのが本来の仕様の筈だった・・・。しかし気に入った相手の身体を支配すれば己の欲求を簡単に満たせるという歪んだ発想が広まると各地で奴隷同然の扱いを受けるプレイヤーが出始めた。
悪用の危険性を問題視する声も早い段階から出ていたが開発者や運営側さらには一部有力議員までもがこの欲望を満たすツールの虜と化しており、各マスコミに圧力を掛ける事で表面化される事がこれまで無かったのである。
「私、この間知里ちゃんに薦められて教導戦記オンラインを始めたの。クラスの男子達も休み時間にこのゲームの事を話していたしクラスの中で取り残されずに済むってほんの軽い気持ちだった」
知里ちゃんとは高校に入学してから里美が初めて作った友人の速水 知里(はやみ ちり)の事である。
「そして知里ちゃんと一緒に何日かプレイしていたのだけど、ある日知里ちゃんが『この人が私の師匠でとっても優しいの』と言って1人の男の人を私に紹介してきたの。そして何も知らないまま真剣勝負を挑まされ私はその男の弟子の1人にされてしまった・・・」
「・・・・・」
「知里ちゃんは師弟関係の解消を条件に男が気に入りそうな相手を探していて、それに私がうってつけだったから声を掛けて近付いたって言ったわ」
里美は目を真っ赤にしながら、肝心な事を契に説明した。
「知里ちゃんが私のヘッドセットのIDを男に教えた事でGPSで常に私の動きは監視されている、そして今度の土曜日に私を指導しに来ると昨晩ゲーム内で男に告げられたの」
「今度の土曜日って今日が水曜日だから後3日しかないじゃないか!?」
「このままじゃ私はあの男に何をされるか分からない、だからお願い!契、私を助けて」
「ちなみに男に俺が真剣勝負を挑んで勝った場合、その男の弟子はどうなるんだ?」
「勝った契の弟子に変わるわ、他にも弟子の売買や交換も師匠同士なら出来るみたい」
「・・・・そうか」
トイレに行くと言って一旦部屋を出た契の眼差しが残酷な物へと変わる。
(速水 知里は生贄に差し出すつもりで接近し偽りの友人を演じて里美を傷つけた。その選択を後で絶対に後悔させてやる!)
契は何も無かった様にしながら部屋に戻ると里美からゲームのインストール方法とキャラクターの作り方、そして男と知里のゲーム内でのプレイヤー名を教えてもらった。
「俺が絶対に助けるから、もう里美は心配しなくてもいいよ。それと知里には俺がゲームを始めた事を絶対に言わないでくれ」
「分かった」
里美を気遣い家まで送ると、里美の母親の響子さんが2人を温かく出迎えてくれた。
「契君には里美がいつも迷惑ばかり掛けて本当に済まないわね」
「いえ、俺が好きでやっている事ですから」
「それで今日は契君と一緒にどんな遊びをしていたの、もしかしてお医者さんごっこ?」
響子さんが茶化す様に言って2人の関係が更に進んだのかどうか確かめる、契はそんな意図に気付く様子も無く顔を赤くしながら反論した。
「お医者さんごっこって・・・そんな事する筈が無いでしょ!?里美から教導戦記オンラインってゲームがクラスの中で流行っているらしくてどんな物か聞かれたんだけど、俺もやった事が無いから分からないってそんな会話を部屋でしていただけですよ」
2人が別れ、それぞれの家の中に戻るのを見ながら響子は1人で呟いていた。
「ふ~ん、教導戦記オンラインねえ?」
夕食と風呂を早々と済ませると、契は部屋に戻り忌まわしいゲームを起動した。
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