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第2話 初心者(ルーキー)狩り
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ゲームの世界に入った契を出迎えてくれたのは、レースクィーンの様な際どい衣装を身に纏ったNPCの女性だった。
『教導戦記オンラインへようこそ、これよりキャラクターの作成及び簡単なゲーム内の説明をさせて頂きます。始めにあなたの分身となるキャラクターの作成を始めます、まずステータスを決めて下さい』
このゲームではステータスとして筋力・敏捷・体力・スタミナの4つの項目に合計で100となる様に数値を振り分ける、数値0は有り得ないので最低1で最高は極振りの97が最高となる。
筋力は文字通り攻撃力に直結しており、どのプレイヤーも重視している項目である。HPが全員100で固定されているので大きいダメージを与えればそれだけ対戦時に有利となれる、なので半数以上のプレイヤーはこの筋力が最も高い数値となる様にステータスを調整していた。
敏捷は素早さと動体視力を兼ねており、攻撃する時に相手に当てる命中率や相手の攻撃を避ける時の回避率にも影響する。
体力は防御力と直結しており防御力を上げておかないと大きなダメージを受けてしまうので、ある程度の数値は必要だと言われている。
最後のスタミナは攻撃や回避の持続力に関係している、スタミナが切れると攻撃や回避が出来なくなるので相手に一方的に攻撃される事となる。
契は少しだけ悩んだがすぐに結論が出た、あと3日で里美を助けるのに普通のステータスでは不可能だ。ならば、相手の意表を突く尖ったステータスこそ望ましいのだと。ステータスを無事振り終えた契にNPCの女性が確認を取ってきた。
『ステータスの変更は出来ません、本当によろしいですか?』
【YES/NO】
契は迷わずYESを選んだ、もう後戻りは出来ない。先程振ったステータスを最大限活かして乗り切るしかないのだ。
『ステータスが決定されました、次に名前を決めて下さい』
【 】
名前を打ち込む枠が現れたので契は無意識の内にkeiと打ち込み慌てて取り消した。里美を騙した知里は契の名前と里美と特に親しくしている事位は知っている、なので気付かれて警戒されては困るので名前を別の物に変えた。
【イージス】
『キャラクターの名前は【イージス】でよろしいですか?』
【YES/NO】
契は再びYESを選択し、契の分身であるイージスが生まれた。
『あなたの分身となるイージスが無事に完成しました、それではここからはこのゲームの簡単な説明を行います。この教導戦記オンラインは中世の仮想都市フレアノーツを舞台とした近接格闘RPGとなっております、剣・槍・斧・槌・矛の5つの種類の武器を状況に合わせて選択しながらこの都市の中心にそびえる武神の塔の最上階を目指します。個の力を最も尊ぶこちらの世界ではパーティーという物は存在しません、しかしそれでは未来ある若者の命が簡単に消えかねません。そこで編み出されたのが有能な戦士に弟子入りして高みの強さを共有する【師弟システム】です!』
NPCが一旦セリフを中断し、間を置いて再び語り始めた。
『師弟システムとは真剣勝負を他のプレイヤーに挑み勝敗を付ける事で、師匠となった勝者の持つ強さの一端を敗者に教え高みへ導くコミュニケーション機能です。最終的にはどのプレイヤーも武神の塔最上階に到達出来ますがこの師弟システムを利用された方がより早く高みの景色を見る事が出来るでしょう。またこの師弟システムには更に有効な機能として指導モードが存在します』
NPCがこのゲームを現実で欲望を満たす為のツールに変えた機能の説明を始める。
『指導モードとは一時的に師匠の脳波と弟子の脳波をリンクさせて師匠の戦闘時の動きを弟子の身体に覚えさせる事が可能となる機能です。ゲーム内でも多少の指導は出来ますが、やはり実際に身体を動かす事で得られる経験に勝る物は有りません。指導モードは師弟同士が直接現実で顔を合わせてから1週間、24時間×7日の計168時間有効となりモードの解除は弟子の方からは出来ません。現実の世界で顔を合わせる機会は少ないですから師匠の指導を受け最上階を目指し頑張りましょう』
NPCの説明が終わった瞬間目の前が急に眩しくなり思わず目を閉じると契、いやイージスはフレアノーツの街中に移動していた。
所持金を確認すると100G有った、それを元手に新しい武器を手に入れながら塔の最上階を目指すのだ。しかし、里美を解放するのが本来の目的であるイージス(契)に残された時間はあと3日しかない。イージスが探し出すべき相手は2人、チーノとクロガネである。チーノは速水 知里のプレイヤー名でクロガネは里美の師匠となった男の名前だ。同じ名前のプレイヤーは存在しないので人違いは起こらない。
MAPを開いて武器屋の場所を確認して向かおうとした時、イージスは背後から見知らぬ男に声を掛けられた。
「その服装、今日ゲームを始めたばかりみたいだな。いきなり塔に入っても返り討ちに遭うだけだからまずはこのゲームに慣れる意味で俺と1度真剣勝負をやってみないか?」
あからさまに怪しい笑顔を見せながら真剣勝負(PvP)の申し込みをしてくる男、男の背後を見てみるとイージスと同じ格好の男女数人が1つに固まり顔は青ざめていた。男の頭上にはキャラクター名とLVに弟子の数が表示されている。
リュウジ LV15(弟子10人)
(何も知らない初心者に声を掛けて奴隷を手に入れる初心者(ルーキー)狩りの1人みたいだな)
初心者狩りとは里美の様にゲームを始めて間もない者に言葉巧みに近付き弟子を増やしていくプレイをする連中を指す言葉だ。こうしたプレイをする連中は決まって女性を狙うが悪評が広がると弟子を増やし辛くなるので代わりに女性を誘き寄せる男も複数用意するらしい。
クロガネの場合は弟子(奴隷)の女性に次の弟子(犠牲者)を紹介する事を条件に師弟関係を解消させるやり方を取っており、男性の弟子は1人も居ない。
「悪いけど初心者狩りに騙される様な間抜けじゃないんでね、そこで手に入れた今日の収穫を吟味すれば良い。お互いの住む場所が遠ければスレイブにならずに済むが、なったらなったで良い人生勉強を味わえるだろうよ」
PvPの申し込みを拒否してその場を立ち去ろうとするイージスに腹を立てたリュウジが近付き胸倉を掴む。
「おい!人を勝手に初心者狩りと決め付けてただで済むと思っているのか!?今すぐお前に強制PvPを挑んでも良いんだぞ、俺が師匠になってやるから大人しく真剣勝負を引き受けな」
再び申し込みをしてくる男、イージスが呆れながら拒否しようとした時その腕を押さえる者が居た。
「そのまま拒否するのも良いけど、こういう輩を野放しにしておくとこのゲームを嫌いになって辞めてしまう人が出てきてしまうわ。だから・・・あなたがこの男の師匠になって性根を叩き直してあげるのが1番よ」
「急に出てきて、一体俺に何をさせるつもりですか!?」
イージスは振り返りながら腕を押さえてきたプレイヤーの名前とLVを見て驚いた。
リコ LV90(弟子0人)
(LV90!? 化け物みたいな高レベルプレイヤーなのに弟子を持たないって)
【聞こえる?】
「うわっ!びっくりした」
「?」
【今、個別チャットであなたに話しかけているわ。あなたも切り替えて頂戴】
イージスはリコを対象に選ぶと個別チャットを開始した。
【最近スレイブオンラインなんて不名誉な呼び名を付けられて非常に困っているの、だから私の代わりに少しの間だけ初心者狩りを狩って欲しくて声を掛けさせて貰ったの】
【何で俺なんですか?他にも初心者が周囲に大勢居るのに!?】
【あのリュウジって初心者狩りの名前を見た時、あなたは一瞬だけ残念そうな顔を浮かべていたわ。つまり、誰かを探す目的でこのゲームを始めていてその相手は恐らく初心者狩りで間違い無い。ならば私の提案に乗ってくれる可能性も高いと判断したのよ】
【それで俺があなたの提案に乗るメリットは何が有るんだ?】
リコは少しだけ悩む仕草を見せたがすぐに返事を返してきた。
【最初の所持金100G程度で買える武器はたかが知れているわ、それでは目的の相手に挑んでも勝てるかどうかも怪しくなる。最初に武器や防具は私が用意してあげるから、目的の相手以外の倒した初心者狩りとその弟子達を私に譲って貰えないかしら?】
【それは別に構わないが、本当にそんな条件で良いのか?頂いた武器と防具を俺が持ち逃げする可能性だって有るだろうに?】
【その時は私に人を見る目が無かったってだけの話よ、それに渡す武器や防具は武神の塔の高層階に行けばゴロゴロ落ちている物で私の持つ装備よりも遥かに格下。あなたにとっても悪い話じゃないでしょう?】
このリコというプレイヤーを完全に信用する事は出来ない、だが日数が限られている中でクロガネを見つけ出し真剣勝負を挑み倒さなければ里美が奴の毒牙の餌食となってしまうのだ。イージスはこの提案に乗ることにした。
【あんたの提案に乗るよ、ただし俺からも条件が有る。俺はあと3日以内にクロガネという初心者狩りを見つけ出して倒さないとならない。だから、クロガネを見つけたらすぐに場所を教えてくれないか?それまではあんたの指示に従い初心者狩りを狩るよ】
【交渉成立ね、あのリュウジってプレイヤーは私のLVを見て逃げ出したみたいだけど無駄な事だから今は放っておきましょう。それじゃあ、先に防具を渡すからこれをその初期装備の下に着込んで頂戴】
リコからトレードの申し込みが届き許可を出すと、アイテム欄に1つの全身鎧のアイコンが表示されリコ側がOKを出したのでイージスもOKを押しトレードが成立した。
【シン・ネメアアーマー】防御力+500
ギリシャ神話において英雄ヘラクレスが身に纏っていたとされるネメアの獅子の毛皮を模して作られた防具。非常に薄く剥がされた皮は透けており装備している事を気付かれにくい、しかしどんな刃物も弾き返す獅子の名は伊達では無い。余程名の有る武器でない限りこの鎧を傷付ける事は出来ないだろう。
最初からとんでもない防具を渡された気がした、これだけの防具が格下になるとは一体どんな防具を彼女は装備しているのだろうか?
【では次に武器だけど、何か武器の種類で希望が有ればそれに合わせるけど?】
【それならダガーをお願いしたい、それから初期装備の片手剣と大盾も有れば欲しい】
【ダガーと初期装備の片手剣と大盾・・・なるほど考えている事がよく分かったわ】
リコは初期装備の片手剣と大盾を先に渡すとやはりとんでもない性能を持つダガーをイージスに手渡した。
【ライトニングダガー】攻撃力+400 ステータス補正(筋力・敏捷・体力・スタミナ=ALL+25)
雷神トールの持つ槌の欠片が柄の中に埋め込まれており突き刺した相手に柄が触れた瞬間、貯め込まれた電流が襲い掛かり命を奪う。また所有者にトールの力の一部が分け与えられる。
(これってチート武器って呼ばれたりしないのか!?)
これを持つだけで誰でも能力が跳ね上がるのだ、喉から手が出るほど欲しがられるに違いない。それを簡単に手渡せるとはやはりこのリコというプレイヤーは只者では無かった。
【これだけの装備が有れば、初心者狩りに負ける事はまず有り得ないわよ。初心者狩りをしていたら、この装備を手に入れられる階層まで絶対に辿り着けないから。では早速先程のリュウジって初心者狩りを狩ってきて貰おうかな?】
【逃げ出した相手をどうやって追いかけるんだ?】
【追いかける必要は無いわよ、だってあいつからの真剣勝負(PvP)の申し込みにまだ返答していないのだから】
見ると目の前にはまだリュウジからのPvPの申し込みに対する返答の画面が出たままとなっていた。
【それに承諾すれば、2人は自動的に邪魔者の入らない専用ステージに転送されるわ。勝者と敗者が決まらない限り絶対に出られないし、中途半端な手加減は命取りになるから相手を確実に仕留めるつもりでいきなさい!】
【分かった】
イージスが申し込みに承諾すると、途端に目の前の空間が歪み別の空間に放り出された。荒れた灼熱の大地の上にはイージスと何時の間にか逃げ出していたリュウジの姿しか見えない。
「何で俺がこのステージに飛ばされなくちゃならないんだ!?そうか、お前が承諾ボタンを押したのが原因か。だがそんな初期装備の剣と盾で俺様に勝てるとでも思うのか?返り討ちにして奴隷としてこき使ってやるから覚悟しろ!」
リュウジは初期装備の片手剣と大盾を装備しているイージスを見て勝利を確信した、一方のイージスは無表情のままだ。
【戦闘開始まで残り5秒】
【4】
【3】
【2】
【1】
【fight!】
「おら来いよ初心者(ルーキー)!実力の違いを見せてやる」
リュウジがロングソードを構えると、イージスは持っていた大盾と剣をその場に投げ捨てた。
(何っ!?)
捨てられた武器に目を向けた隙を突かれ、イージスの姿が消えていた。
トスッ
リュウジの背中に痛みが走った、見ると背中に短剣が深々と刺さっている。イージスは素早く本来の武器に持ち替えるとリュウジの背後に回り鎧の隙間から突き刺していたのだ。
「その・・・素早さ普通じゃないぞ!?一体どんなステータスにしてあるんだ!」
「俺は塔の最上階ではなく初心者狩りがターゲットだからな、1合で勝負を決せられる様に敏捷を極振りしてあるのさ」
「ば、馬鹿な!そんなステータスでは攻撃を外したり防がれたらそれでお終いじゃないか!?」
「だから敏捷を上げてあるんだよ、運動エネルギーが物体の質量と速さの二乗に比例する事くらい学校で教わっただろう?だから軽いダガーでも突くスピードが速ければこうして簡単に突き通す事だって出来るのさ。まあ確かにこのダガーの異常な性能も否定しないがな・・・とにかくこれで終わりだ」
イージスは更に深くダガーを押し込み、トドメの高圧の電流をリュウジに喰らわせた。イージスの勝利が決まると、空間が元に戻り目の前には待っていたリコとイージスの弟子となったリュウジが居た。
「無事に勝てたみたいね」
「ああ、何とかな」
リュウジが恨めしそうな目でイージスを睨む、しかし師匠と弟子の立場が覆る事は無い。
「それじゃあ、約束通りこの初心者狩りと狩られた弟子達は私が貰うわね。でも記念すべき初勝利だから、1人だけ最初の弟子として残してあげるわ。好きな子を選んで頂戴」
弟子の一覧を出して、全員に召集を掛けると5分もしない内に全員がイージスの周りに集まった。そして弟子の1人に目を向けた時、有る事に気が付いた。
(これってもしかして現実世界の本人の顔が表示されるのか!?)
弟子の名前の下に不安そうな表情の本人の顔がリアルタイムで表示されていた、本来はこれで相手の顔色を確認して指導モードを行うか決める筈なのに好みの顔かどうか確認する為のツールとなっていた。
「私もそろそろ夕食の支度を始めないといけないから、早く選んでね」
リコに急かされるので、イージスはリュウジを除く弟子達を一通り見た。そしてその中で1人の女性プレイヤーが目に留まった。
キャラクターの名はサオリ、本人の顔をこれまでにも何度か里美のクラスで見た事が有った。里美のクラスメイトの北条 沙織(ほうじょう さおり)に間違い無い。
(速水 知里に逃げられない様、監視役を見つける必要が有ったから同じクラスのこいつは丁度良いかもしれないな。だが普通にお願いして言う事を聞いてくれるとは限らない、でも里美を助ける為に手段を選んでいる時間は無い。彼女には済まないが俺のスレイブになって貰おう)
「決めた、このサオリって子を俺の弟子として残すよ」
サオリの身体が一瞬震えた、リコはそれに気付くが無視して話を進めだした。
「今後初心者狩りが2人以上の弟子を所有していた場合、もし手元に残したい弟子が居た時は1人だけ認めてあげる。1人しか居なかった時は諦めてね、あと当然の事だけどこの後私がこの人達をどう扱うかまで口出しするのはタブーだからそのつもりでね」
「ああ、分かったよ。最初にリュウジにPvPを申し込まれた時に言ったが『住む場所が遠ければスレイブにならずに済むが、なったらなったで良い人生勉強を味わえる』。このゲームは勝者が全てだ、甘い言葉に乗って敗者になった連中の未来にまで責任を持つ気は無い。好きにすれば良い」
「きっとそう言ってくれると思っていたわ、次のターゲットを見つけたら連絡するからフレンド登録しておきましょう?」
「そうだな、今後ともよろしく頼むよ」
リコとフレンド登録を結ぶと2人は今日の所は別れる事にした。イージスから手に入れた弟子10人を引き連れ街の喧騒の中に消えていくリコの姿が一瞬死神に見えたがイージスは気を取り直し、サオリの耳元でこう囁いた。
『今日の夜23時、学校の校門の前で待つ。1人で来なければ師弟関係の解除はしないから、そのつもりでいてね。北条 沙織さん』
驚愕するサオリを残して、イージスはログアウトした。現実世界に戻った契は学校に大事な忘れ物をしたので取りに行くと両親に伝えて家を出る。学校に着く頃にはきっとサオリ(北条 沙織)も居るだろう、大切な幼馴染を救う為にそのクラスメイトを己のスレイブに堕とす。契は知らず知らずの内にスレイブオンラインの狂気を受け入れようとしていた。
『教導戦記オンラインへようこそ、これよりキャラクターの作成及び簡単なゲーム内の説明をさせて頂きます。始めにあなたの分身となるキャラクターの作成を始めます、まずステータスを決めて下さい』
このゲームではステータスとして筋力・敏捷・体力・スタミナの4つの項目に合計で100となる様に数値を振り分ける、数値0は有り得ないので最低1で最高は極振りの97が最高となる。
筋力は文字通り攻撃力に直結しており、どのプレイヤーも重視している項目である。HPが全員100で固定されているので大きいダメージを与えればそれだけ対戦時に有利となれる、なので半数以上のプレイヤーはこの筋力が最も高い数値となる様にステータスを調整していた。
敏捷は素早さと動体視力を兼ねており、攻撃する時に相手に当てる命中率や相手の攻撃を避ける時の回避率にも影響する。
体力は防御力と直結しており防御力を上げておかないと大きなダメージを受けてしまうので、ある程度の数値は必要だと言われている。
最後のスタミナは攻撃や回避の持続力に関係している、スタミナが切れると攻撃や回避が出来なくなるので相手に一方的に攻撃される事となる。
契は少しだけ悩んだがすぐに結論が出た、あと3日で里美を助けるのに普通のステータスでは不可能だ。ならば、相手の意表を突く尖ったステータスこそ望ましいのだと。ステータスを無事振り終えた契にNPCの女性が確認を取ってきた。
『ステータスの変更は出来ません、本当によろしいですか?』
【YES/NO】
契は迷わずYESを選んだ、もう後戻りは出来ない。先程振ったステータスを最大限活かして乗り切るしかないのだ。
『ステータスが決定されました、次に名前を決めて下さい』
【 】
名前を打ち込む枠が現れたので契は無意識の内にkeiと打ち込み慌てて取り消した。里美を騙した知里は契の名前と里美と特に親しくしている事位は知っている、なので気付かれて警戒されては困るので名前を別の物に変えた。
【イージス】
『キャラクターの名前は【イージス】でよろしいですか?』
【YES/NO】
契は再びYESを選択し、契の分身であるイージスが生まれた。
『あなたの分身となるイージスが無事に完成しました、それではここからはこのゲームの簡単な説明を行います。この教導戦記オンラインは中世の仮想都市フレアノーツを舞台とした近接格闘RPGとなっております、剣・槍・斧・槌・矛の5つの種類の武器を状況に合わせて選択しながらこの都市の中心にそびえる武神の塔の最上階を目指します。個の力を最も尊ぶこちらの世界ではパーティーという物は存在しません、しかしそれでは未来ある若者の命が簡単に消えかねません。そこで編み出されたのが有能な戦士に弟子入りして高みの強さを共有する【師弟システム】です!』
NPCが一旦セリフを中断し、間を置いて再び語り始めた。
『師弟システムとは真剣勝負を他のプレイヤーに挑み勝敗を付ける事で、師匠となった勝者の持つ強さの一端を敗者に教え高みへ導くコミュニケーション機能です。最終的にはどのプレイヤーも武神の塔最上階に到達出来ますがこの師弟システムを利用された方がより早く高みの景色を見る事が出来るでしょう。またこの師弟システムには更に有効な機能として指導モードが存在します』
NPCがこのゲームを現実で欲望を満たす為のツールに変えた機能の説明を始める。
『指導モードとは一時的に師匠の脳波と弟子の脳波をリンクさせて師匠の戦闘時の動きを弟子の身体に覚えさせる事が可能となる機能です。ゲーム内でも多少の指導は出来ますが、やはり実際に身体を動かす事で得られる経験に勝る物は有りません。指導モードは師弟同士が直接現実で顔を合わせてから1週間、24時間×7日の計168時間有効となりモードの解除は弟子の方からは出来ません。現実の世界で顔を合わせる機会は少ないですから師匠の指導を受け最上階を目指し頑張りましょう』
NPCの説明が終わった瞬間目の前が急に眩しくなり思わず目を閉じると契、いやイージスはフレアノーツの街中に移動していた。
所持金を確認すると100G有った、それを元手に新しい武器を手に入れながら塔の最上階を目指すのだ。しかし、里美を解放するのが本来の目的であるイージス(契)に残された時間はあと3日しかない。イージスが探し出すべき相手は2人、チーノとクロガネである。チーノは速水 知里のプレイヤー名でクロガネは里美の師匠となった男の名前だ。同じ名前のプレイヤーは存在しないので人違いは起こらない。
MAPを開いて武器屋の場所を確認して向かおうとした時、イージスは背後から見知らぬ男に声を掛けられた。
「その服装、今日ゲームを始めたばかりみたいだな。いきなり塔に入っても返り討ちに遭うだけだからまずはこのゲームに慣れる意味で俺と1度真剣勝負をやってみないか?」
あからさまに怪しい笑顔を見せながら真剣勝負(PvP)の申し込みをしてくる男、男の背後を見てみるとイージスと同じ格好の男女数人が1つに固まり顔は青ざめていた。男の頭上にはキャラクター名とLVに弟子の数が表示されている。
リュウジ LV15(弟子10人)
(何も知らない初心者に声を掛けて奴隷を手に入れる初心者(ルーキー)狩りの1人みたいだな)
初心者狩りとは里美の様にゲームを始めて間もない者に言葉巧みに近付き弟子を増やしていくプレイをする連中を指す言葉だ。こうしたプレイをする連中は決まって女性を狙うが悪評が広がると弟子を増やし辛くなるので代わりに女性を誘き寄せる男も複数用意するらしい。
クロガネの場合は弟子(奴隷)の女性に次の弟子(犠牲者)を紹介する事を条件に師弟関係を解消させるやり方を取っており、男性の弟子は1人も居ない。
「悪いけど初心者狩りに騙される様な間抜けじゃないんでね、そこで手に入れた今日の収穫を吟味すれば良い。お互いの住む場所が遠ければスレイブにならずに済むが、なったらなったで良い人生勉強を味わえるだろうよ」
PvPの申し込みを拒否してその場を立ち去ろうとするイージスに腹を立てたリュウジが近付き胸倉を掴む。
「おい!人を勝手に初心者狩りと決め付けてただで済むと思っているのか!?今すぐお前に強制PvPを挑んでも良いんだぞ、俺が師匠になってやるから大人しく真剣勝負を引き受けな」
再び申し込みをしてくる男、イージスが呆れながら拒否しようとした時その腕を押さえる者が居た。
「そのまま拒否するのも良いけど、こういう輩を野放しにしておくとこのゲームを嫌いになって辞めてしまう人が出てきてしまうわ。だから・・・あなたがこの男の師匠になって性根を叩き直してあげるのが1番よ」
「急に出てきて、一体俺に何をさせるつもりですか!?」
イージスは振り返りながら腕を押さえてきたプレイヤーの名前とLVを見て驚いた。
リコ LV90(弟子0人)
(LV90!? 化け物みたいな高レベルプレイヤーなのに弟子を持たないって)
【聞こえる?】
「うわっ!びっくりした」
「?」
【今、個別チャットであなたに話しかけているわ。あなたも切り替えて頂戴】
イージスはリコを対象に選ぶと個別チャットを開始した。
【最近スレイブオンラインなんて不名誉な呼び名を付けられて非常に困っているの、だから私の代わりに少しの間だけ初心者狩りを狩って欲しくて声を掛けさせて貰ったの】
【何で俺なんですか?他にも初心者が周囲に大勢居るのに!?】
【あのリュウジって初心者狩りの名前を見た時、あなたは一瞬だけ残念そうな顔を浮かべていたわ。つまり、誰かを探す目的でこのゲームを始めていてその相手は恐らく初心者狩りで間違い無い。ならば私の提案に乗ってくれる可能性も高いと判断したのよ】
【それで俺があなたの提案に乗るメリットは何が有るんだ?】
リコは少しだけ悩む仕草を見せたがすぐに返事を返してきた。
【最初の所持金100G程度で買える武器はたかが知れているわ、それでは目的の相手に挑んでも勝てるかどうかも怪しくなる。最初に武器や防具は私が用意してあげるから、目的の相手以外の倒した初心者狩りとその弟子達を私に譲って貰えないかしら?】
【それは別に構わないが、本当にそんな条件で良いのか?頂いた武器と防具を俺が持ち逃げする可能性だって有るだろうに?】
【その時は私に人を見る目が無かったってだけの話よ、それに渡す武器や防具は武神の塔の高層階に行けばゴロゴロ落ちている物で私の持つ装備よりも遥かに格下。あなたにとっても悪い話じゃないでしょう?】
このリコというプレイヤーを完全に信用する事は出来ない、だが日数が限られている中でクロガネを見つけ出し真剣勝負を挑み倒さなければ里美が奴の毒牙の餌食となってしまうのだ。イージスはこの提案に乗ることにした。
【あんたの提案に乗るよ、ただし俺からも条件が有る。俺はあと3日以内にクロガネという初心者狩りを見つけ出して倒さないとならない。だから、クロガネを見つけたらすぐに場所を教えてくれないか?それまではあんたの指示に従い初心者狩りを狩るよ】
【交渉成立ね、あのリュウジってプレイヤーは私のLVを見て逃げ出したみたいだけど無駄な事だから今は放っておきましょう。それじゃあ、先に防具を渡すからこれをその初期装備の下に着込んで頂戴】
リコからトレードの申し込みが届き許可を出すと、アイテム欄に1つの全身鎧のアイコンが表示されリコ側がOKを出したのでイージスもOKを押しトレードが成立した。
【シン・ネメアアーマー】防御力+500
ギリシャ神話において英雄ヘラクレスが身に纏っていたとされるネメアの獅子の毛皮を模して作られた防具。非常に薄く剥がされた皮は透けており装備している事を気付かれにくい、しかしどんな刃物も弾き返す獅子の名は伊達では無い。余程名の有る武器でない限りこの鎧を傷付ける事は出来ないだろう。
最初からとんでもない防具を渡された気がした、これだけの防具が格下になるとは一体どんな防具を彼女は装備しているのだろうか?
【では次に武器だけど、何か武器の種類で希望が有ればそれに合わせるけど?】
【それならダガーをお願いしたい、それから初期装備の片手剣と大盾も有れば欲しい】
【ダガーと初期装備の片手剣と大盾・・・なるほど考えている事がよく分かったわ】
リコは初期装備の片手剣と大盾を先に渡すとやはりとんでもない性能を持つダガーをイージスに手渡した。
【ライトニングダガー】攻撃力+400 ステータス補正(筋力・敏捷・体力・スタミナ=ALL+25)
雷神トールの持つ槌の欠片が柄の中に埋め込まれており突き刺した相手に柄が触れた瞬間、貯め込まれた電流が襲い掛かり命を奪う。また所有者にトールの力の一部が分け与えられる。
(これってチート武器って呼ばれたりしないのか!?)
これを持つだけで誰でも能力が跳ね上がるのだ、喉から手が出るほど欲しがられるに違いない。それを簡単に手渡せるとはやはりこのリコというプレイヤーは只者では無かった。
【これだけの装備が有れば、初心者狩りに負ける事はまず有り得ないわよ。初心者狩りをしていたら、この装備を手に入れられる階層まで絶対に辿り着けないから。では早速先程のリュウジって初心者狩りを狩ってきて貰おうかな?】
【逃げ出した相手をどうやって追いかけるんだ?】
【追いかける必要は無いわよ、だってあいつからの真剣勝負(PvP)の申し込みにまだ返答していないのだから】
見ると目の前にはまだリュウジからのPvPの申し込みに対する返答の画面が出たままとなっていた。
【それに承諾すれば、2人は自動的に邪魔者の入らない専用ステージに転送されるわ。勝者と敗者が決まらない限り絶対に出られないし、中途半端な手加減は命取りになるから相手を確実に仕留めるつもりでいきなさい!】
【分かった】
イージスが申し込みに承諾すると、途端に目の前の空間が歪み別の空間に放り出された。荒れた灼熱の大地の上にはイージスと何時の間にか逃げ出していたリュウジの姿しか見えない。
「何で俺がこのステージに飛ばされなくちゃならないんだ!?そうか、お前が承諾ボタンを押したのが原因か。だがそんな初期装備の剣と盾で俺様に勝てるとでも思うのか?返り討ちにして奴隷としてこき使ってやるから覚悟しろ!」
リュウジは初期装備の片手剣と大盾を装備しているイージスを見て勝利を確信した、一方のイージスは無表情のままだ。
【戦闘開始まで残り5秒】
【4】
【3】
【2】
【1】
【fight!】
「おら来いよ初心者(ルーキー)!実力の違いを見せてやる」
リュウジがロングソードを構えると、イージスは持っていた大盾と剣をその場に投げ捨てた。
(何っ!?)
捨てられた武器に目を向けた隙を突かれ、イージスの姿が消えていた。
トスッ
リュウジの背中に痛みが走った、見ると背中に短剣が深々と刺さっている。イージスは素早く本来の武器に持ち替えるとリュウジの背後に回り鎧の隙間から突き刺していたのだ。
「その・・・素早さ普通じゃないぞ!?一体どんなステータスにしてあるんだ!」
「俺は塔の最上階ではなく初心者狩りがターゲットだからな、1合で勝負を決せられる様に敏捷を極振りしてあるのさ」
「ば、馬鹿な!そんなステータスでは攻撃を外したり防がれたらそれでお終いじゃないか!?」
「だから敏捷を上げてあるんだよ、運動エネルギーが物体の質量と速さの二乗に比例する事くらい学校で教わっただろう?だから軽いダガーでも突くスピードが速ければこうして簡単に突き通す事だって出来るのさ。まあ確かにこのダガーの異常な性能も否定しないがな・・・とにかくこれで終わりだ」
イージスは更に深くダガーを押し込み、トドメの高圧の電流をリュウジに喰らわせた。イージスの勝利が決まると、空間が元に戻り目の前には待っていたリコとイージスの弟子となったリュウジが居た。
「無事に勝てたみたいね」
「ああ、何とかな」
リュウジが恨めしそうな目でイージスを睨む、しかし師匠と弟子の立場が覆る事は無い。
「それじゃあ、約束通りこの初心者狩りと狩られた弟子達は私が貰うわね。でも記念すべき初勝利だから、1人だけ最初の弟子として残してあげるわ。好きな子を選んで頂戴」
弟子の一覧を出して、全員に召集を掛けると5分もしない内に全員がイージスの周りに集まった。そして弟子の1人に目を向けた時、有る事に気が付いた。
(これってもしかして現実世界の本人の顔が表示されるのか!?)
弟子の名前の下に不安そうな表情の本人の顔がリアルタイムで表示されていた、本来はこれで相手の顔色を確認して指導モードを行うか決める筈なのに好みの顔かどうか確認する為のツールとなっていた。
「私もそろそろ夕食の支度を始めないといけないから、早く選んでね」
リコに急かされるので、イージスはリュウジを除く弟子達を一通り見た。そしてその中で1人の女性プレイヤーが目に留まった。
キャラクターの名はサオリ、本人の顔をこれまでにも何度か里美のクラスで見た事が有った。里美のクラスメイトの北条 沙織(ほうじょう さおり)に間違い無い。
(速水 知里に逃げられない様、監視役を見つける必要が有ったから同じクラスのこいつは丁度良いかもしれないな。だが普通にお願いして言う事を聞いてくれるとは限らない、でも里美を助ける為に手段を選んでいる時間は無い。彼女には済まないが俺のスレイブになって貰おう)
「決めた、このサオリって子を俺の弟子として残すよ」
サオリの身体が一瞬震えた、リコはそれに気付くが無視して話を進めだした。
「今後初心者狩りが2人以上の弟子を所有していた場合、もし手元に残したい弟子が居た時は1人だけ認めてあげる。1人しか居なかった時は諦めてね、あと当然の事だけどこの後私がこの人達をどう扱うかまで口出しするのはタブーだからそのつもりでね」
「ああ、分かったよ。最初にリュウジにPvPを申し込まれた時に言ったが『住む場所が遠ければスレイブにならずに済むが、なったらなったで良い人生勉強を味わえる』。このゲームは勝者が全てだ、甘い言葉に乗って敗者になった連中の未来にまで責任を持つ気は無い。好きにすれば良い」
「きっとそう言ってくれると思っていたわ、次のターゲットを見つけたら連絡するからフレンド登録しておきましょう?」
「そうだな、今後ともよろしく頼むよ」
リコとフレンド登録を結ぶと2人は今日の所は別れる事にした。イージスから手に入れた弟子10人を引き連れ街の喧騒の中に消えていくリコの姿が一瞬死神に見えたがイージスは気を取り直し、サオリの耳元でこう囁いた。
『今日の夜23時、学校の校門の前で待つ。1人で来なければ師弟関係の解除はしないから、そのつもりでいてね。北条 沙織さん』
驚愕するサオリを残して、イージスはログアウトした。現実世界に戻った契は学校に大事な忘れ物をしたので取りに行くと両親に伝えて家を出る。学校に着く頃にはきっとサオリ(北条 沙織)も居るだろう、大切な幼馴染を救う為にそのクラスメイトを己のスレイブに堕とす。契は知らず知らずの内にスレイブオンラインの狂気を受け入れようとしていた。
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