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第23話 歌の神が相方を連れてやってきた。

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「お~い!大丈夫か闇竜!?」

ようやく目を覚ました闇竜は、まだ意識が朦朧としているみたいだが何とか会話は出来る様だった。

(この怪の少女があまりにも美味しそうに食べているから、つい食欲に負けてしまったがお前達の忠告に従っておけば良かったよ・・・)

『何言っているのよこの竜は!これほど食べれば食べるほど生きているって素晴らしいと思える料理は他に無いでしょ!?』

レミアは怒っているが、何か間違っているぞ。

(それは生きているって素晴らしいじゃなくて、生きていて良かったの間違いじゃないのか?)

闇竜のツッコミにレミアを除く全員が思わず頷いてしまった。

「トリーから聞いていた話だと、もっと怖い存在に思えていたけど結構気さくなんだな」

(それは我を恐れる気持ちの方が大きいからだろう、お前の様に話し合おうと考えられる奴の方が珍しい)

「そうかな?自分では普通だと思うけど。それはそうと、闇竜はさ人の姿に変身とか出来るかな?」

(人化の龍気なら戯れに覚えておるが、それがどうかしたのか?)

「折角用意している料理も一口で全部食べられちゃうと俺達が食う分も無くなってしまうから、小さくなれるならお願いしようかな?っと」

(それは気付かなかった!?では少し待て)

そう言うと、闇竜の身体を白い煙が覆った。煙が晴れると黒いローブを着た初老の男性が立っていた。人と違うのは頭に生えた2本の角とローブから少しだけ出ている黒い尻尾だけだ。

「久々に使ってみたが、これで良いかの?」

「やっぱり長い時を生きていると人の姿で歩いてみたいと思ったりするものなのか?」

「飛べば1日も掛からない距離でも人の身だと1ヶ月近く掛かる場合もある、何度も繰り返し生まれ変わっておると戯れにそんな不自由な生活もしてみたくなるという事だ」

「1人で生きるのはやはり寂しいか?」

「寂しいという感覚を未だによく理解出来ないな、1人で仔を作り全てを継がせる事が出来るからそれが当たり前になっているからかもしれんが」

「ところで竜族の亜種でリザードマンとかが居るって聞いたんだけど、どんな経緯で生まれたのかな?」

「それは風と水が遠い昔に人族の男の姿で巡っている際に人族の娘と結ばれたのが原因だな」

「その娘さんは迫害とかされなかったのかい?」

「表面上は危害を加えようとする者は居なかった、何しろ娘の隣には人の形をした竜がおる訳だしな。しかし、娘の親や親類等は肩身の狭い思いをしたようだ」

生まれてきた子が人の形をしたトカゲみたいな姿をしていたら、娘はどう思うのだろうか?風竜と水竜はそれに対してどう接したのか気になる。

「子を産んだ娘さん達は赤ん坊を見て正気でいられたのか?それと風竜と水竜はどんな対応をしたんだ?」

「娘達も最初は戸惑ったが、次第に慣れていった。元々、子を作る前に己が竜である事を明かしていたからな。そして、2人とも結ばれた娘が死ぬまで傍で寄り添っていたぞ。そして娘が死ぬと子を連れて村を出て行った」

「出て行った?」

「娘も居なくなり、村に異形の者だけが残る状況に耐えられなくなったという事だ。しかし、村を出て行ってから分かった悲しい現実が風と水の2人を苦しめた」

「何が起きたと言うんだ?」

「竜は元々1人でも仔を作る事が出来る、しかし娘との間に生まれた子らには人族の影響が強く出てしまい1人で子を作る事が出来ない男女の性別と寿命が存在していたのだ」

「・・・・」

「だが彼らにも幾つか救いがあった、2人が出会った時に連れていた子が偶然男と女の別々であった事。それと竜本来の血の影響からか、その子らから生まれた子供達は兄妹・姉弟同士で結ばれても近親による遺伝の悪影響が出なかった事だ。それによって2人の子の子孫がリザードマンという亜種の形で無事生きているという訳だ。ところが竜の血を引いている事に気付いたスパウダの連中が討伐の大義名分として怪の1種だとでっち上げた為に彼らは森の奥地や海深くでの生活を余儀なくされてしまった」

本当に救いだったのかどうかは俺には判断出来ない、しかし生まれてきた子供が自分よりも先に死んでしまうのに気付いたら何とかして救おうと考えていた筈だ。

「それで今、風竜と水竜はどうしているんだ?」

「2人は子孫達が住む森や海を縄張りにして見守っている。そして子孫であるリザードマン達は風や水が先祖で有る事を今では忘れ神族から守護してくれる存在として崇めている」

子孫らに忘れ去られたとしても守り続ける事を選んでいるのか・・・竜族の人達は大きな器と慈愛に満ちているとしか思えなかった。

「さて、あまり長く違う話をしていると折角の酒の味も台無しになってしまう。誰か何か余興が出来ないものかの?」

闇竜はリザードマン達に関する話を打ち切った、確かにそうだな。楽しい酒の席で辛気臭い話は似合わない。

『余興ですか~?それじゃあ、歌の神でも呼びましょうか~?』

振り返ると天照がふらふらしながら歩いてくる。かなり酔っ払っているぞ!?

「お、おい天照!少し飲みすぎじゃないのか!?」

『え~らいじょうぶれすよ~酔っ払ってなろいまへん』

「いや、呂律も回ってないし泥酔状態だから!」

『それにゃら、護さんが今度はわらしを介抱してくらさいね~♪』

「護とやら、この者は元の世界ではここまで羽目を外す事など出来なかったのではないのか?少し位は大目に見てやれ。永い刻を神経張り詰めた状態で居たのなら尚更な」

「あんたに言われてそう思えてきたよ、確かに頑張ってきているよな天照は。今晩位は良いか」

『ありがとうございまふ、護しゃん。うちゅ~♪』

天照は泥酔状態で喜び、俺に倒れ掛かりながら酒臭い唇で何度もキスしてきた。駄目だ、天照はどうやら酒に酔うとキス魔になるみたいだ。

「酔い過ぎだ、天照。一旦、離れろ!?」

『イ~ヤれ~す!ずっろ、しょばにいるんれす』

俺を押し倒した状態で何十回とキスしてきて、俺の顔の至る所が天照の口紅で染まっていた。すると、急に天照は何か思い出した様に立ち上がる。

『しょう~でした!うちゃの神しゃまを呼ぶのをわしゅれていまひた。歌の神よ、来ちゃれ!』

そう言うと天照はその場に崩れ、完全に寝入っていた。

「まったく、これからは酒をあまり飲ませない様にしないとかなりマズいな」

『そうね~けど若い女性からキスされまくって実は凄く嬉しいんじゃないの?』

声のする方を振り返ると、軍服みたいな衣装を着た若い女性が居る。忘れる訳が無い、歌の神だ。

「先に言っておくが、お前が歌おうとするとCのマークを出さないといけなくなるから駄目だからな」

『言われなくても分かっているわよ、だから今日はなんと!相方を連れてきちゃいました~!』

分かっていて前回は歌おうとしていたのかよ!?

「相方?」

すると、歌の神の隣にお姫様の衣装を着た緑髪のツインテール少女が姿を現す。もう悪い予感しかしない・・・。

『え~では早速1曲』

『せ~か~いで「待て待て待て待て~!!」

『ちょっと、少し位歌わせてよ!?』

「○ールドイズマインもアウトだから止めて!」

『え~!?私の歌声で闇竜も○く○くにしてあげるのに~!?』

「頼むから止してくれ」

ボーカロ○ドに神が宿って具現化してしまうなら、これからは黄色い髪の双子やピンク長髪のお姉さん等にも注意を払わないといけなくなるじゃないか!?再び言い争いを始める俺と歌の神達を、闇竜は楽しそうに眺めていた。

(これまで、こんなに賑やかな場に居合わせた事など無かった。そして、これほど楽しい事にも巡りあえなかった。今までの1人で過ごしてきた刻が虚しく感じてしまう、これが寂しさという感情なのだろうか!?)

文句を言いながら引き上げていく歌の神達を見送ってから、俺は闇竜に謝る事にした。

「すまないね、余興の筈がとんでもない物を見せちゃって」

「いや、今までに見た事も無い素晴らしい余興であったぞ」

「そうか?」

「護よ、1つ頼みが有るが聞いてもらえるか?」

闇竜が俺に頼み?一体なんだろう。

「別にいいけど、いきなりスパウダと戦争してこいとかは駄目だからな」

「そんな事は言わんから安心せい、本来は後100年後位に仔を作るつもりであったが気が変わった。明日にでも子を作り新たな竜生を歩もうと思うから、1日だけ卵を守ってくれないか?」

え、そんな簡単に決めちゃっていいの!?新たなトラブルを招く火種にしかその時は思えなかった。
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